退職後の車は、家計にも生活にも深く入り込んでいます
退職して収入が年金中心になると、車の維持費が急に重く感じられることがあります。
現役のころは、通勤に使っていた。休日の買い物にも使っていた。家族を乗せて出かけることもあった。だから、車があるのは当たり前だった。
ところが退職後は、毎日乗るわけではないのに、税金、車検、保険、ガソリン、駐車場代、修理代は変わらず出ていきます。
「月に数回しか乗らないのに、持ち続ける意味はあるのか」
「でも、病院や買い物に行けなくなったら困る」
「家族からは、そろそろ手放した方がいいと言われる」
「免許返納までは考えていないけれど、運転に少し自信がなくなってきた」
車の話は、単なる節約ではありません。
お金、移動手段、体力、住んでいる地域、家族との距離、自分らしい暮らし。その全部が絡みます。車は家計簿の中では「支出」ですが、暮らしの中では「自由に動ける足」でもあります。
だから、いきなり「手放す・残す」で決めない方がいいです。
まずは、車にかかっているお金を月額に直し、次に車がない生活を具体的に想像します。
最初に出すのは「年間いくら」ではなく「月いくら」です
車の維持費は、月ごとに出るものと、年に数回まとめて出るものがあります。
ガソリン代は毎月見えやすいですが、車検や税金、任意保険、タイヤ交換は忘れたころにドンと来ます。家計から見ると、これはなかなかの奇襲攻撃です。
退職後の家計では、「年に一度の支払い」も月額に直しておくと、車の重さが見えやすくなります。
| 費用項目 | 主な内容 | 月額に直す考え方 |
|---|---|---|
| 自動車税・軽自動車税 | 車を所有していることでかかる税金 | 年額を12で割る |
| 車検費用 | 点検、整備、法定費用、自動車重量税、自賠責保険など | 2年分を24で割る |
| 任意保険 | 対人・対物、車両保険、特約など | 年払いなら12で割る |
| 燃料代 | ガソリン、軽油、充電費用など | 直近3か月の平均を見る |
| 駐車場代 | 自宅外の月極駐車場など | 毎月の金額をそのまま入れる |
| 修理・消耗品 | タイヤ、バッテリー、オイル、ワイパー、故障修理 | 年間の目安を12で割る |
| 洗車・高速代・その他 | 洗車、ETC、高速道路、備品など | よく使う月の平均で見る |
自動車税は、自動車を所有している方にかかる道府県税で、一般的に納税通知書により納めるものです。軽自動車税は、毎年4月1日現在の所有者にかかる税として自治体が案内しています。税額や納期限は自治体・車種で異なるため、届いた通知書や自治体ページで確認してください。
自動車重量税は、車検などの際に自動車の重量等に応じて課税される国税です。国税庁は、車検などの際に納付する税として案内しています。
自賠責保険は、交通事故被害者を支える制度の一部で、保険料は毎年検証され、必要に応じて改定されると国土交通省が案内しています。
つまり、車の維持費は「ガソリン代だけ」では見えません。
退職後の家計で見るなら、車にかかるお金を全部並べて、1か月あたりの負担に直す。ここが最初の一歩です。
車の維持費メモは、ざっくりでも十分役に立ちます
正確な金額が分からないと、そこで止まってしまう方がいます。
でも、最初から1円単位で合わせる必要はありません。
まずは、手元にある書類を見ながら、ざっくり書き出します。
| 書き出す項目 | 書き方の例 | 分からないとき |
|---|---|---|
| 任意保険 | 年72,000円、月6,000円 | 保険証券や更新案内を見る |
| 車検 | 前回12万円、2年で割ると月5,000円 | 前回の領収書、整備工場の見積もりを見る |
| 税金 | 年39,500円など | 納税通知書を見る |
| 燃料代 | 月8,000円くらい | 直近のカード明細やレシートを見る |
| 駐車場代 | 月8,000円 | 賃貸契約や通帳の引き落としを見る |
| 修理・消耗品 | 年6万円くらい | タイヤ、バッテリー、オイル交換の記憶でよい |
たとえば、車にかかるお金が月に3万円だったとします。
年金生活で月3万円は小さくありません。食費、医療費、光熱費、趣味、孫へのお祝い。どこかの予算と必ずぶつかります。
一方で、車を手放すとタクシー代、バス代、宅配料、家族の送迎負担が増えることもあります。
