病院から電話があり、「治療は終わったので、来週には退院できます」と言われる。
本来なら喜ぶ話かもしれません。
けれど、親御さんは一人ではトイレへ行けない。夜中に何度も起きる。自宅には段差があり、同居する母も高齢です。仕事を休み続けることもできません。
病院から施設の一覧を渡されても、名前と電話番号が並んでいるだけ。どこへ電話し、何を聞けばよいのか分からないまま、退院日は近づいてきます。
こうした場面で、ご家族が慌てるのは当然です。
施設を探しているように見えて、実際には「退院した日の夜を、誰がどう支えるのか」が決まっていないからです。
急いでいるときほど、最終的な住まいと、当面の安全な居場所を分けて考える必要があります。
退院日より先に「今日から自宅で安全に暮らせるか」を見ます
最初に分けたいのは、施設の種類ではなく緊急度です。
| 現在の状態 | 優先すること |
|---|---|
| 急な意識の変化、呼吸苦、発熱、強い痛みなどがある | 施設探しではなく、医師や看護師へ状態を伝える。自宅で急変した場合は119番を検討する |
| 退院日は迫っているが、自宅では介護者がおらず安全を保てない | 病院の退院支援担当者、ケアマネジャー、地域包括支援センターへ当日中に連絡する |
| 数週間は自宅で暮らせるが、家族の介護が長く続かない | 一時利用と本入居の候補を並行して探す |
| 将来に備えて施設を検討している | 地域、費用、医療対応、本人の希望を比較しながら見学する |
「家族が頑張れば二、三日は何とかなる」と思って退院を受け入れると、その数日で転倒や服薬間違いが起こることがあります。
反対に、少しの訪問介護や福祉用具があれば自宅へ戻れる状態なのに、「退院後は施設しかない」と思い込んでいる場合もあります。
今の状態で必要なのが、常時の介護なのか、夜間だけの支援なのか、リハビリなのか、医療処置なのか。ここを病院側と確かめてください。
病院から探す場合、最初の窓口は施設ではなく退院支援担当者です
病院には、退院支援を担当する看護師や医療ソーシャルワーカー、地域連携部門が置かれていることがあります。
病棟の看護師へ、次のように伝えます。
「退院後に自宅で介護できる人がおらず、安全を保てません。退院支援を担当する方と、今日か明日に話したいです」
「施設を探しています」だけでは、急ぎの程度が伝わらないことがあります。
次の事実も添えてください。
- 病院から示された退院予定日
- 同居する人と、その人が介護できる状態か
- 家族が仕事を休める日数
- 親御さんが一人でできないこと
- 夜間の見守りが必要か
- 認知症による外出、拒否、興奮などがあるか
- たんの吸引、酸素、経管栄養、インスリンなどの医療的な対応
- 現在の要介護度とケアマネジャーの有無
退院支援担当者には、施設名だけでなく、次の点を尋ねます。
「自宅へ戻る場合、何人でどの介助が必要ですか」
「短期的に受け入れられる場所を含め、候補はありますか」
「施設へ渡す診療情報や看護情報は、いつ準備できますか」
「退院日までに本入居が決まらない場合、どの方法を検討できますか」
病院が施設への入居を決めてくれるわけではありません。それでも、現在の医療・介護状況を施設へ正確に伝え、退院後の生活を組み立てる起点になります。
自宅で介護が限界になった場合は「もう無理」を具体的に伝えます
入院ではなく、自宅での介護が突然難しくなることもあります。
介護をしていた配偶者が入院した。夜間の徘徊が続き、家族が眠れない。転倒が増え、一人で起こせない。家族が仕事へ行っている間の安全を保てない。
既にケアマネジャーがいる場合は、まずケアマネジャーへ連絡します。
「施設を検討したい」ではなく、「今夜から一人にできない」「介護者が入院し、明日から介護する人がいない」と期限を伝えてください。
ケアマネジャーがいない場合や、介護認定を受けていない場合は、親御さんの住所を担当する地域包括支援センターへ連絡します。
