病院の領収書を見ながら、「これが毎月続いたら」と考えてしまう
血圧の薬をもらうため、月に一度通院しています。
今回は検査もあり、診察代と薬代を合わせると、いつもより高くなりました。
帰宅して領収書をしまおうとしたとき、以前の眼科や歯科の領収書も目に入ります。
今は働いているので払えます。しかし、数年後に年金生活へ入った後も同じように払えるのかは分かりません。
「年齢が上がれば、病院へ行く回数はもっと増えるのではないか」
「入院や手術になったら、何十万円も一度に必要なのか」
「夫婦のどちらかが長く治療を受けたら、老後資金はどのくらい減るのだろう」
「医療保険へ入っていないけれど、今からでも追加した方がよいのか」
医療費は、いつ、どの病気で、どの程度かかるかを正確に予測できません。
だからこそ、「老後の医療費は総額○百万円」といった数字だけを見ても、不安が消えにくいのです。
備えるときは、医療費を一つの大きな金額にせず、毎月の通院、入院時の保険診療、保険外の支出、介護費に分けます。
ニュースで見る「高齢者一人当たりの医療費」は、窓口で払う金額ではありません
公表される国民医療費には、公的医療保険から支払われる分や公費なども含まれます。
そのため、「一人当たり医療費が高い」という統計を、そのまま自分が用意すべき現金だと考える必要はありません。
実際に家計から出る金額は、次の条件で変わります。
- 年齢
- 所得と窓口負担割合
- 加入している医療保険
- 持病と受診回数
- 処方される薬
- 高額療養費制度の所得区分
- 入院時に個室を選ぶか
- 保険適用外の治療を受けるか
平均額は社会全体の傾向を見る資料にはなりますが、家計で準備する金額は、自分が実際に支払った額から考える方が具体的です。
窓口負担は、年齢だけでなく所得によっても変わります
公的医療保険を使った診療でも、窓口で支払う割合は全員同じではありません。
| 年齢 | 窓口負担の基本的な考え方 |
|---|---|
| 70歳未満 | 原則3割 |
| 70歳から74歳 | 原則2割。現役並み所得者は3割 |
| 75歳以上 | 一般所得者等は1割、一定以上の所得がある方は2割、現役並み所得者は3割 |
75歳以上の負担割合は、本人だけでなく、同じ世帯の後期高齢者の所得状況なども基に判定されます。資格確認書やマイナポータルなどで、自分の負担割合を確かめられます。
「高齢になれば必ず1割になる」と決めつけず、現在の所得区分で見てください。
老後の医療費は、四つの財布に分けて考えます
| 医療に関係するお金 | 具体例 | 備え方 |
|---|---|---|
| 毎月の通常医療費 | 診察、検査、薬、歯科治療 | 過去1年の実績から月平均を出す |
| 高額な保険診療 | 手術、入院、高額な薬物治療 | 高額療養費の自己負担上限を調べる |
| 高額療養費の対象外 | 入院時の食事、差額ベッド、交通、日用品 | 入院日数を想定して別枠で用意する |
| 医療から介護へ移った後の費用 | 介護サービス、住宅改修、福祉用具 | 医療費とは別に制度と自己負担を確かめる |
四つを一緒にすると、「いくらあっても足りない」という感覚になりやすくなります。
まず通常の通院費を家計へ入れ、入院などの臨時費用は予備費として分けます。
毎月の通院費は、過去1年の領収書から計算できます
将来の病気を予測するより、現在の医療費を把握する方が先です。
集めるもの
- 病院・診療所の領収書
- 歯科医院の領収書
- 調剤薬局の領収書
- 医療保険者から届いた医療費通知
- 通院に使った交通費の記録
- 家族の医療費
通常医療費の計算表
| 項目 | 過去1年の支払額 |
|---|---|
| 内科・持病の通院 | 円 |
| 歯科 | 円 |
| 眼科・耳鼻科など | 円 |
| 薬局 | 円 |
| 通院交通費 | 円 |
| 年間合計 | 円 |
| 12か月で割った月平均 | 円 |
夫婦で年間24万円なら、医療関係の通常支出は月平均2万円です。
これは将来も必ず同じという意味ではありませんが、老後家計へ毎月いくら入れておくかを考える出発点になります。
現在ほとんど受診していない方も、老後の家計表から医療費をゼロにはせず、定期検査、歯科、薬などに使える枠を設けておくと、受診が必要になったときに生活費と混ざりにくくなります。