だから、「車を手放せば月3万円浮く」と単純には言い切れません。
車を持つ費用と、車がない生活の費用。この2つを比べる必要があります。
「車がない日常」を曜日ごとに想像してみる
車を手放すか迷うとき、家計だけを見ると判断を誤ることがあります。
車がなくなったあと、生活が本当に回るのかを見ます。
| 生活場面 | 車がある場合 | 車がない場合に考えること |
|---|---|---|
| 通院 | 自分の都合で病院へ行ける | バス、タクシー、家族送迎、病院送迎、通院支援 |
| 買い物 | 重い荷物を運びやすい | 宅配、生協、ネットスーパー、移動販売、近所の店 |
| 雨の日・暑い日 | 移動の負担が少ない | 外出を減らす、タクシーを使う、予定をずらす |
| 趣味・外出 | 温泉、墓参り、友人宅へ行きやすい | 家族と日程調整、公共交通、日帰りツアー |
| 家族の送迎 | 自分が送迎する側になれる | 送迎してもらう側に変わる可能性がある |
| 緊急時 | すぐ動ける安心感がある | 救急、タクシー、近隣支援、家族連絡先を決める |
地方や郊外では、車がないと生活がかなり不便になることがあります。
病院までバスが1日数本。スーパーまで坂道。冬は雪が積もる。家族は遠方。こうした地域では、車は贅沢品ではなく生活インフラです。
一方で、都市部や駅近くに住んでいる場合は、車の出番が月に数回だけということもあります。
まずは、1週間の中で車を使った日をメモします。
- 月曜日:病院
- 水曜日:スーパー
- 金曜日:薬局
- 日曜日:趣味の外出
そして、それぞれを車なしで行くとどうなるかを書きます。
面倒ですが、ここが大事です。車を手放してから「しまった、病院に行く足がない」となると、節約どころではありません。
判断は「残す・手放す」の二択ではありません
車の見直しというと、持ち続けるか、完全に手放すかの二択で考えがちです。
でも実際には、その間にいくつかの選択肢があります。
| 選択肢 | 向いている人 | 注意点 |
|---|---|---|
| 今の車を持ち続ける | 通院、買い物、家族送迎に頻繁に使う人 | 次の車検・修理費・安全面を見ておく |
| 軽自動車や小型車に替える | 大きい車が不要になった人、維持費を下げたい人 | 買い替え費用が維持費削減を上回らないか見る |
| 夫婦で1台に減らす | 2台持ちで、退職後に利用頻度が減った家庭 | 使う曜日、通院、買い物の予定調整が必要 |
| 次の車検まで保留する | すぐ決めきれない人 | 車検前に見積もりを取り、判断期限を作る |
| 売却・廃車する | ほとんど乗らない人、維持費が家計を圧迫している人 | 移動手段、駐車場契約、保険解約、税金の扱いを確認 |
| 家族の車やレンタカーを使う | たまにしか車を使わない人 | 急な外出、予約、運転者の負担を考える |
反対意見として、「年を取ったら車を手放すべき」と考える方もいます。
安全面を考えると、その意見には大事な視点があります。
ただ、車を手放した結果、通院できない、買い物に行けない、外出が減って体力が落ちる、家族への依存が増える、ということもあります。
だから、年齢だけで決めるのではなく、維持費、運転の安全、代替手段、住んでいる地域を合わせて見ます。
車検前は、見直しの一番わかりやすいタイミングです
車を手放すか迷うなら、車検前は大きな判断ポイントです。
車検は、検査・整備だけでなく、自動車重量税、自賠責保険、整備費用などが重なります。国土交通省は、自動車検査・登録制度や必要手続きについてポータルサイトで案内しています。
次の車検見積もりを見て、「あと2年乗る価値があるか」を考えます。
| 車検前に見ること | 判断のヒント |
|---|---|
| 車検見積もりが高い | 修理費込みで高額なら、持ち続ける負担を見直す |
| タイヤ・バッテリー交換も必要 | 車検後すぐの追加出費も含めて考える |
| 走行距離が少ない | 月に何回乗っているか、タクシー代と比べる |
| 故障が増えている | 今後の修理費と安全面を考える |
| 次の2年で免許返納を考えている | 今回の車検を通すか、短期利用で済ませるか考える |
車検を通してすぐ売ると、結果的に費用がもったいなく感じることがあります。
もちろん、車検を通した方が売却時に有利になるケースもありますが、車種や状態によって変わります。
