聞こえにくさは、本人より家族が先に気づくことがあります
テレビの音量が前より大きい。後ろから話しかけても返事がない。病院やスーパーのレジで聞き返すことが増えた。電話の声が聞き取りにくくて、だんだん電話に出なくなった。
家族から見ると、「そろそろ補聴器が必要なのかな」と思います。
でも、本人に言うと、意外と強く返ってくることがあります。
「聞こえてるよ」
「年寄り扱いしないで」
「補聴器なんてまだ早い」
「大きな声で話してくれればいい」
本人も、本当は少し気づいていることがあります。けれど、聞こえにくさを認めるのは、思ったより勇気がいります。
会話に入れない。何度も聞き返して嫌な顔をされる。家族に「また聞いてない」と言われる。外出先で店員さんの言葉が分からず、笑ってごまかす。
聞こえにくさは、耳だけの問題に見えて、気持ちや人付き合いにも影響します。しかも、本人は毎日その場で小さく傷ついていることがあります。聞こえの問題、なかなか静かに心へ来ます。
だからこそ、補聴器を買うかどうかの前に、まず「どんな聞こえにくさなのか」を家族で落ち着いて見ていきます。
最初に分けたいのは「急いで耳鼻科へ行く聞こえにくさ」です
聞こえにくいと感じたとき、すべてが加齢や補聴器の話とは限りません。
耳あか、耳の炎症、薬の影響、急な難聴、めまいを伴う病気など、医療機関で見た方がよい原因が隠れていることもあります。
特に、急に聞こえなくなった場合や、片耳だけの変化がある場合は、「年のせいかな」で済ませず、早めに耳鼻咽喉科へつなげたいところです。
| 状態 | 考えたい対応 | 家族が見るポイント |
|---|---|---|
| 急に片耳または両耳が聞こえにくくなった | 早めに耳鼻咽喉科へ | いつから変わったか、朝からか、数日前からか |
| 耳鳴り、めまい、ふらつきがある | 医療機関で原因を確認 | 転倒や外出時の危険も見る |
| 耳の痛み、耳だれ、詰まり感がある | 耳の状態を確認 | 風邪、耳掃除、入浴後などのきっかけ |
| 片耳だけ聞こえにくい | 自己判断せず受診を検討 | 電話を左右どちらで取りにくいか |
| 少しずつ聞こえにくくなった | 生活場面をメモし、耳鼻科で聴力確認 | テレビ、会話、電話、外出先で困るか |
補聴器は、聞こえにくさへの選択肢の一つです。
ただし、耳の病気や急な変化がある場合、補聴器を先に買うより、まず耳の状態を確認する方が大切です。
家族から本人に言うときは、こう伝えると少し角が立ちにくくなります。
「補聴器を買わせたいわけじゃないよ。急な変化だと心配だから、一度耳の状態だけ見てもらおう」
聞こえにくさは「どの場面で困るか」を見ると整理しやすくなります
本人が「聞こえにくい」と感じていても、何が困るのかは人によって違います。
テレビは大丈夫だけれど、複数人の会話が苦手。静かな部屋なら聞こえるけれど、飲食店では聞き取れない。家族の声は分かるけれど、病院の呼び出しが不安。
まずは、場面で分けてみます。
| 場面 | 困りごとの例 | メモしておくこと |
|---|---|---|
| テレビ | 音量が大きくなった、字幕がないと分かりにくい | 普段の音量、家族がうるさいと感じるか |
| 家族との会話 | 聞き返しが増えた、返事がずれる | 正面なら聞こえるか、後ろからだと無理か |
| 電話 | 相手の声がこもる、内容を聞き間違える | 固定電話かスマホか、左右どちらの耳か |
| 病院・役所 | 呼び出し、説明、受付の声が聞き取りにくい | 聞き返せず分かったふりをしていないか |
| 買い物・外出 | レジ、店員、駅の放送が聞き取りにくい | 騒がしい場所で困るか |
| 集まり・会食 | 複数人の会話に入れない | 外出や人付き合いを避け始めていないか |
| 車・自転車・外歩き | 車の接近音や呼びかけに気づきにくい | 安全面の不安があるか |
「聞こえない」と一言でまとめるより、「電話がつらい」「病院の説明が不安」「後ろから話されると分からない」と分けた方が、耳鼻科でも家族内でも話しやすくなります。
聞こえにくさは、耳の中だけで起きているようで、実際には生活のあちこちに出ます。聞こえの困りごとは、生活の影絵みたいなものです。どこに影が出ているかを見ると、次の対策が見えやすくなります。
一週間だけ「聞こえにくい場面メモ」を作ります
