予約フォームの最後のボタンで、指が止まってしまうことがあります
鏡を見るたびに、まぶたの重さや頬のたるみが気になる。写真に写った自分を見て、「以前とはずいぶん違う」と感じる。
美容医療について調べてみると、短時間で終わる施術や、切らずにできる治療が次々に表示されます。症例写真を見ると興味が湧く一方、失敗例や腫れた写真を見つけると、今度は怖くなる。
予約画面まで進んでは閉じる。翌日、もう一度検索する。
「今さら見た目を気にするのは恥ずかしい」と思う気持ちと、「まだ人前に出る仕事もある。少し整えたい」という気持ちが、同時にある方もいるでしょう。
迷っているのは、優柔不断だからではありません。美容医療では、体への影響、お金、見た目の変化、家族や職場への説明を一度に考えなければならないためです。
しかも、画面に出てくる「簡単」「手軽」「ダウンタイムが少ない」という言葉だけでは、自分の場合に何が起きるのかまでは分かりません。
そのため、最初から施術を受けるかどうかを決める必要はありません。まずは、何が怖いのかを分け、説明を聞いた後も決めずに帰れる準備をしておきます。
「怖い」の中身を分けると、医師へ聞くことが見えてきます
美容医療への怖さは、一つではありません。
痛みが怖い人と、不自然な顔になることが怖い人では、確かめるべき内容が違います。高額な契約を断れないことが心配な場合は、施術の知識だけでなく、当日の行動を決めておく必要があります。
| 気になっていること | 相談時に聞くこと | 説明を聞いても分からない場合 |
|---|---|---|
| 痛みや麻酔が怖い | 麻酔の方法、施術中と施術後に起こり得る痛み、痛み止めの種類 | 痛みを我慢できない場合に施術を中止できるか聞く |
| 不自然な仕上がりが怖い | 変化の程度、元へ戻せるか、左右差や修正が必要になる可能性 | 希望に近い変化が難しいなら、施術を見送る |
| 腫れや内出血が怖い | 通常の経過、仕事や外出を控える期間、異常な腫れとの見分け方 | 大事な予定の前には受けない |
| 高額になるのが怖い | 診察、薬、麻酔、検査、追加施術、修正、再診を含めた総額 | 口頭ではなく見積書を受け取る |
| 勧誘を断れないのが怖い | 当日は説明だけで帰れるか、見積もりの有効期間 | 契約書や決済手段を出さず、その場を離れる |
| 年齢や持病が心配 | 自分の病歴や薬で施術できない条件、主治医への照会が必要か | 医師の判断が出るまで契約しない |
怖さをなくしてから相談へ行く必要はありません。
むしろ、「痛みが怖い」「後悔したくない」「強く勧められると断れない」と、最初にそのまま伝えた方が、必要な説明を受けやすくなります。
カウンセリングを受けることと、施術に同意することは別です。「今日は説明と見積もりだけ受け、施術は後日考えます」と予約時と来院時の両方で伝えて構いません。
「無料カウンセリング」でも、医師の診察があるかを確かめます
美容クリニックでは、最初に医師以外のスタッフから希望や予算を聞かれ、その後に医師の診察へ進むことがあります。
スタッフから料金や一般的な流れを聞くことはできます。しかし、あなたの肌、体調、病歴を踏まえて、施術が可能か、どのようなリスクがあるかを判断するのは医師です。
予約前には、次の点を尋ねておくと話が早くなります。
- カウンセリング当日に医師の診察があるか
- 説明する医師と施術を担当する医師が同じか
- 医師の診察前に契約や支払いを求められることがあるか
- 相談だけで帰る場合に費用がかかるか
- 予約の変更やキャンセルに料金が発生するか
電話では、次の一言で構いません。
「初回は施術を受けず、医師から説明を聞いて見積書を持ち帰りたいです。その形で予約できますか」
この希望を伝えたときに、曖昧な返事しかない場合や、「来てから決めればよい」と当日施術を繰り返し勧められる場合は、予約先を選び直す材料になります。
