「月12万円で働きませんか」と言われたのに、返事ができない
定年後、以前の勤務先から短時間勤務を持ちかけられました。
週3日で、月の給与は12万円ほど。年金だけでは光熱費や食費の値上がりが心配だったため、ありがたい話のはずでした。
ところが、家へ帰ってから別の不安が浮かびます。
「働いたら、せっかく受け取り始めた年金が減るのではないか」
「社会保険料を引かれ、結局ほとんど残らないのでは」
「確定申告が必要になり、翌年の税金まで増えたら困る」
勤務先からは、「このくらいの収入なら大丈夫だと思いますよ」と言われました。
しかし、その“大丈夫”が、年金が減らないという意味なのか、社会保険へ加入しないという意味なのかまでは分かりません。
年金を受けながら働くときは、求人票に書かれた月給だけを見ても、実際に残る金額を判断できません。
年金の種類、厚生年金への加入、賞与、税金、通勤費、働くために増える支出まで分けて見る必要があります。
最初に見るのは、振込額ではなく年金の内訳です
年金の振込通知書には、複数の年金が合計されていることがあります。
在職老齢年金による支給調整の対象となるのは、主に老齢厚生年金です。老齢基礎年金は、給与が増えても在職老齢年金の仕組みによって停止されません。
| 年金の種類 | 働いたときの見方 |
|---|---|
| 老齢基礎年金 | 在職老齢年金による支給停止の対象ではない |
| 老齢厚生年金 | 厚生年金の対象となる働き方では、給与・賞与との合計により一部または全部が停止される場合がある |
| 加給年金額 | 老齢厚生年金の支給状況などに影響される場合があるため個別確認が必要 |
| 企業年金 | 運営主体や規約によって扱いが異なる |
| 遺族年金・障害年金 | 老齢年金とは制度が異なるため、年金名を伝えて確認する |
手元へ出しておきたいもの
- 年金額改定通知書・年金振込通知書
- 年金証書や「ねんきんネット」で確認できる年金の内訳
- 求人票または雇用契約書
- 月給、勤務時間、賞与の見込みが分かる資料
銀行口座へ2か月分まとめて振り込まれた金額だけでは、老齢厚生年金の月額を正しく判断しにくいためです。
同じ月給でも、働き方によって年金への影響は変わります
| 働き方 | 在職老齢年金の考え方 |
|---|---|
| 会社で厚生年金へ加入して働く | 老齢厚生年金と賃金・賞与により支給調整の対象になる場合がある |
| 短時間勤務で厚生年金へ加入しない | 通常は在職老齢年金の対象にならないが、税金や健康保険の扶養などは別に見る |
| 自営業・フリーランスとして働く | 厚生年金の被保険者としての勤務でなければ、通常は在職老齢年金による調整対象にならない |
| 70歳以降に厚生年金の適用事業所で働く | 厚生年金保険料の負担はないが、賃金に応じた在職老齢年金の調整は行われる場合がある |
「月にいくら稼ぐか」だけでなく、「どの制度へ加入して働くか」が分かれ目になります。70歳未満で厚生年金の適用対象となる人や、70歳以降も適用事業所で働く人には、在職老齢年金の仕組みが適用されます。
2026年度は、年金と賃金の合計65万円が一つの基準です
2026年4月から、在職老齢年金で老齢厚生年金が減額となる基準額は、月51万円から月65万円へ引き上げられました。
ただし、「給与が月65万円までなら年金が減らない」という意味ではありません。
次の二つを合計します。
| 計算に使う金額 | 内容 |
|---|---|
| 基本月額 | 加給年金額を除く老齢厚生年金の報酬比例部分の年額を12で割った額 |
| 総報酬月額相当額 | その月の標準報酬月額+直前1年間の標準賞与額合計÷12 |
基本月額+総報酬月額相当額が65万円以下
老齢厚生年金は在職老齢年金による停止なし
65万円を超える
超えた金額の2分の1が、老齢厚生年金から支給停止
65万円は2026年度の基準額であり、賃金の変動に応じて年度ごとに改定されるため、働き方を変える年の金額を確認してください。
賞与を忘れると、「減らないと思っていたのに」が起こります
在職老齢年金の賃金には、毎月の給与だけでなく、直前1年間の標準賞与額を12で割った金額も含まれます。
月給がそれほど高くなくても、賞与が大きい場合は基準額を超えることがあります。
例1:停止されない場合
| 老齢厚生年金の基本月額 | 月12万円 |
|---|---|
| 総報酬月額相当額 | 月50万円 |
| 合計 | 62万円 |
| 結果 | 65万円以下のため、在職老齢年金による停止なし |
例2:一部が停止される場合
| 老齢厚生年金の基本月額 | 月12万円 |
|---|---|
| 総報酬月額相当額 | 月60万円 |
| 合計 | 72万円 |