「父は一人で排泄と服薬ができません。介護していた母が入院し、明日から家に介護者がいません。短期入所や介護認定を含め、今できる対応を知りたいです」
介護認定前でも相談はできます。申請方法や、現在の状況で利用できる地域の支援を聞いてください。
ただし、介護サービスの利用条件や費用負担は、認定状況、自治体、事業所によって異なります。
今すぐ長く住む施設を決めなくても構いません
退院まで数日しかないと、「この施設で一生暮らすか」を短時間で決めなければならないように感じます。
しかし、急いで決めるべきことは、まず退院後の安全です。
次のような一時的な方法を挟み、その間に本入居先を探せる場合があります。
短期入所生活介護(ショートステイ)
特別養護老人ホームなどへ短期間入所し、食事、入浴、排泄などの介護を受けるサービスです。
家族の介護負担を軽くする目的でも利用されます。空床、介護認定、医療対応などの条件があるため、ケアマネジャーや地域包括支援センターを通じて探します。
緊急利用に対応する事業所もありますが、すべての地域でいつでも利用できるわけではありません。
介護老人保健施設
病状が安定し、リハビリや介護を受けながら在宅復帰を目指す方が対象となる施設です。
病院から自宅へ直接戻るのが難しいものの、リハビリによって生活動作の改善が見込まれる場合に候補となります。
長期間住み続けることを主な目的とする施設ではないため、入所後の行き先も考えておく必要があります。
有料老人ホームなどの短期・体験利用
有料老人ホームの中には、空室を使った短期利用や体験入居を設けているところがあります。
ただし、期間、費用、受けられる介護、医療対応は施設ごとに違います。短期利用後に本契約を求められるのか、途中で退去できるのかも書面で確かめてください。
「一時的に入れる場所」と「この先長く暮らす場所」は、同じでなくても構いません。退院直後の安全を確保したうえで、本人に合う本入居先を探す方法があります。
施設名ではなく、親御さんが必要とする役割から選びます
| 施設・住まい | 主な役割 | 急いで探すときの注意点 |
|---|---|---|
| 特別養護老人ホーム | 常時介護が必要で、在宅生活が難しい方の生活施設 | 原則として要介護3以上。要介護1・2には特例入所の条件があり、すぐ入所できるとは限らない |
| 介護老人保健施設 | リハビリや医療管理を受けながら在宅復帰を目指す | 病状が安定していることが前提。長期の住まいとは役割が異なる |
| 介護医療院 | 長期的な医療と介護を一体的に受けながら生活する | 継続的な医療管理の必要性や受け入れ条件を確かめる |
| 介護付き有料老人ホーム | 施設内で介護を受けながら暮らす | 空室があれば早く入居できる場合があるが、費用と医療対応の幅が大きい |
| 住宅型有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅 | 高齢者向けの住まいを確保し、必要に応じて介護サービスを利用する | 夜間を含む介護の提供方法、外部サービス費、医療対応を施設ごとに聞く |
| 認知症グループホーム | 認知症の方が少人数で共同生活を送る | 認知症の診断、介護度、住所地などの条件があり、医療対応にも限界がある |
費用が安いから特別養護老人ホーム、空室があるから有料老人ホーム、と一つの条件だけで決めると、受けられない介護や医療が後から分かることがあります。
「どこなら空いているか」と同時に、「何をしてもらう必要があるか」をそろえて探してください。
施設へ電話する前に、親御さんの状態を一枚にまとめます
急いで十施設へ電話しても、親御さんの状態を説明できなければ、受け入れ可能か判断してもらえません。
次の内容を手元に置きます。
- 年齢、性別、現在いる場所
- 退院予定日、または自宅で介護できなくなる日
- 要介護度、認定の有効期間
- 主な病名と認知症の診断
