年金が振り込まれた日にも、通帳の残高を見て安心できないことがあります
年金が入ったので、家賃や光熱費、保険料を支払う。食料品を買い、通院の会計を済ませる。ひと月が終わるころには、また貯金を少し取り崩している。
その数字を見ると、「まだ働いた方がいいのでは」と思います。
けれど、出勤日は朝から体が重い。仕事を終えて帰宅すると、夕食を作る気力が残らない。翌日は休みでも、午前中いっぱい横になっている。
配偶者からは「もう無理をしなくてもいい」と言われる。子どもからも「転んでけがをする方が心配」と止められる。
それでも、仕事を辞めると今度は別の心配が出てきます。
「この貯金で、あと何年暮らせるのだろう」
「家の修理や入院が重なったら足りなくなるかもしれない」
「子どもに迷惑をかけたくない」
「一度辞めたら、もう働ける場所は見つからないだろう」
収入だけが理由ではない方もいます。
仕事へ行けば人と話せる。朝起きる理由ができる。自分がまだ役に立っていると思える。辞めたあと、毎日何をして過ごせばよいのか分からない。
70代で働くかどうかは、単純に「お金があるか」「体力があるか」だけでは決めにくい問題です。
ただし、老後資金への漠然とした怖さだけで働き続けると、必要以上に体を使ってしまうことがあります。
最初に考えたいのは、いつまで働けるかではありません。自分の暮らしには、仕事から毎月いくら入ればよいのかです。
働きたい理由を四つに分けると、必要な働き方も変わります
「老後資金が不安だから働く」と思っていても、何を心配しているかは人によって違います。
| 働く主な理由 | 心の中にある不安 | 考えたいこと |
|---|---|---|
| 毎月の生活費が足りない | 働かないと、毎月貯金が減る | 実際の不足額を出し、その額を補える働き方を探す |
| 将来の大きな出費が怖い | 入院、介護、修繕で資金がなくなるかもしれない | 通常の生活費と、臨時支出の備えを分ける |
| 貯金を減らしたくない | 通帳の残高が減ること自体が怖い | 老後資金を使う目的と、残しておきたい金額を決める |
| 生活の張り合いがほしい | 辞めたら人と話さず、家にこもりそう | 高い収入より、短時間で無理なく続く役割を探す |
毎月の赤字を埋める必要がある人と、生活費は足りているものの将来が怖い人では、同じ日数を働く必要はありません。
張り合いを得ることが目的なら、週5日の仕事でなくてもよいでしょう。短時間の仕事、地域活動、趣味の集まりなど、収入以外の方法でも人とのつながりは作れます。
反対に、年金だけでは毎月明らかな不足が出る場合は、「もう70代だから辞める」と気持ちだけで決めると、あとで家計が苦しくなる可能性があります。
まず、自分がどの理由で働いているかを一つ選んでください。
「あと何年働くか」より、毎月あといくら必要なのかを出します
老後資金を考えるとき、平均寿命や一般的な必要額ばかりを見ると不安が大きくなります。
必要なのは、世間の平均ではなく、自分の家計の不足額です。
| 書き出す項目 | 含めるもの |
|---|---|
| 毎月入るお金 | 公的年金、企業年金、配偶者の収入、家賃収入など |
| 毎月必ず出るお金 | 住居費、光熱費、通信費、保険料、医療費、食費 |
| 月によって変わるお金 | 外食、交際費、衣服、趣味、交通費 |
| 年単位で出るお金 | 固定資産税、車検、冠婚葬祭、家電の買い替え |
| 今後に備えるお金 | 住宅修繕、医療、介護、引っ越しなど |
年に一度出る費用は、12で割って月額に直すと見やすくなります。
たとえば、生活に必要な金額が月24万円、年金などの収入が月20万円なら、毎月の不足は4万円です。
この場合、月10万円を稼ぐために週5日働く必要があるとは限りません。税や保険料、仕事に伴う支出も考えたうえで、手元に4万円ほど残る働き方を探す方法があります。
一方、毎月の収支はほぼ合っていて、家の修理に備えるためだけに働いているなら、「修理費としてあと100万円貯めるまで」など、目的と区切りを決められます。
「お金は多いほど安心」と考えると、辞める日はいつまでも来ません。
何のために、あといくら必要なのかまで言葉にすると、働く量を決めやすくなります。
給料の額から、仕事をするために増えた支出を引いてみてください
月に8万円の給料が入っていても、その8万円すべてが老後資金を守っているとは限りません。
仕事へ行くことで増える支出もあります。
| 仕事をすることで入るもの | 仕事をすることで出ているもの |
|---|---|
| 給与の手取り | 交通費の自己負担 |