| 65万円を超える額 | 7万円 |
| 支給停止額の目安 | 7万円÷2=月3万5,000円 |
| 支給される老齢厚生年金の目安 | 12万円-3万5,000円=月8万5,000円 |
この例でも、老齢基礎年金は在職老齢年金による停止の対象になりません。実際には標準報酬月額や標準賞与額、共済年金の有無などにより計算するため、求人票の額面給与だけで確定しないでください。
年金が少し減るからと、働く時間をすぐ減らす必要はありません
在職老齢年金の基準を超えると、超えた部分の半額が老齢厚生年金から停止されます。
たとえば、総報酬月額相当額が4万円増え、ほかの条件が同じなら、年金の停止額はおおむね2万円増える計算です。
税金や社会保険料を考える前の単純計算では、給与が4万円増えて年金が2万円減るため、合計収入は2万円増えます。
「1円超えたら年金が急に全部なくなる」仕組みではありません。
| 判断の仕方 | 見落としやすいこと |
|---|---|
| 年金を1円も減らさないよう勤務を減らす | 給与の減少が年金の停止減少額より大きくなる場合がある |
| 額面給与だけを見て勤務を増やす | 社会保険料、税金、通勤や食事の支出が増える |
| 手取り総額で比べる | 年金、給与、保険料、税金、仕事関連支出をまとめて判断できる |
年金の停止額だけを減らすことが、必ずしも家計にとって最も有利とは限りません。
パートでも社会保険へ加入する場合があります
「パートだから厚生年金には入らない」とは限りません。
2026年7月時点では、通常の労働者の所定労働時間・日数の4分の3以上働く人は、原則として健康保険・厚生年金の対象です。
4分の3未満でも、厚生年金の被保険者数が51人以上の特定適用事業所などで、次の要件を満たす短時間労働者は加入対象となります。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 学生ではない
- 所定内賃金が月額8万8,000円以上
- 短期雇用などの除外に該当しない
月額8万8,000円以上という賃金要件は、2026年10月に撤廃が予定されています。社会保険の適用範囲は今後も段階的に変わるため、勤務開始時点の条件を勤務先へ聞いてください。
採用前に勤務先へ聞くこと
- この勤務条件では健康保険・厚生年金へ加入するか
- 週の所定労働時間は何時間か
- 月の所定内賃金はいくらか
- 賞与の予定と支給実績
- 社会保険料を引いた給与の概算
- 勤務時間を増減した場合、加入条件が変わるか
「扶養内で働けます」「年金は減りません」といった口頭説明だけでなく、雇用契約書に記載される時間と賃金を見ます。
厚生年金保険料を払うことは、引かれるだけではありません
65歳以上70歳未満で老齢厚生年金を受けながら厚生年金へ加入して働くと、加入期間と報酬が将来の年金額へ反映されます。
基準日の9月1日に加入している場合、前年9月から当年8月までの加入期間を加えて年金額が再計算され、原則として10月分から反映されます。これを在職定時改定といいます。退職した場合や70歳になった場合にも、未反映の加入期間を加えて再計算する仕組みがあります。
| 年齢・状態 | 厚生年金との関係 |
|---|---|
| 65歳以上70歳未満で加入して勤務 | 保険料を負担し、加入期間が年金額へ順次反映される |
| 70歳に到達 | 厚生年金の被保険者ではなくなり、保険料負担は終了する |
| 70歳以降も適用事業所で勤務 | 保険料負担はないが、在職老齢年金の支給調整は続く場合がある |
給与から厚生年金保険料が引かれるため当面の手取りは減りますが、その負担だけを見て加入を避けるのではなく、健康保険の給付や将来の年金増額も含めて考えます。
税金は「年金」と「給与」を別々に受け取って終わりではありません
公的年金は税法上、原則として雑所得として計算されます。勤務先からの給与は給与所得として計算され、年間の所得と所得控除を基に税額が決まります。
年金と給与の両方から所得税が源泉徴収されていても、年間の税額と一致するとは限りません。
年金受給者の確定申告不要制度
公的年金等の収入金額が400万円以下で、公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下などの条件を満たす場合は、所得税の確定申告が不要となる制度があります。
ただし、次の点には注意が必要です。
- 20万円は給与の振込額や年収ではなく、給与所得控除等を反映した「所得金額」で判断する
- 医療費控除などによる還付を受けるには、申告が必要になる
- 所得税の確定申告が不要でも、住民税の申告が必要な場合がある
- 年金以外にも個人年金、副業、不動産などの所得があれば合算して考える