50代は、施術名より先に持病と薬を伝えます
50代になると、健康診断で経過を見ている項目や、毎日飲んでいる薬がある方も増えます。
美容目的の施術だからといって、病歴や薬が関係ないわけではありません。施術方法、麻酔、出血、傷の治り方などを考えるため、医師には正確な情報が必要です。
診察時には、分かる範囲で次の内容を伝えてください。
- 現在治療中の病気と、過去に受けた手術
- 病院から処方されている薬
- 市販薬、漢方薬、サプリメント
- 薬、麻酔、消毒薬、テープなどで起きたアレルギー
- 出血が止まりにくかった経験
- 傷あとが盛り上がりやすい、治りにくいなどの経験
- 過去に受けた美容施術と、使用した注入剤が分かればその名称
- 妊娠の可能性や授乳中であること
- 喫煙習慣や、飲酒量について医師から尋ねられた内容
薬の名前を覚えていない場合は、お薬手帳や薬局の明細を持参します。
服薬を伝えると施術を断られるのではないかと心配になり、黙ってしまう方もいるかもしれません。しかし、施術を受けられるかどうかを安全に判断するための情報です。
医師から指示を受ける前に、自分の判断で薬を中止しないでください。
休薬が必要と言われた場合も、「誰の判断で、いつから、いつまで止めるのか」「処方している主治医への確認が必要か」を聞きます。
施術名を決めて行くより、「何がどう気になるか」を伝えます
インターネットで調べていると、「自分には糸リフトが必要だ」「この注射なら切らずに済む」と、施術名から予約したくなります。
ただ、同じ「たるみが気になる」という悩みでも、皮膚、脂肪、骨格、筋肉の動きなど、見え方に関係する要素は人によって異なります。
相談では、施術を指定する前に、次のように伝えます。
「三年ほど前から、写真で右の頬が下がって見えることが気になっています。大きく顔を変えたいのではなく、疲れて見える印象を少し整えたいです」
この伝え方なら、医師が考える選択肢だけでなく、「何もしない」「化粧やスキンケアで様子を見る」「別の診療科で状態を確かめる」といった方法も含めて比べやすくなります。
厚生労働省と消費者庁は、美容医療を受ける前に、使用する薬や施術内容を説明できるか、効果だけでなくリスクや副作用を理解したか、ほかの選択肢も聞いたか、その施術が今すぐ必要かを確かめるよう案内しています。
説明を受けるときは、「起こりやすさ」と「起きた後」を聞きます
リスクの説明で「腫れ、内出血、感染の可能性があります」と言われても、それだけでは自分の生活へどの程度影響するか判断できません。
副作用や合併症については、次の順番で尋ねます。
- 比較的よく起こる症状は何か
- 通常は何日ほど続くか
- 仕事、運転、入浴、運動、飲酒、化粧を控える期間はあるか
- 症状が出た場合、自宅で何をしてよいか
- どの状態になったらクリニックへ連絡するか
- 夜間や休診日に異常が起きた場合の連絡先
- 元へ戻せない変化や、長期間残る可能性があるか
- 追加治療や修正が必要になった場合、費用は誰が負担するか
「ほとんど大丈夫です」「皆さん受けています」という説明だけでは、個別の判断材料になりません。
「私の年齢、持病、薬を踏まえた場合に、特に注意することは何ですか」
この質問への答えを聞いてください。
美容医療では、施術内容、費用、リスク、合併症などについて十分な説明を受け、理解した上で、患者自身が受けるかどうかを選ぶことが基本とされています。
広告の症例写真は、自分の完成予想図ではありません
症例写真は施術を知る参考になりますが、その写真と同じ結果になることを約束するものではありません。
撮影時期、照明、角度、表情、化粧、施術の組み合わせによっても見え方は変わります。画面の端に小さく書かれた費用やリスクも含めて見る必要があります。
広告を見るときは、次の部分を確かめます。
- 施術名だけでなく、実際に行った内容が書かれているか
- 費用の総額や、別途かかる料金が分かるか