| 勤務先からの手当 | 仕事着、靴、昼食、飲み物 |
| 人とのつながりや生活の張り | 疲れて増えた惣菜、外食、タクシー |
| 貯蓄へ回せるお金 | 体のケアや通院にかかる費用 |
| 規則正しい生活 | 家事を手伝ってもらうための費用 |
たとえば手取りが月7万円でも、交通費、昼食、仕事着、疲れた日の惣菜などで月2万円増えているなら、家計に残る効果は約5万円です。
さらに、勤務後に体調を崩して通院が増えているなら、金額だけでなく生活への影響も見ます。
収入が少ないから辞めるべきという話ではありません。
仕事から得ているお金、張り合い、人とのつながりと、失っている体力や時間を同じ机に載せることが必要です。
貯金を取り崩すことは、老後の失敗とは限りません
長く働いて貯めてきたお金が減ると、不安になるのは自然です。
通帳の残高が一段下がるたびに、「このままなくなったらどうしよう」と感じます。
けれど、老後資金は残高を守り続けるためだけのお金ではありません。
働く時間を減らす。体の負担を軽くする。必要な医療や住まいの修繕に使う。暮らしを安定させるために使うことも、貯めてきた目的の一つです。
ただし、何となく毎月引き出すと不安が強くなります。
| 取り崩し方 | 不安が残りやすい形 | 見通しを持ちやすい形 |
|---|---|---|
| 毎月の生活費 | 足りないたびに金額を決めず引き出す | 月3万円までなど、年間の上限を決める |
| 医療・介護 | どこまで使ってよいか分からない | 通常生活費とは別に備えを分ける |
| 住宅修繕 | 壊れてから慌てて全額を出す | 必要な修繕と時期の目安を調べる |
| 子どもへの援助 | 頼まれるたびに出す | 自分たちの生活資金を残して上限を決める |
| 楽しみの費用 | 使うたび罪悪感を持つ | 旅行や趣味の年間予算を先に取る |
「貯金を使わないために体を壊す」状態になっていないかは、一度考えてみたいところです。
働く量を少し減らし、決めた金額だけ取り崩す方が、長く安定して暮らせる場合もあります。
70代で働くと年金がすべて止まるわけではありません
「働くと年金が減るから損なのでは」と心配する方もいます。
2026年度の在職老齢年金では、老齢厚生年金の基本月額と、給与・賞与から計算される総報酬月額相当額の合計が月65万円を超える場合に、超えた額の半分が老齢厚生年金から支給停止されます。老齢基礎年金は、この仕組みによる支給停止の対象ではありません。
70歳以上で厚生年金の適用事業所に勤務する場合も、在職による支給停止の仕組みは適用されます。一方、原則として70歳になると厚生年金保険の被保険者資格を失うため、通常は厚生年金保険料の負担はありません。
ただし、実際に年金が調整されるかは、受け取っている年金の種類や金額、給与、賞与、勤務先の状況によって変わります。
また、働いて収入が増えると、税金、医療保険料、介護保険料などへ影響する場合があります。
「月給がいくらなら得か」を給与額だけで判断せず、次の金額を確かめます。
- 勤務後の手取り見込み
- 在職老齢年金による調整の有無
- 税金や保険料への影響
- 仕事のために増える支出
年金事務所、勤務先の給与担当、市区町村の窓口などへ、自分の年金額と給与の見込みを伝えて個別に確認すると、判断しやすくなります。
70歳を過ぎても、今の会社で同じように働き続けられるとは限りません
高年齢者雇用安定法では、事業主に対し、定年の引上げや継続雇用制度などによって、70歳までの就業機会を確保するよう努めることが求められています。これは努力義務であり、70歳を超えたあとも同じ職場、同じ条件で雇用を続けることが一律に保証される制度ではありません。
70代になってから契約更新のたびに不安になる方は、次の点を職場へ聞いておきます。
- 現在の契約はいつまでか
- 次回更新の判断時期
- 年齢による上限があるか
- 勤務日数や担当を減らした場合も更新できるか
- 雇用ではなく業務委託へ変わる可能性があるか
- 契約終了時にどのような手続があるか
「働けるうちはずっと置いてもらえるだろう」と考えていると、突然の契約終了で家計が崩れることがあります。
今の仕事を続けながらも、収入がなくなった場合の家計を一度作っておくと安心です。
続けるなら、収入を最大にするより「翌日を残せる仕事」を選びます
70代の仕事選びでは、時給だけを見ると負担の大きい求人を選びやすくなります。
時給が少し高くても、長い通勤や重量物で体を消耗し、週に何日も働けなければ、月の手取りは増えないことがあります。
| 見る条件 | 負担が大きくなりやすい仕事 | 続けやすさを考えた条件 |
