新しい職場へ入って三か月。
朝、作業着へ着替えたところで、玄関から動けなくなる。
仕事ができないわけではありません。頼まれたことは覚えたし、遅刻もしていない。それでも、立ち仕事が続く午後になると足腰が重くなり、帰宅後は食事をする気力も残っていません。
職場では年下の担当者から細かく指示を受けます。言い方に腹が立つ日もある。しかし、自分が以前の役職を引きずっているだけなのかもしれないと思うと、誰にも言えない。
退職を口にすれば、家族から「また辞めるの」と言われそうです。
一社目は半年、二社目は四か月。今回も辞めたら、自分にはもう働く力がないのではないか。そんな考えが浮かびます。
けれど、仕事が続かなかった事実だけでは、働く力がないとは判断できません。
定年前と同じ体力、役割、勤務時間を前提に仕事を選び、同じ無理が繰り返されている可能性があります。必要なのは根性を足すことではなく、どの条件なら生活を壊さずに働けるかを知ることです。
「何か月で辞めたか」より、辞めたくなった場面を見ます
次の求人を探す前に、退職理由を「職場が合わなかった」の一言で終わらせないでください。
最後に辞めたいと思った日の、具体的な場面を思い出します。
- 午後三時を過ぎると足腰が痛み、作業速度が落ちた
- 週三日の約束だったのに、毎週のように追加出勤を頼まれた
- 未経験の作業を、説明なしで一人へ任された
- 年下の上司から人前で強く注意された
- 通勤ラッシュだけで、仕事前に疲れてしまった
- 働いても交通費や昼食代を引くと、手元にほとんど残らなかった
ここまで具体的にすると、次に変える条件が見えてきます。
| 辞めたくなった主な理由 | 次の求人で変える条件 |
|---|---|
| 立ち仕事や重量物がきつい | 座り作業、重量物なし、連続作業時間が短い仕事を選ぶ |
| 勤務後に翌日まで疲れが残る | 一日四~五時間、週二~三日から始める |
| 急なシフト変更が多い | 固定曜日、固定時間、残業なしを条件にする |
| 仕事を教えてもらえない | 研修期間、担当者、独り立ちまでの流れを面接で聞く |
| 人前で叱責される | 職場見学で指示の出し方や会話の様子を見る |
| 通勤で消耗する | 自宅から30分以内、混雑時間を避ける勤務にする |
| 収入の割に負担が大きい | 手取りだけでなく交通費、食事代、勤務時間を含めて比べる |
一つの職場に長く勤めた経験がある人ほど、「以前はできたのだから、今回も慣れればできる」と考えます。
ただ、定年前の職場には、長年の経験、人間関係、慣れた通勤、仕事を調整できる立場がありました。初めての職場で同じように動けないのは、能力が急になくなったからとは限りません。
次の仕事選びでは「できる仕事」だけでなく、「翌日の生活まで保てる仕事」を探します。勤務中に耐えられても、帰宅後や休日が回復だけで終わるなら、条件が重すぎる可能性があります。
今の職場を辞める前に、変えられる条件を一つだけ頼みます
仕事内容そのものが嫌いではなく、勤務日数や作業量が原因なら、退職の前に一度だけ変更を申し出る方法があります。
「体力的にきついです」だけでは、職場側も何を変えればよいか分かりません。
続けられる条件を具体的に伝えます。
「週四日勤務では翌日まで疲れが残ります。来月から週三日へ変更できれば続けたいです」
「午後になると腰の痛みが強くなります。重量物の運搬を外し、仕分け作業を中心にできないでしょうか」
「口頭だけでは手順を覚え切れません。最初の一週間だけ、作業順を書いたものを見ながら進めさせてください」
頼んだからといって、必ず応じてもらえるわけではありません。
ただし、「変更できれば続けられるのか」「変更されても辞めたいのか」を自分でも見分けられます。
職場から拒まれた場合は、その場で言い争わず、雇用契約書や労働条件通知書を見直します。契約上の勤務日数、時間、仕事の内容と、実際の働き方が同じかを比べてください。
定年後の再就職では、空いている日をすべて勤務日にしない方が続きます
定年後は時間があるため、「週五日でも大丈夫」と考えやすくなります。
しかし、時間が空いていることと、体力が毎日回復することは同じではありません。
通院、家事、親や配偶者の支援、自治会、孫の世話などがあれば、勤務時間以外にも動く時間があります。
仕事を始める前に、一週間の中へ先に休む日を置きます。
- 勤務日の翌日に、連続して別の予定を入れない
