「あっ、危ない」で終わらせた場所に、次の転倒のヒントがあります
玄関の上がり框をまたいだとき。夜中にトイレへ向かう途中。洗濯物を持って廊下を歩いていたとき。ほんの少し足先が引っかかって、壁や手すりに手をついた。
転ばずに済むと、「たまたま」「足元を見ていなかっただけ」と流してしまいやすいものです。けれど、その一度は、家の中のどこかが今の体に合わなくなってきたサインかもしれません。
特に家の中は、慣れているぶん油断しやすい場所です。外出先なら慎重に歩く段差でも、自宅では照明をつけずに歩いたり、スリッパのまま急いだり、両手に荷物を持ったまま移動したりします。
「年を取ったから仕方ない」と決めつける必要はありません。ただ、転びそうになった場所を一つ思い出すだけで、今日から減らせる危険があります。
段差そのものより、「段差に気づきにくい状況」が重なっていることがあります
家の段差でつまずくと、まず段差をなくすことを考えます。もちろん段差は大きな要因です。ただ、実際には段差だけでなく、時間帯、照明、履物、体調、荷物の持ち方などが重なっていることがあります。
| 転びそうになった場面 | 重なっていそうな原因 | 最初にできる見直し |
|---|---|---|
| 夜中にトイレへ行く途中でつまずいた | 暗さ、寝起きのふらつき、急ぎ足 | 足元灯を置く、通り道の物をどかす |
| 玄関の段差でよろけた | 靴の脱ぎ履き、荷物、上がり框の高さ | 腰かける場所や手をつける場所を作る |
| 部屋の敷居で足先が引っかかった | 足が上がりにくい、敷物のめくれ、視線の低下 | 敷物を固定し、段差の色を見えやすくする |
| 洗濯物や買い物袋を持っていてよろけた | 両手がふさがる、足元が見えない、重さ | 荷物を小分けにする、片手を空けて歩く |
| スリッパで階段や段差を越えたときに滑った | 履物が脱げやすい、底が滑る、サイズが合わない | かかとが安定する室内履きに変える |
段差を完全になくせない家でも、つまずく条件を減らすことはできます。まずは「どこが危ないか」ではなく、「どんな状況で危なかったか」を思い出してみてください。
家の中で転びやすい場所は、だいたい生活動線にあります
転倒が起きやすいのは、特別な場所だけではありません。毎日通る場所、急いで通る場所、片手がふさがりやすい場所ほど注意が必要です。
次のような場所は、実際に歩いてみると危なさに気づきやすくなります。
玄関まわり
玄関は、靴を脱ぐ、荷物を持つ、方向転換する、段差を上がるという動作が重なります。若い頃は気にならなかった上がり框も、足腰が弱ってくると負担になります。
- 靴を履くときに片足立ちになっていないか
- 荷物を持ったまま段差を上がっていないか
- 手をつける壁や棚が遠くないか
- 靴や傘で足元が狭くなっていないか
廊下・部屋の出入り口
敷居や小さな段差は、見慣れているほど意識しにくい場所です。カーペットやマットの端が浮いていると、段差以上につまずきやすくなります。
- 敷居の色が床と似ていて見えにくくないか
- マットの端がめくれていないか
- 新聞、箱、コードなどが通り道に出ていないか
- 夜に照明をつけずに歩いていないか
トイレ・洗面所・浴室の入口
水まわりは、急いで移動することや、床が滑りやすくなることがあります。夜中のトイレ移動は、寝起きのふらつきも重なります。
- トイレまでの道が暗くないか
- マットが滑ったり、端が浮いたりしていないか
- 浴室の入口で足を大きく上げる必要がないか
- 濡れた床をそのまま歩いていないか
家の中の危ない場所は、「段差が高い場所」だけではありません。暗い場所、急ぐ場所、荷物を持つ場所、方向転換する場所を合わせて見ると、対策しやすくなります。
今日できる対策は、大きなリフォームより先にあります
転倒予防と聞くと、段差解消工事や手すりの設置を想像するかもしれません。もちろん必要になる場合もありますが、最初から大掛かりな工事を考えなくてもできることはあります。
まずは、今日のうちに動かせるもの、変えられる習慣から見てみましょう。
| 見直す場所 | 今日できること | 続くようにするコツ |
|---|---|---|
| 段差まわり | 物を置かない、段差の位置を見えやすくする | よく通る場所から一つだけ始める |
| 照明 | 夜の通り道に足元灯を置く | スイッチを探さなくてよい場所にする |
| マット・敷物 | めくれやすいものを外す、滑り止めを使う | 見た目より安全を優先する場所を決める |
| 履物 | 脱げやすいスリッパを見直す | 足に合い、滑りにくいものを選ぶ |
| 荷物の運び方 | 一度に運ばず、小分けにする | 片手を空けて歩く習慣をつくる |
| 夜中の移動 | 通路の物をどかし、明かりを確保する | 寝る前に通り道だけ確認する |
全部を一度に直そうとすると疲れてしまいます。最初は、「この前転びそうになった場所」だけで十分です。
転びそうになったあとに、体の変化も少しだけ見ておきます
段差や照明を見直しても、体の変化が関係していることがあります。
足が上がりにくくなった。歩く速度が遅くなった。視界がぼんやりする。立ち上がった瞬間にふらつく。薬を飲んだあと眠気が出る。こうした変化があると、同じ家の中でも転びやすくなります。
最近の変化をふり返るチェック
- 以前より足先が引っかかることが増えた
- 階段や段差を避けるようになった
- 歩くときに家具や壁に手をつくことが増えた
- 夜中のトイレ回数が増えた
- めまい、ふらつき、立ちくらみがある
- 眼鏡が合わない、段差が見えづらいと感じる
- 薬を飲んだあと眠気やふらつきが出る
- 外出や運動の機会が減っている
一つ当てはまるだけで大きな問題と決めつける必要はありません。ただ、複数重なる場合や、急に増えた場合は、住まいの対策だけでなく、体調面も見直した方が安心です。
