駅の階段を見た瞬間、今日も仕事へ行けるか分からなくなった
朝、家を出たときは何とか歩けた。
ところが駅に着くころには、膝の内側がずきずきしています。階段を上ろうとすると力が入りにくく、後ろから来る人に抜かれるたび、通路の端へ寄る。
職場へ着いても、立ち上がるたびに痛みます。昼食を買いに行くこともためらい、帰りの電車では座席が空いているかばかり考えてしまう。
「この程度で休んだら迷惑だ」
「歩かないと余計に弱るのではないか」
そう考えて出勤を続けているうちに、買い物や家族との外出まで断るようになることがあります。
膝痛で難しいのは、痛みだけではありません。仕事を休むほどなのか、受診するほどなのか、自分では線を引きにくいことです。
ここでは、痛みの強さだけでなく、膝に体重をかけられるか、腫れや熱があるか、日常生活のどこまで崩れているかを基準に考えます。
今日は歩いてよいのか、四つの状態に分けます
膝の痛みには、徐々に出てきたものもあれば、転倒や感染など早い対応が必要なものもあります。
病名を自己判断する前に、今日の行動を次のように分けてください。
| 現在の状態 | 優先する行動 |
|---|---|
| 違和感や軽い痛みはあるが、ゆっくりなら歩ける。腫れや熱感は目立たない | 移動距離と負荷を減らし、痛みの変化を見ながら近日中の受診を検討する |
| 歩くほど痛みが増える、階段や立ち仕事が難しい、仕事後も痛みが残る | 通常どおりの通勤・勤務を続けず、仕事内容や移動方法を調整して整形外科を受診する |
| 転倒やひねった後から強く痛む、体重をかけられない、膝が動かない・引っかかる | 無理に歩かず、当日中を目安に整形外科や救急医療機関へ連絡する |
| 急に赤く腫れて熱を持つ、発熱がある、変形している、強い痛みで動けない | 感染、骨折なども否定できないため、早急に医療機関へ連絡する |
膝の状態とは別に、片脚のふくらはぎ全体が急に腫れた、息苦しさや胸の痛みがある場合は、通常の膝痛として様子を見ないでください。特に息苦しさや胸痛を伴うときは119番を優先します。
「歩けるから大丈夫」とは限りません。歩いた後に痛みや腫れが強まり、翌日まで戻らない状態なら、今の通勤や仕事量が膝の状態に合っていない可能性があります。
痛みを我慢して歩けば治る、とは限りません
膝が痛いとき、「動かさないと筋肉が落ちる」「歩いて慣らした方がよい」と言われることがあります。
確かに、変形性膝関節症などでは、状態に合った運動によって膝を支える筋肉を保ち、関節の動きを維持することが治療の一部になります。
ただし、通勤で痛みを我慢して長距離を歩くことと、医師や理学療法士の指示に基づいて運動することは同じではありません。
次のような反応が出る歩き方は、いったん減らした方がよいでしょう。
- 歩いている途中から、足を引きずるようになる
- 痛みを避けるため、反対側の腰や股関節まで痛む
- 帰宅後に膝が腫れる
- 夜間も痛み、眠れない
- 翌朝になっても、歩く前の状態へ戻らない
- 膝が抜ける、崩れるような感覚がある
完全に動かさない方がよいのか、軽く動かした方がよいのかは、膝痛の原因と現在の状態によって変わります。
急なけがや強い腫れがあるときに、自己流のスクワットや長距離歩行を始めるのは避けてください。
出勤前は、痛みの数字より「できない動作」を見ます
痛みを0から10の数字で表す方法は便利ですが、同じ「5」でも、仕事への影響は人によって違います。
出勤するか迷った朝は、次の動作ができるかを確かめます。
- 家の中を転ばずに歩ける
- 椅子から手を使ってでも安全に立てる
- 靴を履き、玄関の段差を越えられる
- 駅や駐車場から職場まで移動できる
- 勤務中に必要なトイレ移動ができる
- 仕事を終えた後、自宅まで戻れる見込みがある
行きは何とか歩けても、帰りまで持たないと感じるなら、通常出勤を前提にしない方が安全です。
「会社へ着けるか」だけでなく、「帰宅まで含めて続けられるか」で判断してください。
仕事へ行くなら、通勤で使い切らない方法を選びます