耳鼻科へ行く前、または補聴器を考える前に、一週間だけメモを作ってみてください。
細かい日記ではありません。困った場面を、短く書くだけです。
| 書くこと | 例 | 役に立つ理由 |
|---|---|---|
| 日時 | 7月2日 夜 | 朝・昼・夜で違いがあるか分かる |
| 場所 | リビング、病院、スーパー | 静かな場所か、騒がしい場所か分かる |
| 誰の声か | 妻、孫、店員、医師 | 声の高さや話し方の影響が見える |
| 何が困ったか | 聞き返した、内容を間違えた、分かったふりをした | 生活への影響が分かる |
| 片耳か両耳か | 右の方が聞きにくい気がする | 受診時に伝えやすい |
| 一緒にあった症状 | 耳鳴り、めまい、耳の詰まり、痛み | 医療機関で確認しやすい |
本人が書くのが面倒なら、家族が代わりに簡単に残しても構いません。
ただし、本人を監視するように書くと嫌がられます。
「聞こえてない記録」ではなく、「耳鼻科で説明しやすくするメモ」と伝えてください。
家族の話し方を変えるだけで、少し伝わりやすくなることがあります
聞こえにくい人に対して、家族はつい大声で話しがちです。
もちろん、声の大きさが必要な場面もあります。ただ、大声にすれば必ず伝わるわけではありません。
むしろ、怒られているように聞こえたり、言葉が割れて聞き取りにくくなったりすることがあります。
| やりがちな話し方 | 伝わりやすい工夫 |
|---|---|
| 後ろから話しかける | 正面に回ってから話す |
| 別の部屋から呼ぶ | 近くまで行って、名前を呼んでから話す |
| 早口で長く話す | 短く区切って、少しゆっくり話す |
| テレビをつけたまま話す | テレビや換気扇などの音を少し減らす |
| 「何回言えば分かるの」と言う | 「もう一回、短く言うね」と言い換える |
| 大声で叫ぶ | はっきり、口元を見せて話す |
厚生労働省は、聞こえにくい方への配慮として、ゆっくり・はっきり話すこと、正面から口の動きを見せること、テレビを消して話すなど聞きやすい環境を心がけることを案内しています。本人だけに努力を求めるのではなく、周囲の話し方を変えることも大切です。
本人に伝えるときの会話例
「聞こえていないと責めたいわけじゃないよ。私たちの話し方も変えたいから、どんな場面が聞き取りにくいか一緒に見たい」
家族がイライラしてしまうときの言い換え
「さっきも言ったでしょ」ではなく、「今の言い方だと聞こえにくかったね。もう少し近くで言うね」と変えます。
家族も人間なので、毎回やさしく話せるわけではありません。
それでも、聞こえにくさを「本人の態度」と決めつけないだけで、家の中の空気は少し変わります。
補聴器は「買えば終わり」ではなく、試して調整する道具です
補聴器を考える段階になっても、すぐ購入を決める必要はありません。
補聴器は、眼鏡のように一度作ればすぐ快適、というより、聞こえ方に合わせて調整しながら慣れていく道具です。
音が大きく聞こえればよい、という単純なものではありません。雑音が気になる、声が響く、自分の声がこもる、長時間つけると疲れる、騒がしい場所では聞き取りにくい。こうしたことが起こる場合もあります。
| 購入前に見ること | 確認したい内容 | 家族が同席する意味 |
|---|---|---|
| 耳鼻科での確認 | 耳の病気、聴力、補聴器が向いているか | 本人が説明を聞き漏らしたときに支えられる |
| 試用できるか | 実際の生活で試せる期間があるか | 家、外出先、電話での変化を一緒に見られる |
| 調整の回数 | 購入後に何度調整できるか | 合わないときに言い出しやすくなる |
| 保証・修理 | 故障、紛失、電池、メンテナンス | 長く使う費用を把握できる |
| 返品・キャンセル条件 | 合わない場合の扱い | 契約前に冷静に判断できる |
| 支払い方法 | 一括、分割、ローン、追加費用 | 高額契約を一人で決めないようにできる |
消費者庁は、補聴器は管理医療機器であり、購入前に専門医へ相談すること、購入時の調整、購入後のアフターケア、定期点検が大事だと案内しています。
また、日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、補聴器相談医の制度が案内されており、難聴者が補聴器を適正に選択・使用できるよう支える役割が示されています。
