「病院に行きたいのに、行く手段がない」は小さな困りごとではありません
診察の予約日は決まっている。
薬もそろそろ切れる。
でも、バス停まで歩くのがつらい。駅の階段が怖い。タクシーを毎回使うには高い。家族には仕事があり、毎回送ってもらうのは申し訳ない。
高齢の方にとって、病院に通う「足」がないことは、ただの移動問題ではありません。
通院できないと、薬が途切れる。検査を先延ばしにする。痛みや息切れを我慢する。結果的に、体調が悪くなってから救急で運ばれることもあります。
離れて暮らすご家族も、同じように悩みます。
「親が病院に行けていないみたい」
「タクシー代が負担で、通院を減らしているのでは」
「自分が毎回休むのは難しい」
「介護タクシーや福祉タクシーって聞くけれど、何が違うのか分からない」
この悩みは、気合いで解決しにくいです。
「頑張って歩く」「家族が何とかする」「薬だけもらう」だけで続けようとすると、本人も家族もだんだん疲れていきます。
まず必要なのは、どの移動手段が合うかを一つずつ分けることです。
病院までの距離だけでなく、玄関から車まで歩けるか、車に乗り降りできるか、院内で受付や会計ができるか、診察内容を理解して帰れるか。そこまで含めて考えると、必要な支援が見えてきます。
最初に分けたいのは「病院まで行けない」のか「病院の中も不安」なのかです
通院の足がないとき、家族はつい「送迎サービスを探そう」と考えます。
もちろん送迎は大事です。
ただ、実際には「車に乗せて病院前まで行けば終わり」ではないことがあります。
病院の玄関で降りたあと、受付、問診票、診察室への移動、検査、会計、薬局、帰りの車を呼ぶところまで、一人でできるかどうか。ここが見落とされやすいです。
| 困っている場所 | 起きやすいこと | 必要になりやすい支援 |
|---|---|---|
| 自宅から車まで | 玄関の段差、階段、雨の日の転倒が怖い | 乗降介助、車いす対応、付き添い |
| 車の乗り降り | 足が上がらない、座席に移るのが難しい | 介護タクシー、福祉車両、介助できる運転者 |
| 病院の入口まで | 駐車場から歩けない、車いすを借りる必要がある | 玄関付け、車いす利用、院内の案内確認 |
| 院内の移動 | 受付・検査・会計・薬局を一人で回れない | 家族付き添い、院内付き添いサービス、病院相談室への相談 |
| 診察内容の理解 | 医師の説明を覚えられない、薬の変更が分からない | 家族同席、メモ、電話同席の可否確認、ケアマネ共有 |
| 帰宅後 | 疲れて転びやすい、薬を飲み間違える | 帰宅後の見守り、薬局相談、訪問介護・配食など |
ここを分けずに「タクシーを呼べばいい」と考えると、病院の玄関で困ることがあります。
逆に、車にさえ乗れれば院内は一人で大丈夫な方もいます。
まずは、本人に必要なのが「移動」だけなのか、「移動+介助」なのか、「移動+院内付き添い」なのかを見ます。
通院手段は、本人の歩行状態で選び方が変わります
通院の移動サービスは、名前だけで選ぶと分かりにくくなります。
一般タクシー、介護タクシー、福祉タクシー、福祉有償運送、自治体の移動支援、病院送迎バス。
似た言葉が多く、しかも地域によって呼び方や制度が違います。
そこで、まずは本人の状態から見ます。
| 本人の状態 | 候補になりやすい移動手段 | 事前に確認すること |
|---|---|---|
| 一人で歩けるが、長距離や坂道がつらい | 一般タクシー、病院送迎バス、家族送迎、自治体のタクシー助成 | 自宅前まで来るか、病院前で降りられるか、帰りも呼べるか |
| 杖やシルバーカーを使っている | 一般タクシー、介護タクシー、福祉有償運送 | 乗降時に手助けが必要か、荷物や付き添いは誰が持つか |
| 車いすを使っている | 介護タクシー、福祉車両、福祉有償運送 | 車いすのまま乗れるか、予約が必要か、料金体系 |
| 認知症があり一人で受診が難しい | 家族付き添い、介護タクシー、訪問介護、ケアマネ相談 | 院内での付き添い、診察内容の共有、帰宅後の見守り |
| 寝たきりに近い、移乗が難しい | ストレッチャー対応の民間救急・介護タクシー、訪問診療相談 | 医療的管理の必要性、搬送方法、費用、緊急性 |
| 通院そのものが大きな負担になっている | かかりつけ医、訪問診療、訪問看護、病院相談室 | 通院頻度を減らせるか、在宅医療の対象になるか |
この表を見て分かるように、通院の足がない問題は「車を探すだけ」では終わりません。
一人で乗れるのか。介助が必要なのか。診察後に一人で帰れるのか。
