実家へ行くたびに草と郵便物が増えると、「早く決めなければ」と焦ります
親が施設へ入り、実家に誰も住まなくなった。
あるいは相続した家が遠方にあり、自分もきょうだいも住む予定がない。
月に一度見に行くと、庭の草が伸び、郵便物がたまり、室内には少し湿ったにおいがする。固定資産税、火災保険、電気や水道、草刈り代は、使っていない家でも出ていきます。
「貸せば家賃が入るかもしれない」
「古くなる前に売った方がいいのでは」
「子どもが将来住むと言うかもしれない」
「安く売って後悔するくらいなら、しばらく残したい」
「でも、このまま何年も管理するのは無理かもしれない」
こうした迷いがあると、家賃相場や査定価格ばかり調べたくなります。
ただ、空き家を貸すか売るかは、金額だけでは決められません。
貸せば、修繕、入居者対応、契約、税務が始まります。売れば管理から離れられますが、家族が使う可能性や税の特例、売却後の手残りも考える必要があります。
先に決めたいのは、「この家を将来誰が使うのか」と「家族が何年まで管理を続けられるのか」です。
最初の分岐は「おおむね5年以内に誰かが使うか」です
貸すか売るかを考える前に、家族がその家を使う可能性を具体的にします。
「いつか使うかもしれない」ではなく、誰が、何年後に、どのような目的で使うのかまで聞いてください。
| 家族の予定 | 考えやすい方向 | 次に確かめること |
|---|---|---|
| 1〜2年以内に家族が住む予定がある | 管理しながら保有する。貸す場合は契約期間を慎重に考える | 改修費、管理方法、利用開始時期、賃貸借契約の種類 |
| 数年後に使う可能性はあるが、具体的な人も時期も決まっていない | 保留期限を決め、売却と賃貸の数字を並べる | 年間維持費、5年間の負担、家族が管理を担えるか |
| 家族全員に住む予定がない | 売却を中心に比較する | 売却手取り、税の特例、家財処分、境界や建物状態 |
| 親が施設から自宅へ戻る可能性がある | 本人の希望と医療・介護上の見通しを先に聞く | 退院・退所の可能性、在宅生活に必要な改修 |
| きょうだいで意見が分かれている | 契約を急がず、希望と費用負担をセットで話す | 誰が維持費、管理、修繕、現地対応を担うか |
ここでの5年は、法律上の期限ではありません。
「いつか」という言葉を、家族が現実的に考えられる期間へ置き換えるための目安です。
5年間残すなら、固定資産税、保険、草刈り、点検、交通費、修繕にいくらかかるのか。その費用を払ってでも残したいかを考えます。
使う予定を口にした人には、「いつ住むか」だけでなく、「それまでの管理費をどう分けるか」も聞いてください。
貸し始める前に、名義と税の期限を確かめます
空き家を貸すか売るか迷っている段階で、先に契約してしまうと、使えたはずの制度や選択肢を失うことがあります。
| 確かめること | 見る書類・窓口 | 注意点 |
|---|---|---|
| 現在の所有者 | 登記事項証明書、固定資産税の通知 | 親名義なら、家族の判断だけで貸したり売ったりできません |
| 相続登記 | 法務局、司法書士 | 相続した不動産の登記が未了なら、手続きの期限を確かめます |
| 共有名義 | 登記事項証明書、遺産分割協議書 | 一人で契約を進めず、必要な同意の範囲を個別に確かめます |
| 住宅ローン・抵当権 | 金融機関、登記事項証明書 | 売却代金で完済できるか、賃貸に金融機関の承諾が必要かを聞きます |
| 相続した空き家の税特例 | 税務署、税理士、市区町村 | 貸し始めることで売却時の特例要件を満たせなくなる場合があります |
| 親の判断能力や意思 | 本人、医療・福祉関係者、法律専門職 | 本人名義の家を、家族が善意だけで処分しないようにします |
相続した親の家が「被相続人の居住用財産に係る譲渡所得の特別控除」の候補になる場合、相続から売却まで貸付けに使われていないことなどが要件になります。「いったん貸して、後で売る」と決める前に、税務署や税理士へ適用可能性を聞いてください。
この特例は、一定要件を満たす相続空き家を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる制度です。対象期間、建築年、売却期限、耐震性、売却代金など複数の条件があります。