めまい、ふらつき、急な歩きにくさ、転倒後の痛みなどがある場合は、自己判断で済ませず、医療機関やかかりつけ医に相談する選択肢があります。薬の影響が気になるときも、自己判断で中止せず、医師や薬剤師に確認してください。
高齢の親が「転びそうになった」と言ったときは、責めるより状況を聞きます
親から「この前、家の中で転びそうになってね」と聞くと、子ども世代は一気に心配になります。
「だから片付けてって言ったでしょ」「もう一人暮らしは危ないんじゃない?」と言いたくなるかもしれません。けれど、最初から責めるような言い方をすると、親御さんは「大げさにされたくない」と話さなくなることがあります。
まずは、出来事を責めずに聞くことから始める方が、現実的な対策につながります。
| 避けたい言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|
| 危ないから気をつけてよ | どこで転びそうになったの?一緒に見てみようか |
| ちゃんと片付けないからでしょ | 足元に何かあった?暗かった? |
| もう一人で住むのは無理じゃない? | まずは家の中で危ない場所だけ減らそう |
| 手すりを付けなきゃだめだよ | 手をつきたい場所があるか、一緒に歩いてみよう |
会話例:親の自尊心を傷つけずに聞く
子ども:「この前、転びそうになったって言ってたよね。ケガしなくてよかった。」
親:「大丈夫、大したことないよ。」
子ども:「大げさにしたいわけじゃないんだ。どこだったかだけ教えてくれる?」
親:「玄関のところかな。荷物を持っていたから。」
子ども:「じゃあ荷物を置ける台があると楽かもしれないね。今度一緒に見てみようか。」
親御さんにとって、転びそうになった話は「衰えを認める話」に聞こえることがあります。だからこそ、「できなくなった」と決めつけるより、「暮らしを続けやすくするための見直し」として話すことが大切です。
家族が見に行くなら、危ない場所を一緒に歩いてみます
実家や親の家を見に行くと、家族はつい片付けや物の多さに目が行きます。けれど、転倒予防で最初に見たいのは、親御さんが毎日通る動線です。
本人の歩く速さで、いつものように歩いてもらうと、写真や電話だけでは分からない危なさが見えてきます。
家族が一緒に見るポイント
- 玄関から居間まで、足元に物がないか
- 寝室からトイレまで、夜に明かりが届くか
- よく座る場所から立ち上がるとき、つかまる場所があるか
- 段差の前で足が止まる、または勢いで越えていないか
- スリッパや靴下が滑りやすくないか
- マットやコードに足が引っかかりそうでないか
- 荷物を持ったとき、片手を空けて歩けるか
- 本人が「ここはいつも怖い」と言う場所がないか
家族が勝手に家具を動かしたり、物を捨てたりすると、親御さんが暮らしにくくなることもあります。安全のための見直しでも、本人が毎日使う家であることは忘れないようにしたいところです。
手すりや段差解消を考えるなら、生活の動きに合わせて決めます
市販のすべり止め、段差解消スロープ、手すり、足元灯など、転倒予防に使えるものはいろいろあります。ただ、何を買えばよいかは、家の形や本人の動き方によって変わります。
「とりあえず手すりを付ける」ではなく、どの動作で支えが必要なのかを見てから考えると失敗しにくくなります。
| 困っている動作 | 考えられる対策 | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 玄関で上がる・下りるときに不安定 | 手すり、踏み台、腰かけ、荷物置き | 踏み台自体が滑らないか、固定されるかを見る |
| 部屋の敷居でつまずく | 段差解消材、見えやすい目印、敷物の撤去 | 新しい対策が別のつまずきにならないかを見る |
| 夜中の移動が怖い | 足元灯、人感センサーライト、通路の整理 | まぶしすぎず、寝起きでも見える明るさにする |
| 浴室や洗面所で滑る | 滑りにくいマット、手すり、床の水気対策 | マットの端が浮くと逆につまずくことがある |
| 階段で足が上がりにくい | 手すり、滑り止め、照明、荷物を持たない工夫 | 階段は自己流の工夫だけで不安なら専門家に相談する |
介護保険の住宅改修や自治体の助成制度が使える場合もありますが、対象者や条件、事前申請の有無は地域や状況によって異なります。工事や購入を急ぐ前に、必要に応じて地域包括支援センター、ケアマネジャー、自治体窓口などで確認しておくと安心です。
「まだ転んでいない」うちにできる対策が、いちばん負担が少ない
転倒対策は、骨折や入院をしてから始めるものだと思われがちです。でも、本当は「転びそうになった」「最近つまずく」「暗い場所が怖い」と感じた段階で始める方が、本人にも家族にも負担が少なく済みます。
転ばなかった日は、安心材料であると同時に、見直すチャンスでもあります。
今日できることは、大きなリフォームを決めることではありません。まず、危なかった場所を一つ思い出して、そこに物がないか、暗くないか、滑りやすくないかを見てみることです。
本人なら、無理に若い頃と同じ動き方をしなくて大丈夫です。家族なら、「危ないから」と責めるより、一緒に歩いて、少しだけ楽になる形を探してみてください。
家の中は、毎日を過ごす場所です。怖い場所を一つ減らせるだけでも、明日の移動は少し安心になります。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「高齢者の転倒予防」に関する情報
- 消費者庁「高齢者の事故防止」に関する注意喚起
- お住まいの自治体の介護保険住宅改修、介護予防、高齢者福祉に関する窓口
- 地域包括支援センター、かかりつけ医、薬剤師


















