雨漏りを見つけた途端、「直さないと売れない」と話が進み始めました
母親が介護施設へ移り、実家は半年ほど空いたままになっています。
久しぶりにきょうだいで家へ入ると、二階の天井に雨染みがあり、台所の床も少し沈むように感じました。
長男は、「このままでは売れない。水回りまで一気に直そう」と言います。
妹は、「何百万円もかけて、本当に取り戻せるの?」と反対します。
母親は、「元気になったら戻るかもしれない」と話しますが、現在の家には急な階段があり、一階に浴室もありません。
家族の頭には、違う心配が浮かんでいます。
「古いまま売ったら、買いたたかれるのではないか」
「リフォームすれば、もう一度親が住めるかもしれない」
「誰も住まないのに、工事費だけ残ったら困る」
「売った後で、思い出の家を残せばよかったと後悔しないか」
「このまま何年も置いておくのが一番よくない気もする」
実家には、建物としての価値だけでなく、親との記憶や、帰る場所を失う寂しさがあります。
だからこそ、最初から「直す派」と「売る派」に分かれない方がよいのです。
まず、何のために直すのか、誰がその家を使うのかを具体的にします。
最初に決めるのは工事内容ではなく、今後その家を使う人です
| 今後の使い方 | リフォームを考える理由 | 先に確かめたいこと |
|---|---|---|
| 親が自宅へ戻る | 段差、浴室、トイレ、寝室などを今の身体状況に合わせる | 戻る時期、介護量、訪問サービス、何年住む見込みか |
| 子ども世帯が住む | 家族構成や生活様式に合わせて改修する | 転居時期、通勤・通学、資金負担、名義 |
| 賃貸へ出す | 安全性や設備を貸せる状態へ整える | 地域の賃貸需要、家賃、管理方法、改修費の回収期間 |
| 売却する | 不具合の改善や印象向上を図る | 現状でも売れるか、買主が改修したい物件ではないか |
| 当面は使わない | 傷みの進行や近隣への影響を抑える | 定期管理費、売却を再検討する期限 |
住む人が決まっていないのに、キッチンや浴室の色、間取り、収納まで大きく変えると、後から住む人の希望に合わなくなることがあります。
特に売却を想定する場合、買主が自分の好みに合わせて改修したい可能性もあります。売却前の工事費を、そのまま売却価格へ上乗せできるとは限らないため、「きれいにすれば高く売れる」という予想だけで全面改修を決めないようにします。これは、既存住宅では物件ごとに劣化状況や性能が異なり、購入後に必要な改修内容も変わることから導ける実務上の判断です。
選択肢は「全面リフォーム」か「すぐ売却」だけではありません
| 選択肢 | 向いている状態 | 注意点 |
|---|---|---|
| 暮らすためにリフォームする | 住む人と時期が具体的に決まっている | 将来の介護や修繕まで含めた予算が必要 |
| 悪化防止に必要な部分だけ直す | 方針は未定だが、雨漏りや漏水を放置できない | 内装の美装工事まで広げない |
| 現状のまま仲介で売る | 買主が改修する前提でも需要が見込める | 不具合の説明と契約条件を明確にする |
| 不動産会社へ買い取ってもらう | 価格より早さや家財処分の負担軽減を優先する | 仲介で売る場合の査定額と混同しない |
| 解体して土地として売る | 建物の傷みが大きく、建物利用の需要が乏しい | 解体費、税金、接道や再建築の条件を先に調べる |
| 期限を決めて管理を続ける | 親の退院や家族の利用予定を短期間待ちたい | 点検、草木、通風、修繕の担当を決める |
選ばない方がよいのは、「決められないから何もしない」という状態です。
空き家は放置する期間が長くなるほど、老朽化や損傷が進み、売却や賃貸が難しくなる可能性があります。倒壊、外壁の落下、害虫、不法侵入、枝の越境など、近隣へ影響することもあります。
見た目を直す前に、建物のどこが傷んでいるかを調べます
築年数が古い家では、壁紙やキッチンより先に、雨漏り、構造、配管、基礎などを見た方がよい場合があります。
| 先に調べたい部分 | 見つかる可能性があること |
|---|---|
| 屋根・外壁 | 雨漏り、ひび割れ、部材の浮きや劣化 |
| 基礎・床下 | ひび、腐食、湿気、シロアリ被害 |
| 柱・梁 | 傾き、腐朽、構造上の傷み |
| 給排水管 | 漏水、さび、詰まり、交換時期 |
| 電気設備 | 古い配線、容量不足、設備の劣化 |
| 浴室・台所 | 床下への漏水、換気不足、腐食 |
| 窓・断熱 | 結露、すきま風、断熱性能の不足 |
| 耐震性 | 築年、構造、過去の増改築による弱点 |
