施設から渡された見積書には、「月額14万円」と書かれている。
夫婦の年金は、二人合わせて月23万円。単純に引けば9万円残ります。
けれど、自宅の家賃や固定資産税はなくならない。電気代、食費、通院費、車の維持費も必要です。施設へ持っていく衣類や日用品、病院への付き添いにかかる交通費もあります。
計算するほど、自宅に残る自分が何を食べ、どう暮らせばよいのか分からなくなる。
「施設へ入る本人のために、私が我慢しなければ」と思う一方で、この生活が何年続くのかも見えません。配偶者を支えたい気持ちと、自分の暮らしまで壊したくない気持ちが同時に出るのは、おかしなことではありません。
この家計は、一人分の生活費が施設費へ置き換わるだけではありません。
施設と自宅、二つの生活を一つの年金と貯蓄で支える家計へ変わります。
施設費を払った「残り」で暮らそうとしないでください
家計を考えるとき、施設の請求額を先に引き、残ったお金を在宅側の生活費にする方法は危険です。
これでは、施設費が上がるたびに、自宅に残る配偶者の食費や医療費を削ることになります。
先に、二人それぞれの生活に必要な金額を出します。
夫婦の毎月の手取り収入 - 施設側の支出 - 自宅側の最低生活費 = 毎月の収支
収支がマイナスなら、その金額が貯蓄から毎月補う不足額です。
たとえば、夫婦の年金手取りが月23万円、施設側の支出が13万円、自宅側の最低生活費が12万円なら、毎月2万円不足します。
自由に使える貯蓄が240万円あれば、単純計算では10年分ですが、住宅修繕や医療などの予備費を80万円残すなら、生活費に使える160万円で計算します。
160万円 ÷ 2万円 = 80か月
約6年8か月が一つの目安です。これは将来を保証する数字ではありませんが、「何となく足りない」という状態から、いつ見直す必要があるかを考えられるようになります。
施設へ支払えるかだけでなく、残る配偶者が食事・医療・住まいを維持できるかまで含めて、入所後の家計を判断します。
施設の「月額」には、含まれていない費用があります
パンフレットに書かれた月額費用だけで、年間の支出を決めないでください。
施設の種類や契約によって、月額に含まれるものが違います。
| 費用の区分 | 確かめたい内容 |
|---|---|
| 介護サービスの自己負担 | 1割・2割・3割のどれか、加算を含む月額はいくらか |
| 居住費・家賃 | 部屋の種類、管理費、共益費を含むか |
| 食費 | 一日三食の金額、欠食・入院中の扱い |
| 医療費 | 診察、薬、歯科、通院時の費用 |
| 日用品 | 衣類、理美容、洗濯、ティッシュなど |
| 個別サービス | 通院同行、買い物代行、外出支援など |
| 入退所時の費用 | 入居一時金、敷金、退去費、原状回復費 |
施設には、次のように尋ねます。
「パンフレットの月額以外に、実際の入居者が毎月支払う費用を教えてください。通常の月、通院が多い月、入院した月の三つで見積もれますか」
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院などの介護保険施設と、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、契約や負担軽減制度の対象が異なります。
「介護施設だから同じ制度が使える」と考えず、施設名とサービス種別を市区町村へ伝えてください。
自宅に残る側の生活費は、入所前の半分にはなりません
一人暮らしになれば、食費や日用品は多少減るかもしれません。
しかし、住宅費、電気の基本料金、通信費、税金、保険、車の維持費などは、そのまま残ります。
配偶者の施設へ通う交通費や、これまで二人で分担していた家事を外部へ頼む費用が増えることもあります。
自宅側の最低生活費には、次の支出を入れます。
- 家賃、住宅ローン、固定資産税、管理費
- 食費、水道光熱費、日用品
- 健康保険料、介護保険料、税金
- 通院費、薬代、歯科費用
- 電話、インターネット、郵便
- 車、公共交通、施設へ通う交通費
- 住宅修繕や家電交換の積立
- 自宅側も介護サービスを利用する場合の費用
削減を考える場合も、食事、受診、冷暖房から先に減らさないでください。