|---|---|---|
| 勤務日数 | 連勤が多い、急な追加勤務がある | 勤務日の間に休みを入れられる |
| 勤務時間 | 早朝、夜間、長時間 | 生活リズムを崩さない短時間 |
| 通勤 | 乗り換えが多い、駅から遠い | 徒歩や乗車時間が短い |
| 作業 | 重量物、階段、中腰、速さを競う | 座位作業、補助業務、作業を交代できる |
| 責任 | 一人勤務、緊急判断、残業が多い | 担当範囲と終了時刻が明確 |
| 人との関わり | 苦情対応や強い営業目標がある | 案内、見守り、整理など役割が分かりやすい |
たとえば、週5日働いて月8万円を残すより、週2〜3日に減らして月4万円を安定して得る方が、今後長く続けられるかもしれません。
大切なのは、一日にいくら稼げるかではなく、ひと月を通して無理なくいくら残せるかです。
お金より張り合いが目的なら、雇用以外の選択肢もあります
家計を計算すると、働かなくても当面は暮らせる。それでも仕事を辞めるのが怖い。
その場合、収入より、仕事が持っている役割を失うことが不安なのかもしれません。
- 決まった時間に起きる理由
- 人と話す機会
- 自分の経験を使える場所
- 家族以外から必要とされる感覚
- 外へ出るきっかけ
これらは、必ずしも週5日の雇用でなければ得られないものではありません。
短時間の仕事、地域の活動、趣味の会、ボランティアなどへ少しずつ移す方法があります。
シルバー人材センターでは、地域の家庭、企業、公共団体から受けた臨時的・短期的または軽易な仕事を、会員の希望や能力に応じて提供しています。ただし、請負・委任の場合は発注者との雇用関係がなく、一般的な雇用と契約や補償の仕組みが異なります。登録前に仕事の内容、配分金、事故時の扱いなどを聞いてください。
仕事を完全にやめるのではなく、収入を得る仕事と、社会とのつながりを得る活動を分ける考え方もあります。
配偶者や子どもとは、「働くべきか」ではなく心配している数字を共有します
家族から「もう辞めて」と言われると、自分の生活を勝手に決められたように感じることがあります。
一方、家族は収入より、転倒や体調悪化を心配しているのかもしれません。
話すときは、賛成か反対かを先に決めず、それぞれが何を恐れているかを出します。
| 立場 | 言葉にしにくい心配 | 話し方の例 |
|---|---|---|
| 本人 | 辞めると貯金が減り、自分の役割もなくなる | 「毎月いくら足りないのかと、仕事を辞めた後の過ごし方を一緒に考えたい」 |
| 配偶者 | 倒れたときの看病や生活負担が増える | 「働くこと自体ではなく、翌日まで寝込む状態が心配」 |
| 子ども | 事故や急病が起きるのではないか | 「辞めてほしいだけではなく、どの作業が危ないと感じるか教えて」 |
| 家族全体 | 収入が減ったあと援助を求められるのではないか | 「年金と貯蓄でどこまで暮らせるか、援助を前提にせず数字を出す」 |
家族へ「自分はまだ元気だから」と説明するだけでなく、勤務翌日の状態も見てもらいます。
反対に、家族が心配するからといって、本人の張り合いや収入の必要性を無視して辞めさせるのもよくありません。
「あと半年だけ続ける」「週2日に減らして3か月試す」「貯蓄がこの金額になったら再検討する」など、期限と見直し日を決めると話しやすくなります。
働き続けるかは、四つの状態に分けて判断できます
| 現在の状態 | 考えられる進み方 |
|---|---|
| 毎月赤字で、仕事後も回復できている | 必要な手取り額を決め、今の勤務を続ける |
| 毎月赤字だが、仕事で体調が崩れている | 日数や担当を軽くし、足りない分は支出見直しや計画的な取り崩しで補う |
| 生活費は足りるが、将来が怖くて働いている | 大きな支出の備えを分け、勤務を減らして様子を見る |
| 収入より、張り合いや人との交流が目的 | 短時間の仕事や地域活動へ移し、体力を残す |
続けるか辞めるかの間には、たくさんの選択肢があります。
- 週4日から週2日へ減らす
- 連勤を避ける
- 午前中だけ働く
- 重量物や運転を伴う担当から外れる
- 通勤の近い職場へ替える
- 繁忙期だけ働く
- 一度休み、体調が戻ってから探す
一つ変えて3か月ほど試し、家計と体調の両方を見る方法もあります。
働くことをやめる目安は、年齢より「安全に続けられるか」です
何歳になったら辞めるべきかという決まりはありません。
ただし、次のような変化が重なっている場合は、勤務の継続だけを優先しない方がよいでしょう。
- 勤務中や通勤中に転びそうになることが増えた