迷う場合は、車検見積もり、売却見積もり、今後2年の利用予定を並べて見ます。
「何となく通す」ではなく、「あと2年で何回乗るか」を見るのがポイントです。
月に数回しか乗らないなら、代替手段の費用を比べます
車を手放すと不便になるのは確かです。
ただ、月に数回しか乗らない場合は、タクシーや宅配、家族の送迎、レンタカーを組み合わせた方が安くなることもあります。
| 車の使い道 | 代わりになる手段 | 比べる金額 |
|---|---|---|
| 通院 | タクシー、病院送迎、家族送迎、福祉移送 | 往復費用×月の通院回数 |
| 食料品の買い物 | 宅配、生協、ネットスーパー、移動販売 | 配送料、商品価格、利用回数 |
| 月1回の遠出 | レンタカー、カーシェア、家族の車、公共交通 | 1回あたりの費用 |
| 墓参り・法事 | 家族送迎、タクシー、レンタカー | 年数回の費用 |
| 重い荷物の運搬 | 配送サービス、家族の協力、業者依頼 | 年に何回必要か |
たとえば、車の維持費が月3万円、年間36万円だとします。
タクシーを月4回、1回往復3,000円使っても月12,000円です。買い物宅配を使っても、車の維持費より安く済む場合があります。
ただし、これは地域によります。
タクシーがなかなか来ない地域、買い物宅配が対応していない地域、冬の移動が難しい地域では、単純に金額だけで比べると危険です。
表計算までしなくても大丈夫です。
紙に「車あり」「車なし」と書いて、月の移動予定を書くだけでも、かなり見えてきます。
運転に少しでも不安が出てきたら、お金とは別に考える
退職後の車の問題は、お金だけではありません。
視力、反応速度、体力、夜間運転、狭い道、駐車、ペダルの踏み間違いへの不安。本人は「まだ大丈夫」と思っていても、ご家族は心配していることがあります。
警察庁は、運転免許が不要になった方や、加齢に伴う身体機能の低下などで運転に不安を感じる高齢ドライバーは、自主的に運転免許証を返納できると案内しています。また、自主返納した方などは運転経歴証明書の交付を受けられる場合があり、地域の実情に応じて自治体や事業者による支援が行われているとしています。
ただし、免許返納は本人の生活に大きく関わる決断です。
ご家族が急に「もう運転しないで」と言うと、本人は強く反発するかもしれません。
話すなら、車の維持費と安全の話を分けます。
| 避けたい言い方 | 言い換え例 |
|---|---|
| もう年なんだから運転はやめて | 最近、夜の運転や駐車で疲れることは増えていない? |
| 事故を起こしたらどうするの | 心配だから、昼だけ運転にするなど使い方を一緒に考えたい |
| 車はお金がもったいない | 毎月いくらかかっているか、家計と一緒に見てみたい |
| 免許返納して | 返納するかどうかは別として、車なしの日を試してみない? |
運転の安全は、家計の節約とは別の問題です。
維持費が安いから乗り続けてよい、とは限りません。逆に、維持費が高いからすぐ返納、という話でもありません。
お金と安全を分けて話すと、親子や夫婦の会話も少し落ち着きます。
夫婦で意見が分かれるときは、車を「誰のもの」ではなく「家計の固定費」として見る
退職後の車をめぐって、夫婦で意見が分かれることがあります。
夫は「まだ必要」と言う。妻は「維持費が重い」と感じる。逆もあります。
このとき、「あなたが乗りたいだけでしょ」と言うと、話がこじれます。
車は、趣味でもあり、生活の足でもあり、本人の自立感でもあります。だから、いきなり不要扱いされると、本人はかなり傷つきます。
まずは、車を家計の固定費として一緒に見ます。
| 話し合う項目 | 見る数字・内容 |
|---|---|
| 毎月の年金収入 | 夫婦それぞれの年金、その他の収入 |
| 車の月額維持費 | 税金、車検、保険、燃料、駐車場、修理代 |
| 車の利用頻度 | 週に何回、何のために乗るか |
| 車がない場合の費用 | タクシー、宅配、公共交通、家族送迎 |
| 次の判断期限 | 車検、保険更新、免許更新、タイヤ交換時期 |
会話例としては、次のような形が現実的です。
妻:「車を今すぐ手放してほしいわけじゃないの。ただ、退職後は毎月の収入が変わるから、車にいくらかかっているか一緒に見たい」
夫:「車がないと病院も買い物も困るだろう」
