市役所のホームページで「空き家バンク」という文字を見つけた。
登録料はかからないらしい。自治体が関わるなら、一般の不動産会社へ売却を頼むより安心なのではないか。家族のグループLINEへURLを送ると、「それで実家を売ればいいんじゃない」と返事が来ました。
けれども、家の名義は亡くなった父のままです。室内には家具や衣類が残り、台所の床も少し沈みます。売るのか貸すのかさえ、きょうだいで話がまとまっていません。
この状態で登録だけを急ぐと、物件を見たい人が現れてから、名義、片付け、修繕、契約条件を一度に決めることになります。
空き家バンクを利用する前に必要なのは、立派な紹介写真ではありません。誰が、どの状態の家を、どの条件で手放すのかを家族で確かめることです。
空き家バンクは、自治体が家を買い取る制度ではありません
空き家バンクは、売りたい・貸したい空き家の情報を登録し、買いたい・借りたい人へ紹介する仕組みです。
自治体が直接家を買い取ったり、入居者になったりする制度ではありません。登録したからといって、必ず買い手や借り手が見つかるわけでもありません。
国土交通省が案内する「全国版空き家・空き地バンク」では、参加自治体が登録した物件を、自治体をまたいで検索できます。ただし、実際の登録条件や利用方法は、それぞれの自治体が定めています。
自治体によっては、次のような違いがあります。
- 売却物件だけを扱うか、賃貸物件も扱うか
- 市外から移住する人だけを利用対象とするか
- 不動産会社や宅建協会が現地調査や仲介を行うか
- 所有者と利用希望者が直接交渉するか
- 老朽化した家や大規模修繕が必要な家を登録できるか
- 家財が残った状態でも掲載できるか
全国版のサイトで物件を探すだけなら利用者登録が不要でも、問い合わせや内覧の段階で、自治体の利用登録を求められる場合があります。
空き家バンクは「自治体が品質と取引を保証する不動産店」ではなく、地域の空き家と利用希望者を結び付ける入口です。登録後の調査、交渉、契約を誰が担うかは、自治体の制度要綱で確かめます。
登録申請の前に「売る・貸す・保留」のどれかを決めます
家族の中で「空き家バンクを使おう」という話が一致していても、売却と賃貸では、その後の責任が大きく異なります。
| 方針 | 得られること | 先に考えること |
|---|---|---|
| 売る | 管理や固定資産税など、将来の負担を手放しやすい | 売却価格、名義、境界、税金、家財処分、引渡し条件 |
| 貸す | 家を残しながら賃料収入を得られる可能性がある | 修繕、貸主の責任、家賃管理、入居後の対応、将来の返還 |
| 当面保留する | 家族の意見や相続手続きを整える時間を持てる | 定期点検、換気、庭木、保険、防犯、近隣への影響 |
「誰かが将来住むかもしれない」という話が出ているなら、誰が、いつ頃、どの程度の確率で住むのかまで聞きます。
時期の決まっていない可能性だけで家を残すと、管理費や老朽化だけが積み重なることがあります。
反対に、親御さんがまだ家へ戻る可能性がある、施設入居が一時的である、家財の処分に本人が同意していないといった事情があれば、急いで売却へ進めない方がよい場合もあります。
名義が亡くなった方のままなら、物件写真より登記を先に見ます
実家を相続したものの、登記簿上の所有者が親御さんや祖父母のままになっているケースがあります。
空き家バンクへの登録書類では、登記事項証明書、固定資産税の書類、本人確認書類などを求められることがあります。具体的な必要書類は自治体ごとに異なります。
相続した不動産を売却し、買主へ所有権を移すには、原則として相続登記を済ませる必要があります。
2024年4月から相続登記は義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が原則です。2024年4月より前に発生した相続で未登記の不動産にも、期限が設けられています。
まず登記事項証明書で、次の点を見ます。
- 現在の所有者は誰になっているか
- 土地と建物の名義が一致しているか
- 共有者がいるか
- 抵当権などの権利が残っていないか
- 登記されていない増築部分や建物がないか
共有名義の家全体を売却する場合は、原則として共有者全員の合意が必要です。
きょうだいの一人が管理を担当していても、その人だけの判断で売れるとは限りません。親族間の意見がまとまっていない段階では、空き家バンクへ掲載する前に、所有者と売却意思を明らかにします。