膝が痛い日に、いつもと同じ経路へこだわる必要はありません。
仕事に残しておきたい体力を、駅までの道や階段で使い切らないようにします。
- 階段の少ない駅や出口を使う
- エレベーターの位置を事前に調べる
- 一駅分歩く習慣を一時的に休む
- バス、家族の送迎、タクシーなどを部分的に使う
- 混雑時間を避けられるか職場へ聞く
- 立ち続けないよう、途中で座れる場所を決める
- 荷物を減らし、片側だけで重いかばんを持たない
駅や施設の中で長く歩く予定がある場合は、入口から目的地までの距離も見てください。
「外出先まで行ける」だけでなく、建物内を移動し、用事を済ませ、帰る分まで含めます。
階段は急いで交互に上り下りしなくてもよい
階段では、平地より膝への負担を強く感じる方がいます。
痛みがある日は手すりを使い、一段ずつ足をそろえながら進む方が安全な場合があります。
後ろの人が気になっても、急ぐ必要はありません。通路の端へ寄れる場所なら先に行ってもらいます。
膝が抜ける感覚がある、手すりがあっても支えきれない場合は、階段を使わず、エレベーターや別の経路を選んでください。
具体的な足の出し方は、痛む側、筋力、けがの種類によって変わります。自己流で無理をせず、受診時に理学療法士などへ実際の動きを見てもらうと確実です。
職場には「膝が痛い」ではなく、難しい作業を伝えます
上司へ「膝が痛くてつらい」とだけ話しても、何を変えれば働けるのか伝わりにくいことがあります。
診断名がまだ分からなくても、業務上困っている動作は説明できます。
「膝の痛みで、連続して10分以上歩くことと、階段の上り下りが難しくなっています。整形外科を受診するまで、外回りを減らし、エレベーターを使える業務に調整できないでしょうか」
立ち仕事なら、
「立ったままの作業を続けると痛みが増えます。30分ごとに座る時間を入れるか、一部を座ってできる作業へ替えられるか相談したいです」
と伝えます。
頼める可能性がある調整には、次のようなものがあります。
- 一時的に立ち仕事や階段移動を減らす
- 重い物を運ぶ作業を外す
- 休憩を取りやすい配置へ変える
- 通勤時間をずらす
- 駐車場所を入口に近づける
- 在宅勤務が可能な業務だけ自宅で行う
- 通院日に時間休や有給休暇を使う
すべての職場で同じ対応ができるわけではありません。それでも、「つらいので配慮してほしい」より、期間と難しい動作を伝えた方が、調整できる範囲を話しやすくなります。
退職を決める前に、受診結果と仕事内容をつなぎます
通勤や立ち仕事が続かないと、「この仕事はもう無理だ」と思うことがあります。
けれども、痛みの原因、治療後の見通し、避けるべき作業が分からない段階で退職を決める必要はありません。
受診時には、仕事内容を具体的に伝えます。
- 一日の立ち時間
- 歩く距離や階段の回数
- 持ち上げる荷物の重さ
- しゃがむ、正座する、膝をつく作業の有無
- 車の運転時間
- 勤務後に痛みや腫れがどう変わるか
医師へは、次のように聞けます。
「一日6時間ほど立ち、倉庫内を歩く仕事です。今の状態で避けた方がよい動作と、続けられる作業を教えてください。職場へ提出する書類が必要かも相談したいです」
厚生労働省は、治療と仕事の両立に向けて、勤務情報を主治医へ伝える書式や、主治医の意見を職場へ伝えるための様式例を公開しています。
実際にどの書類を使うか、費用がかかるかは、医療機関と勤務先へ確かめてください。
買い物や通院は「最短距離」より「途中で戻れる予定」にします
外出を全部やめると、生活上必要な用事がたまり、動く機会も減ります。
一方、「せっかく出たから全部済ませよう」と予定を詰めると、帰りに歩けなくなることがあります。
外出は、途中で中止しても困らない形にします。
- 用事を一つに絞る
- 入口に近い店や医療機関を選ぶ
- 店内のいす、休憩場所、トイレを先に見る
- 重い物は配送を使う
- 往復のうち、片道だけでも交通手段を使う
- 痛みが強くなる前に戻る時刻を決める