ここで選ぶサービスが変わります。
一般タクシーで足りる場合と、介護タクシーを考えたい場合があります
一般タクシーは、予約しやすく、地域によっては一番使いやすい移動手段です。
ただし、一般タクシーは基本的に「移動」が中心です。乗り降りや車いす、院内付き添いなどが必要な場合は、対応できるかを事前に聞く必要があります。
| 項目 | 一般タクシー | 介護タクシー・福祉車両 |
|---|---|---|
| 向いている人 | 一人で乗降できる、短距離なら歩ける | 車いす、乗降介助、付き添いが必要 |
| 予約 | 当日呼べることもある | 事前予約が必要なことが多い |
| 料金 | 通常のタクシー運賃が中心 | 運賃に加え、介助料・機材料などがかかる場合がある |
| 車いす対応 | 車いすを折りたためば乗れる場合もある | 車いすのまま乗れる車両がある場合もある |
| 院内付き添い | 基本的には対応外が多い | 別料金や別サービスで対応する事業者もある |
| 確認したいこと | 玄関前まで来られるか、帰りの呼び方 | 介助範囲、料金、キャンセル料、保険、予約方法 |
「介護タクシー」と呼ばれていても、事業者ごとに対応範囲は違います。
玄関から車までの介助だけなのか、階段介助ができるのか、院内付き添いがあるのか、車いすやストレッチャーを借りられるのか、料金はどこまで含まれるのか。
ここを聞かずに予約すると、当日になって「そこまではできません」となることがあります。
予約時には、病院名だけでなく、本人の状態を具体的に伝える方が安全です。
福祉有償運送は、地域によって使える人・使い方が違います
福祉有償運送という言葉を聞いたことがある方もいるかもしれません。
国土交通省は、自家用有償旅客運送に関する制度や相談窓口を案内しており、高齢者の移動手段確保に関するパンフレットでも、公共ライドシェアや福祉・交通が連携した移動手段の考え方を示しています。
福祉有償運送は、一般の公共交通機関を一人で利用することが難しい方などを対象に、NPO法人等が地域で行う移動支援として運用されることがあります。
ただし、「高齢者なら誰でもすぐ使える」というものではありません。
| 確認すること | 理由 |
|---|---|
| 対象者になるか | 要介護・要支援、障害、基本チェックリスト該当など、地域や団体で条件があるため |
| 事前登録が必要か | 利用前に会員登録や面談が必要な場合があるため |
| 通院に使えるか | 利用目的や運行範囲が決まっている場合があるため |
| 予約方法 | 前日まで、数日前まで、定期予約など事業者により違うため |
| 料金 | 距離、時間、介助、待機、キャンセルで費用が変わるため |
| 付き添い範囲 | 車に乗せるまでか、病院内も支援できるかが違うため |
福祉有償運送を探す場合は、市区町村の高齢者福祉窓口、社会福祉協議会、地域包括支援センター、ケアマネジャーに聞くと見つけやすいです。
地域差が大きいので、全国一律の答えを探すより、親御さんの住所地で聞くのが近道です。
自治体のタクシー券や移動支援は、名前より条件を見ます
自治体によっては、高齢者や障害のある方に対して、タクシー券、福祉タクシー助成、移送サービス、外出支援、通院支援などを行っていることがあります。
ただし、名称も条件も自治体によって違います。
「隣の市では使えたから、自分の市でも使える」とは限りません。
| 自治体制度で見ること | 確認する理由 |
|---|---|
| 対象年齢 | 一定年齢以上でも、所得や身体状況の条件がある場合がある |
| 要介護認定の有無 | 要介護・要支援認定が必要な制度もある |
| 障害者手帳の有無 | 身体障害者手帳などが対象条件になることがある |
| 所得制限 | 助成に所得条件がある自治体もある |
| 利用目的 | 通院、買い物、公共施設など対象範囲が決まっている場合がある |
| 利用できる事業者 | 指定タクシー会社や登録事業者に限られる場合がある |
| 申請から利用までの期間 | すぐ使えないことがあるため、早めに申請が必要 |
自治体制度は、知らないまま使えずにいることが多いです。
病院へ行く足がなくなってから探すと、申請に時間がかかり、次の診察日に間に合わないことがあります。
通院が月1回以上ある方、家族送迎が限界に近い方は、早めに市区町村へ聞いておくと安心です。
介護保険で使えることがある支援と、使えないことがある支援を分けます
親御さんが要介護認定を受けている場合、介護保険で通院に関わる支援が使えることがあります。
ただし、介護保険は「通院の交通費を何でも負担してくれる制度」ではありません。
