市役所から届いた固定資産税の納税通知書を開き、「人が住んでいない家に、いつまでお金を払い続けるのだろう」と手が止まる。
実家には、親御さんが使っていた家具や食器が残ったままです。売ると決めたわけでも、誰かが住む予定があるわけでもありません。
一方で、解体すれば税金が高くなるという話も聞きます。放置しても税金が上がり、壊しても上がるのなら、どう動けばよいのか分からなくなります。
空き家の問題が進みにくいのは、家への思いだけが理由ではありません。
税金、解体費、相続、家財、きょうだいの意見、売れるかどうか。別々に考えるべき問題が、一つの古い家の中に詰まっているからです。
まずは「今すぐ売るか、壊すか」を決めなくて構いません。先に、固定資産税がどのように計算され、どの状態になると負担が変わるのかを分けて見ていきます。
「空き家になったら固定資産税が上がる」とは限りません
住宅の固定資産税は、大きく分けると土地にかかる税金と家屋にかかる税金があります。
誰も住まなくなった後も、土地と家屋を所有している限り、原則として固定資産税はかかります。ただし、空き家になったという理由だけで、翌年から自動的に何倍にもなるわけではありません。
住宅が建っている土地には、「住宅用地の課税標準の特例」が適用されることがあります。
| 土地の区分 | 固定資産税の課税標準 | 都市計画税の課税標準 |
|---|---|---|
| 小規模住宅用地 住宅一戸につき200平方メートル以下の部分 |
価格の6分の1 | 価格の3分の1 |
| 一般住宅用地 200平方メートルを超える部分 |
価格の3分の1 | 価格の3分の2 |
都市計画税は、対象となる区域の土地や家屋に課税される税金です。空き家の所在地によっては課税されていないこともあります。
ここで気をつけたいのが、「特例が外れると固定資産税が必ず6倍になる」という説明です。
6分の1になるのは、土地の評価額そのものではなく、税額を計算する基礎となる課税標準です。実際の納税額は、土地の面積、評価額、負担調整措置、都市計画税、家屋分の税額などによって変わります。
したがって、特例が外れても、納税通知書の合計額が一律に6倍になるとは限りません。
空き家の税金を考えるときは、「現在の土地分」「現在の家屋分」「住宅用地特例が外れた後の土地分」を分けて比べます。インターネット上の“最大6倍”という言葉だけでは、実際の負担は判断できません。
納税通知書では、合計額より先に四つの欄を見ます
固定資産税の納税通知書には、土地と家屋が複数まとめて記載されていることがあります。
実家以外にも土地や建物を所有している場合、通知書の合計額だけを見ても、その空き家にいくらかかっているのか分かりません。
まず、課税明細書や資産明細書で次の四点を探します。
- 所在地:心配している空き家と土地が記載されているか
- 所有者または納税義務者:誰の名義として扱われているか
- 土地と家屋の課税標準額:土地分と建物分がそれぞれいくらか
- 年税額と納期限:今年支払う額と、次の支払期限はいつか
「住宅用地」「小規模住宅用地」などの記載が見つからない場合や、明細の意味が分からない場合は、空き家がある市区町村の固定資産税担当へ問い合わせます。
電話では、難しい説明をする必要はありません。
「納税通知書に載っている空き家について、現在、住宅用地の特例が適用されているか確認したいです。解体した場合の土地の税額も概算で教えてもらえますか」
自治体によって回答できる範囲は異なりますが、現在の課税状況や、一般的な計算の考え方は確認できます。
納期限が近いのに支払いが難しい場合は、空き家の処分を決めるまで通知書を放置するのではなく、期限前に納税担当へ連絡してください。売却や解体を予定していても、すでに課税された税金が自動的に止まるとは限りません。
住宅用地の軽減が外れるのは「空き家だから」ではなく、状態と行政手続きが関係します
2023年12月に改正空家法が施行され、周囲に大きな危険を及ぼす「特定空家」だけでなく、その前段階に当たる「管理不全空家」も指導や勧告の対象になりました。
| 区分 | 考えられる状態 | 固定資産税への影響 |
|---|---|---|
| 通常の空き家 | 誰も住んでいないが、建物や敷地が管理されている | 空き家という理由だけで直ちに住宅用地特例が外れるわけではない |
| 管理不全空家 | このまま放置すると特定空家になるおそれがある | 市区町村の指導後も改善せず、勧告を受けると特例の対象外になる可能性がある |
| 特定空家 | 倒壊、衛生、景観、周辺環境への著しい悪影響がある | 勧告を受けると特例の対象外となり、命令や行政代執行へ進む場合もある |
管理不全空家や特定空家は、屋根が古い、庭に草が生えているといった一つの事情だけで機械的に決まるものではありません。建物や敷地の状態、周辺への影響などを自治体が総合的に判断します。
ただし、次のような状態をそのままにしている場合は、早めに現地を確かめた方がよいでしょう。
