老後の医療費は、「病院代」だけで考えると足りなくなります
年金生活が近づいてくると、医療費のことが急に気になり始めます。
若いころは、病院に行くのはたまに。薬も数日分。医療費は「今月ちょっと出たお金」くらいで済んでいた方も多いと思います。
ところが年齢を重ねると、通院が毎月になることがあります。血圧、糖尿病、整形外科、眼科、歯科、薬局。病院の予定だけでカレンダーがじわじわ埋まっていきます。
「年金だけで医療費まで払えるのかな」
「入院したら、どれくらい出ていくんだろう」
「夫婦で病院通いになったら家計は大丈夫なのか」
「親の医療費を子どもが負担することになるのか」
「医療保険を解約していいのか、残すべきなのか」
老後の医療費不安は、単に「病気が怖い」という話だけではありません。
毎月の生活費、年金、貯金、通院の足、介護、家族の付き添い、保険、税金の控除。いろいろなものが絡みます。病院の領収書は小さい紙ですが、家計に与える存在感はなかなか大きいです。
だから最初にやることは、「老後の医療費はいくら必要か」と大きく考えることではありません。
まずは、医療費を家計の中で4つの箱に分けることです。
家計に入れる医療費は、4つに分けると見えやすくなります
老後の医療費を考えるとき、「平均でいくらか」だけを見ても、自分の家計には落とし込みにくいことがあります。
持病がある人、ほとんど病院に行かない人、夫婦で通院している人、車で片道30分かけて病院へ行く人。状況が違いすぎるからです。
まずは、家計に入れる医療費を次の4つに分けます。
| 家計に入れる項目 | 具体例 | 見方 |
|---|---|---|
| 毎月かかる医療費 | 通院費、薬代、定期検査、リハビリ、歯科・眼科 | 直近3か月の平均を出す |
| 年に数回かかる医療費 | 健康診断後の再検査、歯の治療、眼鏡、補聴器、予防接種など | 年額を12で割って月額化する |
| 急にかかる医療費 | 入院、手術、救急、差額ベッド代、入院中の日用品 | 予備費として別に持つ |
| 医療に付いてくる生活費 | 交通費、付き添い、タクシー、家族の交通費、食事代 | 病院代とは別に家計へ入れる |
医療費というと、病院の窓口で払うお金だけを思い浮かべがちです。
でも実際には、薬局、通院の交通費、入院時のパジャマや日用品、家族の付き添い、退院後の介護用品なども出ていきます。
「病院代は思ったより少なかったのに、周辺費用が地味に重い」
老後の家計では、これがよくあります。医療費の本体より、周りの小さな出費たちがチームを組んでくる感じです。
まずは3か月分の領収書で「わが家の月額」を出します
医療費の不安を小さくするには、まず自分の家の数字を見ることです。
きれいな家計簿は不要です。病院と薬局の領収書を3か月分だけ集めてください。
| 集めるもの | 見るポイント | メモの例 |
|---|---|---|
| 病院の領収書 | 診察、検査、処置、リハビリなど | 内科 月2,400円、整形外科 月1,800円 |
| 薬局の領収書 | 薬代、管理料など | 薬代 月3,200円 |
| 歯科・眼科の領収書 | 定期通院か、一時的な治療か | 歯科 今月だけ8,000円 |
| 交通費メモ | バス、電車、タクシー、ガソリン代 | 病院往復タクシー 2,400円 |
| 入院・検査の明細 | 一時的な大きな支出か、継続する支出か | 検査代 12,000円 |
3か月分を合計して、3で割ります。
たとえば、3か月の医療関連支出が次のようだったとします。
| 月 | 病院・薬代 | 交通費 | その他 | 合計 |
|---|---|---|---|---|
| 1か月目 | 8,000円 | 2,000円 | 0円 | 10,000円 |
| 2か月目 | 11,000円 | 3,000円 | 歯科5,000円 | 19,000円 |
| 3か月目 | 7,000円 | 2,000円 | 0円 | 9,000円 |
合計は38,000円。3で割ると、月平均は約12,700円です。
この場合、家計には「医療費として月13,000円くらい」を入れておくと、現実に近くなります。
もちろん、入院や大きな治療は別です。
でも、まず毎月の通院費と薬代を見える化するだけで、「医療費が怖い」という不安が少し具体的になります。
75歳以上でも、窓口負担は人によって変わります
老後の医療費を考えるとき、「高齢者は1割負担だから大丈夫」と思い込むのは少し危険です。
医療費の窓口負担割合は、年齢や所得によって変わります。政府広報オンラインでは、70歳から74歳は原則2割、75歳以上は原則1割としつつ、後期高齢者医療制度では一般所得者等のうち一定以上の所得がある方は2割、現役並み所得者は3割と説明されています。
| 年齢・所得の目安 | 窓口負担の考え方 | 家計で見ること |