- 仕事の翌日も痛みや強い疲れが戻らない
- 運転や機械操作で判断が遅れることがある
- 薬を飲む時間や食事が乱れている
- 仕事のミスが増え、原因が疲労だと感じる
- 家事、通院、入浴など日常生活が回らない
- 職場へ負担軽減を頼んでも変えられない
- 医療機関から仕事の内容や時間を見直すよう言われた
2026年4月から、高年齢者の特性に配慮した作業環境や作業管理など、労働災害を防ぐために事業者が取り組むべき内容を示した指針が適用されています。高年齢者の安全は、本人の注意や体力だけに任せる問題ではありません。
床の段差、重い物、照明、作業速度などに危険を感じる場合は、「年だから仕方ない」と我慢せず、具体的な作業を職場へ伝えてください。
仕事を替えたい70代も、年齢だけで求人を探す必要はありません
今の仕事はつらいけれど、収入は必要。その場合は、辞めてから一人で求人を探すだけが方法ではありません。
全国の主要なハローワークには、概ね60歳以上を対象とする生涯現役支援窓口が設けられています。在職中でも利用でき、これまでの経験や年金の受給状況、生活環境を踏まえた職業相談や紹介、職場見学、面接会、職業訓練などの案内を受けられます。
窓口では、「何か仕事はありますか」とだけ尋ねるより、次の条件を伝えます。
- 月に必要な手取り額
- 週に働ける日数
- 連勤できる日数
- 通勤にかけられる時間
- 避けたい作業姿勢や重量物
- 使いたい経験や資格
「月3万円ほど必要」「週2日で、片道30分以内」「立ちっぱなしは難しい」と分かれば、時給だけでなく続けやすさから求人を探せます。
今日決めるのは、何歳まで働くかではなく三つの数字です
70代で働くか迷っていると、人生の残りすべてを今決めなければならないように感じます。
けれど、今夜「75歳まで働く」「もう完全に辞める」と決める必要はありません。
まず、次の三つだけ書いてください。
- 年金など、仕事をしなくても毎月入る金額
- 暮らしに必要な毎月の金額
- 二つを引いた不足額
次に、現在の仕事で家計に実際に残る金額を書きます。給料から交通費や昼食代などを引いた金額です。
最後に、勤務の翌日に残る疲れを10段階で書いてください。
たとえば、毎月の不足は3万円、仕事から残る金額は6万円、翌日の疲れは10段階で9だったとします。
この場合、今と同じ働き方を続けなければならないわけではありません。勤務を半分程度にして不足分を補い、体力を残せる可能性があります。
生活費は足りているのに、将来への怖さだけで疲れが9になるまで働いているなら、使うために貯めたお金をどう取り崩すかへ話を移せます。
働くことも、休むことも、それ自体が正解ではありません。
収入を得ても日常生活ができなくなるなら、仕事の量を変える必要があります。貯金があるのに怖くて使えないなら、使う目的と上限を決める必要があります。
まずは「あと何年働くか」ではなく、「月にあといくらあれば、安心して暮らせるか」を一行書いてみてください。
その金額が分かれば、週5日働く以外にも、週2日へ減らす、近い職場へ替える、一定期間だけ働くという道が見えてきます。70代の働き方は、これまでと同じでなくて構いません。体と暮らしの両方を残せる形へ、少しずつ組み直してよいのです。
出典・確認先メモ
- 日本年金機構「在職老齢年金」「在職老齢年金制度が改正されました」:2026年度の支給停止調整額、70歳以降の取扱い、老齢基礎年金の取扱いなどの確認先。
- 日本年金機構「70歳以上の方が厚生年金保険に加入するとき」:70歳到達後の厚生年金被保険者資格や高齢任意加入の確認先。
- 厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正」「高齢者雇用対策」:70歳までの就業機会確保に関する事業主の努力義務の確認先。
- 厚生労働省「生涯現役支援窓口事業」:概ね60歳以上を対象とする職業相談・紹介、職場見学、訓練情報などの確認先。
- 厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について」:2026年4月から適用された高年齢者の労働災害防止に関する指針の確認先。
- 全国シルバー人材センター事業協会「シルバー人材センターの会員組織と働き方」:臨時的・短期的または軽易な業務、請負・委任による働き方の確認先。
- 年金、税金、医療保険料、介護保険料などへの影響は、収入や世帯状況によって異なります。勤務条件を変える際は、年金事務所、市区町村、勤務先などの公式窓口で個別にご確認ください。


