訪問介護の一部として、通院等のための乗車・降車の介助が位置づけられることがありますが、利用にはケアプラン、本人の状態、事業所の対応、自治体や保険者の運用などが関わります。
| 内容 | 考え方 | 相談先 |
|---|---|---|
| 通院等乗降介助 | 要介護者の通院等で、乗車・降車の介助などが必要な場合に検討されることがある | ケアマネジャー、訪問介護事業所、市区町村 |
| 院内介助 | 病院内の付き添いは、医療機関側の対応や介護保険上の扱いが個別に分かれる | ケアマネジャー、病院相談室、市区町村 |
| 家族の代わりの送迎 | 家族が忙しいからという理由だけでは、介護保険サービスにならない場合がある | ケアマネジャー |
| タクシー運賃 | 介助部分と運賃部分で扱いが分かれることがある | 事業者、ケアマネジャー、市区町村 |
| 要支援の方 | 地域支援事業や自治体サービスの対象になる場合がある | 地域包括支援センター、市区町村 |
厚生労働省の介護サービス関係Q&Aは、介護保険サービスの運用に関する各種Q&Aを掲載しています。通院支援は、制度上の扱いが細かく分かれるため、本人の状態だけで自己判断せず、ケアマネジャーや市区町村に確認する方が確実です。
「介護保険でタクシーが安くなる」と単純に考えると、あとで違うことがあります。
介助料、運賃、待機料、院内付き添い、キャンセル料。どこが介護保険で、どこが自費なのかを分けて聞きましょう。
病院の送迎バスや地域連携室も、聞いてみる価値があります
通院の足がないとき、病院側に聞くという方法もあります。
病院によっては送迎バスがあることもありますし、退院後や通院継続が難しい方のために、医療相談室、地域連携室、ソーシャルワーカーが相談に乗ってくれる場合があります。
| 病院に聞くこと | 聞き方の例 |
|---|---|
| 送迎バスの有無 | 高齢の母が通院しています。病院の送迎バスや巡回バスはありますか? |
| 最寄りの降車場所 | バス停から歩くのが難しいのですが、玄関近くで降りられますか? |
| 車いす利用 | 車いすで通院する場合、入口で車いすを借りられますか? |
| 院内の付き添い | 受付から診察、会計まで一人で難しい場合、相談できる窓口はありますか? |
| 通院回数の調整 | 通院が負担になっています。診察間隔や検査日のまとめ方は相談できますか? |
| 訪問診療の可能性 | 通院がかなり難しくなっています。在宅医療や訪問診療の相談はできますか? |
厚生労働省は、在宅医療に関する普及・啓発や地域の在宅医療提供体制整備に関する取り組みを案内しています。通院そのものが難しくなっている場合は、かかりつけ医や病院相談室に、訪問診療や在宅医療の選択肢があるか聞いてみる価値があります。
もちろん、通院をやめてよいか、薬だけもらえるかは医療判断です。
自己判断で受診を止めるのではなく、「通うのが難しい」という事情を医療側へ伝えることが先です。
予約するときは、料金より先に「どこまで手伝ってくれるか」を聞きます
移動サービスを予約するとき、料金は気になります。
でも、料金だけで選ぶと、当日に困ることがあります。
安く見えても、玄関から車までの介助が別料金、車いすの貸出が別料金、待機料金がかかる、院内付き添いは不可ということがあります。
| 予約時に伝えること | 具体例 |
|---|---|
| 本人の状態 | 82歳、杖歩行、玄関に段差あり、車の乗降に手助けが必要 |
| 使う補助具 | 杖、シルバーカー、車いす、酸素、ストレッチャーなど |
| 自宅の状況 | エレベーターなし2階、玄関前に車を停められるか、階段の有無 |
| 病院での動き | 入口まででよいか、受付・診察・会計まで付き添いが必要か |
| 待機の有無 | 診察中に待ってもらうか、帰りは再度呼ぶか |
| 料金 | 運賃、介助料、機材料、待機料、キャンセル料、支払い方法 |
| 緊急時対応 | 体調が悪くなったときの対応、救急搬送が必要な場合の扱い |
電話では、こう聞くと伝わりやすいです。
「高齢の母の通院で利用を考えています。自宅玄関から車までの介助と、病院入口までの付き添いが必要です。車いすはまだ使っていませんが、長く歩けません。料金と対応範囲を教えてください」
このように本人の状態を先に伝えると、事業者側も必要な車両や人員を判断しやすくなります。
家族送迎を続けるなら、「毎回なんとなく」ではなく分担表にします
家族が送迎できるなら、それが一番安心な場合もあります。