医療費が高くなった月には、高額療養費制度があります
保険診療の窓口負担が一か月の上限額を超えたとき、超えた分が支給される仕組みが高額療養費制度です。
上限額は年齢と所得によって異なります。
たとえば、現行制度で70歳未満、年収約370万円から約770万円の所得区分に該当する方が、医療費総額100万円の治療を受けた場合、実際の自己負担は約8万7,000円まで抑えられる例が厚生労働省から示されています。
ただし、すべての支払いが上限に含まれるわけではありません。
また、制度上の上限額は2026年8月以降、段階的な見直しが予定されています。2026年7月時点では施行前の内容も含まれるため、入院や高額治療の前には、加入している保険者へ最新の所得区分と上限額を尋ねてください。
「医療費100万円なら自分も100万円必要」とは限りません。先に、自分の高額療養費の上限を調べます。
入院前に手続きをすると、窓口での立替えを抑えられる場合があります
高額療養費は、窓口で多く支払った後に申請して戻してもらう方法だけではありません。
マイナ保険証を利用するか、必要に応じて限度額適用認定証などを提示すると、保険診療分について窓口で支払う額を月ごとの上限までにできる場合があります。
入院や手術が決まったら聞くこと
- 今回の治療は保険診療か
- 自分の高額療養費の所得区分は何か
- マイナ保険証で限度額情報を利用できるか
- 認定証などの申請が別途必要か
- 入院が月をまたぐ予定か
- 保険外となる費用は何か
高額療養費は、原則として暦月単位で計算されます。
同じ20日間の入院でも、月初から同じ月の中で終わる場合と、月末から翌月へまたぐ場合では、自己負担上限の計算が二か月に分かれる可能性があります。
治療上、入院日を自由に選べるとは限りませんが、費用の説明を受ける際には月またぎになるかも聞いておくと、現金を準備しやすくなります。
高額療養費があっても、入院費が上限額だけで終わるとは限りません
高額療養費の対象になるのは、主に保険診療の自己負担部分です。
入院時の食事負担や保険外併用療養費の差額部分などは、高額療養費の対象外です。
別に支払いが生じやすいもの
- 入院中の食事の標準負担額
- 本人が希望した個室などの差額ベッド代
- 病衣・タオル・日用品のレンタル
- おむつや日用品
- 家族の交通費・駐車場代
- テレビカードや通信費
- 診断書などの文書料
- 保険適用外の治療・材料
先進医療など、保険診療と保険外診療を併用できる制度もありますが、保険外となる技術料などは本人負担になります。差額ベッドなど患者の選択によって発生する料金も、保険診療とは別に考えます。
入院予備費は、「一日いくら」ではなく見積書で分けます
入院日数だけで一律に計算すると、実際の支払いとずれやすくなります。
| 費用 | 病院へ尋ねること |
|---|---|
| 保険診療の自己負担 | 高額療養費適用後の見込額 |
| 食事 | 1食当たりの標準負担額と減額対象 |
| 病室 | 無料病室の有無、差額ベッドの一日料金 |
| 日用品 | レンタルが必須か、持参できるか |
| 退院後 | 薬、通院、訪問看護、福祉用具の見込み |
病院の入退院支援窓口や患者相談窓口がある場合は、「医療費の総額」ではなく、保険診療分と保険外分を分けた見込額を聞きます。
尋ね方の例
「高額療養費を使った場合、窓口で必要になる保険診療分はいくらくらいですか」
「食事代、病衣、個室料など、上限制度に含まれない費用を分けて教えてください」
「無料の病室を希望しています。空きがない場合の扱いも事前に知りたいです」
長く治療が続く場合は、「多数回該当」も確かめます
高額な治療が複数月にわたって続くときは、直近12か月の間に高額療養費へ3回以上該当すると、4回目以降の自己負担上限がさらに軽くなる「多数回該当」があります。
ただし、加入する保険者が変わった場合など、回数を引き継げないことがあります。
退職に伴って健康保険から国民健康保険へ変わる時期に治療が続く場合は、変更前後の保険者へ扱いを尋ねてください。
夫婦で医療費が重なったら、世帯合算できる場合があります
同じ月に夫婦がそれぞれ通院・入院した場合や、一人が複数の医療機関を受診した場合は、一定の条件を満たす自己負担を世帯で合算できることがあります。