「給与が年20万円を超えたら必ず確定申告」という意味ではありません。源泉徴収票と公的年金等の源泉徴収票がそろった段階で、国税庁の作成コーナーや税務窓口、市区町村へ確認します。
手取りは、年金と給与を足しただけでは分かりません
働く前と働いた後を比べる表
| 項目 | 働く前 | 働いた後 |
|---|---|---|
| 老齢基礎年金 | ||
| 老齢厚生年金 | ||
| 在職による停止額 | 0円 | - |
| 給与・賞与の月平均 | 0円 | + |
| 健康保険料 | - | - |
| 厚生年金保険料 | - | - |
| 雇用保険料 | - | - |
| 所得税・住民税の増加見込み | - | - |
| 通勤費の自己負担 | 0円 | - |
| 勤務日の昼食・衣服・車両費 | 0円 | - |
| 実際に生活へ使える月額 |
勤務先の交通費が全額支給されても、駐車場、仕事用の衣服、昼食などが増える場合があります。
また、翌年度の住民税や健康保険料へ所得が反映されることもあるため、最初の給与明細だけで判断しない方が安心です。
60歳から64歳で年金を受けている方は、雇用保険との調整も見ます
65歳になる前に特別支給の老齢厚生年金などを受けている方は、在職老齢年金だけでなく、雇用保険との調整が必要になることがあります。
65歳になるまでの老齢年金と雇用保険の基本手当は、原則として同時には受け取れません。ハローワークで求職の申込みをすると、一定期間、年金が全額支給停止となる仕組みがあります。
また、60歳以上65歳未満で高年齢雇用継続給付を受ける場合には、在職老齢年金による停止に加え、老齢年金の一部が停止される場合があります。
60歳台前半では、次の制度を混ぜずに確認してください。
- 受けている年金の正式名称
- 在職老齢年金による支給停止
- 雇用保険の基本手当
- 高年齢雇用継続給付
- 勤務先での厚生年金加入
「年金を減らさない働き方」より、必要な月額から決めます
年金が減ることを避けるため、仕事を週1日だけにしようとする人もいます。
しかし、生活費が毎月5万円不足しているのに、年金を守るため給与を2万円に抑えれば、不足は残ったままです。
先に書きたい三つの数字
| 数字 | 記入例 |
|---|---|
| 年金だけでは不足する生活費 | 月4万円 |
| 仕事のために増える支出 | 月1万円 |
| 生活へ残したい給与の手取り | 月5万円以上 |
必要な手取りが分かれば、「週2日で足りるのか」「社会保険へ加入する時間まで働く方がよいのか」を比較できます。
働く目的を、お金だけにしなくても構いません
年金を受けながら働く理由は、人によって違います。
- 生活費の不足を補いたい
- 住宅ローンや家の修繕費を用意したい
- 孫や子どもへの援助を続けたい
- 人と話す機会を持ちたい
- 生活リズムを保ちたい
- これまでの経験を役立てたい
- 配偶者と一日中家にいる状態を変えたい
収入を最大にする働き方と、体力を保ちながら週2日働く方法では、選ぶ仕事が変わります。
| 働く目的 | 優先したい条件 |
|---|---|
| 生活費を安定させたい | 毎月の勤務時間、社会保険、契約期間 |
| 社会参加を続けたい | 短時間、通勤距離、人と接する量 |
| 経験を生かしたい | 業務内容、責任範囲、引継ぎや指導 |
| 健康を保ちたい | 立ち仕事、重量物、休憩、連続勤務日数 |
| 家族の介護と両立したい | 曜日固定、急な休み、残業の有無 |
給与が高い求人より、続けられる求人を選ぶ方が手元に残ることがあります
時給が高くても、通勤が長い、勤務後に体調を崩す、急な欠勤で契約を続けられない仕事では、収入が安定しません。
応募前に聞きたいこと
- 1日の勤務時間と休憩時間
- 立ち仕事、重量物、階段移動の程度
- 残業や休日出勤の有無
- 勤務日と時間を固定できるか
- 通院や家族の介護がある日の調整
- 契約期間と更新条件
- 社会保険へ加入する条件
- 賞与、手当、交通費の扱い
- 勤務時間を増減できるか
月給が2万円高くても、通勤や昼食で1万円増え、体力的に半年で辞めるなら、必ずしも家計に合うとは限りません。
家族から「年金が減るから働かない方がいい」と言われたら
配偶者や子どもが、本人に代わって制度を調べていることがあります。
心配するあまり、「働くと損だからやめておきなよ」と先に決めないでください。
家族で話したい順番
- 本人が働きたい理由を聞く
- 受けている年金の内訳を一緒に見る
- 求人の給与、賞与、勤務時間を確認する
- 在職老齢年金の停止見込みを試算する
- 社会保険料と仕事関連支出を引いて比較する
- 体力や通院への影響を本人へ聞く
家族からの伝え方
