親の「運用してみたい」に、家族がざわつくのは自然です
70代の親や配偶者から、「少し資産運用を始めてみたい」と言われた。
その瞬間、家族の頭にはいろいろな不安が浮かぶと思います。
「今から投資を始めて大丈夫なの?」
「退職金や老後資金を減らしたらどうするの?」
「誰かにうまい話を持ちかけられているのでは?」
「NISAや投資信託と言われても、本人が本当に理解しているのか分からない」
「反対したら、お金を取り上げようとしていると思われそう」
「本人のお金なのに、どこまで口を出していいのか分からない」
家族が心配するのは当然です。
ただ、最初から「やめて」「危ない」「今さら投資なんて」と強く言うと、本人は身構えてしまうことがあります。
本人にとっては、老後資金への不安、物価上昇への焦り、子どもに迷惑をかけたくない気持ち、預金だけでは増えないという悩みが背景にあるかもしれません。
金融庁は、高齢社会における金融サービスのあり方について、長寿化が進む中で資産寿命の延伸や、高齢者が安心して資産活用を行える環境整備が重要だと示しています。70代の資産運用は、ただ「危ないから禁止」ではなく、本人の生活とリスクを見ながら慎重に考えるテーマです。
最初に聞くのは「何を買うの?」ではなく「何のために増やしたいの?」です
家族はつい、商品名を聞きたくなります。
投資信託なのか、株なのか、NISAなのか、外貨建て保険なのか、暗号資産なのか。
もちろん商品内容は重要です。
でも、その前に確認したいのは、本人がなぜ今から運用したいのかです。
| 本人の言葉 | 背景にありそうな気持ち | 家族が聞きたいこと |
|---|---|---|
| 「預金だけでは増えない」 | 物価上昇や老後資金への焦り | 毎月の生活費は足りているか |
| 「少しでも子どもに残したい」 | 家族に迷惑をかけたくない気持ち | 相続より先に本人の生活費は確保できているか |
| 「友人が儲かったらしい」 | 置いていかれる不安、好奇心 | 誰から何を聞いたのか、資料はあるか |
| 「銀行で勧められた」 | 専門家に言われた安心感 | 手数料、リスク、解約条件を理解しているか |
| 「退屈だから勉強したい」 | 社会とのつながり、学び直し | 生活資金ではなく少額で学べる形にできるか |
| 「年金だけでは不安」 | 将来の医療・介護費への心配 | 不足額を運用で埋めようとしていないか |
目的が曖昧なまま商品を選ぶと、説明を聞くほど「良さそう」に見えてしまいます。
まずは、「増やしたい理由」を本人の言葉で聞いてください。
本人の希望を否定しないことと、契約を急がないことは両立できます。
運用に回してよいお金かどうかは、生活費の外に出して考えます
70代の資産運用で大事なのは、金額の大きさだけではありません。
そのお金が、生活に必要なお金なのか、余裕資金なのかです。
老後のお金は、一つの通帳に入っていても、役割が違います。
| お金の種類 | 使い道 | 運用に回す前の考え方 |
|---|---|---|
| 毎月の生活費 | 食費、光熱費、通信費、住居費 | 減らしてはいけないお金 |
| 医療・介護の予備費 | 通院、入院、薬、介護サービス、施設費用 | すぐ使える形で残したいお金 |
| 住まいの維持費 | 修繕、固定資産税、引っ越し、バリアフリー改修 | 時期が読みにくいため現金性が必要 |
| 家族への援助予定 | 子ども・孫への支援、冠婚葬祭 | 本当に援助できる範囲か別に考える |
| 葬儀・死後事務の備え | 葬儀、墓、遺品整理、手続き費用 | 家族に迷惑をかけたくないなら残す候補 |
| 当面使う予定のない余裕資金 | 生活に影響しない範囲のお金 | この中から少額で検討する |
「100万円なら少額」「500万円なら多い」という単純な話ではありません。
本人の年金、生活費、住まい、医療、介護、家族状況によって、余裕資金の大きさは変わります。
運用に回す前に、まず「なくなると生活が困るお金」を別にしておきましょう。
本人が損を理解しているかは、説明を言い直してもらうと分かります
金融商品の説明は、聞いていると分かった気になります。
でも、本当に理解できているかは、本人が自分の言葉で言い直せるかで見えてきます。
家族が確認するときは、試験のように問い詰める必要はありません。
やさしく、次のように聞いてみてください。
| 確認したいこと | 家族の聞き方 | 本人が言えた方がよいこと |
|---|---|---|
| 元本割れ | 「一番悪い場合、どのくらい減る可能性がある説明だった?」 | 元本が減る可能性があるか |
| 手数料 | 「買うとき、持っている間、売るときに費用はかかる?」 | 購入時・運用中・解約時の費用 |
| 解約しやすさ | 「急にお金が必要になったら、すぐ現金にできる?」 | 解約条件、換金までの日数、損失の可能性 |
