病院から帰る途中、医師に言われた言葉が頭から離れない。
「今すぐではありませんが、ご家族で今後のことも話しておいてください」
親御さんはまだ会話もでき、食事も取れています。その状態で葬儀社を調べることに、どこか後ろめたさを感じる方もいるでしょう。
まだ生きている人の葬儀を考えるなんて、縁起でもない。本人に知られたら、見放されたと思われるかもしれない。
一方で、何も決めないまま急な日を迎えたら、病院から搬送先を尋ねられ、金額も内容も分からない葬儀社へ電話することになります。
事前相談の目的は、亡くなる日を待つことではありません。気持ちが追いつかない状況で、決めなくてよいことを減らしておくことです。
事前相談は「葬儀社を決めること」ではありません
葬儀社へ連絡すると、そのまま申し込みや契約になるように感じるかもしれません。
しかし、事前相談には段階があります。
| 段階 | 行うこと | その場で決めなくてよいこと |
|---|---|---|
| 情報を聞く | 対応地域、搬送先、安置施設、葬儀形式などを尋ねる | 葬儀社の決定、具体的なプラン |
| 見積もりを取る | 人数や日程を仮定し、費用の内訳を出してもらう | 正式な参列人数、祭壇、料理の数量 |
| 会員登録・契約をする | 会費、積立金、割引、解約条件などに同意する | 納得できなければ契約自体を見送れる |
最初の電話で、次のように伝えれば十分です。
「家族が療養中ですが、まだ葬儀社を決める段階ではありません。もしものときの搬送と、おおよその費用だけ聞きたいです」
この一言で、契約を前提としない情報収集だと伝えられます。
事前相談をした葬儀社へ、必ず依頼しなければならないわけではありません。ただし、申込書への署名、会費や預り金の支払いを求められた場合は、相談ではなく契約に進んでいないかを確かめてください。
「早すぎるか」より、急な日に電話できる状態かを見ます
事前相談に決まった時期はありません。
本人が元気なうちに調べる方もいれば、入院や施設入所をきっかけに調べ始める方もいます。
現在の状況によって、準備する範囲を変えます。
本人も家族も元気な段階
近隣の葬儀社、利用できる斎場、地域の火葬場を調べる程度で構いません。
家族葬、一日葬、火葬のみの葬儀など、名称だけでなく内容の違いを知っておくと、後から話し合いやすくなります。
入院や療養が続いている段階
二、三社へ同じ条件で見積もりを依頼し、24時間連絡できる番号を控えます。
病院や施設から、亡くなった後の搬送先を早めに決めるよう求められる場合があるため、第一候補と第二候補があるだけでも慌てにくくなります。
医師から状態が厳しいと説明された段階
搬送先、安置場所、連絡する家族、菩提寺など宗教者への連絡方法を具体的にします。
葬儀の装飾や料理まで決める必要はありません。亡くなった直後に必要になることを優先します。
電話する前に、仮の葬儀を一つ作ります
葬儀社へ「家族葬はいくらですか」と尋ねても、はっきりした金額が出ないことがあります。
家族葬には、全国共通の人数や内容が決められているわけではないからです。
比較するためには、仮の条件を同じにします。
- 参列者は家族・親族を合わせて10人程度
- 通夜と告別式を行う二日間の葬儀
- 病院から安置施設までの搬送を依頼
- 安置は三日間と仮定
- 宗教者を呼ぶ予定
- 料理は通夜10人分、告別式10人分
- 返礼品は10個
この条件を伝え、同じ内容で二、三社へ見積もりを頼みます。
「実際の日程や人数は未定ですが、この条件で総額の見込みと、含まれない費用を出してください」
形式を決められない場合は、二日間の家族葬と一日葬の二通りを作ってもらう方法があります。
広告の「家族葬〇万円」だけでは総額を判断できません
国民生活センターには、広告で見た価格より高いプランを案内された、見積書に明細がない、葬儀後に追加費用が発生したといった相談が寄せられています。