- 通院日と勤務日を重ねない
- 週の途中に一日休みを入れる
- 朝が早い仕事なら、前日の夜の予定を減らす
- 最初の一か月は追加出勤を引き受けない
最初から週五日で働き、限界になって週二日へ減らすより、週二~三日から始め、余力があれば増やす方が職場にも説明しやすくなります。
「慣れたら日数を増やせる可能性はありますが、最初の二か月は週三日を希望します」
面接でこの希望を伝えた結果、採用されないことはあるでしょう。
それでも、採用されるために続けられない条件を受け入れれば、入社後に再び苦しくなります。
以前の役職を下ろすことと、自分を小さくすることは違います
定年前に部下を持っていた人が、再就職先では未経験者として働くことがあります。
年下の上司から指示され、以前なら自分が判断していたことまで許可を求める。仕事内容より、この立場の変化が苦しい場合もあります。
「年下に教わるのが嫌なのは、自分のプライドが高いだけだ」と責める必要はありません。
長く身についた仕事の進め方は、すぐには切り替わらないものです。
ただし、新しい職場では、以前の経験がそのまま正解になるとは限りません。
指示に疑問があるときは、過去との比較ではなく、現在の作業について聞きます。
「前の会社ではこうしていた」ではなく、「こちらでは、どの手順を優先すればよいですか」と尋ねます。
経験を生かしたい場合も、最初から改善を求めず、職場の方法を覚えた後に提案します。
一方、人前で侮辱する、年齢を理由に馬鹿にする、必要な説明を与えないといった扱いまで我慢する必要はありません。
仕事上の指導と、人格を傷つける言動は分けて考えてください。
面接では「できます」と答える前に、一日の流れを聞きます
求人票に「軽作業」「簡単な清掃」「シニア活躍中」と書かれていても、実際の負担は職場によって異なります。
軽作業でも、長時間立ち続けたり、階段を何度も上り下りしたりすることがあります。
応募前や面接では、次の内容を聞いてください。
- 立ち仕事と座り仕事は、それぞれ何時間ほどか
- 最も重い物は何キロ程度か
- 一人で行う作業と、複数人で行う作業
- 休憩の時刻と、作業途中で水分を取れるか
- 残業や休日出勤が発生する頻度
- 急なシフト変更を断れるか
- 研修期間と、仕事を教える人
- 欠員が出たとき、どの程度の応援を求められるか
尋ねにくい場合は、前の職場で困ったことを理由にします。
「前職では、求人票より重量物が多く続けられませんでした。こちらで扱う最も重い物と、持ち運ぶ回数を教えてください」
「固定曜日を希望しています。欠員時の出勤依頼を断った場合、勤務評価へ影響しますか」
可能であれば、職場見学も頼みます。
設備だけでなく、働いている人の歩く速さ、指示の出し方、休憩中の様子を見ると、求人票だけでは分からないことがあります。
労働条件通知書では、時給以外の六項目を見ます
採用が決まると、断りにくくなる前に契約内容を確かめます。
特に見るのは、次の六項目です。
- 契約期間と更新の有無
- 勤務する場所と仕事内容
- 始業・終業時刻、休憩、残業の有無
- 休日とシフトの決め方
- 賃金、交通費、締日、支払日
- 退職を申し出る方法と期限
「面接では週三日と聞いたが、書面では週五日になっている」「清掃で応募したのに、品出しも含まれている」といった違いがあれば、署名前に尋ねます。
「面接では週三日勤務と伺いました。書面では週五日になっているため、合意した内容へ修正してから受け取りたいです」
雇われた後に仕事内容や勤務時間が求人票と違うと分かった場合は、実際の勤務日、時間、指示された作業を記録してください。
ハローワークの求人であれば、求人票と実際の条件が違うことを最寄りのハローワークへ申し出られます。賃金、雇止め、解雇、いじめ・嫌がらせなどの労働問題は、都道府県労働局の総合労働相談コーナーでも扱っています。
体力の問題は、働けない証明ではなく仕事を選ぶ条件です
以前なら何でもなかった段差でつまずく、暗い倉庫で足元が見えにくい、重い物を持った後に腰痛が続く。
こうした変化を、気持ちだけで乗り越えようとすると、仕事を続ける前にけがをすることがあります。
高年齢の労働者は、加齢に伴う筋力、平衡感覚、視認性などの変化によって、転倒時のけがが重くなりやすいとされています。
次の状態がある場合は、勤務条件の変更や受診を考えてください。
- 勤務中に何度もつまずく、転ぶ
- 帰宅後も強い腰痛や膝痛が続く