集音器と補聴器は、似て見えても同じものとして考えない方が安心です
インターネットやテレビ通販で、手頃な価格の「聞こえを助ける機器」を見ることがあります。
「補聴器より安いなら、まずこれでいいのでは」と思う方もいるかもしれません。
ただ、補聴器と集音器は、目的や扱いが異なります。
| 種類 | 大まかな特徴 | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 補聴器 | 聞こえにくさに合わせて使う管理医療機器 | 耳鼻科での確認、調整、アフターケアが重要 |
| 集音器 | 周囲の音を大きくする一般的な音響機器として販売されるものがある | 難聴の状態に合わせた医療機器とは限らない |
| テレビ用スピーカー | テレビ音を手元で聞きやすくする | 家族との音量差対策には役立つ場合がある |
| スマホの音声文字起こし | 会話や説明を文字で補う | 誤変換もあるため重要な説明は確認が必要 |
集音器がすべて悪いわけではありません。
ただし、「安いから」「すぐ届くから」だけで、耳の状態を見ずに選ぶのは慎重にしたいところです。耳に合わない機器を使って疲れてしまうと、本人が「やっぱりこういう物は嫌だ」と補聴器そのものまで拒否することがあります。
最初の買い物でつまずくと、その後の相談が進みにくくなります。補聴器まわりは、買い物というより、生活に合わせた調整作業に近いです。
補聴器の契約は、聞こえにくい本人だけで即決しない方が安全です
補聴器は高額になることがあります。
店舗で勧められた。訪問販売で説明を受けた。電話や通販で「よく聞こえる」と言われた。家族に迷惑をかけたくなくて、その場で買ってしまった。
こうした流れには注意が必要です。
国民生活センターは、補聴器について「買ったが合わず返品できない」「医師に不要と言われた」などの相談があるとして、聞こえにくいと感じたらまず専門医の診断を受けること、契約前に自分に合った機器か確認すること、一人で決めず周囲にも協力を求めることなどを助言しています。
| 契約前の確認 | 見るポイント |
|---|---|
| 今日だけの値引きではないか | 急がされていないか、家族に相談する時間があるか |
| 試用できるか | 自宅や外出先で試せるか、試用期間の条件 |
| 返品・交換条件 | 合わなかった場合の扱い、期限、費用 |
| 調整費用 | 購入後のフィッティングが料金に含まれるか |
| 保証内容 | 故障、紛失、修理、電池、メンテナンス |
| 販売店の体制 | 認定補聴器技能者、認定補聴器専門店などの有無 |
消費者庁は、店舗で補聴器を購入した場合や通信販売の場合、高額であっても基本的にクーリング・オフは適用されないと案内しています。契約前の確認がとても重要です。
本人が聞こえにくい状態で説明を受けると、契約内容を十分に理解しきれないことがあります。
できれば、家族や信頼できる人が同席し、説明を一緒に聞き、見積書や契約条件を持ち帰ってから考えましょう。
費用が心配なときは、自治体の助成や補装具制度も確認します
補聴器を考えるとき、費用の不安は大きいです。
「高い物を買って合わなかったらどうしよう」
「年金生活で何十万円も出せない」
「親に必要そうだけれど、子どもが全部負担するのはきつい」
こう感じる方は少なくありません。
補聴器の費用については、障害の程度や手帳の有無、自治体の制度によって、補装具費支給制度や自治体独自の助成を確認できる場合があります。
厚生労働省は、補装具費支給制度について、障害者または障害児の保護者が市町村長へ申請し、判定や意見に基づく市町村長の決定により補装具費の支給を受ける制度として案内しています。
ただし、誰でも必ず対象になるわけではありません。年齢、聴力の状態、身体障害者手帳、所得、自治体独自助成の有無などで扱いが変わります。
| 費用面で確認すること | 相談先の例 | 持っていくとよいもの |
|---|---|---|
| 障害者手帳や補装具費の対象になるか | 市区町村の障害福祉担当 | 医師の意見書、聴力検査結果、本人確認書類など |
| 自治体独自の補聴器助成があるか | 市区町村の高齢者福祉担当 | 年齢、所得、居住地が分かるもの |
| 医療費控除など税務面が気になる | 税務署、税理士 | 領収書、医師の診療情報提供書など |
