再婚して数か月。配偶者から「これからは夫婦なのだから、給料も貯金も一つの口座で管理しよう」と言われた。
信頼されていないと思われたくなくて、その場では「そうだね」と答えたものの、通帳を見ながら手が止まる。
この中には、長年一人で働いて貯めたお金がある。前の結婚で生まれた子どものために残したい分もある。配偶者を疑っているわけではない。それでも、全部を渡してしまうようで落ち着きません。
反対に、相手が資産や収入を何も話してくれず、「生活費は半分ずつでいいでしょう」とだけ言われている方もいます。
夫婦になったのに線を引くのは冷たい気がする。けれど、曖昧なまま暮らし始めるのも怖い。
再婚後のお金で必要なのは、すべてを一緒にすることではありません。どこまでを共同生活に使い、どこからをそれぞれが守るのか、二人が同じ説明をできる状態にすることです。
「夫婦なら財布は一つ」に合わせなくても構いません
初婚の若い夫婦と、50代・60代で再婚する夫婦では、結婚前に積み上げてきたものが違います。
預貯金、不動産、退職金、保険、事業、住宅ローン。前の結婚で生まれた子どもへの支援や、親御さんの介護費用を抱えていることもあります。
それらを一度すべて混ぜると、誰のお金だったのか、何のために残していたのかが分かりにくくなります。
民法では、婚姻前から持っていた財産や、婚姻中に自分の名で得た財産は、原則としてその人の財産とされています。一方、どちらに属するか明らかでない財産は、共有に属すると推定されます。
ただし、離婚時の財産分与や、夫婦が共同で負担して購入した財産の扱いは、名義だけで単純に決まるとは限りません。
だからこそ、再婚時点の資産を混ぜず、後から説明できる記録を残すことが役立ちます。
別財布は、相手を疑う仕組みではありません。結婚前の財産と、再婚後に二人で使うお金を混同しないための仕組みです。
管理方法を決める前に、五つの金額を互いに伝えます
通帳の明細を一円単位ですべて見せる必要はありません。
しかし、共同生活へ影響する金額を伏せたまま、毎月の負担だけ決めるのは無理があります。
最初に共有したいのは、次の五つです。
- 毎月使える手取り収入
- 家賃、ローン、保険、通信費などの固定支出
- 預貯金、不動産、退職金などのおおよその資産
- 借入れ、保証、分割払いなど今後も続く負債
- 子ども、親御さん、元配偶者などへの定期的な支出
金額を尋ねるときは、相手を調査するような口調にしない方が話しやすくなります。
「貯金を一つにしたいわけではないよ。二人の生活費を決めるために、毎月使える収入と、すでに支払っている固定費だけは互いに知っておきたい」
資産額を詳しく話すことに抵抗がある場合は、段階を分けられます。
最初は毎月の収入と支出、次に借金と保証、住宅購入や相続を考える段階で資産全体を共有するという進め方です。
ただし、借金、税金の滞納、連帯保証、事業上の債務など、再婚後の生活へ大きく影響する内容は後回しにしないでください。
個人・生活費・将来費の三つに分けると管理しやすくなります
再婚後の家計では、三つの置き場所を作る方法があります。
個人のお金
結婚前の預貯金、各自の給与や年金の受取口座、個人の趣味、前婚の子どもへの支出、自分名義の保険や借入れなどです。
配偶者が自由に引き出せる状態にはせず、本人が管理します。
共同生活に使うお金
住居費、食費、光熱費、日用品、二人で使う車、共通の通信費などです。
支払い用の口座を一つ決め、二人が毎月合意した金額を入れます。口座名義人以外がキャッシュカードや暗証番号を共用するのではなく、月に一度、残高と支出を二人で見ます。
二人の将来に備えるお金
旅行、住宅修繕、家電の買い替え、医療、介護などの費用です。
一つの口座へ大量に移すのではなく、それぞれの名義で積み立て、目的と入金額を共有する方法もあります。
たとえば、「住宅修繕費として夫が月二万円、妻が月一万円を、それぞれの積立口座へ入れる」と決めます。
これなら、お金の所有者が曖昧になりにくく、必要になったときの負担割合も分かります。
生活費は半分ずつではなく、続けられる基準で分けます
収入差がある夫婦で、すべてを折半すると、収入が少ない側には自由に使えるお金がほとんど残らないことがあります。
反対に、高収入の側が全額負担すると、支払う人だけが家計の決定権を持つようになる場合もあります。
