実家の廊下に置かれた新聞の山を見て、ひやりとした人へ
久しぶりに親の家に帰ったら、廊下に新聞や段ボールが積まれ、カーペットの端がめくれている。夜、トイレに立つ親の足元が暗い。浴槽の縁をまたぐ動きが、見ていて危なっかしい。あるいは、電話で「この前ちょっとつまずいてね」と軽く言われて、胸がざわついた。
そんな瞬間に、この記事を開いた人が多いと思います。
口には出しにくいけれど、頭の片隅にこんな考えがよぎっているのではないでしょうか。
「一回転んで骨折したら、そのまま寝たきりになるかもしれない」
「でも、大げさに言って『年寄り扱いするな』と怒らせたくない」
「何から手をつければいいのか、そもそも分からない」
先に、少し気持ちが軽くなることを言います。家の中で転びやすい場所は、実はだいたい決まっています。そして、その多くは、今日、お金をかけずに手を打てます。工事が必要なところも、条件が合えば介護保険が使えます。
この記事では、危ない場所の見つけ方から、無料でできる対策、そして手すりや段差の改修まで、順番に一緒に見ていきます。
実は外より家の中。転びやすい場所は決まっています
「転倒」というと外を思い浮かべますが、高齢者の転倒は、住み慣れた家の中でも多く起きています。慣れた場所ほど油断が出て、ちょっとした段差や濡れた床で足をとられるからです。
そして、家庭内の転倒は、軽く見られがちですが、実は重い結果につながることがあります。年齢を重ねると軽い転倒でも骨折しやすく、骨折で動けない期間が続くと、筋力が落ちて、そのまま要介護のきっかけになることがあります。高齢者が要介護になる主な原因の一つに「骨折・転倒」が挙げられているのも、そのためです。
脅かしたいのではありません。逆です。原因になる場所が決まっているということは、そこを押さえれば、かなり防げるということです。まずは、どこが危ないかを知るところから始めましょう。
場所別に、危ないポイントをチェックしてみる
家の中を、危ない場所ごとに見ていきます。当てはまるものに、心の中でチェックを入れてみてください。
| 場所 | 危ないポイント |
|---|---|
| 玄関 | 上がり框(あがりかまち)の段差、靴を履くとき体が不安定になる |
| 廊下・居間 | めくれた敷物、電気コード、床に置いた物、暗さ |
| 階段 | 手すりがない、片側だけ、足元が暗い、滑りやすい |
| 浴室 | 浴槽の出入り、濡れて滑る床、またぐ動作 |
| トイレ | 立ち座りで力が要る、つかまる所がない、夜間の移動 |
| 寝室 | 夜中の移動、布団やベッドからの立ち上がり |
三つ以上あてはまったら、そこは見直しどきです。とくに「浴室」と「夜間の移動」は、転ぶと大きなけがにつながりやすいので、優先して考えてください。
今日、お金をかけずにできること
いきなり工事を考えなくて大丈夫です。まずは、今日その場でできることから。ほとんどお金はかかりません。
- 床に置いた物、新聞、段ボールを片づけて、通り道を確保する
- めくれる敷物は外すか、滑り止めで固定する
- 浴室の床に、滑り止めマットを敷く
- 夜間の廊下やトイレまでの足元に、小さな明かり(足元灯やセンサーライト)をつける
- 履物を見直す(脱げやすいスリッパや滑る靴下をやめ、かかとのある滑りにくいものに)
- よく通る場所に、工事のいらない突っ張り型の手すりを一時的に立てる
この中でも、「足元の明かり」と「滑るマットの見直し」は、費用のわりに効果が大きい対策です。今夜、親の家(あるいは自分の家)の廊下と浴室を、一度歩いてみてください。「ここ、暗いな」「ここ、滑るな」と感じた場所が、そのまま危険な場所です。
「手をつく場所」を探すと、手すりの付け所が分かります
手すりを付けるとき、「どこに付ければいいのか」で迷います。目安は簡単です。ふだん、壁や家具に手を添えている場所です。
家の中をよく見ると、立ち上がるとき、方向を変えるとき、段差を越えるときに、無意識に手をついている場所があります。階段の壁に手あかがついている、玄関の靴箱にいつも手を添えている、といった跡は、そこに支えが必要なサインです。
手すりには、壁に固定する工事タイプのほか、床に置く据え置き型、天井との間で突っぱる突っ張り型があります。工事のいらないタイプは、介護保険のレンタル(福祉用具貸与)で借りられることもあります。高さや太さは、身長だけで決めず、本人が実際に握って使いやすいものを、専門職と一緒に選ぶと失敗しにくくなります。
工事が要る対策は、介護保険の住宅改修が使えることがあります
手すりの取り付けや段差の解消など、工事が必要な対策には、介護保険の「住宅改修」という仕組みが使える場合があります。
要点を整理します(制度は変わることがあるので、あくまで目安として見てください)。
- 対象は、要支援1・2 または 要介護1〜5 の認定を受け、実際にその家に住んでいる方(入院中・施設入所中は対象外)