「家賃を数か月受け取ってから考えよう」と始めると、後から元へ戻せない可能性があります。
貸すか売るかを迷っている今だからこそ、税の条件を先に確かめる意味があります。
空き家を、そのまま家賃収入を生む家だと考えないようにします
長く人が住んでいない家は、見た目がきれいでも、貸す前に手を入れる必要があることがあります。
| 見る場所 | 貸す前に起きやすい問題 | 判断材料 |
|---|---|---|
| 屋根・外壁・雨どい | 雨漏り、ひび、落下、隣家への影響 | 修繕見積もり、建物現況調査 |
| 給排水・給湯器 | 漏水、さび、凍結、長期不使用による不具合 | 通水・作動点検、交換時期 |
| 電気・ガス | 古い設備、容量不足、漏電、使用できない機器 | 専門業者の点検、契約状況 |
| 浴室・トイレ・台所 | 水漏れ、カビ、破損、入居希望者が敬遠する古さ | 最低限必要な修繕と、希望改修を分ける |
| 耐震性・傾き | 安全性への不安、売却・賃貸条件への影響 | 建築年、図面、インスペクション、耐震診断 |
| シロアリ・害虫・動物 | 床や柱の損傷、衛生問題 | 点検費用と駆除・補修費 |
| 家財・残置物 | 入居募集や内覧ができない、処分費がかかる | 親族が残す物、処分量、自治体ルール |
| 境界・接道・未登記部分 | 売却や改修で問題が見つかる | 測量図、登記、建築関係書類 |
ここで避けたいのは、不動産会社から「きれいにすれば高く貸せます」と言われ、需要を確かめる前に大きなリフォームを契約することです。
先に、現在の状態で見込める家賃、最低限の修繕後に見込める家賃、入居者が見つかるまでの期間を聞きます。
売却についても、現状のまま売る案、最低限整えて売る案、解体して土地として売る案を並べます。
建物現況調査であるインスペクションは、修繕の必要性を考えたり、売却後のトラブルを減らしたりする判断材料になります。
貸す場合は、家賃ではなく「1年後に残るお金」を見ます
家賃が月6万円と聞くと、1年で72万円の収入になるように見えます。
実際には、空室、管理、税金、保険、修繕などを差し引きます。
賃貸の年間手残りの目安
受け取る家賃等-空室による減収-管理費-固定資産税等-保険-修繕費-その他の維持費
| 仮の項目 | 仮の金額 | 考え方 |
|---|---|---|
| 家賃収入 | 月6万円×12か月=72万円 | 満室で1年続いた場合 |
| 空室による減収 | マイナス6万円 | 1か月空いた例 |
| 管理委託・募集等 | マイナス4万円 | 管理方法や契約で異なります |
| 固定資産税・保険 | マイナス10万円 | 物件や地域で異なります |
| 修繕の積立 | マイナス12万円 | 月1万円を修理用に残す仮定 |
| その他 | マイナス2万円 | 交通・清掃・点検などの仮定 |
| 税引前の手残り | 約38万円 | 入居前の大規模修繕費と所得税等は含まない例 |
この金額は相場ではなく、考え方を示すための仮の例です。
入居前に200万円の修繕が必要なら、年間38万円の手残りで回収するには単純計算でも5年以上かかります。その間に設備の故障や空室が出れば、さらに延びます。
賃貸収入は、家賃そのものではなく、必要経費を差し引いた不動産所得として税務上扱われます。帳簿や確定申告が必要になる場合もあります。
不動産会社には、家賃相場だけでなく、次の数字を出してもらってください。
- 入居前に必要な修繕費
- 見込める家賃の幅
- 想定する空室期間
- 管理委託料と入居者募集時の費用
- 退去後の原状回復
- 5年間の税引前手残り
「あとで家族が使う」なら、普通借家で貸す前に立ち止まります
家を貸した後、貸主の都合だけで入居者に退去してもらえるとは限りません。
| 契約 | 基本的な特徴 | 空き家所有者が考えること |
|---|---|---|
| 普通借家契約 | 貸主が更新を拒んだり解約を求めたりするには、正当事由が必要になります | 「数年後に子どもが使うから」という予定だけで、簡単に明け渡してもらえるとは限りません |
| 定期借家契約 | 決めた期間の満了により、更新なく終了する契約です | 書面契約や事前説明など、法律上の手続きが必要です |
| 短期間の保有後に売却 | 入居者がいるまま売る場合、投資用物件として扱われることがあります | 買い手の範囲や売却価格に影響する可能性があります |