ほとんど使っていない保険や有料サービス、車を二台所有している場合の維持費など、金額が大きく生活への影響が比較的小さい支出から見ます。
年金は「年額」ではなく、二人の実際の振込額を使います
夫婦の収入は、年金額改定通知書に書かれた額ではなく、口座へ実際に振り込まれている手取り額で計算します。
年金からは、介護保険料、医療保険料、税金などが差し引かれている場合があります。
年金は通常、二か月分ずつ振り込まれるため、一回の振込額を二で割ると、一か月分の手取り額を出せます。
夫婦それぞれについて、次の金額を並べてください。
- 本人の年金手取り額
- 配偶者の年金手取り額
- 企業年金、給与、家賃収入など
- 毎月ではない収入
年金が夫婦それぞれの口座へ入っている場合、誰の口座から何を支払うかも決めます。
認知症などで施設に入る本人が預金管理をできない場合でも、配偶者だから自由に本人名義の口座を操作できるとは限りません。暗証番号を聞き出して使い続けるのではなく、金融機関へ必要な手続きを尋ねてください。
お金は「施設・自宅・共通予備費」の三つに分けます
夫婦の貯蓄を一つの口座から使い続けると、どちらの生活にいくら使ったのか分からなくなります。
次の三つへ役割を分けると、見通しを立てやすくなります。
施設側の費用
施設利用料、医療、日用品、理美容、通院など、入所者本人の生活に使うお金です。
自宅側の生活費
自宅に残る配偶者の住居、食事、医療、交通などに使います。
夫婦共通の予備費
入院、住宅修繕、施設の変更、葬儀、引っ越しなど、時期や金額を読みにくい支出へ備えます。
口座を必ず三つ作るという意味ではありません。
通帳の横に「施設13万円・自宅11万円・予備費は使わない」と記載するだけでも、施設費が増えた月に何を見直すべきか分かります。
負担限度額認定は、食費・居住費を軽くする制度です
所得や預貯金等が一定以下の方が、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院などを利用する場合、食費・居住費の負担を軽減する「特定入所者介護サービス費」があります。
利用には、市区町村へ申請して負担限度額認定を受ける必要があります。
世帯全員が住民税非課税であることに加え、本人と配偶者の所得や預貯金等も判定に使われます。
施設入所を理由に住民票上の世帯を分けても、配偶者の所得や資産が自動的に判定から外れるわけではありません。
申請するときは、次のように伝えます。
「夫婦の一方が介護保険施設へ入所します。負担限度額認定の対象になるか、世帯分離している配偶者を含めた所得・預貯金の条件を教えてください」
2026年8月から、補足給付の一部について食費・居住費の負担限度額や基準費用額が変わります。7月以前に受け取った見積もりや認定内容は、施設または市区町村へ再確認してください。
課税世帯でも、残る配偶者の生活が苦しくなる場合の特例があります
夫婦のどちらかに住民税が課税されていると、通常の負担限度額認定の対象外になることがあります。
しかし、一方が介護保険施設へ入り、施設費を払うことで自宅に残る配偶者の生活が難しくなる世帯には、市町村民税課税層に対する特例減額措置が適用される可能性があります。
判定では、世帯人数、夫婦の収入、施設の年間負担額、預貯金等、保有資産、介護保険料の滞納などが見られます。
申請しなければ、市区町村が自動的に適用してくれるとは限りません。
窓口では制度名を伝えてください。
「夫が施設へ入ると、妻の自宅生活費がほとんど残りません。課税世帯向けの特例減額措置に該当するか、必要書類と計算方法を教えてください」
施設の契約書、夫婦双方の年金額、通帳や証券の残高、自宅以外の資産が分かる資料などを求められる場合があります。
この特例は、すべての有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅に適用される制度ではありません。入所する施設が対象かどうかも合わせて聞いてください。
高額介護サービス費では、施設の請求すべてが上限になるわけではありません
介護保険サービスの自己負担が所得区分に応じた月額上限を超えた場合、超過分が支給される「高額介護サービス費」があります。
ただし、食費、居住費、日常生活費などは、原則としてこの上限計算に含まれません。