|---|---|---|
| 70歳未満 | 原則として3割負担 | 現役時代からの医療費負担を見ておく |
| 70〜74歳 | 原則2割、所得によって異なる場合あり | 退職後の収入変化と負担割合を確認 |
| 75歳以上 | 後期高齢者医療制度に加入 | 1割・2割・3割のどれか、保険証や資格情報で確認 |
| 夫婦で所得差がある | 世帯や所得で判定が関係する場合あり | 夫婦それぞれの負担割合を確認 |
ここで大切なのは、他人の負担割合ではなく、自分の負担割合を見ることです。
保険証、資格確認書、マイナポータル、後期高齢者医療広域連合や市区町村の通知で確認できます。
「1割のつもりで家計を組んでいたら2割だった」
こうなると、通院が多い方ほど家計に響きます。老後の医療費を家計に入れるなら、まず自分の負担割合を見ておきましょう。
高額療養費制度はあります。ただし、全部の出費が消えるわけではありません
入院や手術の話になると、「高額療養費制度があるから大丈夫」と聞いたことがある方も多いと思います。
高額療養費制度は、医療機関や薬局の窓口で支払う医療費が上限額を超えた場合に、その超えた額が支給される制度です。上限額は年齢や所得で決まり、長期療養では多数回該当などの仕組みもあります。厚生労働省は、令和8年8月・令和9年8月から予定されている見直し内容も公表しています。
この制度は、とても大事です。
ただし、医療費に関わる支出がすべて消えるわけではありません。
| 高額療養費制度で考えやすいもの | 制度外になりやすい・別に見たいもの |
|---|---|
| 保険診療の自己負担分 | 差額ベッド代 |
| 同じ月の医療費が上限を超えた部分 | 入院中の日用品、パジャマ、テレビカードなど |
| 医療保険の対象になる診療・薬局分 | 家族の交通費、付き添いの食事代 |
| 所得区分に応じた自己負担上限 | 先進医療など保険外診療の一部 |
| 多数回該当などの軽減 | 退院後の介護用品、生活支援費 |
また、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えるには、マイナ保険証の利用や限度額適用認定証などの手続きが関係する場合があります。厚生労働省も、問い合わせ先は加入している医療保険制度によって変わると案内しています。
つまり、「制度があるから何も準備しなくていい」ではありません。
制度で軽くなる部分と、家計で持っておく部分を分けて考える。ここが大事です。
入院費は、病院の支払い以外も家計に入れます
老後の医療費で家計が崩れやすいのは、毎月の通院費よりも、急な入院です。
入院すると、病院の支払いだけでなく、周辺費用が増えます。
| 入院時に出やすい費用 | 具体例 | 家計での考え方 |
|---|---|---|
| 医療費の自己負担 | 診察、手術、検査、薬、処置 | 高額療養費制度の対象になる部分を確認 |
| 食事代 | 入院中の食事療養費 | 日数が長いと積み上がる |
| 差額ベッド代 | 個室・少人数部屋を希望した場合など | 希望か必要か、事前に確認する |
| 入院用品 | パジャマ、下着、タオル、洗面用品、履物 | 急な購入費として見る |
| 家族の費用 | 交通費、駐車場代、食事代、付き添い | 本人の医療費とは別にかかる |
| 退院後の費用 | 介護用品、手すり、ベッド、訪問介護、通院タクシー | 医療費から介護費へつながることがある |
入院のときは、家族も慌てています。
財布、保険証、着替え、入院書類、保証人、病院からの説明。そこにお金の話が重なると、頭の中がまるで病院の待合番号のようにピコピコ鳴り続けます。
だから元気なうちに、入院時の予備費を家計の中に作っておくと安心です。
金額は家庭によって違いますが、少なくとも「急な入院があっても、当面の支払いに慌てないお金」を別に置いておくと、判断が落ち着きます。
夫婦の場合は、二人分の医療費を別々に見ます
夫婦で老後を迎える場合、医療費は「世帯でまとめて」だけでなく、「夫婦それぞれ」で見る方が現実的です。
片方はほとんど病院に行かない。もう片方は毎月複数の病院に通っている。こういうことはよくあります。
| 見る項目 | 夫 | 妻 |
|---|---|---|
| 毎月の通院先 | 内科、整形外科など | 眼科、歯科、内科など |
| 薬代 | 月 円 | 月 円 |
| 交通手段 | 車、バス、徒歩など | タクシー、家族送迎など |
| 今後気になる病気 | 血圧、糖尿病、腰痛など | 骨粗しょう症、目、歯など |
| 加入している医療保険 | 有・無、保障内容 | 有・無、保障内容 |
夫婦の医療費を合計で見るだけだと、どちらにどんな支出があるのか分かりにくくなります。