- 主なリスクや副作用が具体的に記載されているか
- 一度の施術結果か、複数回を組み合わせた結果か
- 撮影した時期が分かるか
- モニター写真を使う条件が書かれているか
口コミや体験談も、その人の感想です。良い口コミだけでなく、説明の分かりやすさ、追加費用、術後の連絡対応について書かれている内容を見ます。
厚生労働省の医療広告規制では、自由診療について情報を掲載する場合、治療内容や費用だけでなく、主なリスクや副作用に関する情報提供も求められています。
見積書は「施術代」ではなく、終わるまでの総額で見ます
広告に「一万円台から」と書かれていても、診察後に別の施術を提案され、麻酔、薬、針、検査などが追加されることがあります。
見積書を受け取ったら、次の項目が含まれているかを見てください。
| 費用項目 | 聞いておくこと |
|---|---|
| 診察・カウンセリング | 初診料、再診料、医師の診察料が別にかかるか |
| 施術 | 片側・一部位・一回の料金なのか、希望範囲の総額なのか |
| 麻酔・薬・検査 | 麻酔代、術後薬、血液検査、処置代が含まれているか |
| 通院 | 抜糸、経過診察、追加処置の費用が含まれているか |
| 修正・再施術 | 修正の条件、対象期間、追加料金が発生する場合 |
| 継続費用 | 効果を維持するために、何か月ごとに施術が必要か |
| 解約・キャンセル | 予約変更料、解約料、返金条件 |
一回払えるかだけでなく、効果を維持するための費用を一年分で考えます。
分割払いを勧められた場合は、月額だけを見ず、支払総額、手数料、支払回数を見てください。
医療ローンの申込書へ事実と異なる年収や貯蓄額を書くよう勧められても、応じてはいけません。
「今日だけ安い」と言われても、今日受ける理由にはなりません
美容医療の相談では、「本日の契約なら割引」「モニター枠が残り一名」「今始めないとさらに悪化する」と言われることがあります。
本当に必要な治療であっても、説明を理解できず、落ち着いて選べない状態で契約する必要はありません。
国民生活センターには、カウンセリングだけのつもりで来院した人が、不安をあおられたりモニター価格を勧められたりして、その場で高額な契約や施術をしたという相談が寄せられています。同センターは、即日契約・施術を急かされても、その場で決めないよう注意を呼びかけています。
断るときに、長い理由は要りません。
「今日は契約しません。見積書を持ち帰って考えます」
さらに勧められた場合は、同じ言葉を繰り返します。
「金額に関係なく、当日は契約しないと決めています」
「家族に聞かないと決められません」と言うと、「ご本人が決めることです」と話を続けられることがあります。家族を理由にせず、自分の方針として断る方が話を終えやすくなります。
契約書へ署名する前に、写真の利用範囲も読みます
モニター契約では、料金が安くなる代わりに、施術前後の写真や動画が使われることがあります。
顔の一部だけだと思っていたら、顔全体や音声付き動画が広告に掲載される契約だった、という行き違いを防ぐため、次の点を確かめます。
- 撮影する部位と回数
- 顔全体が分かる状態で掲載されるか
- ウェブサイト、SNS、動画広告、院内資料など、使用される媒体
- 氏名、年齢、職業などが掲載されるか
- 掲載期間と、掲載後の削除を求められる条件
- 予定された撮影へ行けない場合の違約金
- 施術結果に納得できない場合も掲載されるか
写真の公開が気になるなら、割引を受けず通常料金を選ぶ、別のクリニックを探す、施術自体を見送る方法があります。
割引額より、公開後に取り戻しにくいものがないかを先に考えてください。
すべての美容医療契約に、同じ解約ルールが使えるわけではありません
美容医療なら、どの契約でも無条件にクーリング・オフできると思っている方もいます。
実際には、施術方法、契約期間、金額などによって、特定商取引法の対象になるかが異なります。