家族が戻る時期や、解体・売却を予定する時期が決まっているなら、定期借家契約が選択肢になることがあります。
ただし、「定期」と契約書へ書くだけで成立するものではありません。必要な書面や説明、期間満了時の通知などを、不動産会社や法律専門職へ確かめてください。
家族の「いつか使いたい」が曖昧なままなら、貸してよい期間を先に決めることはできません。
貸す前に、戻る予定を家族で現実的な日付へ置き換えておきましょう。
売る場合は、査定価格ではなく「最終的に残るお金」を比べます
不動産会社から示される査定価格は、実際にその金額で売れることを保証するものではありません。
| 売却代金から差し引かれるもの | 内容 |
|---|---|
| 仲介手数料 | 仲介会社へ支払う報酬 |
| 登記・司法書士費用 | 相続登記、住所変更、抵当権抹消など |
| 測量・境界確認 | 境界が不明確な土地で必要になる場合がある |
| 家財処分・清掃 | 残置物、不用品、庭、物置などの整理 |
| 修繕・解体 | 売却条件によって実施する場合がある |
| ローン残高 | 抵当権を外すために完済が必要な場合がある |
| 税金 | 譲渡所得が生じた場合の所得税・住民税など |
| 空き家の維持費 | 売れるまでの税金、保険、管理、草刈り、光熱費 |
売却手取りの考え方
実際の売却価格-売却費用-ローン等-税金-売却完了までの維持費
不動産会社には、価格だけでなく、次の3案を頼むと比べやすくなります。
- 現状のまま売る場合
- 家財を整理し、最低限の修繕をして売る場合
- 建物を解体し、土地として売る場合
解体すれば必ず高く売れるとは限りません。解体費がかかるだけでなく、土地の固定資産税等の扱いも変わる可能性があります。
先に買い手の需要や自治体の補助制度を聞き、契約前に税務面も確かめてください。
今の状況から「貸す・売る・期限付きで保留」を仮決めします
| 今の状況 | 考えやすい方向 | 理由 |
|---|---|---|
| 賃貸需要があり、修繕費を払っても5年程度で回収を見込める | 貸す方向で詳しく試算する | 長期保有と管理を受け入れられる可能性がある |
| 家族が長期保有を望み、管理担当者も決まっている | 貸す、または管理しながら残す | 収益だけでなく保有目的がある |
| 誰も使わず、遠方で管理が難しい | 売る方向で比較する | 維持費と現地対応の負担を終えやすい |
| 大きな修繕が必要で、周辺の賃貸需要も弱い | 現状売却や土地売却を含めて考える | 家賃だけでは修繕費を回収できない可能性がある |
| 相続空き家の税特例に期限がある | 貸す前に売却案を優先して確認する | 貸付けに使うことで特例対象外になる場合がある |
| 名義や遺産分割が終わっていない | 契約せず、権利関係を整える | 売却・賃貸の前提が固まっていない |
| 親が戻るか、家族が住むかを数か月で判断できる | 期限付きで保留する | 結論を急がず、具体的な予定を待てる |
保留は、「何もしない」という意味ではありません。
次に判断する日、管理する人、年間予算を決めた保留です。
たとえば、「半年間は管理し、その間に賃貸見積もり2案と売却査定2案を取り、家族会議で決める」と期限を置きます。
家族会議では、希望だけでなく担当と費用もセットにします
空き家は、思い出や親への気持ちが絡むため、数字だけでは決められません。
一方で、「残したい」という気持ちだけで管理を他のきょうだいへ任せると、後から不満がたまります。
| 家族の希望 | 一緒に決めたいこと | 話し方の例 |
|---|---|---|
| 家を残したい | 固定費と管理を誰が担うか | 「残す場合の年間費用と、現地へ行く担当も決めたい」 |
| 貸したい | 修繕費、入居者対応、確定申告を誰が担うか | 「家賃だけでなく、最初に出すお金と管理担当も書こう」 |
| 売りたい | 希望価格、売れるまでの期限、値下げの基準 | 「いつまでに、いくらなら売るかを先に決めたい」 |
| 将来自分が住みたい | 住み始める時期と、それまでの費用負担 | 「住む予定の年と、それまで管理できる金額を教えてほしい」 |
| 判断に関わりたくない | 委任する範囲と、費用負担 | 「作業を任せる場合も、契約と費用の承認方法は決めよう」 |
話し合いでは、家の思い出を否定する必要はありません。