自治体の登録要綱では、六つの条件を読みます
自治体の空き家バンクページを開くと、制度説明のほかに「実施要綱」「登録申込書」「利用案内」などが掲載されています。
文章が硬くても、最初から全部を読み込む必要はありません。次の六つを探してください。
- 登録できる人:所有者本人に限るのか、委任を受けた家族も申請できるのか
- 登録できる建物:居住可能性、老朽度、違反建築、差押えなどに条件があるか
- 現地調査:自治体職員や提携する不動産事業者の確認があるか
- 契約方法:自治体が紹介する仲介業者を使うのか、当事者間で進めるのか
- 登録期間:掲載期間、更新方法、取り下げ方法はどうなっているか
- ほかの売却活動:一般の不動産会社との併用が認められるか
自治体によっては、固定資産税などを滞納していないことや、反社会的勢力に関係していないことなどを条件にしている場合があります。
「空き家なら何でも載せてもらえる」と考えず、家がある自治体の要綱を基準にしてください。
登録料が無料でも、取引全体が無料になるわけではありません
空き家バンクの登録や掲載に料金がかからない自治体はあります。
ただし、家を売る・貸すための費用まで、すべて自治体が負担するわけではありません。
状況によって、次の費用が発生します。
- 不動産会社へ支払う仲介手数料
- 相続登記や所有権移転に関する費用
- 境界確認、測量、未登記部分の手続きにかかる費用
- 家財の片付け、廃棄、清掃費
- 雨漏り、給排水、電気設備などの修繕費
- 建物状況調査や耐震診断の費用
- 売却によって利益が出た場合の税金
- 賃貸する場合の管理、保険、入居者対応の費用
自治体によっては、家財処分、改修、耐震化、移住者の取得費などに補助制度を設けています。
ただし、工事を始めた後では申請できない制度もあります。「補助が出るらしい」と聞いて先に契約せず、対象者、対象工事、申請時期、予算の残りを自治体へ確かめてください。
家財処分と修繕は、登録の可否が分かってから動きます
見栄えを良くしようとして、掲載前に家財をすべて処分し、水回りを改修する方もいます。
けれども、費用をかけた分だけ高く売れるとは限りません。
買い手が自分の好みに合わせて改修したい場合もあります。古い台所を新品に交換しても、その費用を売却価格へ上乗せできないことがあります。
先に行うのは、大規模なリフォームではなく、次の三段階です。
1.危険な部分を見つける
屋根材の落下、床の大きな沈み、漏電、ガス漏れ、崩れそうな塀など、内覧者や近隣へ危険を及ぼす部分を見ます。
2.家の状態を把握する
雨漏り、シロアリ、給排水、傾き、腐食、設備の故障など、分かっている問題を一覧にします。
3.どこまで片付けるかを決める
貴重品、通帳、権利証、写真、仏壇など、家族の判断が必要なものを先に分けます。大型家具を残したまま引き渡せるかは、自治体や相手方との条件によります。
そのうえで、現状のまま登録するのか、最低限の清掃だけするのか、修繕してから募集するのかを判断します。
古い家の傷みは、隠すより先に伝えた方が話が進みます
「雨漏りを言ったら誰も買ってくれない」と考え、問題を小さく見せたくなることがあります。
しかし、引渡し後に説明されていない問題が見つかれば、修理費や契約条件をめぐる争いにつながります。
分かっている不具合は、仲介する不動産会社や利用希望者へ伝えてください。
- 雨漏りや水染みがある場所
- シロアリ被害や腐食の履歴
- 井戸、浄化槽、私道などの利用条件
- 給湯器、配管、電気設備の故障
- 増築や改修を行った時期
- 隣地との境界や越境の問題
- 過去の災害被害や修繕履歴
建物の状態が分からない場合は、建物状況調査の利用も検討できます。
建物状況調査は、講習を修了した建築士が、国の基準に沿って既存住宅の状態を調べる仕組みです。すべての欠陥を保証するものではありませんが、売主と買主が現在の状態を共有する材料になります。
自治体が契約トラブルを引き受けるとは限りません
空き家バンクへ掲載されていると、「自治体が価格を決め、契約内容も保証してくれる」と思うかもしれません。
実際には、自治体は情報提供や連絡の取り次ぎまでとし、価格交渉や契約には関与しない制度もあります。
一方で、地域の宅建協会や不動産会社と連携し、媒介を受ける仕組みもあります。
登録前に、自治体へ次のように聞いてください。
「登録後、内覧の調整、価格交渉、重要事項の説明、契約書の作成は、誰が担当しますか。仲介手数料は発生しますか」