葬儀費用は、大きく分けると次のような項目から成り立ちます。
- 祭壇、棺、遺影、運営スタッフなど葬儀プランの費用
- 病院などから安置場所までの搬送費
- 安置施設、ドライアイス、納棺などの費用
- 式場、火葬場、霊柩車などの費用
- 料理、飲み物、返礼品など人数で変わる費用
- 宗教者へのお礼や戒名など、葬儀社の見積もりに含まれないことがある費用
低価格のプランに、火葬料、搬送、安置、料理などが含まれていなければ、最終的な支払いは大きく変わります。
見積書を受け取ったら、最低でも次の三つへ分けてください。
最初から必ず発生する費用
人数や日数によって変わる費用
見積もりに含まれていない費用
搬送と安置の料金は、事前に具体的な数字で聞きます
亡くなった直後に最初に必要になるのは、葬儀会場ではなく、ご遺体の搬送と安置です。
ここが曖昧だと、搬送を頼んだ後で想定外の金額になることがあります。
事前相談では、次の質問をします。
- 深夜・早朝・休日でも連絡できるか
- 病院や施設からの搬送は何キロまで基本料金に含まれるか
- 深夜料金、高速料金、待機料金があるか
- 自宅で安置できない場合、どこへ運ぶのか
- 安置室は一日いくらか
- 家族が面会できる時間と、面会料の有無
- ドライアイスは何日分が含まれ、追加は一日いくらか
- 火葬日が延びた場合、追加費用が一日いくら増えるか
「搬送無料」と書かれていても、距離や時間帯、依頼条件が設定されている場合があります。
口頭の説明だけでなく、料金表や見積書に書いてもらってください。
搬送を頼むことと、葬儀一式を契約することを分けます
実際に亡くなった後は、病院や施設から搬送を急ぐよう求められることがあります。
その状況で葬儀社へ電話すると、搬送と葬儀一式の申し込みを同時に進める場合があります。
依頼前に、次のように聞いてください。
「今日は搬送と安置までをお願いし、葬儀内容は見積もりを見てから決めることはできますか」
分けられる場合は、搬送・安置だけの費用と、キャンセルや他社へ移す場合の費用を確認します。
分けられないと言われた場合も、何を申し込む契約なのか、総額はいくらになるのかを聞かずに進めないでください。
急いでいる場面ほど、家族一人だけで電話や打ち合わせを担当すると、説明を覚えきれません。可能であれば、もう一人に同席してもらい、聞いた内容を残します。
家族葬・一日葬・火葬式は、名前ではなく中身を比べます
「家族葬なら安い」「一日葬なら半額になる」とは限りません。
家族葬は参列者を家族や近しい人に限定する考え方ですが、通夜と告別式を行うこともあります。
一日葬は、一般的に通夜を行わず、一日で告別式や火葬を行う形式です。火葬式・直葬は、通夜や告別式を行わず、安置後に火葬を行う形式として案内されることがあります。
ただし、葬儀社によって名称と含まれるサービスが異なります。
形式名ではなく、次のことを尋ねます。
- 通夜を行うか
- 告別式を行うか
- 宗教者を呼べるか
- 家族が故人と過ごす時間を持てるか
- 何人まで想定したプランか
- 式場、火葬、安置のどこまで含まれるか
菩提寺がある場合は、一日葬や火葬のみの形式でよいか、事前に寺院へ尋ねておくと行き違いを減らせます。
見積書では「一式」と書かれた欄をそのままにしません
見積書に「葬儀一式」「祭壇一式」「運営費一式」とだけ書かれていたら、その中身を聞きます。
特に、次の項目を明細へ出してもらってください。
- 棺、骨壺、遺影、位牌などの品目
- 搬送車、霊柩車、送迎車の料金
- 式場使用料と控室使用料
- 安置、ドライアイス、納棺の料金
- スタッフの人数と追加人件費
- 料理と返礼品の単価
- 火葬料、休憩室など公営・民営施設へ支払う費用
- 支払い方法と支払期限
金額がまだ決まらない項目は、「未定」ではなく、一般的な数量でいくらになるかを出してもらいます。
「この見積もりから最終請求が増えるとすれば、どの項目が、どの程度増える可能性がありますか」