- 屋根材や外壁の一部が落ちている
- 柱、塀、物置などが傾いている
- 窓や扉が壊れ、外から入れる状態になっている
- ごみ、悪臭、害虫、害獣の問題が出ている
- 草木や枝が道路や隣地へ大きくはみ出している
- 近隣住民や自治体から連絡が来ている
- 郵便受けに行政からの通知が入ったままになっている
自治体から「指導」「改善依頼」「現地調査」「勧告」などの文書が届いている場合は、名称だけで判断せず、担当部署へ連絡してください。
「すぐに売却や解体を決められる状態ではありません。勧告に進まないために、いつまでに何を改善すればよいか教えてください」
連絡しただけで、解体を強制されたり、業者との契約が始まったりするわけではありません。まず、危険箇所の応急処置、草木の剪定、定期的な見回りなど、求められている対応を確かめます。
なお、勧告を受けていなくても、建物が構造上住宅と認められない状態になっている場合や、必要な管理が行われず今後居住する見込みがないと自治体が判断した場合などは、住宅用地として扱われない可能性があります。
解体すれば家屋分はなくなっても、土地分が増えることがあります
古い家屋に固定資産税を払い続けるくらいなら、早く壊した方がよいと思うかもしれません。
しかし、解体は税金だけを見て決めると、かえって負担が増えることがあります。
毎年1月1日時点で家屋が存在しなければ、原則として翌年度はその家屋に対する固定資産税がかかりません。一方、住宅がなくなった土地は、通常、住宅用地の特例を受けられなくなります。
つまり、次の二つが同時に起こる可能性があります。
- 家屋にかかっていた固定資産税はなくなる
- 土地にかかる固定資産税や都市計画税は増える
解体時期にも注意が要ります。
1月1日時点で家屋が残っていれば、その年度の家屋分の固定資産税は一般に課税されます。年の途中で解体しても、月割りで自治体から返金されるとは限りません。
解体を決める前に、少なくとも次の三つの金額を並べてください。
- 現在の土地・家屋の年税額
- 解体後に予想される土地の年税額
- 解体工事、家財処分、整地にかかる総額
自治体によっては、危険な空き家の解体費用や、解体後の固定資産税負担を軽減する独自制度を設けていることがあります。
ただし、補助制度は工事の契約や着工より前の申請を条件としている場合があります。先に解体業者と契約してから調べるのではなく、見積もりを取る段階で自治体の空き家担当へ問い合わせてください。
「残す・売る・貸す・壊す」は、税金だけでなく五年間の総額で比べます
固定資産税は毎年目に入るため、空き家にかかる費用の中心に見えます。しかし、実際には管理費、火災保険、草刈り、修繕、交通費なども積み重なります。
選択肢を比べるときは、今後一年ではなく、おおむね五年間でかかる費用と手間を見ます。
| 選択肢 | 先に確かめること | 見落としやすい負担 |
|---|---|---|
| 当面は残して管理する | 誰が見回るか、危険箇所、年間管理費、将来使う時期 | 修繕、草刈り、保険、遠方からの交通費 |
| 現状のまま売る | 名義、境界、残置物、需要、売却後の税金 | 測量、仲介、登記、家財処分、譲渡所得税 |
| 修繕して売る・貸す | 修繕後の価格や賃料、耐震性、接道、用途 | 工事しても価格や賃料へ反映されない可能性 |
| 解体して土地を売る | 解体費、土地の需要、解体後の税額、補助制度 | 家財処分、地中埋設物、整地、売れるまでの税金 |
| 家族が利用する | 利用開始時期、修繕費、名義、費用負担 | 「いつか使う」のまま年月だけが過ぎること |
売却査定が低かったからといって、すぐに解体へ進む必要はありません。建物付きで探す人、更地を探す人、隣地として取得したい人など、需要は地域によって異なります。
反対に、「思い出があるから残す」という判断も間違いではありません。ただし、その場合は「誰が、何年、いくらまで負担して残すか」まで決めます。
使う時期が決まっていないなら、まず一年間だけ管理するなど、期限を区切る方法もあります。
修繕や片づけは、家の出口を決めてからで構いません
空き家を何とかしようと思うと、最初に家財を全部捨て、屋根や水回りを直し、きれいにしてから査定を頼まなければならないように感じます。
しかし、出口が決まる前の大規模な片づけや改修は、かけた費用を回収できない場合があります。
現状のまま売却できる家もあれば、解体を前提に購入される土地もあります。家財を残した状態で相談できる不動産会社もあります。
先に行うのは、家を美しくすることではありません。
- 外から見て危険な箇所がないか確認する
- 水漏れ、漏電、ガス、火災につながる問題がないか見る
- 窓や扉を施錠する
- 郵便物を回収する
- 現在の状態を写真に残す
- 売却、賃貸、解体の可能性を一度ずつ聞く
雨漏りや塀の傾きなど、放置すると被害が広がる部分は別です。応急処置が必要かどうかを、現地を見られる人や建築の専門家に確かめます。