特に、片方が家計を管理している場合、もう片方の医療費を把握していないことがあります。
「病院代、だいたいいくら?」と聞いても、本人もよく分かっていないことがあります。
そのときは責めずに、次回の通院から領収書を一つの封筒に入れるところから始めましょう。
親御さんの医療費を見るときは、本人の財布を奪わない聞き方をします
子ども世代のご家族が、親御さんの医療費を心配して調べていることもあります。
通院が増えている。薬が多い。タクシーで病院へ行っている。入院したときに、支払いを誰がするのか分からない。
心配になるのは自然です。
ただ、親御さんにとって医療費や通帳の話は、とても個人的な話です。急に「医療費いくらかかってるの?」と聞くと、管理されるように感じる場合があります。
| 避けたい聞き方 | 言い換え例 |
|---|---|
| 病院代、毎月いくら使ってるの? | 通院が増えているみたいだから、領収書だけ一緒にまとめておこうか |
| そんなに薬をもらって大丈夫? | 薬の飲み合わせもあるから、お薬手帳を一緒に見える場所に置こう |
| 入院したら誰が払うの? | もし入院になった時に慌てないように、保険証や通帳の場所だけ確認しておきたい |
| 医療保険、入ってるの? | 入院した時に請求できる保険があるか、証券だけ一緒に探しておこう |
| お金が足りないなら言って | 支払いで困っているものがあれば、責めないから早めに教えてほしい |
親御さんの医療費を見る目的は、財布を取り上げることではありません。
困ったときに支払い先や手続きが分からず、家族全員が慌てるのを防ぐことです。
「管理する」ではなく「困らないように一緒に置き場所を決める」。この言い方の方が、受け入れてもらいやすくなります。
医療費と介護費は、途中からつながることがあります
老後の医療費を考えるとき、介護費を完全に別物として扱うと見落としが出ます。
たとえば、入院後に足腰が弱くなる。退院後に訪問看護やデイサービスが必要になる。認知症が進み、通院だけではなく見守りが必要になる。
こうなると、医療費だけでなく介護費も家計に入ってきます。
| 医療から介護につながる場面 | 増えやすい支出 | 確認先 |
|---|---|---|
| 退院後に一人で生活しにくい | 訪問介護、訪問看護、福祉用具、住宅改修 | 地域包括支援センター、ケアマネジャー |
| 通院の付き添いが必要 | 介護タクシー、家族の交通費、付き添い費用 | 自治体、ケアマネジャー、医療機関 |
| 薬の管理が難しい | 薬局の支援、訪問サービス、見守り | 薬局、地域包括支援センター |
| 認知症が疑われる | 受診費、介護認定、見守りサービス | かかりつけ医、地域包括支援センター |
| 介護施設を検討する | 入居費、月額費、医療費、日用品 | ケアマネジャー、施設、市区町村 |
医療費と介護費の自己負担が重くなる場合には、高額医療・高額介護合算療養費制度という仕組みもあります。厚生労働省は、世帯内の同一医療保険の加入者について、毎年8月から1年間の医療保険と介護保険の自己負担を合計し、基準額を超えた場合に超えた金額を支給すると説明しています。
ただし、申請先や基準額は加入している医療保険や介護保険、年齢、所得区分によって変わります。
医療費と介護費が同じ時期に重くなっているなら、領収書や通知を捨てずに、市区町村や加入保険の窓口で確認してください。
医療費控除は、領収書を残しておかないと使いにくくなります
老後の医療費が増えてきたら、医療費控除の対象になるかも見ておきたいところです。
国税庁は、医療費控除の対象となる医療費として、医師・歯科医師による診療や治療の対価、治療や療養に必要な医薬品の購入費、一定の通院費などを挙げています。一方、健康診断費用や予防・健康増進のための医薬品など、対象にならないものもあります。
| 残しておきたいもの | 理由 | 注意点 |
|---|---|---|
| 病院・薬局の領収書 | 医療費の支払いを確認するため | 人別・病院別に分けると後で楽 |
| 通院交通費のメモ | 対象になる場合があるため | 日付、病院名、交通機関、金額を書く |
| おむつ代などの証明書類 | 条件により医療費控除の対象になる場合があるため | 医師の証明書などが必要なことがある |
| 介護サービスの領収書 | 一定の介護保険サービスが対象になる場合があるため | 対象範囲はサービス内容で異なる |
| 保険金や給付金の明細 | 補てんされた金額を差し引くため | 入院給付金などを受け取った場合は要確認 |
ここで注意したいのは、「領収書を取っておくこと」と「必ず控除できること」は別だという点です。
医療費控除の対象になるかは、支出の内容や条件によって変わります。
でも、領収書や交通費メモがなければ、あとから判断する材料がなくなります。