高額療養費における「世帯」は、単に同居している家族という意味ではなく、同じ医療保険に加入する被保険者と被扶養者など、制度上の単位で判断されます。70歳未満では、合算対象となる自己負担額に条件があります。
夫婦で確かめたいこと
- 二人が同じ医療保険へ加入しているか
- 同じ月に支払った医療費はいくらか
- 病院と薬局の領収書がそろっているか
- 世帯合算の対象になる支払いか
- 申請期限と必要書類
領収書を本人ごとに別々にしまい込まず、月ごとの封筒へまとめると確認しやすくなります。
医療費と介護費は、同じ財布から出ても制度上は別です
退院後に介護サービスが必要になると、医療費だけを準備していても家計負担が続くことがあります。
介護保険の自己負担、食費、居住費、福祉用具、住宅改修などは、医療費とは別に発生します。
同じ世帯で医療保険と介護保険の自己負担が高額になった場合には、年単位で合算し、一定の上限を超えた分を支給する高額医療・高額介護合算療養費制度があります。具体的な限度額や対象費用は年齢・所得・加入制度で異なるため、市区町村や医療保険者へ確認します。
| 分けて記録するもの | 例 |
|---|---|
| 医療保険の自己負担 | 診察、手術、処方薬 |
| 介護保険の自己負担 | 訪問介護、通所介護、施設サービス |
| 制度対象外の支出 | 食費、居住費、日用品、交通費 |
「病院を退院したから大きな支出は終わった」と考えず、退院後の生活で必要になる費用も聞いておきます。
民間の医療保険は、入院費のすべてを埋めるものとは限りません
老後の医療費が怖くなると、医療保険やがん保険を追加したくなることがあります。
加入前には、現在の保障と公的制度を並べてください。
保険証券で見る項目
- 入院一日当たりの給付額
- 支払日数の上限
- 日帰り入院の扱い
- 手術給付金の条件
- 先進医療特約の有無と対象
- 通院保障の条件
- 更新後の保険料
- 何歳まで保障が続くか
入院日数が短くなっている治療では、日額保障だけでは通院費を補いにくい場合があります。
反対に、預貯金と高額療養費で対応できる部分まで、老後の家計を圧迫する保険料を払い続けている可能性もあります。
「医療費が怖いから解約しない」「保険料が高いから全部やめる」という二択ではなく、残したい保障と預金で負担する部分を分けます。
医療費控除は、支払った医療費がそのまま戻る制度ではありません
一年間に本人や生計を一にする家族のために支払った医療費が一定額を超えた場合、確定申告で医療費控除を受けられることがあります。
控除額は、実際に支払った医療費から、高額療養費や保険金などで補てんされた額と所定の金額を差し引いて計算します。医療費そのものが全額返金される制度ではなく、所得から差し引く所得控除です。
残しておきたい記録
- 医療費通知
- 病院・薬局の領収書
- 公共交通機関で通院した記録
- 高額療養費の支給額
- 民間保険の給付金額
- 家族ごとの医療費
医療費控除を使える可能性があっても、年末にまとめて思い出すのは大変です。
月ごとに封筒や表へ記録しておくと、高額療養費の申請にも使いやすくなります。
「いくら貯めるか」は、三段階で決めると考えやすくなります
| 段階 | 計算方法 |
|---|---|
| 通常の医療費 | 過去1年の本人・配偶者の医療費を12か月で割る |
| 高額治療への備え | 自分の高額療養費の月額上限を調べる |
| 制度対象外の予備費 | 食事、病室、交通、日用品などを別に見積もる |
記入例
| 通常医療費 | 夫婦で月15,000円 |
|---|---|
| 高額療養費の上限 | 加入先へ確認 |
| 保険外費用の予備 | 個室を希望するか、家族の交通費などから試算 |
| 民間保険で受け取れる額 | 保険証券で確認 |
これは「老後の医療費として○百万円必要」と一度に決める方法ではありません。
毎月の家計へ入れる額と、入院時だけ使う予備費を分ける方法です。
医療費専用の普通預金口座や家計簿の項目を作り、通常医療費を毎月積み立てると、通院するたびに生活費が減った感覚を持ちにくくなります。
配偶者とは、病気の予想ではなく支払い方法を話します
「将来がんになったら」「認知症になったら」と話し始めると、怖さばかりが膨らむことがあります。
病気を予想する代わりに、支払いの順番を決めます。
夫婦で共有する内容
- 現在の月平均医療費