- 対象の工事は、手すりの取り付け、段差の解消、滑りにくい床材への変更、引き戸などへの扉の取り替え、洋式便器への取り替え、これらに付帯する工事
- 支給の上限は、原則ひとり生涯20万円。自己負担は原則1割(所得により2〜3割)
- 20万円の範囲なら、複数回に分けて使える。要介護度が大きく上がったときや転居時に、上限が再設定されることもある
据え置き型の手すりなど、工事を伴わないものは、介護保険のレンタルで月数百円程度から使える場合もあります。また、介護保険とは別に、独自の住宅改修の助成を用意している自治体もあります。当てはまりそうかどうかも含めて、窓口で聞いてみてください。
いちばんの落とし穴は「工事の前に申請」です
ここは、知らずに損をする人が多いところなので、はっきり書きます。介護保険の住宅改修は、工事を始める前の申請が必要です。先に工事をしてしまうと、支給を受けられなくなることがあります。
おおまかな流れは次のとおりです。
- (認定がなければ)まず要介護認定を受ける
- 担当ケアマネジャーや地域包括支援センターに相談する
- 工事の前に、市区町村へ事前申請する
- 工事を行う
- 完了後、領収書などを添えて申請し、支給を受ける
費用はいったん全額を業者へ支払い、後から保険分が戻ってくる「償還払い」が原則ですが、自治体によっては自己負担分だけ払えばよい仕組みもあります。申請書類は、ケアマネジャーに代行を頼めることが多いです。
「親の家で転びそうな場所があり、手すりや段差の工事を考えています。介護保険の住宅改修が使えるか、まず何から相談すればいいか教えてください」。担当ケアマネがいなければ、地域包括支援センターへ。
親が「まだ大丈夫」と手すりを嫌がるとき
いざ勧めても、「そんな年寄りみたいなもの要らない」と手すりを嫌がる。これも、よくあることです。手すりや段差解消が「介護の始まり」に見えて、抵抗を感じるのです。
ここでも、伝え方を少し変えると受け入れやすくなります。
| 身構えさせやすい言い方 | 受け入れやすい言い方 |
|---|---|
| 危ないから手すりを付けるよ | 私が来たとき掴めると助かるから、一本だけ付けない? |
| もう足腰が弱ってるでしょ | 孫が来ても安心だし、家族みんなのために付けておきたい |
| バリアフリーにするからね | まずは物を片づけて、明かりを足すところから始めよう |
いきなり工事を持ち出さず、片づけや明かりといった軽いものから一緒に始めると、抵抗が和らぎます。最後に決めるのは本人です。押しつけずに、「転ばないための工夫」として、そっと提案してみてください。
立場によって、まず動きやすいことは違います
あなたがどの立場かで、最初の一歩は変わります。
| あなたの立場 | まず動きやすいこと |
|---|---|
| 離れて暮らす子ども世代 | 帰省時に危ない場所を写真に撮り、片づけと明かりを。工事はケアマネ・地域包括に相談 |
| 同居している家族 | 床の物・敷物・コードを見直し、夜間の足元灯を設置 |
| 本人(自分の家を見直す) | 履物と足元の明かり、浴室の滑り止めから。手をつく場所をメモ |
| 配偶者(自分も高齢) | 無理に工事せず、まず専門職に相談。据え置き手すりのレンタルも検討 |
今日は、危ない場所を一つ片づけるだけで十分です
ここまで読んで、「工事とか申請とか、大変そう」と感じたかもしれません。でも、今日、工事をする必要はありません。
今日できるのは、もっと小さなことです。
- 家の中で「ここ危ないな」と思う場所を、一つメモする
- その場所の床の物を片づけて、通り道を作る
- 夜、暗い足元に、明かりを一つ足す
- 脱げやすい・滑りやすい履物を、一足見直す
転倒は、防げる事故です。運が悪かったで済ませず、環境を少し整えるだけで、その一回を減らせます。
大掛かりな工事は、その先の話です。まずは今日、危ない場所を一つ片づけるところから。手すりや段差の改修が必要そうなら、ケアマネジャーか地域包括支援センターに相談すれば、順番を一緒に考えてくれます。焦らず、一つずつで大丈夫です。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「介護保険における住宅改修」(対象工事・支給限度基準額・手続きの考え方)
- 工事を伴う対策や申請は、担当のケアマネジャー、またはお住まい(親御さんの住所地)の地域包括支援センター・市区町村の介護保険窓口へ。事前申請が必要です。
- 介護保険とは別に、高齢者向けの住宅改修助成を設けている自治体もあります。詳しくは市区町村にお問い合わせください。
- 対象・上限・自己負担割合・手続きは、時期や市区町村によって異なります。工事の前に、必ず最新の内容を確認してください。


