この質問に具体的に答えられるかも、葬儀社を比べる材料になります。
無料相談のあとに会員制度を勧められたら、契約書を持ち帰ります
事前相談では、入会すると葬儀費用が割引になる会員制度を案内されることがあります。
入会金だけを支払う制度もあれば、毎月積み立てる冠婚葬祭互助会もあります。
互助会の積立金は、一般に葬儀の基本的な役務へ充てる仕組みであり、料理、返礼品、追加の安置など、すべての費用を賄えるとは限りません。
契約前に、次を確かめます。
- 積立総額と、葬儀時に受けられる内容
- 積立とは別に支払う可能性がある費用
- 利用できる葬儀会館と地域
- 本人以外の家族も使えるか
- 転居した場合の扱い
- 解約手数料と返金額
- 契約者が亡くなった後の名義変更
「今日入会すれば割引になる」と言われても、その場で署名する必要はありません。
「相談だけのつもりで来ました。契約書と見積書を持ち帰り、家族と確認します」
これで構いません。
本人へ聞くのは、祭壇の種類より三つの希望です
親御さんへ葬儀の話を切り出すことに抵抗がある場合、細かい式次第から聞く必要はありません。
まずは、後から家族だけでは判断しにくいことへ絞ります。
- 宗教や菩提寺との付き合いをどうしたいか
- 誰に知らせてほしいか
- 家族だけで静かに行うか、友人や近所の人にも来てほしいか
切り出すときは、次のように伝えられます。
「葬儀を決めたいわけではないよ。急なときに、私たちが勝手に決めて後悔しないよう、連絡してほしい人だけ教えてほしい」
本人が話したくないと言ったら、その日は終えて構いません。
ご家族だけで葬儀社の情報を集め、緊急連絡先を控えることはできます。
説明の丁寧さは、見積金額と同じくらい見ます
事前相談では、建物の立派さや担当者の話し上手だけで決めないでください。
次のような対応があるかを見ます。
- 家族の人数、宗教、予算を聞いてから提案する
- 低価格のプランについても内容を説明する
- 見積書を紙やデータで渡す
- 含まれない料金と追加条件を先に説明する
- 契約を急かさず、家族で持ち帰ることを認める
- 搬送のみ依頼した場合の料金を答える
- 深夜や休日の連絡方法が明確である
反対に、「亡くなってみないと金額は出せない」「皆さんこのプランです」と説明を避ける、見積書を渡さない、今日中の入会を強く勧める場合は、ほかの葬儀社にも聞いてから判断します。
すでに亡くなり、葬儀社が決まっていないとき
事前相談が間に合わず、病院や施設から搬送先を尋ねられている場合もあります。
そのときは、すべてを比較しようとせず、最初の電話で次の四つを聞きます。
- いつ迎えに来られるか
- どこへ安置するか
- 搬送と一日分の安置でいくらか
- 葬儀契約は搬送後に見積もりを見て決められるか
病院や施設が葬儀社を紹介する場合でも、説明を受けたうえで家族が依頼先を考えます。
時間が許す範囲で二社へ電話し、少なくとも搬送・安置の料金を比べてください。
広告と大きく違う金額を提示された、明細を渡してもらえない、急かされて納得できない契約をしたなどの問題がある場合は、消費者ホットライン188から最寄りの消費生活相談窓口へつながります。
今日は一社だけに「搬送と安置の費用」を聞きます
今夜、葬儀社を決める必要はありません。
自宅や病院の近くにある葬儀社を一社選び、次のように電話します。
「事前相談です。病院からの搬送、三日間の安置、家族10人程度の葬儀を仮定した場合、最初に必要な費用と追加になりやすい費用を教えてください」
聞いた後は、次の三つだけ残します。
- 24時間連絡できる電話番号
- 搬送と安置の料金
- 見積もりに含まれない主な費用
相談したからといって、そこで葬儀を行うと決めたことにはなりません。
一社の説明を聞けば、二社目で何を比べればよいかが見えてきます。準備は、葬儀を待つことではなく、家族が追い詰められた状態で契約しないためのものです。