外出中は、「あと少しだから」と痛みが強くなるまで歩くのではなく、痛みが軽いうちに一度休みます。
休憩後も痛みが増える、膝が不安定になる場合は、その日の用事を減らしてください。
靴を替えるだけで治るわけではありませんが、転倒は減らせます
膝が痛いと、歩幅が小さくなり、足を十分に上げにくくなることがあります。
外出時の靴は、治療効果を期待するより、安全に歩けるかで選びます。
- かかとが脱げにくい
- 靴底が極端にすり減っていない
- 足の幅や甲が合っている
- 滑りやすい底ではない
- 高すぎるかかとではない
- 履くときに無理な姿勢を取らずに済む
高価な靴や中敷きを先に購入しても、膝痛の原因や足の形に合わなければ使いにくいことがあります。
治療の一環として足底板や装具を使う場合もあるため、整形外科で適応を聞いてから選ぶ方法があります。
杖やサポーターは、我慢できなくなってから使う物ではありません
杖を使うと「急に年を取ったように見える」と抵抗を感じる方もいます。
しかし、膝が崩れる、外出中に壁や手すりを探す状態なら、補助具を使わないことの方が転倒につながります。
杖は長さや使う側が合っていないと、肩や腰へ負担がかかります。一般には痛む膝と反対側で使う方法がありますが、体の状態によって異なるため、医師、理学療法士、福祉用具の専門職などに合わせてもらうと安全です。
サポーターも、締め付けが強ければしびれや皮膚トラブルにつながります。
購入前に、何のために使うのかを分けてください。
- 膝が横へぶれる感覚を減らしたい
- 保温したい
- 外出時だけ補助したい
- けがの後で動きを制限する必要がある
目的によって選ぶ物が変わります。口コミだけで固定力の強い装具を選ばず、腫れや皮膚の状態も含めて見てもらいます。
痛み止めや湿布を使う前に、重複と持病を見ます
市販の鎮痛薬や外用薬は、一時的に痛みを抑える選択肢になることがあります。
ただし、痛みが消えたからといって、原因まで治ったわけではありません。
内服薬を選ぶ場合は、次の点を薬剤師や登録販売者へ伝えてください。
- 現在飲んでいる薬
- 胃潰瘍、腎臓病、心臓病、喘息などの病歴
- 血液を固まりにくくする薬を使っているか
- ほかの風邪薬や鎮痛薬を飲んでいないか
- いつから、どの動作で膝が痛むか
商品名が違っても、同じ鎮痛成分が含まれている場合があります。複数の痛み止めを自己判断で重ねないでください。
湿布や塗り薬も、かぶれ、赤み、かゆみが出たら中止します。
痛み止めがないと通勤できない状態が続くなら、薬を買い足し続けるのではなく受診へ切り替えます。
膝痛の原因は、年齢や体重だけでは決まりません
中高年の膝痛では、変形性膝関節症が考えられることがあります。
日本整形外科学会では、初期には立ち上がりや歩き始めで痛み、進行すると階段や正座が難しくなり、さらに進むと安静時の痛みや歩行困難が現れることがあると説明しています。
ただし、膝が痛いからといって、すべて変形性膝関節症とは限りません。
半月板や靱帯の損傷、関節リウマチ、痛風、感染、骨折、膝以外の場所から来る痛みなどもあります。
体重が膝への負担に関係する場合はありますが、痛みを抱えている人へ「痩せれば治る」とだけ伝えても、今日の通勤や歩行の問題は解決しません。
まず原因と動いてよい範囲を確かめ、その後、必要なら食事や体重管理を長期的な治療の一部として考えます。
運動は、膝の状態を見てもらってから小さく始めます
変形性膝関節症では、太ももの前側など膝を支える筋肉を保ち、関節の動きを改善する運動が勧められることがあります。
厚生労働省と日本整形外科学会が紹介する方法には、椅子へ座って片脚を伸ばし、数秒保つ運動などがあります。
ただし、急な外傷、強い腫れ、熱感、膝が動かない状態で始める運動ではありません。
運動を始められる状態か医療機関で確かめたうえで、次の原則を守ります。
- 現在できる回数から始める
- 息を止めない
- 反動をつけない
- 強い痛みを我慢しない
- 運動後に腫れや痛みが増えたら中止する