施設の請求額が月15万円だからといって、その全額が高額介護サービス費の対象になるわけではない点に注意してください。
請求書を見ながら、施設または市区町村へ次の三つを聞きます。
- 高額介護サービス費の対象になる金額
- 対象外となる食費・居住費・日用品費
- 申請が必要か、すでに登録されているか
医療費と介護費の両方が大きい場合は、同じ医療保険の世帯内の年間自己負担を合算する「高額医療・高額介護合算制度」の対象になる可能性もあります。
夫婦が別の医療保険制度に加入している場合などは合算方法が異なるため、加入している医療保険者へ確認してください。
施設へ入った月だけでなく、一年後の家計を試します
入所直後は、衣類、家具、移動費などがかかります。一方で、数か月後に施設費が上がることもあります。
次の三つの家計を作ってください。
| 想定する月 | 入れる支出 |
|---|---|
| 通常の月 | 基本の施設費と自宅生活費 |
| 支出が多い月 | 通院、薬、衣類、家電、交通費など |
| 一年後 | 料金改定、要介護度の変化、自宅修繕、在宅側の介護費 |
介護老人保健施設など、在宅復帰を目指す施設では、長期入所を前提にしない場合があります。
退所後に自宅へ戻るのか、別の施設へ移るのかによって、必要な予備費も変わります。
「この施設には、どの程度の期間入る見込みですか。退所となる場合、次の住まいを探し始める目安はいつですか」
費用だけでなく、入所期間の見通しも施設やケアマネジャーへ聞いてください。
子どもへ援助を頼む前に、毎月の不足額と期間を示します
夫婦の年金と貯蓄だけでは足りず、子どもへ援助を頼むこともあります。
その際、「施設代が大変だから少し助けて」とだけ伝えると、子どもも、いくらをいつまで負担するのか判断できません。
先に次の内容を示します。
- 施設側の毎月の総額
- 自宅側の最低生活費
- 夫婦の手取り収入
- 公的制度を利用した後の不足額
- 貯蓄から補える期間
- 子どもに頼みたい金額と期間
「制度を申請した後も、毎月2万円足りない見込みです。まず半年間、一人1万円ずつ援助できるか、きょうだいで話してもらえないでしょうか」
子どもが金銭援助を難しいと言う場合は、施設との連絡、申請書類、通院同行など、別の役割を頼む方法もあります。
援助した金額は、誰が、いつ、何のために支払ったか記録しておくと、後の相続やきょうだい間の行き違いを減らせます。
支払いが難しくなったら、滞納する前に施設へ伝えます
施設費を払うため、自宅側が食事や薬を削っているなら、現在の契約をそのまま続けられる状態ではありません。
請求を滞納してからではなく、次回の支払日前に施設の相談員やケアマネジャーへ伝えてください。
「施設費を払うと、自宅に残る配偶者の家賃と生活費が不足します。未払いになる前に、利用できる制度、部屋の変更、費用を下げられる項目を一緒に確認したいです」
検討できる内容には、次のようなものがあります。
- 負担限度額認定や特例減額措置の申請
- 高額介護サービス費などの申請状況
- 部屋の種類や契約プランの変更
- 有料の個別サービスや日用品契約の見直し
- より費用負担の低い施設への変更
- 支払日の調整や分割が可能か
安い施設へすぐ移ればよいとは限りません。空き状況、医療対応、本人の状態、入居一時金の返還条件、退去費用も関係します。
その場で退去届や新しい契約へ署名せず、現在の月額、移転費、移転後の月額を並べてから判断してください。
今夜は、施設見積書に三つの印を付けます
今夜、入所するかどうかを最終決定する必要はありません。
施設の見積書を開き、各項目へ次の印を付けてください。
- 毎月必ずかかる費用
- 利用した月だけかかる費用
- 制度の対象か分からない費用
次に、自宅側で絶対に残したい金額を一つ出します。家賃または住宅費、食費、水道光熱費、医療費の合計です。
施設へは、次の一文を送ります。
「見積書のうち、高額介護サービス費や負担限度額認定の対象になる項目と、対象外の項目を分けて教えてください」
施設費を払った残りで暮らすのではありません。
施設で暮らす人と、自宅で暮らす人。二人の生活が続く金額を先に決め、その範囲に入る施設や制度を探します。今夜は、その計算に必要な請求項目を分けるところまでで十分です。


