| 分け方 | 向いている夫婦 | 注意する点 |
|---|---|---|
| 同額を出す | 手取り収入や個人負担が近い | 収入差が大きいと一方だけ苦しくなる |
| 手取り収入の割合で出す | 収入に差がある | 収入が変わったときに見直す |
| 項目ごとに担当する | 支払いの管理を簡単にしたい | 家賃担当だけが極端に重くならないよう合計額を見る |
| 一方が多く負担する | 病気、介護、退職などで働けない事情がある | 支払う側が相手の個人支出まで支配しない |
たとえば、手取りが月25万円と15万円で、共同生活費が24万円なら、収入比の5対3で15万円と9万円を出す方法があります。
これは正解ではなく、話し合うための一例です。
親御さんの介護や前婚の子どもへの支援など、二人の生活外で必要な支出も含めて、無理なく続けられる額を決めます。
前の結婚で生まれた子どもへのお金を、隠れた支出にしない
再婚相手へ、子どもに送っているお金の話をしにくいことがあります。
成人した子どもへの学費、家賃、結婚資金、病気の援助。元配偶者との間で決めた支払いが続いている場合もあるでしょう。
相手から見れば、「いつまで払うのか」「私たちの老後資金が減るのではないか」と気になります。
一方、本人にとっては、再婚したからといって親子関係まで終わるわけではありません。
ここでは、援助の是非だけで争わず、次の四点を伝えます。
- 毎月または年間でいくら出しているか
- いつまで続く予定か
- 急な援助を求められたときの上限
- 共同生活費から出すのか、個人のお金から出すのか
「子どもへの月三万円は、私の個人口座からあと二年間出す。二人の生活費には入れない。追加の援助が必要なときは、先に話す」
このように、金額と範囲が見えると、相手も将来の家計を考えやすくなります。
借金は「相手の問題」で終わる場合と、終わらない場合があります
結婚しただけで、配偶者の個人的な借金が自動的にもう一方の借金になるわけではありません。
ただし、共同名義で借りる、連帯保証人になる、家族カードや共同の契約を使う場合は、自分にも支払い責任が生じる可能性があります。
また、日常の家事に関して一方が負った債務は、民法上、他方も連帯して責任を負うことがあります。
再婚前から借入れがある場合は、次の内容を曖昧にしないでください。
- 借入先と現在の残高
- 毎月の返済額と完済予定
- 延滞の有無
- 担保や保証人の有無
- 事業上の借入れか、個人の借入れか
借金があることだけで相手を責める必要はありません。
しかし、金額を答えない、契約書を見せない、返済のためにあなた名義で借りてほしいと言う場合は、家計を一つにしないでください。
「返済を手伝うかどうかは、残高と契約内容を見てから考えます。私名義の借入れや保証はしません」
どちらかの持ち家で暮らすなら、住宅費の意味を決めます
一方が以前から所有する家へ、再婚相手が移り住むケースがあります。
そこで毎月お金を出すとしても、そのお金が生活費なのか、住宅ローンの負担なのか、修繕費への積立てなのかが曖昧だと、後になって認識がずれます。
住宅ローンを一緒に払ったからといって、自動的に住宅の持分を取得できるとは限りません。
次の内容を先に決めます。
- 住宅の所有名義とローン名義
- 固定資産税や管理費を誰が負担するか
- 毎月の住居費をいくら出すか
- 大規模修繕や設備交換をどう負担するか
- 所有者が先に亡くなったとき、残された配偶者がどこで暮らすか
高額な改修費やローン返済へまとまったお金を出す前には、その支払いで持分を取得するのか、生活費として負担するのかを書面に残します。
名義変更や持分の贈与には、税金や登記の問題が関係するため、振り込んでから考えるのでは遅い場合があります。
配偶者の口座へ大金を移す前に、目的を言葉にします
夫婦間のお金の移動なら、税金は関係ないと思われがちです。
通常の日常生活に必要な生活費を、その都度使うために配偶者へ渡す場合は、贈与税がかからないとされています。
一方、生活費という名目でも、使わずに相手名義の預金として残したり、株式や不動産などの購入資金へ回したりした部分は、贈与税の対象になることがあります。
そのため、次のような資金移動は、実行前に税務署や税理士などへ扱いを聞いた方が安全です。
- 自分の預金を配偶者名義の口座へまとめて移す
