旅行の日程は決まった。宿も取った。ところが、ご家族から「保険には入ったの?」と聞かれ、急に心配になった。
転んだらどうする。持病が悪化したら。海外で入院したら、家族は迎えに来られるのか。
保険の申込画面を開いても、「傷害治療費用」「疾病治療費用」「救援者費用」「携行品損害」と、似たような項目が並んでいます。クレジットカードにも保険が付いているらしい。でも、それだけで足りるのかは分からない。
一方で、保険を増やせば安全になるとも言い切れません。補償の対象外になる持病や、保険では解決できない体調の問題もあります。
旅行保険を考えるときは、年齢からではなく、「旅行中に何が起きたら自分たちだけでは支払えない、動けない、判断できないか」から見ます。
国内旅行と海外旅行では、保険の役割が大きく違います
国内旅行では、公的医療保険を使って医療機関を受診できます。2026年時点では、マイナ保険証を持っている方はマイナ保険証、持っていない方は資格確認書を医療機関や薬局で提示します。
そのため、国内で急に風邪をひいた、持病の症状が出たという場合に、旅行保険がなければ医療を受けられないわけではありません。
ただし、一般的な国内旅行傷害保険は、旅行中の急激・偶然・外来の事故によるケガなどを中心に補償するもので、通常の病気がすべて対象になる保険ではありません。細菌性食中毒などを補償する商品はありますが、盲腸などの病気は対象外となる場合があります。
海外旅行では事情が変わります。現地での病気やケガの治療費、緊急移送、家族が駆けつける費用、賠償責任、携行品など、国内より広い備えが求められます。外務省も、予期できない病気や事故に備えて海外旅行保険への加入を勧めています。
| 旅行の形 | 先に見ること | 保険を検討する理由 |
|---|---|---|
| 国内の日帰り・近場 | 現在の傷害保険、医療保険、クレジットカードの補償 | 転倒などのケガや賠償への備えが足りない場合 |
| 国内の宿泊旅行 | 移動距離、活動内容、旅行代金、取消条件 | ケガに加え、旅行中止による損失が大きい場合 |
| 海外旅行 | 治療費用、救援者費用、緊急移送、サポート体制 | 現地医療費や帰国・家族渡航の負担へ備えるため |
| クルーズ・離島・長期滞在 | 医療機関までの距離、搬送方法、保険期間 | 受診や移送に大きな費用と手配が必要になる可能性があるため |
国内旅行は「加入するか」から考えず、すでに持っている補償で不足する部分を探します。海外旅行は、死亡保障の大きさだけでなく、治療費用と救援者費用を先に見てください。
旅行保険で備える費用を、四つに分けます
保険の項目が多くて分かりにくいときは、旅行中に起きる困りごとを四つに分けます。
自分が治療を受ける費用
転倒して骨折した、肺炎で入院したなど、自分の治療にかかる費用です。
海外旅行保険では、ケガの治療費用と病気の治療費用が別の項目になっている場合があります。死亡保険金が高くても、治療費用の上限が十分とは限りません。
日本へ戻る、家族に来てもらう費用
現地で長期入院し、家族が渡航する。通常の飛行機では帰国できず、医療スタッフ付きの移送が必要になる。このようなときに関係するのが、救援者費用や緊急移送の補償です。
一人旅や高齢のご夫婦だけの旅行では、本人が保険会社へ連絡できなくなる場面も考え、家族が代理で連絡できる窓口を確かめておきます。
他人や物へ損害を与えた費用
宿の備品を壊した、他人にケガをさせたなど、法律上の賠償責任を負った場合の補償です。
すでに火災保険や自動車保険などへ個人賠償責任特約を付けている場合、旅行中も補償対象になることがあります。重複して契約する前に、現在の保険会社へ対象地域を尋ねます。
旅行へ行けなくなった損失
出発前に入院した、親族に不幸があったなどの理由で旅行を中止したときの取消料です。
これは、旅行中のケガや病気に備える一般的な旅行保険とは別の「旅行キャンセル費用」などの補償で扱われる場合があります。旅行保険へ入れば、どの理由によるキャンセル料も戻るわけではありません。
海外では、日本の健康保険だけで十分とは言えません
海外旅行中に急な病気やケガで診療を受けた場合、日本の健康保険には、帰国後の申請により一部の払い戻しを受けられる海外療養費制度があります。
ただし、支給額は日本国内で同じ治療を受けた場合の費用を基準に計算されます。海外で実際に支払った金額との差が大きくなることがあり、現地での支払いをその場で免除する制度でもありません。申請には診療内容明細書、領収書、日本語訳、渡航を証明する書類などが必要です。
つまり、「日本の健康保険へ入っているから、海外でも自己負担は日本と同程度」とは考えない方が安全です。
海外旅行保険を選ぶときは、保険金額だけでなく、次のような支援があるかも見ます。
- 日本語で連絡できる窓口があるか
- 医療機関の紹介や予約を頼めるか
- 条件を満たす場合にキャッシュレス治療を利用できるか
- 緊急移送や家族の渡航を手配してもらえるか
- 帰国後にどの書類を提出するか
保険会社が案内する医療機関以外を受診すると、いったん自分で全額を支払うこともあります。出発前に緊急連絡先をスマートフォンへ登録し、紙にも一部残しておくと、端末が使えない場合に対応しやすくなります。
クレジットカードの旅行保険は、「付いている」だけでは足りません
クレジットカードに海外旅行保険が付いている場合がありますが、カードを持っているだけで必ず適用されるとは限りません。