建物状況調査(インスペクション)は、国の基準に基づき、講習を修了した建築士が既存住宅の基礎、外壁などの劣化や不具合の状況を調べる制度です。売買時に建物の状態を把握し、補修や改修を考える材料になります。
ただし、インスペクションは、見えない場所をすべて壊して調べるものでも、将来の不具合がないと保証するものでもありません。調査範囲と限界を聞き、必要に応じて耐震、シロアリ、設備などの個別調査を追加します。
売るか迷っている段階では、「診断」と「工事契約」を分けます
リフォーム会社へ最初に相談すると、当然ながら工事を前提とした提案になりやすくなります。
不動産会社へだけ聞くと、売却を前提とした話になりやすいこともあります。
どちらが悪いということではありません。立場によって提案の目的が違うため、次の情報を分けて集めます。
| 聞く相手 | 聞きたいこと |
|---|---|
| 建築士・調査事業者 | 建物の状態、緊急度、補修が必要な箇所 |
| リフォーム事業者 | 必要工事の内容、金額、工期、追加工事の可能性 |
| 不動産会社 | 現状での査定、最低限直した場合の見方、想定する買主 |
| 解体事業者 | 解体費、残置物、地中埋設物、整地の範囲 |
| 税務署・税理士等 | 売却時の税金と利用できる可能性がある特例 |
最初から一社へ診断、工事、売却のすべてを任せるのではなく、建物状態と市場での評価を別々に聞くと、工事の必要性を比べやすくなります。
売却前に直すなら、買主の好みではなく取引を止める問題から考えます
| 工事の例 | 売却前に検討する理由 |
|---|---|
| 進行中の雨漏りを止める | 放置すると建物の傷みが広がる |
| 漏水や排水不良を修理する | 建物への追加被害を防ぐ |
| 外れそうな屋根材・外壁材を直す | 近隣や見学者への危険を減らす |
| 害虫・シロアリ被害の範囲を調べる | 建物評価や契約条件に関わる |
| 残置物を分け、通路を確保する | 建物を安全に見てもらえる状態にする |
一方で、次のような工事は、売却前に必ず必要とは限りません。
- 家族の好みで選ぶキッチンや浴室への交換
- 間取りを大きく変える全面改修
- すべての床・壁紙の張り替え
- 買主像が分からない段階での高額な断熱・設備工事
- 査定額への反映根拠が示されない外観の美装
「工事費300万円で査定額が300万円上がる」とは限りません。
工事を提案されたら、現状査定と工事後の想定査定を同じ会社に聞くだけでなく、別の不動産会社にも、地域の買主が改修済みと未改修のどちらを求めているかを尋ねます。
親が戻るためのリフォームなら、「今の身体」で家を歩きます
親が自宅へ戻る可能性があるなら、家をきれいにする前に、退院後の動作を具体的に考えます。
| 生活場面 | 見たいこと |
|---|---|
| 玄関 | 段差を越えられるか、手すりやいすを置けるか |
| 寝室 | 一階に移せるか、介護ベッドと介助の空間が取れるか |
| トイレ | 寝室からの距離、夜間の照明、扉の開き方 |
| 浴室 | 浴槽のまたぎ、寒さ、介助スペース |
| 台所 | 火の元、立って作業できる時間、配食との併用 |
| 階段 | 使わずに生活できる間取りへできるか |
| 屋外 | 通院や買い物、訪問介護の車が出入りできるか |
親が戻りたいと言っていても、実際にいつ戻るのか、どの程度介護が必要かが決まっていない場合は、先にケアマネジャーや医療・介護の関係者と退院後の生活を考えます。
リフォームだけで生活が成り立つとは限りません。訪問介護、福祉用具、通院、食事、家族の訪問回数を含めて、自宅へ戻れるかを判断します。
リフォーム費用だけでなく、今後五年間の支出を比べます
| 残す・住む場合の費用 | 売る場合の費用 |
|---|---|
| 調査費、設計費、工事費 | 仲介手数料 |
| 仮住まい、引っ越し、家財移動 | 家財処分、清掃、引っ越し |
| 固定資産税、保険 | 測量、登記、抵当権抹消等 |
| 将来の屋根・外壁・設備修理 | 解体や補修が必要な場合の費用 |
| 庭、換気、防犯などの管理費 | 売却益がある場合の税金 |
| 遠方から通う交通費と家族の時間 | 売れるまでの税金・管理費 |
リフォームして残す場合は、今回の工事費だけでなく、今後発生する維持費も含めます。
売却する場合は、査定額ではなく、諸費用や税金を差し引いた後に手元へ残る見込み額で比べます。
リフォームして5年間持つ場合
工事費+税金+保険+管理費+将来修繕+家族の交通費=__万円
今売る場合