- それぞれの窓口負担割合
- 高額療養費の所得区分
- 医療費に使える預貯金
- 民間保険の契約先と給付内容
- 入院時に個室を希望するか
- 領収書や保険証券の保管場所
話し方の例
「病気になる前提で怖がりたいわけではないよ。昨年の医療費を月平均にして、年金生活の予算へ入れておきたい」
「入院したら必ず個室にするのか、無料の部屋を希望するのかだけでも決めておかない?」
「高額療養費の上限を二人とも知らないので、保険者へ一緒に聞いてみたい」
親の医療費が心配な子どもは、貯金額より加入制度を先に見ます
高齢の親が「入院したら子どもに払ってもらうしかない」と話すと、子どもも心配になります。
しかし、医療費総額を聞いただけで、すぐ援助額を決める必要はありません。
子ども世代が手伝えること
- 親の窓口負担割合を一緒に見る
- 加入する医療保険者を確かめる
- 高額療養費の上限を問い合わせる
- 病院の見積りを保険診療と保険外へ分ける
- 医療保険の給付内容を読む
- 領収書を月ごとにまとめる
親への声のかけ方
「入院費を全部こちらで払う話の前に、高額療養費を使った後の金額を一緒に聞こう」
「通帳を見せてほしいのではなく、病院へいくら準備すればよいかを分けたいんだ」
親の病気や支出を責めず、制度確認と記録を手伝います。
お金が理由で受診を控えているなら、診察前に窓口へ伝えます
「検査をすると高くなりそうだから」と、症状があっても受診を先延ばしにする方がいます。
費用が心配なときは、診察を受けずに我慢する前に、医療機関へ支払いへの不安があることを伝えてください。
伝えられること
- 高額療養費を利用したい
- 保険外費用を事前に知りたい
- 無料の病室を希望している
- 一度に支払うのが難しい
- 利用できる公費制度がないか知りたい
- 退院後の医療・介護費も含めて相談したい
加入している健康保険、市区町村の国民健康保険窓口、後期高齢者医療広域連合なども、高額療養費の上限や申請方法の確認先です。どこへ聞くか分からない場合は、資格情報に記載された保険者名から確かめられます。
今日するのは、老後の病気を予想することではありません
今日は、過去1年分の医療費をすべて集めなくても構いません。
直近3か月の領収書と薬局の明細を出し、次の表だけ書いてください。
| 今日書くこと | 自分の家の金額・内容 |
|---|---|
| 1か月平均の診察・薬代 | |
| 自分と配偶者の窓口負担割合 | |
| 加入している医療保険者 | |
| 民間医療保険の有無 | |
| 医療費としてすぐ使える預貯金 |
次に、資格確認書やマイナポータルなどで負担割合を見ます。
高額療養費の上限が分からなければ、加入する保険者へ「現在の年齢と所得区分では、月の自己負担上限はいくらですか」と聞きます。
これだけで、「老後に何百万円かかるか分からない」という不安を、毎月の通院費と入院時の上限へ分けられます。
老後の医療費を完全に予測することはできません。
けれど、保険診療には負担割合と上限があり、保険外費用は選び方や事前確認で変えられる部分があります。
平均額を見て一度に大金を用意しようとせず、通常の医療費、高額療養費の上限、制度対象外の支出を別々に書く。
今日その三つを分けられれば、医療費は「正体の分からない老後不安」から、「今の家計で備え方を考えられる支出」へ変わり始めます。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」:年齢・所得別の自己負担上限、多数回該当、限度額情報、2026年8月以降に予定される制度見直しの確認先。
- 厚生労働省・政府広報「後期高齢者の窓口負担割合」:75歳以上の1割・2割・3割負担と判定基準の確認先。
- 全国健康保険協会「高額療養費」:対象外費用、世帯合算、多数回該当などの確認先。
- 全国健康保険協会「入院時食事療養費・保険外併用療養費」:食事負担、生活療養、保険外診療に関する確認先。
- 厚生労働省「保険外併用療養費制度」:先進医療、差額ベッドなど保険外費用の分類に関する確認先。
- 厚生労働省「高額介護合算療養費制度」:医療保険と介護保険の自己負担が高額になった場合の制度確認先。
- 国税庁「医療費を支払ったとき」:医療費控除の計算、補てん金、明細書に関する確認先。


