- 歩行、移乗、排泄、食事、入浴で必要な介助
- 夜間の見守りの必要性
- 外出、暴言、介護拒否など施設へ伝えるべき行動
- 服薬、通院先、医療処置
- 希望地域
- 初期費用と月額費用の上限
- 身元引受人・緊急連絡先になれる人
介護拒否や夜間の興奮などを隠して入居すると、施設側が対応できず、短期間で退去の話になる可能性があります。
受け入れてもらうために状態を軽く伝えるのではなく、「どのような対応なら落ち着くか」まで添えてください。
「夜間にトイレを探して歩くことがあります。声をかけて案内すると戻れます」
「入浴を強く勧めると拒否しますが、午後に女性職員から声をかけると受け入れやすいです」
行動だけでなく、これまでうまくいった対応があると、施設も受け入れを検討しやすくなります。
電話では「空室がありますか」の次を必ず聞きます
空室があっても、親御さんを受け入れられるとは限りません。
最初の電話は、次のように伝えます。
「父が〇月〇日に退院予定で、要介護3です。歩行はできず、移乗と排泄に介助が必要です。夜間のたん吸引はありません。最短の受け入れ時期と、入居判定に必要な情報を教えてください」
そのうえで、次を聞きます。
- 現在の空室と、最短の入居可能日
- 入居前の面談や診療情報の提出にかかる日数
- 現在の介護度と身体状態で受け入れられるか
- 認知症の症状や医療処置への対応
- 夜間の職員体制
- 短期・体験入居の有無
- 入居までに必要な書類
- 入居一時金と月額費用の概算
- 見学前に断られる可能性がある条件
電話を終えたら、「空室あり」だけでなく、「医療確認待ち」「面談は三日後」「月額上限を超える」など、次の動きが分かる言葉を残します。
医療対応は「看護師がいるか」だけでは分かりません
施設の案内に「看護師配置」「医療連携あり」と書かれていても、すべての医療行為に対応できるわけではありません。
次の対応が必要な場合は、名称をそのまま伝えます。
- たんの吸引
- 在宅酸素
- 経管栄養
- インスリン注射
- 人工透析への通院
- 褥瘡の処置
- 尿道カテーテルや人工肛門の管理
- 夜間の医療的な対応
- 終末期の看取り
「看護師は何時から何時までいますか」
「夜間に状態が変わった場合、誰が判断し、どの医療機関へ連絡しますか」
「この処置が続いても入居できますか。状態が重くなった場合の退去条件はありますか」
施設側の「対応できます」が、毎日施設内で行えるという意味なのか、訪問看護や家族の協力が必要なのかも確かめてください。
月額料金は、パンフレットの表示額だけで決めません
施設から示される月額料金には、家賃、管理費、食費などが書かれています。
実際の支払いでは、次の費用が別に加わることがあります。
- 介護保険の自己負担
- 医療費と薬代
- おむつや日用品
- 洗濯、理美容、レクリエーション
- 通院の付き添いと交通費
- 訪問介護や訪問看護など外部サービスの費用
- 居室の電気代、電話代
- 入院中も発生する家賃や管理費
施設には、次の形で尋ねます。
「父の現在の介護度と医療状況で、毎月支払う可能性がある費用を、介護保険、医療費、日用品まで含めて教えてください」
「入院した場合も支払いが続く項目と、退去時の費用を教えてください」
最も安い月ではなく、通常月と、通院や介護が増えた月の両方を見ます。
見学時間が短くても、三つの場面は見てください
急ぎの見学では、設備の新しさだけを見て終わることがあります。
限られた時間でも、次の三つを見ます。
職員が入居者へ話しかける場面
返事を急かしていないか、子どもへ話すような言葉になっていないか、本人の名前を呼んでいるかを見ます。
食事や移動の場面
介助が必要な方へ、どの程度職員が関われるかが分かります。食事形態や席の位置も親御さんに合うか見てください。
夜間や急変時の説明
夜は職員が何人になるのか。転倒や発熱時に誰が家族へ連絡するのか。協力医療機関があるだけでなく、実際の流れを聞きます。