| 値動き | 「毎月いくら増えるものなの?それとも上下するもの?」 | 利益が確定していないこと |
| 為替リスク | 「円高や円安で金額が変わる説明はあった?」 | 外貨建ての場合の為替変動 |
| 誰から勧められたか | 「その人は登録された金融機関の人?資料はある?」 | 相手の会社名、担当者名、登録の有無 |
本人がうまく説明できないからといって、すぐに怒る必要はありません。
ただ、説明できないまま契約するのは危険です。
「もう一度、家族も一緒に説明を聞きたい」と伝える理由になります。
70代で特に注意したいのは、長期運用より「途中で使う可能性」です
資産運用では、長期・分散・積立という言葉をよく聞きます。
ただ、70代では、若い世代と同じように長い時間を前提にしにくい場合があります。
医療費、介護費、住まいの修繕、配偶者の入院、施設入居、子どもへの支援など、途中でまとまったお金が必要になることがあるからです。
| 70代で起こりやすい支出 | 運用前に見ること | 避けたい状態 |
|---|---|---|
| 入院・手術 | 高額療養費や保険の有無、手元資金 | 必要なときに現金化できない |
| 介護サービス | 自己負担、施設費、通院交通費 | 運用損で介護費に不安が出る |
| 住まいの修繕 | 屋根、水回り、バリアフリー、固定資産税 | 修繕費を投資に回してしまう |
| 配偶者の生活費 | どちらかが亡くなった後の年金・住まい | 残された人の生活費が不足する |
| 認知機能の低下 | 契約内容を後で管理できるか | 本人も家族も商品を把握できない |
| 相続・死後手続き | 家族が金融機関や商品を把握できるか | どこに何があるか分からない |
70代の運用で大切なのは、「増えたらうれしい」より先に、「必要なときに生活費を守れるか」です。
すぐ使う予定があるお金まで運用に回さないようにしてください。
家族が反対するときは、「投資が嫌」ではなく「契約前に確認したい」と伝えます
家族としては、危ないと感じたら止めたくなります。
でも、言い方によっては本人のプライドを傷つけてしまいます。
「そんな年齢でやめて」
「どうせ分かっていないでしょ」
「だまされているんじゃないの」
こう言われると、本人は意地になってしまうかもしれません。
| 言いたくなる言葉 | 本人が受け取りやすい言い方 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 「やめた方がいい」 | 「契約前に一緒に条件を見たい」 | 商品内容、手数料、元本割れ |
| 「だまされてるよ」 | 「誰から勧められたのか、登録された業者か確認しよう」 | 会社名、担当者名、登録の有無 |
| 「お金を減らしたら困る」 | 「生活費と医療・介護費を先に分けよう」 | 余裕資金かどうか |
| 「もう契約しないで」 | 「今日は申し込まず、資料を持ち帰って一緒に見よう」 | 即決を避ける |
| 「分かってないでしょ」 | 「説明をもう一度、一緒に聞かせてほしい」 | 本人の理解度 |
本人の意思を尊重することと、契約前に止まることは矛盾しません。
家族は、本人のお金を奪うためではなく、本人の生活を守るために確認するのだと伝えてください。
「必ず儲かる」「元本保証」は、すぐ止まって確認する言葉です
70代から資産運用を始めたいという話の中で、特に注意したいのが詐欺的な投資勧誘です。
「必ず儲かる」
「元本保証」
「今だけ」
「家族には言わない方がいい」
「金融庁の関係者です」
「あとで高く買い取ります」
こうした言葉が出たら、契約や送金を止めてください。
金融庁は、未公開株やファンドなどの勧誘で「必ず儲かります」「元本も保証します」「高く買い取ります」「現金を送付してください」などの勧誘を受けた場合、詐欺的商法の可能性が高いため取引を見合わせることをすすめています。また、相談先として金融庁金融サービス利用者相談室や警察などを案内しています。
| 危ない言葉・状況 | なぜ危ないか | 家族がすること |
|---|---|---|
| 必ず儲かる | 投資に確実な利益はないため | その場で契約しない |
| 元本保証を強調する | 保証の主体や条件が不明な場合があるため | 契約書と登録業者を確認する |
| 家族に内緒でと言われる | 第三者確認を避けさせる手口の可能性 | すぐ家族・相談窓口へ共有する |
| SNSや電話だけで勧誘 | 相手の実態が分かりにくい | 送金・個人情報入力を止める |
| 現金や暗号資産で送金を求める | 取り戻しが難しくなる可能性がある | 警察や消費生活センターへ相談する |
| 金融庁など公的機関を名乗る | 公的機関名を悪用した詐欺の可能性 | 公式窓口で確認する |