- 動悸や息切れで作業を止めることが増えた
- 眠れない、食べられない状態が続く
- 出勤前になると吐き気や強い動悸が出る
- 服薬後に眠気やふらつきがある
急な胸の痛み、強い息苦しさ、意識がおかしい、片側の手足が動かしにくいなど、命や身体に関わる症状がある場合は、勤務を続けず119番など緊急の対応を優先します。
「今の仕事を続けられるか」だけでなく、「避けた方がよい動作や勤務時間があるか」を医療機関へ聞くと、次の仕事選びにも使えます。
家族には「また辞めたい」ではなく、次に変える条件まで伝えます
退職を繰り返していると、家族へ話すことが苦しくなります。
家族も、生活費や今後の見通しが分からず、つい「少しは我慢できないの」と言うことがあります。
本人のつらさと、家族の心配は、どちらも現実です。
話すときは、退職の気持ちだけでなく、今回分かったことを伝えます。
「仕事が嫌だから辞めたいのではありません。週五日の立ち仕事では、帰宅後に生活できない状態です。職場へ週三日への変更を頼み、難しければ次は座り作業と通勤30分以内に絞ります」
生活費が心配なら、辞めた後の期間も決めます。
「退職する場合は、まずハローワークで雇用保険と求人を確認します。次の仕事が決まるまで、何か月なら家計が持つか一緒に見てほしいです」
家族に就職先を決めてもらう必要はありません。
ただ、収入が家計に関係するなら、退職日、次の収入、毎月必要な金額は共有した方が、感情だけの言い争いになりにくくなります。
次の仕事は、求人サイトだけで探さなくて構いません
同じ方法で似た求人へ応募すると、同じ条件の職場を選びやすくなります。
概ね60歳以上の求職者は、ハローワークの「生涯現役支援窓口」で、職業生活の経験や希望を踏まえた就職支援を受けられます。在職中でも利用できるため、辞める前に次の条件を相談することも可能です。
窓口では、次のように伝えます。
「定年後に二つの仕事を辞めました。どちらも長時間の立ち作業が理由です。週三日、座り作業を含む仕事に絞りたいので、求人票の見方も一緒に考えてください」
シルバー人材センターでは、地域の臨時的・短期的な仕事や、比較的軽い仕事を扱っています。
ただし、センターを通した仕事には、請負、委任、派遣、職業紹介など複数の形があり、すべてが一般的な雇用契約とは限りません。
登録前に、賃金なのか配分金なのか、労災や保険の扱い、仕事量が毎月安定しているかを聞いてください。
「生活費として毎月決まった収入が必要です。この仕事は雇用契約ですか。月に何日程度の仕事が見込めますか」
収入を優先するのか、生活リズムや人とのつながりを優先するのかによって、選ぶ働き方は変わります。
退職を決めたら、離職票と雇用保険を後回しにしません
仕事を辞めた後も働く意思がある場合は、離職票を受け取り、早めに住所地を管轄するハローワークへ確認してください。
雇用保険の給付は、年齢、加入期間、離職理由、すぐに働ける状態かどうかなどによって扱いが変わります。
65歳未満の方は基本手当、65歳以上で高年齢被保険者だった方は高年齢求職者給付金の対象になる可能性があります。ただし、働く意思がない場合や、加入期間などの要件を満たさない場合は支給されません。
自己判断で「短期間しか働いていないから対象外」と決めず、次の資料を持って尋ねます。
- 離職票
- 雇用保険被保険者証
- 雇用契約書または労働条件通知書
- 給与明細
- 退職理由が分かる記録
求人票と実態が違った、契約更新を断られた、健康上の事情で辞めたなど、離職理由に関係する事情がある場合は、その内容も伝えてください。
今夜は、求人検索の条件を一つだけ変えて保存します
今夜、新しい仕事へ応募する必要はありません。
最後の職場で最もつらかった場面を一つ選び、それを求人条件へ変えます。
立ち仕事が原因なら「座り作業あり」。疲労が原因なら「週三日・一日五時間以内」。通勤なら「自宅から30分以内」。急な勤務が負担なら「固定シフト」です。
求人サイトやハローワークの検索画面へ、その条件を一つ入れて保存してください。
条件を増やすと求人数は減ります。
それでも、応募できる仕事の数より、三か月後も生活を保ちながら続けられる仕事が一つ見つかる方が意味があります。
辞めた回数は変えられません。しかし、辞めた理由を次の条件へ使うことはできます。
次の仕事では、前回より一つだけ無理を減らす。そこからで構いません。


