| 親御さんの費用を家族が負担する | 家族内で話し合い | 見積書、保証内容、本人の使用意思 |
費用の話は、購入後ではなく購入前に確認した方が安心です。
家族が補聴器をすすめるときは、「買わせる」より「困りごとを減らす」で話します
本人に補聴器をすすめるとき、言い方を間違えると、かなり反発されます。
「聞こえてないでしょ」
「補聴器をつけた方がいいよ」
「みんな迷惑しているよ」
家族としては心配から出た言葉でも、本人には責められているように聞こえます。
| 避けたい言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|
| 聞こえてないでしょ | 最近、病院や電話で聞き取りづらそうな場面があって心配している |
| 補聴器を買いなよ | まず耳鼻科で聞こえ方を見てもらわない? |
| テレビの音がうるさい | 家族みんなが楽に聞ける音量にする方法を探したい |
| 何回も聞き返さないで | 私の話し方も変えるから、聞き取りやすい言い方を一緒に探したい |
| 年なんだから仕方ない | 年齢のせいと決めつけず、一度耳の状態を見たい |
親御さんに伝える会話例
「補聴器をすぐ買う話じゃないよ。病院や買い物で聞き取りにくいと困ると思うから、まず耳鼻科で今の聞こえ方を見てもらおう」
本人が嫌がるときの会話例
「嫌ならすぐ買わなくていいよ。ただ、聞こえにくい場面だけ一緒にメモして、必要なときに相談できるようにしておきたい」
配偶者が困っている場合の会話例
「私も大声で話すと疲れてしまうし、あなたも聞き返すのが大変だと思う。お互い楽になる方法を一緒に探したい」
補聴器は、本人の尊厳に関わる話でもあります。
「老いを認めさせる道具」ではなく、「会話や外出を楽にする道具」として話す方が、受け入れられやすくなります。
今日できる一歩は、補聴器を買うことではなく「困る場面を一つ書くこと」です
聞こえにくさが気になった日、すぐに補聴器を決める必要はありません。
まず、紙に一つだけ書いてください。
- テレビの音量が大きくなった
- 電話で聞き返すことが増えた
- 病院の説明が聞き取りにくかった
- 孫の声が聞き取りにくい
- 外出先の呼び出しが分からない
- 家族の会話に入りにくい
そして、急な変化や片耳だけの聞こえにくさ、耳鳴り、めまい、痛みがあるなら、耳鼻咽喉科へつなげます。
少しずつの変化なら、一週間だけ場面メモをつけ、耳鼻科で聴力や耳の状態を確認し、そのうえで補聴器が必要か、生活の工夫で足りるかを考えます。
聞こえにくさは、本人だけの努力でどうにかする問題ではありません。
家族の話し方、部屋の音、受診、補聴器の試用、契約条件、費用の確認。いくつかの小さな工夫を重ねて、少しずつ暮らしを楽にしていくものです。
補聴器を考える前に、まず聞こえにくさの正体を一緒に見ていきましょう。焦って買うより、順番に確認する方が、本人にも家族にもやさしい進め方です。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「聞こえにくさ」感じていませんか?では、聞こえにくさによる社会的孤立を防ぐため、ゆっくり・はっきり話す、正面から口の動きを見せて話す、テレビを消して話すなどの配慮が案内されています。
- 厚生労働省の加齢性難聴に関する案内では、補聴器購入前に耳鼻咽喉科医、補聴器相談医へ相談すること、補聴器は管理医療機器であり調整やアフターケアが大事であることが示されています。
- 消費者庁は、補聴器購入前に専門医へ相談すること、補聴器は管理医療機器であること、店舗購入や通信販売では高額商品でも基本的にクーリング・オフが適用されないことを案内しています。
- 国民生活センターは、補聴器に関する相談事例を踏まえ、聞こえにくいと感じたらまず専門医の診断を受けること、契約前に自分に合った機器か確認すること、一人で決めず周囲にも協力を求めることを助言しています。
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、補聴器相談医の制度と名簿が案内されています。
- 厚生労働省「補装具費支給制度の概要」では、補装具費の支給制度について市町村への申請や判定等に基づく支給の仕組みが案内されています。


