国民生活センターも、高齢者は「お金」「健康」「孤独」の不安を持つとされ、悪質業者がこれらの不安をあおり、年金や貯蓄など大切な財産を狙うことがあると注意喚起しています。
本人が前向きに学んでいる投資と、焦らせて契約させる勧誘は分けて考えましょう。
金融機関に相談するなら、家族同席と持ち帰りを最初に頼みます
本人が銀行や証券会社に相談したい場合、家族が同席できるなら一緒に行くと安心です。
ただし、家族が同席する目的は、本人の代わりに決めることではありません。
説明を一緒に聞き、分からないところを質問し、即決を避けることです。
| 金融機関で聞くこと | 聞き方の例 | 持ち帰るもの |
|---|---|---|
| この商品を勧める理由 | 「本人の年齢・収入・生活費を踏まえて、なぜこの商品ですか」 | 提案書、商品説明書 |
| 元本割れの可能性 | 「どのような場合に、どれくらい損をする可能性がありますか」 | リスク説明資料 |
| 手数料 | 「購入時、保有中、解約時にかかる費用を全部教えてください」 | 手数料一覧 |
| 解約・換金 | 「急に介護費が必要になった場合、いつ現金化できますか」 | 解約条件、換金日数 |
| 家族への説明 | 「家族で確認したいので、今日契約せず資料を持ち帰れますか」 | 申込書控えではなく、検討用資料 |
| 高齢者への販売ルール | 「高齢者の契約では、家族同席や翌日以降の確認はできますか」 | 社内手続きの説明 |
日本証券業協会の資料では、高齢顧客に有価証券等の勧誘による販売を行う場合、高齢顧客の定義、販売対象、説明方法、受注方法等に関する社内規則を定め、適正な投資勧誘に努めることが示されています。また、高齢顧客への勧誘では、当日中の受注を避ける考え方も示されています。
家族が不安な場合は、「今日は申し込みません。資料を持ち帰って、家族で確認してから決めます」と最初に伝えてください。
NISAという言葉だけで安心しないようにします
70代の資産運用で、NISAという言葉が出ることもあります。
NISAは制度の名前であって、すべての商品が安全になる魔法の言葉ではありません。
非課税のメリットがある一方で、投資する商品によって値動きや元本割れの可能性はあります。
| NISAで確認したいこと | 家族の聞き方 | 注意点 |
|---|---|---|
| 何の商品を買うのか | 「NISA口座で、具体的に何を買う予定?」 | NISA自体ではなく商品リスクを見る |
| いくら入れるのか | 「生活費を除いた余裕資金の範囲?」 | 大きな金額を一度に入れない |
| 何年持つつもりか | 「急な医療費や介護費が必要になったらどうする?」 | 途中で売る可能性も考える | 誰が管理するのか | 「ログイン情報や金融機関は家族も把握できる?」 | 認知機能低下や相続時の手続き |
| 損したときの対応 | 「値下がりしたら売る?持つ?追加する?」 | 事前にルールを決める |
「NISAなら大丈夫」と安心するのではなく、「NISAで何を、いくら、どのくらいの期間、どんな目的で買うのか」を見てください。
制度名ではなく、中身が大切です。
本人の判断力が心配なときは、商品より先に管理方法を考えます
家族が心配している理由が、投資そのものではなく、本人の判断力や記憶力の場合もあります。
同じ説明を何度も聞き返す。契約書をどこに置いたか分からない。通帳やカードをよくなくす。知らない電話に長く応じる。高額な買い物を家族に言わない。
こうした様子がある場合は、資産運用を始める前に、お金の管理体制を考える必要があります。
| 気になる様子 | 家族が確認すること | 相談先の例 |
|---|---|---|
| 契約内容を覚えていない | 資料を一緒に保管できるか | 金融機関、家族、地域包括支援センター |
| 電話勧誘に弱い | 知らない相手からの投資話を断れるか | 消費生活センター、警察相談 |
| 通帳やカードをよくなくす | お金の管理方法を見直す必要があるか | 地域包括支援センター、成年後見制度の相談窓口 |
| 家族に隠して契約する | 本人が不安や孤独を抱えていないか | 家族会議、消費生活センター |
| 高額商品を理解せず契約する | 契約取消や相談の余地があるか | 消費者ホットライン188、法律相談 |
投資を禁止するかどうかだけでなく、本人が安心してお金を管理できる状態かを見ることが大切です。
判断力に不安がある場合は、契約前に地域包括支援センターや消費生活センターなどへ相談してください。
家族のお金として扱いすぎると、本人は反発します
家族が心配するあまり、本人のお金を「家族の共有財産」のように扱ってしまうことがあります。
「それは使わないで」
「私たちに残しておいて」
「勝手に契約しないで」
