廊下へ出た直後に「葬儀社は決まっていますか」と聞かれることがあります
医師から死亡の説明を受けたばかりで、まだご家族への連絡も終わっていない。
それなのに、看護師から「お迎えをお願いする葬儀社は決まっていますか」と聞かれる。スマートフォンを開いても、何と検索すればよいのか分からない。遠方のきょうだいへ電話すると、「そちらで決めておいて」と言われてしまう。
この場面で戸惑うのは、決断力がないからではありません。
親しい人が亡くなったという事実を受け止める時間と、搬送先を決める時間が、同時に来ているからです。
病院が葬儀社について尋ねる主な理由は、ご遺体を病院から別の場所へお連れする準備を進めるためです。
ここで分けて考えたいのが、次の二つです。
- 今決めること:病院から、いつ、どこへ、誰に搬送してもらうか
- 後から決められること:葬儀の形式、祭壇、料理、返礼品、参列人数など
搬送を依頼する会社と、葬儀一式を依頼する会社が結果的に同じになることは多くあります。しかし、最初の電話で何を依頼したのかが曖昧なままだと、「搬送を頼んだつもりが、葬儀全体の契約まで進んでいた」という行き違いが起こりやすくなります。
病院から早めの搬送を求められても、葬儀の内容まですべて即決するという意味ではありません。まずは「搬送」「安置」「葬儀の契約」を分けて考えます。
最初に病院へ聞くのは、葬儀の方法ではなく四つのことです
病院によって、ご遺体をお預かりできる時間、退院時の手順、書類の準備時間などは異なります。
「急いでください」と言われたと感じても、実際の搬送期限が何時なのか分からなければ、落ち着いて動けません。
看護師や担当職員へ、次のように聞いてください。
「葬儀社がまだ決まっていません。何時頃までに搬送の手配が必要でしょうか。今のうちに受け取る書類と、搬送前にすることも教えてください」
そのうえで、次の四点を確かめます。
- ご遺体は何時頃まで病院にいられるか
- 搬送できる状態になるのは何時頃か
- 死亡診断書などの書類は、いつ、誰から受け取るか
- 病院側で必要な処置や手続きが、ほかに残っていないか
死亡診断書は、人の死亡を医学的・法律的に証明するため、医師が作成する文書です。生前に診療していた傷病と関連して死亡したと認められる場合は死亡診断書、それ以外の場合などは死体検案書が交付されます。
受け取る書類の名称や時刻が分からないときは、その場で覚えようとせず、スマートフォンへ入力するか、書いた紙を渡してもらえるか尋ねてください。
死因の確認、検案、警察への連絡などが必要なケースでは、ご家族だけの判断で搬送を進められないことがあります。その場合は、病院や警察から「搬送を手配してよい」と案内されるまで待ちます。
病院を出た後、故人をどこへお連れするかを決めます
葬儀社へ電話する前に、安置先の候補を考えます。
主な選択肢は、ご自宅か、葬儀社などが用意する安置施設です。
| 安置先 | 考えやすいケース | 先に確かめたいこと |
|---|---|---|
| ご自宅 | 故人を一度家へ帰してあげたい、ご家族がそばで過ごしたい | 搬入経路、階段やエレベーター、寝かせる場所、近隣や管理規約、家族の負担 |
| 葬儀社の安置施設 | ご自宅での安置が難しい、住まいが狭い、遠方の家族を待ちたい | 1日あたりの安置料、面会時間、付き添い可否、ドライアイス等の費用 |
| 斎場や火葬場に近い施設 | 葬儀や火葬を行う地域が決まっている | 空き状況、搬送距離、再搬送の有無、施設利用条件 |
| まだ決められない | ご家族と連絡が取れない、葬儀を行う地域も未定 | 一時安置が可能か、後から移動する場合の費用、保管可能な期間 |
ご自宅へ搬送した後、別の葬儀会館へ移動すれば、搬送回数が増えることがあります。
安置施設へお願いする場合は、「1日いくら」だけでなく、日数の数え方も聞いてください。深夜に入った日を1日と数えるのか、面会や付き添いに別料金があるのかによって、総額が変わる可能性があります。