当事者同士で契約を進める制度であっても、不動産取引に慣れていない家族だけで、契約書をインターネットから拾って済ませるのは慎重に考えた方がよいでしょう。
売買価格、引渡し日、家財、修繕、境界、設備、契約解除など、後で問題になりやすい内容を契約書へ落とし込む必要があるからです。
利用希望者が現れたら、価格より先に利用目的を聞きます
問い合わせが来ると、「逃したら次はないかもしれない」と急いで決めたくなります。
しかし、家の使い方によって必要な改修や契約条件が変わります。
売却・賃貸の話を進める前に、次の点を確かめます。
- 自宅、別荘、店舗、事務所など、何に使う予定か
- 改修工事を誰の費用で行うか
- 家財を残すか、撤去するか
- 土地、倉庫、農地、駐車場をどこまで含めるか
- いつから利用したいか
- 現状の不具合を理解しているか
農地が付いている物件、店舗へ用途変更したい物件、接道や再建築に問題がある物件では、別の許可や調査が必要になることがあります。
「空き家バンクに載っていたから、その目的に使える」とは限りません。希望する使い方が可能かは、自治体の建築・農政などの担当窓口や専門家へ分けて確かめます。
貸す場合は、入居後も所有者の役割が残ります
家を売らずに貸せば、将来また家族で使えるように思えます。
ただし、賃貸では入居後も貸主としての対応が続きます。
- 雨漏りや設備故障が起きたときの修理
- 家賃の受け取りと滞納時の対応
- 火災保険や施設賠償に関する備え
- 庭木、浄化槽、井戸などの管理分担
- 退去時の原状回復と残置物の扱い
- 家族が再び使いたくなった場合の契約終了条件
とくに「数年後に子どもが住むかもしれない」という場合は、契約期間と更新方法を曖昧にしないでください。
普通借家契約と定期借家契約では、期間満了時の扱いが異なります。家族の希望だけで入居者へ退去を求められるとは限らないため、契約前に宅地建物取引業者などへ内容を確かめます。
家族には「登録してよい?」ではなく、三つに分けて聞きます
実家には、金銭的な価値だけでは測れない思いがあります。
処分したい気持ちと、親の家をなくしたくない気持ちが同時に出ることもあります。
一度の家族会議で、売却まで決める必要はありません。話題を三つに分けます。
- 今後、誰かが住む具体的な予定はあるか
- 現在の管理を誰が、いつまで続けられるか
- 売る場合と貸す場合のどちらを調べるか
話を切り出すときは、次のように伝えられます。
「今日は家を売ると決めたいわけではない。空き家バンクに登録できる状態か、費用がどのくらいかかるかだけ調べたい」
遠方に住むきょうだいとは、現地へ行っている人の負担が見えにくくなります。
庭木の手入れ、郵便物の回収、近隣対応、交通費なども共有し、登録後に誰が内覧へ立ち会うかまで決めておくと、一人へ負担が集中しにくくなります。
危険な空き家は、登録審査を待たずに対応します
空き家バンクへの登録を検討していても、次の状態がある場合は通常の準備とは分けます。
- 屋根、外壁、塀などが落下しそうになっている
- 雨漏りや漏水が広がっている
- 不審者の侵入やごみの不法投棄がある
- 庭木や枝が道路、隣家へ大きくはみ出している
- 自治体から管理について指導や通知が届いている
- 台風や大雪で周辺へ被害を出すおそれがある
適切な管理がされていない空き家は、市区町村から「管理不全空家」や「特定空家」として指導などの対象になる場合があります。
指導後も改善されず勧告を受けると、敷地に適用されていた固定資産税などの住宅用地特例を受けられなくなることがあります。
危険箇所があるときは、自治体の空き家担当窓口へ状態を伝え、必要に応じて建築、修繕、解体などの担当先を確かめてください。
今日は、空き家がある自治体の登録要綱を一枚だけ開きます
今夜、売るか貸すかまで決めなくて構いません。
空き家がある市区町村名と「空き家バンク」を検索し、自治体の公式ページを開いてください。
そこで、次の三つだけ見つけます。
- 所有者側の登録条件
- 現地調査と契約を担当する人
- 申請前に必要な書類
登録申込書を提出するのは、その後です。
名義が古い、家族の同意がない、建物の状態が分からない。そのうち一つでも当てはまれば、まず該当する問題だけを扱います。
空き家バンクへ登録するかどうかは、制度の名前ではなく、家族が引き受けられる条件が見えてから決められます。


