見学できないほど退院期限が迫っている場合でも、オンライン見学、居室の写真、重要事項説明書の事前送付を頼めることがあります。
契約前には「入れます」より「いつ退去になるか」を読みます
入居を急いでいると、契約書へ署名すれば問題が解決したように感じます。
しかし、入居後に医療の必要性が高まった、認知症の症状が強くなった、長期入院になったという理由で、住み続けられなくなることがあります。
有料老人ホームなどでは、契約書、管理規程、重要事項説明書を読み、次を確かめてください。
- 初期費用、月額費用、追加料金
- 入居一時金の償却と返金
- 契約解除と退去を求められる条件
- 長期入院中の居室と費用
- 介護度や医療状態が変わった場合の対応
- 居室を移る可能性と追加費用
- 身元引受人や連帯保証人に求められる役割
- 看取りを希望する場合の条件
説明を受けても理解できない部分には、署名する前に印を付けます。
「急いでいますが、分からないまま契約はできません。この条項が適用される具体例を教えてください」
契約当日に全額を支払う必要があるのか、申込みを取り消した場合にいくら戻るのかも書面で見てください。
本人が拒むときは「一生入る話」から始めません
家族が施設を探していると知り、親御さんが「家を追い出すのか」と怒ることがあります。
本人から見れば、入院している間に家族が住む場所を決め、自宅へ戻れない話を進めているように感じます。
退院後の危険が差し迫っていても、最初から「施設へ入るしかない」と伝えると、話し合いが止まることがあります。
「今の足の状態で、退院した夜を家で安全に過ごせるかを考えている」
「ずっと住む場所を今日決めるのではなく、リハビリを続けられる場所を探している」
「家へ戻る可能性も含めて、まず一か月の暮らし方を考えたい」
実際には長期入居を見込んでいる場合も、本人へ事実と違う説明をして契約へ進めるのは避けてください。
本人の理解や判断が難しくなっている場合は、医師、病院の退院支援担当者、ケアマネジャーを交えて、本人の意思をどのように確かめるかを話します。
家族で意見が割れたら、施設名ではなく期限と役割へ戻します
近くに住む家族は「もう自宅では無理」と考え、遠方のきょうだいは「施設はかわいそう」と反対することがあります。
見えている生活が違えば、判断も変わります。
このとき、親孝行かどうかを議論するより、事実と期限へ戻します。
- 退院日はいつか
- 自宅では誰が何時から何時まで介護するのか
- 夜間の排泄や転倒へ誰が対応するのか
- 一か月に使える費用はいくらか
- 今週中に誰が施設へ電話するのか
- 一時入所中に誰が本入居先を探すのか
遠方の家族が在宅介護を望むなら、「誰かが介護するはず」ではなく、自分が担える日数、費用、連絡業務まで具体的にします。
「在宅か施設かの結論を今日出すのではなく、退院後の二週間を安全に過ごす方法だけ決めたい」
話を短い期間へ区切ると、意見が違っていても動きやすくなります。
今は、病院へ一文伝えるところから始めます
今夜、何十件もの施設を検索し続けなくても構いません。
まず病棟へ電話し、次の一文を伝えてください。
「〇月〇日の退院後、自宅では安全な介護体制を作れません。退院支援担当者と、一時的な受け入れ先を含めて話したいです」
既に自宅にいる場合は、ケアマネジャーか地域包括支援センターへ、介護できなくなる日と、できない介助を伝えます。
次に、親御さんの要介護度、歩行、排泄、食事、夜間、医療処置の六項目だけをスマートフォンへ入力します。
この情報があれば、施設へ「空いていますか」と聞くだけの電話から、「この状態を受け入れられますか」と判断を求める電話へ変わります。
長く暮らす場所を、一晩で決める必要はありません。
まず退院直後の安全を確保する。その時間を使って、本人と家族が続けられる住まいを探す。この二段階に分けることで、急いでいる状況でも、決めなくてよいことまで慌てて決めずに済みます。