旅行代金や交通費をそのカードで支払うことが条件になっている場合、補償期間が限られている場合、家族は対象外の場合があります。治療費用や携行品の上限が、別に契約する海外旅行保険より低いこともあります。
カード会社へは、次のように聞くと内容を追いやすくなります。
「来月、本人70歳と配偶者68歳で海外へ7日間行きます。このカードの旅行保険が適用される支払い条件、二人の治療費用、救援者費用、保険期間を教えてください」
特に見たいのは、次の項目です。
- 自動的に適用されるのか、旅行代金などのカード払いが必要か
- 本人だけでなく、配偶者や同行家族も対象か
- ケガと病気の治療費用はいくらか
- 救援者費用と賠償責任があるか
- 旅行が何日まで対象になるか
- 複数のカードを持つ場合、補償額がどう扱われるか
不足が見つかったら、すべてを重ねて契約するのではなく、治療費用や救援者費用など足りない部分を追加できる商品があるかを尋ねます。
持病がある方は、病名を伏せて申し込まない
高血圧、糖尿病、心臓病などで通院していても、旅行保険へ一律に入れないとは限りません。
一方で、申込可能な年齢、現在治療中の病気、最近の入院歴、服薬状況などによって、加入できる商品や補償範囲が変わる場合があります。加入前から発病している病気が補償されない商品もあります。
「普段は元気だから」「薬を飲んでいるだけだから」と自己判断で申告を省かず、質問には事実どおり答えます。
保険会社や代理店へは、次のように尋ねます。
「高血圧で通院し、毎日薬を飲んでいます。旅行中にこの病気が悪化して受診した場合、補償対象になりますか。対象外になる条件を具体的に教えてください」
「持病ありでも加入可能」と書かれていても、持病そのものの治療費がすべて補償されるとは限りません。加入できることと、起きた症状が支払い対象になることは別に見ます。
主治医へ旅行について聞く場合も、「旅行へ行ってよいですか」だけでは判断材料が足りません。
「飛行機で片道8時間、現地に5泊します。坂道を歩く予定があり、薬の時差調整も必要です。控えた方がよい行動はありますか」
移動時間、滞在日数、気温、標高、歩行量を伝えると、服薬や体調管理について具体的に聞きやすくなります。
保険へ入っても、体調の悪い旅行を安全にはできません
保険は、事故や病気が起きた後の金銭負担や手配を支えるものです。出発時点で体調が安定していない人を、旅行できる状態に変えるものではありません。
次のような場合は、保険の比較より先に、旅行そのものを見直します。
- 最近、胸の痛みや強い息切れがある
- 発熱、嘔吐、下痢などが続いている
- 薬を変更した直後で体調が安定していない
- 転倒が増え、一人で安全に移動できない
- 医師から長時間移動や入浴を止められている
- 同行者が必要な介助を担えない
保険料や取消料が惜しくても、体調を隠して出発する方が負担は大きくなります。
家族が代わりに動けるよう、契約内容を一枚にします
旅行へ同行しないご家族がいる場合、「保険へ入ったから大丈夫」とだけ伝えても、緊急時には動けません。
本人が入院して電話できない場面を考え、次の内容を共有します。
- 保険会社と商品名
- 契約番号または証券番号
- 被保険者の氏名
- 旅行期間と行き先
- 海外・国内からの緊急連絡先
- カード付帯保険を利用する場合はカード会社名
- 持病、服薬、かかりつけ医の連絡先
契約書類の写真を家族へ送る場合、クレジットカード番号や本人確認書類など、不要な情報まで共有しないようにします。
緊急時に家族から連絡してよいか、本人確認に何が必要かも保険会社へ尋ねておくと、現地と日本で同じ説明を繰り返す負担を減らせます。
申込み前は、保険料ではなく「支払われない場合」を読みます
保険商品を選ぶとき、補償額の大きさや保険料へ目が向きます。
しかし、実際に困りやすいのは、加入していたのに対象外だった場面です。
金融庁は、保険商品の購入にあたり、契約概要や注意喚起情報などを読み、自分に必要な補償と不明点を検討するよう案内しています。
申込みを確定する前に、少なくとも次を見ます。
- 申込可能年齢と保険の対象になる人
- 補償が始まる日と終了する日
- 持病や既往症の扱い
- 病気とケガ、それぞれの対象外条件
- 危険なスポーツや特定地域の除外
- 飲酒、故意、無免許などで支払われない場合
- 旅行中止・変更費用が含まれるか
- 事故後、何日以内にどこへ連絡するか
高齢のご家族に代わって子ども世代が申し込む場合も、本人へ質問内容を見せ、病歴や服薬を確認します。代理入力だからといって、推測で回答しないことです。
今夜は契約せず、現在の補償を一つだけ確かめます
複数の保険商品を一度に比較する前に、普段使っているクレジットカードか、すでに加入している傷害保険のどちらか一つを開きます。
確認するのは、次の五点です。
旅行先、適用条件、病気の治療費用、救援者費用、対象になる家族。
見つけられなければ、カード会社や保険会社へこう尋ねます。
「シニア夫婦で旅行する予定です。現在の契約で、旅行中の病気の治療費用と家族が駆けつける費用が補償されるか知りたいです。適用条件と対象者を教えてください」
その回答で足りない部分が分かってから、追加の旅行保険を探します。
保険は、たくさん入るほど安心になるものではありません。旅行先で起こると困る費用と、すでに持っている備えを照らし合わせ、足りないところだけを埋めればよいのです。