今すぐ葬儀形式を決められなくても、次のように伝えられます。
「葬儀の内容は家族が集まってから決めます。まず今日から二日ほど安置できる場所を希望しています」
葬儀社が未定なら「搬送だけ依頼できますか」と最初に聞きます
病院を出る時間が迫っていても、葬儀社を比較する余裕がないことがあります。
その場合は、電話の冒頭で依頼範囲をはっきりさせます。
「病院からの搬送と一時安置だけをお願いできますか。葬儀については、家族と見積もりを見てから決めたいです」
対応できるかどうか、料金や契約条件は葬儀社によって異なります。
次の五点を聞けば、最低限の比較ができます。
- 病院から希望する安置先までの搬送料
- 深夜・早朝料金や、距離による追加料金
- 安置料とドライアイス等の費用
- 葬儀を依頼しない場合に発生する費用
- 別の葬儀社へ変更する場合の再搬送費や手続き
国民生活センターには、ご遺体を速やかに搬送しなければならない状況で葬儀社へ連絡し、搬送後に広告より高額なプランを勧められた事例や、キャンセル時に搬送費を請求された事例が寄せられています。契約前に見積書を受け取り、含まれる項目と追加費用を確かめることが勧められています。
時間があれば二社へ電話し、同じ条件を伝えてください。
ただし、何社も電話して決められなくなる必要はありません。搬送までの時間、料金、説明の分かりやすさを比べ、納得できる一社が見つかれば、その時点で手配して構いません。
病院から紹介された葬儀社に、葬儀全部を頼むとは限りません
葬儀社が決まっていないと伝えると、病院から連絡先を案内されることがあります。
紹介された会社へ搬送を依頼すること自体が悪いわけではありません。病院の場所や搬送手順を理解しており、早く来てもらえる場合もあります。
ただし、紹介を受けたことと、葬儀全体の契約を結ぶことは分けて考えます。
電話や到着時に、次のように確かめてください。
「病院からご紹介いただきましたが、今回は搬送だけの依頼でしょうか。それとも葬儀の申し込みも含まれますか」
申込書や契約書を示されたら、少なくとも次の部分を見ます。
- 依頼する業務の範囲
- 搬送先の住所
- 現時点で発生する料金
- キャンセルや変更の条件
- 署名する人が何を契約するのか
「病院の紹介だから、条件を聞くのは失礼ではないか」と遠慮する必要はありません。
聞き方は穏やかでも、内容は具体的に。葬儀社にとっても、依頼範囲が明確な方が後の行き違いを防げます。
今すぐ決めなくてもよいことを、家族にも伝えてください
病室や霊安室で電話をしていると、遠方のきょうだいから次々に質問されることがあります。
「家族葬にするのか」「お寺へ連絡したか」「喪主は誰か」「親戚はどこまで呼ぶのか」
一度に答えようとすると、搬送先すら決まらなくなります。
現時点では、次の内容を保留にしても構いません。
- 通夜と告別式を行うか
- 家族葬、一日葬、直葬のどれにするか
- 祭壇、棺、生花、遺影などの種類
- 料理や返礼品の数
- 親族や知人へ、どこまで連絡するか
- お墓、納骨、相続、遺品整理をどうするか
ご家族には、次のように区切って伝えます。
「今は病院から安置先へ移すことだけ決めます。葬儀の形と費用は、見積書が出てから話したいです」
法律上、原則として死亡後24時間を経過する前に火葬することはできず、火葬には市町村長の許可も必要です。死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に、死亡診断書または死体検案書を添えて市区町村へ提出します。
もちろん、火葬場や式場の空き状況を押さえるため、葬儀社との打ち合わせは早く始まることがあります。それでも、病院を出る前に祭壇や料理まで決めなければならないわけではありません。
死亡診断書は受け取った後、そのまま葬儀社へ渡す前に扱いを聞きます
死亡届の用紙は、死亡診断書または死体検案書と一体になっていることがあります。
死亡届はご家族が提出する場合もあれば、委任を受けた葬儀社が市区町村へ届け出る場合もあります。