- 翌日まで悪化が残る場合は回数や方法を見直す
運動不足が気になっても、痛い膝で歩数だけを増やす必要はありません。状態によっては、座って行う運動や水中運動など、別の方法を選べます。
整形外科では「痛いです」だけでなく、歩けなくなった場面を伝えます
膝痛が仕事や外出へ影響しているなら、整形外科で原因を確かめます。
受診前に、次の内容をスマートフォンへ残しておくと説明しやすくなります。
- いつから痛むか
- 急に始まったか、徐々に始まったか
- 膝の前、内側、外側、後ろのどこが痛むか
- 腫れ、熱感、引っかかり、不安定感があるか
- 何分または何メートル歩くと痛むか
- 階段、立ち上がり、正座、車の乗降でどう変わるか
- 仕事や買い物でできなくなったこと
- 使っている薬、湿布、サポーター
- 転倒やスポーツなど、きっかけになる出来事
受付や診察では、次のように伝えられます。
「二週間前から右膝が痛み、駅まで10分歩くと足を引きずります。仕事は立ち作業で、帰宅後に腫れます。勤務を続けるため、避ける動作と運動してよい範囲も知りたいです」
診察や画像検査の結果によって、薬、注射、リハビリテーション、装具、手術などが検討されます。
最初から手術になると決まっているわけではありません。今の仕事や生活を伝え、治療の目的と選択肢を聞いてください。
家族には「歩いた方がいい」「休んだ方がいい」で決めてもらわない
家族が心配して、外出をすべて止めようとすることがあります。
反対に、「動かないから弱る」と、散歩へ連れ出そうとすることもあります。
どちらも心配から出た言葉かもしれませんが、膝の原因が分からない段階で、家族だけで運動量を決めるのは難しいでしょう。
本人からは、手伝ってほしいことを具体的に伝えます。
「歩かせるか休ませるかを決めてほしいのではなく、整形外科まで車で送ってほしい」
「買い物には行きたいけれど、重い物だけ持ってほしい」
ご家族が受診へ付き添う場合も、本人が感じている痛みと生活上の希望を先に話してもらいます。
外出できない日が増えても、自分の怠けとは決めないでください
膝の痛みで予定を断ると、「以前は普通にできたのに」と落ち込むことがあります。
外出を避けているのは、行きたくないからではなく、帰れなくなることや、周囲へ迷惑をかけることが怖いからかもしれません。
ただ、痛みを理由にすべての予定を断り続けると、筋力や体力だけでなく、人とのつながりまで減っていきます。
受診後、動いてよい範囲が分かったら、外出を以前と同じ形へ戻す必要はありません。
- 一日がかりの予定を、近所での30分へ変える
- 食事の店を、駅や駐車場に近い場所へ替える
- 途中参加や早退を前提にする
- 歩く外出を、車で行ける予定へ替える
- 会う相手に、階段が難しいことだけ先に伝える
「完全に治るまで外へ出ない」ではなく、膝に合う形へ予定を組み替えることができます。
明日の出勤を決めるため、帰宅後の膝を見ます
今夜は、痛みを我慢できるかではなく、仕事や外出の後に膝がどうなっているかを確かめてください。
見るのは、次の四点です。
- 左右を比べて、腫れがあるか
- 触れたときに強い熱を感じるか
- 椅子から安全に立てるか
- 家の中を歩いたとき、膝が抜けたり引っかかったりしないか
腫れや熱感、体重をかけられない痛みがあるなら、明日の通常出勤より医療機関への連絡を優先します。
緊急性は低そうでも、通勤や仕事が難しい状態なら、職場へ次の一文を送ってください。
「膝痛で歩行と階段が難しく、明日は整形外科を受診します。受診結果が分かるまで、勤務時間または仕事内容の調整を相談させてください」
予約するときは、
「膝が痛く、通勤と立ち仕事に支障があります。いつ受診できるか教えてください」
と伝えれば十分です。
仕事を続けるか、外出を諦めるかまで、今夜決める必要はありません。
まず通常どおり歩き続ける状態を止め、膝に何が起きているかを確かめる。そこから、移動、仕事、運動を一つずつ今の体に合わせ直せます。