一定の美容医療で、契約期間が一か月を超え、総額が五万円を超えるなどの条件を満たす場合は、特定継続的役務として書面交付、クーリング・オフ、中途解約などの規定が適用されることがあります。法律で定められた書面を受け取った日から八日以内にクーリング・オフできる契約もありますが、すべての施術が対象になるわけではありません。
契約後に不安になった場合は、書類を捨てず、次の物を集めます。
- 契約書、申込書、同意書、見積書
- 領収書、クレジットやローンの書類
- 広告や料金画面のスクリーンショット
- クリニックとのメールやメッセージ
- 説明された内容と日時、担当者の名前
- 施術前後の写真
そのうえで、クリニックへ連絡するときは、次のように伝えます。
「契約を見直したいため、施術をいったん止めてください。解約条件と返金額を書面で教えてください」
契約や解約について話が進まない場合は、消費者ホットライン「188」へ連絡すると、地域の消費生活センターなどにつながります。
家族へ話すかどうかは、施術後の生活まで考えて決めます
美容医療を受けることを、ご家族へ必ず話さなければならないわけではありません。
「反対されそう」「いい年をして、と言われたくない」と考え、一人で決めたい方もいるでしょう。
ただし、麻酔を使う、施術後に運転できない、顔に腫れや内出血が出る、入浴や家事を控えるなど、生活上の手助けが必要な場合は、少なくとも一人には伝えておく方が安全です。
家族へは、美容への考え方を納得させる必要はありません。
「若返りたいというより、長く気になっていた部分について医師の説明だけ聞きに行きます。当日は契約も施術もしません」
施術を決めた後なら、次のように事実だけを共有できます。
「○日に施術を受ける予定で、翌日まで運転を控えるよう言われています。緊急連絡先と薬はここに置いておきます」
家族が賛成するかどうかと、安全のために情報を共有することは、分けて考えて構いません。
施術後の異常は、「美容のことだから」と我慢しないでください
施術後には、事前に説明された範囲の腫れ、痛み、内出血などが出ることがあります。
ただし、事前に聞いた経過から外れている、症状が急速に悪化する、連絡してもクリニックにつながらない場合は、我慢を続けないでください。
次のような症状がある場合は、施術を受けた医療機関へ速やかに連絡し、状態に応じて救急医療を利用します。
- 息苦しい、喉や顔が急に腫れてきた
- 意識がぼんやりする、倒れた
- 強い胸の痛みがある
- 圧迫しても止まらない出血がある
- 視界が急に見えにくい、強い目の痛みがある
- 片側の手足が動かしにくい、ろれつが回らない
- 激しい痛みが続き、皮膚の色が急に変わってきた
緊急ではないものの、医療機関とのやり取りや説明内容に心配がある場合は、地域の医療安全支援センターへ相談できます。契約や返金の問題は消費生活センターが担当するため、医療上の心配と契約上の問題を分けて伝えると案内されやすくなります。
予約する前に、「当日は説明だけ」と備考欄へ入れてください
今日、施術を決める必要はありません。
気になるクリニックがあるなら、予約フォームの備考欄へ次の一文を入れます。
「初回は医師の説明と見積もりのみを希望します。当日の契約・施術は希望していません」
次に、お薬手帳を手元へ置きます。そして、相談したい悩みを一つだけ決めてください。
「しみも、たるみも、目元も全部」ではなく、「写真で頬が疲れて見えることが気になる」のように、一つに絞ります。
説明を受けて納得できなければ、施術を受けない。別の医師から話を聞く。美容医療そのものをやめる。
どれも失敗ではありません。
相談へ行く目的は、契約することではなく、自分の体とお金を預けられる内容かを見極めることです。決めずに帰る準備ができていれば、怖さを抱えたままでも、必要な情報だけを聞きに行けます。