妻:「それも分かる。だから、必要な外出と、代わりにできる外出を分けて考えたい。次の車検までに決めるくらいでどう?」
ポイントは、結論を今日出さないことです。
車の話は、家計の話であり、老後の暮らし方の話でもあります。少し時間をかけて大丈夫です。
車を手放すなら、売却・廃車・保険・駐車場を一緒に止めます
車を手放すと決めた場合も、車だけを処分すれば終わりではありません。
付随する契約や手続きがあります。
- 車の売却または廃車
- 任意保険の解約・中断証明の確認
- 駐車場契約の解約
- ETCカードや車載器の扱い
- 自動車税や軽自動車税の扱い
- 自動車重量税や自賠責保険の還付があるか
- 家族の送迎や買い物手段の準備
使用済自動車については、一定の条件で自動車重量税の還付が案内されています。国税庁は、自動車リサイクル法に基づき適正に解体され、車検残存期間が1か月以上ある場合に、申請により残存期間に相当する金額が還付されると説明しています。
ただし、還付や解約の扱いは契約内容や手続き時期で変わります。
売却業者、保険会社、駐車場管理会社、自治体、運輸支局などに、それぞれ確認してください。
手放すときは、「車本体」「保険」「駐車場」「税金」「移動手段」の5つをセットで見ると抜けにくくなります。
迷うなら、3か月だけ「車なし生活の練習」をしてみる
車を手放すのが怖い場合は、いきなり売らずに、3か月だけ車なし生活を試す方法もあります。
もちろん、完全に乗らないのが難しい地域もあります。
その場合でも、「通院だけ車」「買い物は宅配」「夜は運転しない」「遠出は家族と相談」など、使い方を減らすことはできます。
| 試すこと | 見るポイント |
|---|---|
| 買い物を宅配にする | 食費・配送料・注文のしやすさ |
| 病院へタクシーで行く | 往復費用、待ち時間、体の負担 |
| 家族送迎を月1回だけ頼む | 家族の負担、日程調整のしやすさ |
| 公共交通を使ってみる | 乗り換え、徒歩距離、雨の日の負担 |
| 夜間運転をやめる | 不便さ、安全面、予定の組み方 |
3か月試して、「やっぱり車がないと厳しい」と分かれば、持ち続ける理由がはっきりします。
逆に、「意外と車なしでも何とかなる」と分かれば、次の車検前に手放す判断がしやすくなります。
判断は、頭の中だけでやるより、生活で試す方が強いです。
今日やることは、車の維持費を1枚に書くことです
退職後に車を持ち続けるか迷ったら、今日すべてを決めなくて大丈夫です。
まずは、紙を1枚用意してください。
上に「車にかかるお金」と書きます。
- 任意保険
- 税金
- 車検
- 燃料代
- 駐車場代
- 修理・消耗品
- 次に大きくかかりそうな費用
分からないところは空欄で構いません。
次に、別の場所に「車がないと困ること」と書きます。
- 通院
- 買い物
- 家族の送迎
- 墓参り
- 趣味
- 急な外出
この2つが並ぶと、車はただの出費ではなく、生活の道具として見えてきます。
手放すことが正解の日もあります。持ち続けることが現実的な日もあります。小さくする、1台に減らす、次の車検まで保留する、使い方を変える、という中間の答えもあります。
退職後の家計は、勢いで決めるより、数字と暮らしを並べた方が落ち着きます。
今日は、売るか残すかを決める日ではなく、車にいくらかかっていて、何のために必要なのかを見える形にする日で十分です。
車のハンドルを握る前に、まず家計のハンドルを少しだけ握り直す。そこから始めていきましょう。
出典・確認先メモ
- 東京都主税局「自動車税」:自動車税の課税対象、納付時期、問い合わせ先などを確認できます。
- 横浜市「軽自動車税について」:軽自動車税の課税基準日、納期、税率の考え方などが案内されています。
- 国税庁「自動車重量税のあらまし」:車検などの際に課税される自動車重量税、納付、還付制度などが案内されています。
- 国土交通省「自動車検査登録総合ポータルサイト」:自動車の検査、登録制度、必要手続きについて確認できます。
- 国土交通省「自賠責保険・共済ポータルサイト」:自賠制度、自賠責保険料の考え方、被害者支援などが案内されています。
- 警察庁「運転免許証の自主返納について」:自主返納、運転経歴証明書、自治体や事業者による支援について確認できます。


