心配から出た言葉でも、本人には「自分のお金を取り上げられる」と感じられることがあります。
| 家族が守りたいこと | 本人が感じやすいこと | 伝え直す言葉 |
|---|---|---|
| 老後資金を減らしてほしくない | 自分の楽しみを否定された | 「生活費と医療・介護費は先に守りたい」 |
| 詐欺に遭ってほしくない | 自分を信用していない | 「相手と商品を一緒に確認したい」 |
| 相続で困りたくない | 早く死ぬ前提で話されている | 「もしもの時に手続きで困らないようにしたい」 | 判断力が心配 | 年寄り扱いされた | 「大事なお金だから、二人で説明を聞きたい」 |
| 契約を止めたい | 命令された | 「今日だけは申し込まず、明日もう一度考えよう」 |
本人のお金は、基本的には本人のものです。
家族は管理者ではなく、必要なときに横で確認する人として関わる方が、話し合いがこじれにくくなります。
すでに申し込んだ後なら、責める前に書類と支払い方法を見ます
もし、すでに本人が投資商品を申し込んでいた場合、家族は驚くと思います。
「どうして相談してくれなかったの」
「だまされたんじゃないの」
「今すぐ解約して」
そう言いたくなるかもしれません。
でも、最初に責めると、本人は書類や事実を隠してしまうことがあります。
| まず見るもの | 確認すること | 次にすること |
|---|---|---|
| 契約書・申込書 | 商品名、契約日、金額、担当者、会社名 | 正式な金融機関か確認する |
| 重要事項説明書 | 元本割れ、手数料、解約条件、リスク | 本人が理解していたか確認する |
| 支払い方法 | 振込、口座引落、現金、暗号資産など | 不審な送金がないか見る | 勧誘の経緯 | 電話、訪問、友人、SNS、金融機関窓口 | 詐欺的勧誘の可能性を考える |
| 解約・取消の条件 | クーリング・オフ、解約手数料、換金制限 | 消費生活センターや金融機関に確認する |
| 今後の入金予定 | 追加投資や積立があるか | 不要な追加送金を止める |
契約や勧誘に不審な点がある場合は、消費者ホットライン188から身近な消費生活センター等につながることができます。消費者庁は、困ったときは一人で悩まず相談するよう案内しています。
責めるより先に、書類を集める。
それが本人のお金を守るための第一歩です。
今日できる一歩は、契約する前に「使ってはいけないお金」を書くことです
70代から資産運用を始めたいと言われたとき、今日すぐ賛成か反対かを決めなくて大丈夫です。
まず、本人と家族で次の表を作ってください。
| お金の種類 | 金額の目安 | 運用に回さない理由 |
|---|---|---|
| 毎月の生活費6か月〜1年分 | 生活を守るため | |
| 医療・介護の予備費 | 急な支出に備えるため | |
| 住まいの修繕・税金 | 家を維持するため | |
| 近いうちに使う予定のお金 | 値下がり時に売らなくて済むようにするため | |
| 家族に共有しておきたいお金 | 手続きや相続で困らないため |
そのうえで、運用を検討するなら、次の5つを確認します。
- 何のために運用したいのか
- 生活費や医療・介護費を除いた余裕資金か
- 元本割れしたら生活に影響するか
- 誰から勧められた商品か
- 今日契約せず、資料を持ち帰れるか
家族が心配するのは、本人の自由を奪いたいからではありません。
本人のこれからの暮らしを守りたいからです。
一方で、本人の「学びたい」「少し増やしたい」「自分で決めたい」という気持ちも、乱暴に否定しなくていいのです。
今日は、申し込む日ではなく、使ってはいけないお金を分ける日。
そこから始めれば、資産運用の話は、家族で争う話ではなく、老後のお金を一緒に守る話に変えていけます。
出典・確認先メモ
- 金融庁「高齢社会における金融サービスのあり方の検討」:長寿化、資産寿命の延伸、高齢者が安心して資産活用を行える環境整備を確認する参考先です。
- 金融庁「詐欺的な投資勧誘等にご注意ください!」:「必ず儲かる」「元本保証」「現金を送付」などの勧誘への注意、無登録業者や相談窓口を確認する参考先です。
- 国民生活センター「高齢者の消費者被害」:高齢者の不安につけ込む悪質商法、年金や貯蓄など大切な財産を狙う手口への注意を確認する参考先です。
- 日本証券業協会「高齢顧客に対する勧誘による販売について」:高齢顧客への投資勧誘、説明方法、受注方法、社内規則などの考え方を確認する参考先です。
- 金融庁「金融サービス利用者相談室」:金融行政・金融サービスに関する一般的な質問・相談・意見、投資勧誘等の相談先を確認する参考先です。
- 消費者庁「消費者ホットライン188」:契約や請求、悪質商法などで困ったとき、身近な消費生活センター等につながる相談先を確認する参考先です。


