屋根材の落下、倒壊、火災、人の負傷など、今まさに危険がある場合は、家族会議や査定より安全確保を優先してください。負傷者、火災、倒壊などが発生している場合は119番、不法侵入など犯罪の危険がある場合は110番を利用します。
相続した実家なら、税金より先に名義を止めないことが必要です
親御さんが亡くなった後も、登記名義がそのままになっている空き家は少なくありません。
固定資産税の納付書を家族の誰かが払っていても、それだけでその人の単独所有になったわけではありません。
誰が相続するか決まっていない、きょうだいの共有になっている、さらに次の相続が発生している。このような状態では、売却や解体をしようとしたときに、手続きが止まる可能性があります。
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。相続によって不動産を取得したことを知った日から、原則として3年以内に申請が必要です。
2024年4月1日より前の相続で、まだ登記していない不動産も対象です。以前から相続したことを知っていた場合は、原則として2027年3月31日までが申請期限となります。
登記事項証明書や納税通知書を見ても名義が分からない場合は、法務局で登記情報を確かめます。
相続人が多い、遺産分割が終わっていない、亡くなった方の名義のまま何年も経過している場合は、司法書士へ次のように伝えられます。
「相続した空き家を売るか解体するかはまだ決めていません。まず、相続人と現在の名義、期限内に必要な登記を確認したいです」
相談したからといって、売却や解体を決める必要はありません。手続き上、誰が判断できる家なのかを明らかにするための確認です。
家族には「処分するか」ではなく「放置しない方法」を聞きます
実家をどうするか話すと、「売りたくない」「自分は遠いから任せる」「親の物を勝手に捨てないで」と、話が止まることがあります。
売るか残すかを最初の議題にすると、思い出とお金が正面からぶつかります。
まず、今後半年間の管理だけを決めます。
「今日、売るか壊すかを決めたいわけではありません。今のままだと税金と管理費が続き、家も傷むので、半年間を誰がどう管理するかだけ決めたいです」
話し合う項目は、次の四つで十分です。
- 現地を確認できる人
- 固定資産税や管理費を負担する人
- 家財の処分を決められる人
- 次に売却・賃貸・解体を再検討する日
「いつか誰かが住むかもしれない」という意見が出たら、否定せず、時期と費用を聞きます。
「何年ごろから使う予定ですか。それまでの税金、修繕、見回りは誰が負担しますか」
使う予定を具体化できなければ、ひとまず管理期間を決め、その期限にもう一度話します。
聞く場所は、困っている内容ごとに分けます
空き家について役所へ電話しても、一つの窓口ですべて分かるとは限りません。
| 知りたいこと | 最初に聞く場所 | 用意するもの |
|---|---|---|
| 現在の税額、住宅用地特例、解体後の試算 | 空き家所在地の市区町村・固定資産税担当 | 納税通知書、物件所在地、所有者名 |
| 管理不全空家、特定空家、解体補助、空き家バンク | 市区町村の空き家対策担当 | 物件所在地、写真、自治体から届いた文書 |
| 相続登記、名義、共有関係 | 法務局、必要に応じて司法書士 | 登記事項証明書、戸籍、遺言書、遺産分割協議書 |
| 売却・賃貸の可能性 | 地域の不動産事業者など | 所在地、土地・建物の資料、現地写真 |
| 建物の危険性、修繕・解体 | 建築士、解体事業者、自治体の建築担当など | 建築時期、図面、写真、危険箇所 |
相続した空き家を売却する場合、一定の条件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円を控除する特例を使える可能性があります。相続開始からの期間、建築時期、売却期限、耐震改修や取壊しなど複数の条件があるため、売却を考える場合は早めに税務署や税理士へ適用条件を確認してください。
どの窓口でも、最初から結論を用意する必要はありません。
「まだ残すか売るか決めていません。放置した場合の期限と、判断前に確かめることを教えてください」
この一言で、今の段階に必要な情報を尋ねられます。
今夜は、納税通知書の空き家部分に印を付けるところまでで構いません
空き家の問題は、一晩で結論を出せるものではありません。
今夜は納税通知書と課税明細書を開き、心配している物件の土地分、家屋分、年税額、次の納期限に印を付けてください。
その次に、市区町村のウェブサイトで「自治体名 空き家相談」と検索し、担当部署名だけ控えます。電話をかけるのは明日でも構いません。
売る、残す、壊すという大きな決断は、その後です。
まず現在の税額と家の状態が分かれば、「何となく怖い空き家」から、「いつまでに何を決めればよい家」へ変わります。そこまで進めば、次の判断は今よりずっと具体的になります。


