「この家をどう思うか」と「これから誰がいくら負担できるか」を別の欄に書くと、感情と実務を両方扱いやすくなります。
不動産会社には、売却と賃貸を同じ条件で出してもらいます
売却を得意とする会社は売却を、賃貸管理を得意とする会社は賃貸を勧めることがあります。
どちらか一方の説明だけで決めず、同じ家の状態、同じ修繕条件、同じ期間で比較します。
| 売却について聞くこと | 賃貸について聞くこと |
|---|---|
| 査定価格の根拠となった成約事例 | 家賃の根拠となった成約・募集事例 |
| 現状・修繕後・解体後の価格差 | 現状・修繕後の家賃差 |
| 売れるまでの想定期間 | 入居者が決まるまでの想定期間 |
| 売却費用を引いた手取り | 管理・空室・修繕を引いた年間手残り |
| 値下げする時期と金額 | 家賃を下げる時期と金額 |
| 契約不適合責任や建物状態への対応 | 普通借家・定期借家、修繕負担、原状回復 |
周辺の不動産市場が小さい地域では、自治体の空き家バンクに、売却物件または賃貸物件として登録できる場合があります。
自治体によって対象、登録条件、補助制度、仲介方法が異なるため、空き家がある市区町村の担当窓口にも聞いてみてください。
決めきれない間も、空き家を放置したままにはしません
当面売らず、貸さずに保有するなら、管理予定を作ります。
| 管理すること | 見る内容 |
|---|---|
| 外観・屋根 | 瓦、外壁、雨どい、窓、飛散しそうな物 |
| 室内 | 雨漏り、カビ、におい、害虫、動物の侵入 |
| 通水・設備 | 漏水、凍結、排水口、給湯器、電気設備 |
| 庭・境界 | 草木、越境、落ち葉、不法投棄 |
| 郵便・防犯 | 郵便物、施錠、侵入跡、近隣からの連絡 |
| 保険・契約 | 空き家状態で補償が続くか、電気・水道を残すか |
| 判断期限 | 次の家族会議、査定・見積もりの取得期限 |
管理が難しい場合は、空き家管理業者や地域の事業者へ点検を頼む方法もあります。
管理が不十分な空き家が自治体から「管理不全空家」などとして指導され、改善されず勧告を受けた場合、土地の固定資産税等に関する住宅用地特例を受けられなくなることがあります。
空き家になっただけで直ちに税が上がるという意味ではありませんが、「決めていないから何年も見に行かない」という状態は避けた方がよいでしょう。
今日の一歩は、売るか貸すかを決めることではなく、7つの数字を一枚にすることです
空き家の判断は、今日一日で終わらせなくても大丈夫です。
まず、次の7つを一枚に書いてください。
- 登記上の所有者と共有者
- 家族が使う予定と、その時期
- 現在の年間維持費
- 貸すために必要な修繕費
- 5年間の賃貸手残り
- 売却費用を引いた手取り見込み
- 次に家族で判断する日
相続した家なら、貸す前に税の特例を確認する。
貸したいなら、家賃ではなく修繕後の手残りを見る。
売りたいなら、査定価格ではなく諸費用を引いた金額を見る。
今は決められないなら、管理担当と期限だけ決める。
この順番にすれば、思い出を急いで手放す必要も、採算の合わない賃貸を慌てて始める必要もありません。
まずは家をどうするかではなく、家族が無理なく背負える範囲を数字にする。そこから、貸す・売る・残すの答えを選んでいきましょう。
出典・確認先メモ
- 国税庁「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」:適用期間、貸付けに使っていないこと、売却期限、建築年等の要件を確認する際の参考。
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」:相続登記の期限や過去の相続への適用を確認する際の参考。
- 国土交通省「空家法とは」:管理不全空家、特定空家、住宅用地特例の扱いを確認する際の参考。
- 国土交通省「空き家の管理のやり方」:保留中の点検・管理方法を確認する際の参考。
- 国土交通省「定期借家制度」:普通借家契約と定期借家契約の違い、必要な書面・説明の確認先。
- 国税庁「不動産収入を受け取ったとき」:不動産所得と必要経費の基本的な考え方の確認先。
- 国土交通省「空き家を売る・貸す際に活用できる制度」:インスペクション、空き家バンク、売却・賃貸制度の確認先。


