- 配偶者名義の住宅ローンを大きく繰り上げ返済する
- 不動産を共有名義へ変更する
- 高額な車や金融商品を相手名義で購入する
問い合わせるときは、金額、資金の所有者、使い道、名義を伝えます。
「私名義の預金から、配偶者名義の住宅ローンへ五百万円を入れる予定です。贈与税や持分への影響があるか、支払う前に知りたいです」
聞いたからといって、必ず手続きや契約を進める必要はありません。
再婚では、日々の家計と相続を別々に考えない方がよい
再婚後に亡くなった場合、現在の法律上の配偶者は相続人になります。
前の結婚で生まれた実子も、自分の子であることに変わりはなく、法定相続人になります。
遺言などがない場合、配偶者と子どもが相続人なら、法定相続分は配偶者が二分の一、子ども全員で二分の一が基本です。
一方、再婚相手の連れ子は、養子縁組をしていなければ、原則としてあなたの法定相続人には含まれません。
これは、家族として一緒に暮らしてきた時間や親しさとは別の、法律上の関係です。
特に、次の事情がある夫婦は、日常の家計管理と同時に、亡くなった後の住まいと財産も話しておく必要があります。
- どちらかに前婚の子どもがいる
- 一方の持ち家に夫婦で住んでいる
- 事業や賃貸不動産を所有している
- 特定の子どもへ多く援助してきた
- 再婚相手に住居や生活資金を残したい
遺言書を作ればすべて自由に決められるとは限らず、一定の相続人には遺留分が関係する場合があります。
また、養子縁組は相続だけでなく法律上の親子関係を作る手続きです。財産を渡したいという理由だけで急いで決めず、本人同士の意思と影響を踏まえて考えます。
遺言の内容が複雑な場合は、弁護士、司法書士、公証役場などへ、家族関係と財産一覧を持参して聞く方法があります。
お金の話は、問題が起きた夜ではなく毎月20分だけ行います
カードの請求額を見て腹が立った直後や、子どもへの援助を知った直後に話し始めると、過去の結婚や相手の性格まで責めやすくなります。
月に一度、20分だけ家計を見る時間を決めます。
扱う内容は四つで十分です。
- 今月の共同生活費はいくらだったか
- 予定外の支出があったか
- 来月に大きな支払いがあるか
- 現在の分担を変える必要があるか
話が過去の不満へ広がったら、その日は家計だけに戻します。
「前の結婚の話を否定したいわけではないよ。今日は、来月の生活費と子どもへの援助だけ決めたい」
一度決めた分担も固定ではありません。退職、病気、介護、収入減があれば変えます。
毎月見直せると分かっていれば、最初から完璧な仕組みを作る必要はなくなります。
お金を管理され、生活できない状態は家計の工夫だけで解決しません
支出の考え方が違う、貯金額を話したくないという段階なら、項目を分けて話す余地があります。
しかし、次の状態は、単なる家計管理の違いとして済ませないでください。
- 通帳やカードを取り上げられ、自由に使えるお金がない
- 必要な生活費や医療費を渡してもらえない
- 仕事を辞めるよう強要される
- 相手名義の借金や保証契約を迫られる
- 支出を尋ねると怒鳴る、脅す、暴力を振るう
- 自分の貯金が無断で使われている
生活費を渡さない、仕事を制限するといった行為は、経済的な暴力として扱われる場合があります。
一人で通帳を取り返したり、密室で相手を問い詰めたりすることに危険を感じるなら、安全な場所から配偶者暴力相談支援センターなどへ状況を伝えてください。
全国共通のDV相談ナビは「#8008」です。今まさに暴力や脅迫があり、身体に危険がある場合は110番を優先します。
今夜は、生活費に入れる項目だけ二人で決めます
預金残高をすべて見せることも、相続の結論を出すことも、今夜一度にする必要はありません。
まず、二人の共同生活費に含めるものを決めます。
住居費、食費、光熱費、日用品、二人で使う交通費。
この五項目の先月分を合計し、次に話す時間を決めてください。
切り出す言葉は、次の程度で構いません。
「全部のお金を一つにするかは後で考えたい。まず、二人で暮らすために毎月いくら必要かだけ、今週末に20分見ない?」
個人のお金を残しながらでも、夫婦の家計は作れます。
互いの資産を支配するのではなく、共同生活に必要な負担と、守りたいお金を同じ言葉で説明できること。それが、再婚後の家計を落ち着かせる最初の土台になります。
