想定売却額-仲介・処分・登記・税金等=__万円
数字だけで決める必要はありませんが、気持ちの問題と金銭負担を分けて見られるようになります。
家族が行う管理も、無料とは考えないようにします
空き家を残すと、家族には次の作業が続きます。
- 郵便物の確認
- 換気と通水
- 庭木や雑草の手入れ
- 台風や大雨の後の点検
- 害虫や不法侵入への対応
- 近隣からの連絡への対応
- 固定資産税、保険、光熱費の管理
国土交通省は、当面活用や除却ができない空き家にも適切な管理が必要として、点検や補修が難しい場合には空き家管理業者などの利用を案内しています。
「残したい」と希望する人がいる場合は、固定資産税だけでなく、誰が月何回訪れ、費用をどう分けるかまで決めます。
工事見積もりは、二、三社へ同じ内容で依頼します
| 見積書で見ること | 曖昧な記載の例 |
|---|---|
| 工事する場所と範囲 | 屋根工事一式 |
| 使用する製品・材料 | キッチン交換一式 |
| 数量・単価 | 補修工事一式 |
| 下地や撤去を含むか | 内装改修一式 |
| 追加工事の条件 | 必要に応じて別途 |
| 工期と支払時期 | 工期予定、着手時全額 |
| 保証・保険 | 安心保証付き |
住まいるダイヤルは、工事内容や金額を比較するため、複数の事業者から見積もりを取ることを案内しています。契約時には工事項目、数量、仕様を確定し、概算や未決定事項を残したまま契約しないことが、追加請求や仕様違いを防ぐポイントです。
「今日契約すれば安い」「すぐ直さないと家が倒れる」と急かされた場合も、その場で署名や高額な前払いをしません。国民生活センターは、高額な前金を支払った後に工事が進まないなどのトラブルを紹介し、複数社の見積もりや支払条件の確認を呼びかけています。
補助金があるから工事する、という順番にしません
自治体によっては、耐震、省エネ、バリアフリー、空き家活用、解体などへの補助制度があります。
ただし、対象となる住宅、工事、施工者、申請者、居住要件は制度ごとに異なり、工事着手前の申請が必要な場合があります。
補助額だけを見て工事を増やすのではなく、まず必要な工事を決め、その工事へ使える制度があるかを自治体へ尋ねます。国の空き家関連事業でも、採択や交付決定前に着手した部分は補助対象にならない仕組みがあります。
築年と所在地、所有者、今後の利用予定を伝えます。
売却か親の再入居かは未定ですが、雨漏り修理、耐震、バリアフリー、解体に使える制度はありますか。
契約前・工事前に必要な申請も教えてください。
そのまま売る場合も、分かっている不具合は隠しません
「現状のまま売る」とは、家を修理せずに引き渡す方法です。
それだけで、売主が家の状態について何も説明しなくてよいことにはなりません。
中古住宅の売買では、契約内容に適合しない不具合があった場合、契約条件や事実関係によって、補修、代金減額、損害賠償、解除などが問題になる可能性があります。個人が売主の場合は責任を限定する契約もありますが、契約内容を具体的に確認する必要があります。
- 雨漏りの時期と場所
- 漏水、排水詰まり
- シロアリや腐食
- 傾き、ひび割れ
- 設備の故障
- 過去の火災や浸水
- 増改築と修繕の履歴
分かっていることは、写真、修理記録、見積書などと一緒に不動産会社へ伝えます。
傷みを壁紙や床材で覆って見えにくくする工事は、問題の解決になりません。
解体して売る案は、先に土地の条件を調べます
建物が古いからといって、解体すれば必ず売りやすくなるわけではありません。
| 解体前に確かめたいこと | 理由 |
|---|---|
| 再建築できる土地か | 接道などの条件によって土地の利用価値が変わる |
| 建物を使いたい買主がいるか | 古家付きで探す人や改修したい人がいる場合がある |
| 解体費の範囲 | 残置物、庭木、塀、地中物、整地が別料金の場合がある |
| 固定資産税への影響 | 住宅を取り壊した後は土地の税負担が変わる可能性がある |
| 売却の税制 | 取り壊しや売却の時期が特例要件へ影響する場合がある |
管理不全空家や特定空家として市区町村から勧告を受けると、敷地に適用される住宅用地の固定資産税等の軽減措置を受けられなくなる場合があります。一方、自己判断で解体した場合も、その後の土地の課税関係が変わり得ます。自治体の税務・空き家担当へ事前に確認してください。
税金の期限が関係することもあるため、何年も結論を延ばし続けません