でも、毎回同じ人だけが仕事を休み、病院で何時間も待ち、帰りに薬局へ寄り、買い物まで付き添う。これが続くと、家族送迎はだんだん重くなります。
親御さん本人も、「迷惑をかけている」と感じて通院を言い出しにくくなることがあります。
| 分けること | 例 |
|---|---|
| 送る人 | 行きは長男、帰りはタクシー、薬は娘が受け取りなど |
| 付き添い範囲 | 車で送るだけ、診察同席まで、会計・薬局まで |
| 頻度 | 月1回は家族、検査日は家族、定期薬は別の方法 |
| 費用 | タクシー代、駐車場代、付き添い交通費を誰が負担するか |
| 情報共有 | 診察結果、薬の変更、次回予約を家族LINEで共有 |
| 限界の合図 | 送迎が月2回を超えたら外部サービスを検討するなど |
家族送迎は、愛情だけで続けると限界が見えにくいです。
送迎は親孝行ですが、毎回フルセットで背負うと、いつか家族側が息切れします。送迎そのものより、待ち時間と仕事の調整がじわじわ効いてきます。
家族ができることと、サービスに任せることを分ける方が長続きします。
通院を減らせないか、診療側に相談してよい場合があります
通院の足がないとき、移動手段を増やすだけが答えではありません。
通院回数そのものを調整できないか、かかりつけ医や病院に聞ける場合があります。
もちろん、病状によっては定期的な受診や検査が必要です。
ただ、次のようなことは相談してみる価値があります。
- 診察日と検査日を同じ日にできないか
- 複数の診療科の予約日を近づけられないか
- 薬の処方日数を調整できないか
- 家族が電話で診察内容を聞けるか
- オンライン診療が使える場面があるか
- 訪問診療や訪問看護の対象になるか
- 近くの医療機関へ紹介してもらえるか
ここで大事なのは、勝手に通院を減らさないことです。
「行けないからやめる」ではなく、「通院が難しいので、続ける方法を相談したい」と伝えます。
病院側も、通院できなくなってから初めて事情を知るより、早めに分かっていた方が調整しやすいことがあります。
今日やることは、いきなり契約することではありません
病院に通う足がないと、焦ります。
次の予約日が近い。薬が切れる。家族は休めない。本人は「もう行かなくていい」と言い出す。
そんなときほど、目についたサービスにすぐ申し込みたくなります。
でも、移動サービスは、料金だけでなく、本人の状態、介助範囲、予約方法、保険、キャンセル料、院内付き添い、地域制度との関係まで見た方がよいです。
まずは、次のうち一つから始めてください。
- 次の通院日、病院名、診療科、通院頻度を紙に書く
- 本人が一人で乗降できるか、院内で一人で動けるかを見る
- 一般タクシーで足りるか、介護タクシーが必要か分ける
- 市区町村にタクシー券や移動支援があるか聞く
- ケアマネジャーや地域包括支援センターに通院の足がないと伝える
- 病院の相談室や地域連携室に、通院継続が難しいと伝える
- かかりつけ医に通院回数や在宅医療の可能性を聞く
- 家族送迎を続ける場合は、誰がどこまで担当するか分ける
通院の足がない問題は、本人の努力不足でも、家族の思いやり不足でもありません。
年齢、体力、地域交通、費用、家族の仕事、医療の必要性が重なって起きる現実的な困りごとです。
だから、根性ではなく仕組みで考えます。
車を探す。介助を探す。費用を抑える制度を探す。通院回数を医師に相談する。必要なら在宅医療につなぐ。
一つずつ分ければ、動ける場所が見えてきます。
まずは今日、次の通院日と、本人が「どこからどこまで一人でできるか」をメモしてください。
その一枚があれば、タクシー会社にも、ケアマネジャーにも、病院にも相談しやすくなります。
出典・確認先メモ
- 国土交通省「自家用有償旅客運送について」
- 国土交通省「『福祉』と『交通』が重なる現場の方々へ 高齢者の移動手段を確保するためのパンフレット」
- 厚生労働省「介護サービス関係Q&A」
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム」
- 厚生労働省「在宅医療の推進について」
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」
- 介護タクシー、福祉有償運送、自治体のタクシー助成、通院等乗降介助、病院送迎、訪問診療などの利用条件・料金・予約方法・対象者は地域や事業者、本人の状態によって異なります。実際に利用する際は、市区町村、地域包括支援センター、ケアマネジャー、医療機関、各事業者へ最新情報をご確認ください。


