葬儀社へ預ける前に、次のことを聞いてください。
- 死亡届は誰が記入するのか
- 届出人として署名する人は誰か
- 市区町村への提出は誰が行うのか
- 提出前にコピーを取っておくべきか
- 死亡診断書の写しが後で必要になった場合、どうするか
死亡届には、故人の本籍など、すぐには分からない情報を書く欄があります。分からない部分を推測で埋めず、葬儀社や提出先の市区町村へ聞いてください。
死亡届が受理され、火葬許可の申請が行われると、火葬に必要な許可証が発行されます。具体的な受付方法や必要書類は市区町村によって案内が異なるため、提出先の公式情報を確かめます。
一人が電話をし、もう一人が記録すると聞き漏らしが減ります
葬儀社との電話を喪主候補の人だけが抱えると、料金や条件を聞いても記憶に残らないことがあります。
可能なら、家族の役割を二つに分けます。
- 電話する人:病院名、搬送先、希望時間を伝える
- 記録する人:会社名、担当者、到着時間、料金、依頼範囲を書く
一人しか病院にいない場合は、電話の最後に内容を読み返します。
「確認します。今日は○○病院から○○安置所までの搬送と、一晩の安置を依頼します。現時点の金額は○円で、葬儀については明日見積もりを見てから決める、ということで合っていますか」
電話の日時と担当者名も残してください。
遠方のご家族へは、すべてを相談しようとせず、決まった事実を共有します。
「今日の搬送先は○○です。葬儀内容はまだ契約していません。明日、見積書が出たら家族で確認します」
これだけでも、現地にいる一人が勝手に葬儀を決めたという誤解を減らせます。
契約を急かされたら、理由と期限を具体的に聞きます
葬儀では、搬送車、安置室、式場、火葬場などの空き状況が関係するため、早い返答が必要になる場面はあります。
ただし、「今すぐ決めないと困ります」とだけ言われたら、何が、いつまでなのかを確かめてください。
- 搬送車の手配期限なのか
- 安置室を確保する期限なのか
- 式場や火葬場の予約期限なのか
- 特定のプランを契約する期限なのか
- 期限を過ぎると、何ができなくなるのか
その場で葬儀全体の契約を求められたときは、次のように伝えます。
「搬送と安置に必要な契約には署名します。葬儀プランは家族と見積書を見てから決めますので、契約範囲を分けてください」
見積書を渡してくれない、搬送費を聞いても答えない、「一式」としか説明しない、別の会社を検討すると伝えると強く引き止める。このような場合は、別の葬儀社へ連絡する材料になります。
国民生活センターは、葬儀社との打ち合わせを可能な限り複数人で行い、契約前に明細のある見積書を受け取り、含まれていない項目や追加サービスの料金を確かめるよう案内しています。
すでに搬送を頼んだ後でも、何を契約したかは確かめられます
搬送が終わった後に、「このまま同じ会社へ葬儀も頼んでよいのだろうか」と迷うことがあります。
まず、契約書、申込書、受領書、料金表を確認します。
まだ葬儀プランへ署名していない場合は、搬送と安置にかかった費用を聞いたうえで、ほかの葬儀社から見積もりを取る方法もあります。
葬儀全体の契約を済ませている場合でも、変更や解約について尋ねることはできます。ただし、すでに行われた搬送、安置、処置、発注済みの品物などについて費用が発生する可能性があります。
次のように、内訳を書面で求めてください。
「現時点で実施済みのサービスと、その費用を教えてください。葬儀を依頼しない場合に支払う金額、別の場所へ移る場合の費用も書面でお願いします」
広告と説明が違う、解約費用の根拠が分からない、強く契約を迫られて困っている場合は、消費者ホットライン188へ連絡すると、地域の消費生活センターなどの窓口へ案内されます。相談自体は無料ですが、通話料がかかります。
出典・確認先メモ
病院で今すぐ使えるように、スマートフォンのメモへ「搬送期限・安置先・搬送料・葬儀を頼まない場合の費用」の四項目を入力してください。電話では、その四つを上から順に聞けば構いません。