「働くことに反対したいわけではないよ。年金がどのくらい変わり、手元にいくら残るのかを一緒に計算してから決めない?」
「週5日が心配なので、最初は週3日で続けられる仕事も比べてみよう」
「年金の金額だけでなく、人と会いたいという気持ちも含めて考えたい」
本人の体力や生活目的を置き去りにし、家族が年金額だけで勤務を決めないようにします。
求人へ応募する前に、勤務先と年金事務所へ別々の質問をします
勤務先は雇用条件を説明できますが、本人の年金額を使った最終的な支給停止額まで正確に判断できるとは限りません。
| 聞く相手 | 聞く内容 |
|---|---|
| 勤務先 | 月給、所定労働時間、賞与、社会保険加入、契約期間 |
| 年金事務所・ねんきんダイヤル | 年金の内訳、在職老齢年金の対象、支給停止額の見込み |
| 税務署・市区町村 | 確定申告、住民税申告、所得控除 |
| 家族の健康保険 | 被扶養者となっている場合の収入条件 |
年金事務所へ伝えるメモ
- 現在の年齢
- 受けている年金の名称と年額
- 働き始める予定日
- 月給と賞与の見込み
- 週の勤務時間
- 勤務先で厚生年金へ加入する予定か
- 共済組合等からの年金があるか
「月給12万円ですが年金は減りますか」だけでなく、賞与と厚生年金加入の有無まで伝えると、確認したい点が明確になります。
ねんきんネットでは、働き方を変えた試算を比べられます
「ねんきんネット」の年金見込額試算では、今後の加入制度、収入見込額、就業見込期間、年金を受け取り始める年齢などを設定し、複数の条件を比較できます。
ただし、現在受給中の年金に対する在職老齢年金の停止額や、税金・社会保険料を含む実際の手取りは、別に確認が必要です。
比較する例
- 週2日と週4日で働いた場合
- 厚生年金へ加入する場合と加入しない場合
- 65歳で受給開始する場合と、受給開始を遅らせる場合
- 68歳まで働く場合と70歳まで働く場合
一つの結果だけで決めず、体力と生活費に合う複数の働き方を並べます。
次の状態なら、契約前に個別試算を受けた方が安心です
- 老齢厚生年金と給与の合計が月65万円に近い
- 賞与が年によって大きく変わる
- 共済組合等からも年金を受け取っている
- 65歳未満で特別支給の老齢厚生年金を受けている
- 高年齢雇用継続給付を利用する予定がある
- 加給年金額を受け取っている
- 複数の勤務先で働く予定がある
- 給与以外に副業や不動産の所得がある
- 家族の健康保険の被扶養者になっている
このような場合は、一般的な「月いくらまで」という説明だけでは判断しにくくなります。
今日するのは、勤務時間を減らすことではありません
今日は、年金の通知書と求人票を並べ、次の五つを紙へ書いてください。
- 老齢基礎年金の年額
- 老齢厚生年金の年額
- 勤務先の月給
- 1年間の賞与見込み
- 厚生年金へ加入する予定の有無
次に、勤務先へこう聞きます。
「この勤務時間では、健康保険と厚生年金へ加入しますか。月給のほかに賞与や固定手当がある場合は、年間の見込みも教えてください」
その答えと年金の内訳を持って、年金事務所やねんきんダイヤルへ伝えます。
年金をもらいながら働くことは、年金を失う選択ではありません。
給与が増えれば年金の一部が停止される場合はありますが、老齢基礎年金まで一律に止まるわけではなく、厚生年金へ加入した期間が後の年金額へ反映されることもあります。
見るべきなのは、「年金が1円でも減るか」だけではありません。
給与と年金を合わせ、保険料、税金、仕事のための支出を引いた後に、生活へいくら残るのか。そして、その仕事を無理なく続けられるのか。
五つの数字をそろえてからなら、「働くと損かもしれない」という漠然とした怖さを、週何日なら自分に合うかという具体的な判断へ変えていけます。
出典・確認先メモ
- 日本年金機構「在職老齢年金制度が改正されました」「在職老齢年金の計算方法」:2026年度の支給停止基準額65万円、基本月額、総報酬月額相当額、計算式、老齢基礎年金の扱いに関する確認先。
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」:短時間労働者の加入条件と今後の制度変更に関する確認先。
- 日本年金機構「年金と雇用保険の失業給付との調整」「高年齢雇用継続給付との調整」:65歳未満の老齢年金と雇用保険給付の調整に関する確認先。
- 国税庁「公的年金等を受給されている方へ」「公的年金等の課税関係」:年金と給与の所得区分、確定申告不要制度、住民税申告に関する確認先。
- 日本年金機構「ねんきんネットによる年金見込額試算」:収入見込額や就業期間、受給開始年齢を変えた年金試算に関する確認先。


