親が自分で住んでいた家を売る場合、一定の要件を満たすと、譲渡所得から最高3000万円を控除できる特例があります。以前住んでいた家は、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ることなどが要件に含まれます。
相続した実家についても、一定の要件を満たす空き家を2027年12月31日までに売却した場合、譲渡所得の特別控除を利用できる可能性があります。相続人が3人以上の場合の控除上限、建築時期、売却期限、耐震性など細かな要件があります。
リフォーム、解体、賃貸、売却の時期によって適用関係が変わる場合があるため、工事契約の前に税務署や税理士へ個別の状況を伝えます。
思い出を残したい気持ちと、建物を残すことは分けられます
実家を売ることに反対している家族が、建物そのものより、思い出が消えることを心配している場合があります。
- 家の内外を写真や動画で残す
- 柱の傷や表札など、小さな部分を保存する
- 庭木や花を新しい住まいへ移す
- 家族が集まって最後の食事をする
- アルバムや手紙を分ける日を作る
- 間取りや家の歴史を一枚に残す
家を残さなければ思い出まで失われるわけではありません。
反対に、誰も使わない建物を維持するために、家族の一人だけが時間と費用を背負う状態も避けたいところです。
きょうだいで意見が違うときは、負担する内容まで言葉にします
| 家族の意見 | 追加で聞きたいこと |
|---|---|
| リフォームして残したい | 誰が住み、誰が工事費と維持費を負担するか |
| すぐ売りたい | 親の住まいと家財をどうするか |
| しばらく様子を見たい | 何月まで待ち、その間誰が管理するか |
| 自分が将来住むかもしれない | 転居を判断する期限と、それまでの費用負担 |
| 費用をかけずそのまま置きたい | 雨漏り、草木、防犯、近隣対応を誰が担うか |
残すか売るかだけでなく、誰が住むのか、いつまでに決めるのか、その間の費用と管理を誰が担うのかまで話そう。
今日は最終決定ではなく、建物調査と現状査定を取るところまでにしない?
「思い入れが強い人が残す」「近くに住む人が管理する」と自動的に決めず、役割と費用を家族で見える形にします。
迷っている間は、期限と最低限の管理だけ決めます
親が自宅へ戻る可能性や、家族が住む予定をすぐ決められないこともあります。
その場合は、三か月や半年など、再検討する日を決めます。
| 期限までにすること | 担当 |
|---|---|
| 建物の状態を調べる | 長男 |
| 現状売却の査定を取る | 次女 |
| 親の再入居の可能性を医療・介護側へ聞く | 同居家族 |
| 固定資産税・保険・管理費をまとめる | 長女 |
| 月一回の通風、通水、庭の点検 | 家族または管理事業者 |
| 次の家族会議 | 10月第一土曜日 |
決定を保留すること自体が悪いのではありません。
再検討日と管理担当がないまま、何年も空き家にすることが問題になりやすいのです。
今日するのは、ショールームへ行くことでも売却契約をすることでもありません
今日は、紙を一枚用意して次の三つを書いてください。
- 今後、この家へ住む可能性がある人
- 放置すると悪化しそうな不具合
- リフォームと売却を比べるために不足している金額
次に依頼するのは、全面改修のプランではありません。
建物の状態を知る調査、現状のまま売る場合の査定、悪化を止めるために必要な工事の見積もりです。
三つの数字がそろえば、「古いから全部直す」「お金がかかるからすぐ売る」という勢いだけで決めずに済みます。
実家を残すことにも、手放すことにも、家族それぞれの寂しさがあります。
正解は、最も高く売れる方法や、最も立派に直す方法とは限りません。
親や家族が実際に使える家なのか、費用と管理を長く引き受けられるのかを、具体的な暮らしへ戻して考えることです。
まずは「リフォームする?売る?」と結論を迫る前に、「この家に、これから誰が何年住む?」と家族へ聞くところから始めてください。
出典・確認先メモ
- 国土交通省「既存住宅流通について」「インスペクション」:建物状況調査の制度、調査者、売買時の活用と限界。
- 住まいるダイヤル:既存住宅とリフォームの基礎知識、複数見積もり、契約前の仕様・金額の確認。
- 国民生活センター:高額な前金を伴うリフォーム契約などのトラブルへの注意。
- 国土交通省「空き家対策特設サイト」:空き家を放置するリスク、適切な管理、管理不全空家への対応。
- 国税庁・国土交通省:マイホームおよび相続空き家を売却した場合の譲渡所得の特別控除。
- 住まいるダイヤル:中古住宅の契約不適合責任と契約条件の確認。


