まずは、難しい税金の話をする前に「医療費」と書いた封筒を作る。これで十分です。
医療保険は、家計と公的制度を見てから判断します
老後の医療費が不安になると、医療保険を残すべきか、解約して保険料を減らすべきか迷うことがあります。
これはかなり悩ましい問題です。
保険料は毎月出ていく。でも、解約した後に入院したら困る。年齢が上がると入り直しが難しい場合もある。だから、勢いで解約しない方がいいです。
| 医療保険を見る項目 | 確認すること | 判断のヒント |
|---|---|---|
| 毎月の保険料 | 年金生活で払い続けられるか | 医療費予算を圧迫していないか |
| 入院給付金 | 1日いくら、何日まで出るか | 短期入院でも使いやすいか |
| 手術給付金 | 対象手術、給付条件 | 保障内容が古くないか |
| 通院保障 | 退院後通院、がん通院など | 今の医療不安に合っているか |
| 解約返戻金 | 解約すると戻るお金があるか | 戻るお金と消える保障を並べる |
| 再加入のしやすさ | 年齢、持病、服薬状況 | 解約後に同じ条件で入れるとは限らない |
医療保険は、「入っていれば安心」でも「やめれば節約」でもありません。
公的医療保険、高額療養費制度、貯蓄、毎月の保険料、家族の状況を並べて考えます。
保険を見直す場合は、解約だけでなく、保障額を下げる、特約を外す、払済にするなどの選択肢があるか保険会社に聞いてみるとよいでしょう。
家計では「医療費予備費」を毎月少しずつ積み立てます
医療費は、毎月同じ金額ではありません。
ほとんど使わない月もあれば、検査や入院で一気に出る月もあります。
そのため、毎月の通院費とは別に、医療費予備費を作っておくと安心です。
| 予備費の種類 | 使う場面 | 家計での置き方 |
|---|---|---|
| 通院予備費 | 検査、歯科、眼科、薬の変更 | 毎月の医療費に少し上乗せする |
| 入院予備費 | 急な入院、入院用品、家族交通費 | 別口座や封筒で分ける |
| 介護移行予備費 | 退院後の介護用品、訪問サービス | 介護費と合わせて考える |
| 家族付き添い費 | 遠方の子どもが来る、配偶者が付き添う | 交通費・宿泊費もあり得る |
金額は家庭によって違います。
まずは、今の毎月医療費に3,000円から5,000円だけ上乗せして、医療費用の口座や封筒に入れる方法でも十分です。
余った月は使わずに残す。
これを続けると、検査や歯科治療が重なった月に慌てにくくなります。
医療費予備費は、病気になるためのお金ではありません。慌てず受診するためのお金です。
今日できることは、「医療費封筒」を1つ作ることです
老後の医療費が不安なとき、今日すべての制度を理解しようとしなくて大丈夫です。
まずは、封筒かクリアファイルを1つ用意してください。
そこに大きく「医療費」と書きます。
次に、今日から入れるものを決めます。
- 病院の領収書
- 薬局の領収書
- 通院交通費のメモ
- 入院や検査の明細
- 医療保険の証券や給付金の案内
- 介護サービスの領収書
- 保険証や資格確認書のコピーではなく、保管場所のメモ
これだけで、家計の見え方が変わります。
1か月後に封筒を見れば、今の医療費が分かります。3か月後に見れば、平均が出せます。1年分たまれば、医療費控除や医療・介護の合算制度を確認する材料にもなります。
老後の医療費は、ゼロにすることはできません。
でも、見えない不安を、見える支出に変えることはできます。
通院費、薬代、交通費、入院予備費、介護につながる費用、制度で軽くなる可能性がある費用。
一つずつ分ければ、医療費は「いつ来るか分からない怖い出費」から、「家計に入れて備えられる項目」に変わっていきます。
今日は、医療費を完璧に計算する日ではありません。
まずは封筒を1つ作る。次の通院の領収書を入れる。そこからで十分です。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」:高額療養費制度の概要、年齢・所得による上限、多数回該当、令和8年・令和9年から予定される見直し内容などを確認できます。
- 政府広報オンライン「後期高齢者医療制度 医療費の窓口負担割合はどれくらい?」:70歳以上・75歳以上の窓口負担割合、後期高齢者医療制度の1割・2割・3割負担の考え方を確認できます。
- 国税庁「医療費控除の対象となる医療費」:診療・治療費、医薬品、通院費、介護保険サービスの一部など、医療費控除の対象になる費用の考え方を確認できます。
- 厚生労働省「高額医療・高額介護合算療養費制度について」:医療保険と介護保険の自己負担を合算し、基準額を超えた場合に支給される制度の概要を確認できます。


















