日曜の夕方になると、翌日の仕事を考えて身体が重くなる。
上司から届いた短い連絡を何度も開き、「明日こそ辞めると言おう」と思います。それでも通帳の残高を見ると、退職後の生活が急に現実味を帯び、何も言えないまま月曜日を迎える。
住宅ローンはまだ残っている。子どもの学費も終わっていない。親へ渡しているお金もある。自分が辞めたら、家族の生活まで崩れるのではないか。
一方で、今の働き方を続ければ、体調や気持ちの方が先に持たなくなりそうです。
「辞めるのは怖い。でも、続けるのも怖い」
この状態では、退職するか我慢するかの二択にしない方がよいでしょう。
まず行うのは、老後までのお金をすべて計算することではありません。収入が途切れた後、今の生活を何か月保てるかを出すことです。
退職届を書く前に「毎月いくら足りなくなるか」を出します
「貯金が300万円あれば辞めても大丈夫」「最低でも一年分必要」といった一律の基準は使えません。
同じ貯金額でも、住宅ローンがある人とない人、配偶者の収入がある人と一人暮らしの人では、持つ期間が違うためです。
最初に、次の式で一か月の不足額を出します。
退職後の最低生活費 - 退職後も入る収入 = 毎月の不足額
最低生活費には、食費だけでなく、次の支払いを含めてください。
- 家賃または住宅ローン
- 食費、水道光熱費、通信費
- 生命保険、医療保険、自動車保険
- 医療費、薬代
- 子どもの学費や仕送り
- 親への援助や介護費用
- 借入金、カード分割払い
- 退職後の健康保険料、年金保険料
- 給与から引かれなくなる住民税
退職後も入る収入には、配偶者の収入、家賃収入、副業など、継続が見込めるものだけを入れます。
失業給付は、受給資格と金額が確定する前から満額を収入へ入れない方が安全です。
たとえば、退職後の最低生活費が月24万円、配偶者から生活費へ入れられる金額が月10万円なら、毎月の不足額は14万円です。
自由に使える預貯金が210万円あっても、急な医療費や修繕費として70万円を残すなら、生活費へ使えるのは140万円です。
140万円 ÷ 14万円 = 約10か月
この10か月が、次の収入がない場合に生活を保てる期間の目安になります。
「貯金がいくらあるか」だけではなく、「退職後は毎月いくら減るのか」を見ます。退職後の保険料や税金を加えると、現在の生活費より負担が増えることもあります。
年払いと臨時支出を忘れると、通帳が予想より早く減ります
毎月の家計だけを見て退職すると、数か月後にまとまった請求が届くことがあります。
自動車税、固定資産税、車検、火災保険、家電の買い替えなどは、月々の通帳には表れません。
退職予定日から一年以内に支払いそうな費用を確認してください。
| 退職後に見落としやすい費用 | 確かめる場所 |
|---|---|
| 住民税の未徴収分 | 給与明細、会社の給与担当、市区町村 |
| 健康保険料 | 加入中の健康保険、市区町村、配偶者の勤務先 |
| 国民年金保険料 | 年金事務所、市区町村 |
| 固定資産税・自動車税 | 納税通知書、口座の過去一年分 |
| 車検・住宅修繕・家電 | 前回の支払日、保証書、点検記録 |
| 退職後の通院・薬 | 直近六か月の医療費 |
一年前の通帳やカード明細を見ると、年払いの費用を見つけやすくなります。
退職金や賞与が支給される場合も、手取り額と支給日が確定するまでは、生活費として使える前提にしないでください。
辞める・休む・条件を変える・転職してから辞めるを比べます
仕事を辞めたいと思っても、退職だけが職場から離れる方法ではありません。
今困っている原因によって、取れる方法が変わります。
| 方法 | 向いている状態 | 先に確かめること |
|---|---|---|
| 勤務を続けながら条件を変える | 仕事内容は続けられるが、残業、部署、人間関係が負担 | 配置転換、勤務時間、在宅勤務、業務量の変更 |
| 有給休暇や休職を使う | 心身を休めれば、退職以外の判断もできそう | 有給残日数、就業規則、休職期間、休職中の給与と保険料 |
| 在職中に転職先を探す | 出勤はできるが、無収入期間を作りたくない | 面接時間、退職予告期間、入社日 |
| 期限を決めて退職する | 生活資金を用意でき、数か月の求職期間を持てる | 退職日、給付、保険、年金、税金 |
| 早く職場から離れる | 健康や安全が損なわれ、勤務継続が難しい | 受診、休業、証拠の保存、安全な連絡方法 |
配置転換や勤務時間の変更を頼むなら、曖昧に「もう限界です」と伝えるより、続けられる条件を示します。
「現在の残業時間では体調を保てません。今後一か月、残業なしに変更できるか相談したいです」
「退職を決める前に、担当業務を減らすか、別部署へ変更できる可能性を確認させてください」
変更を頼んでも改善されない場合は、その事実も退職判断の材料になります。
眠れない、食べられない状態なら、退職より先に身体を止めます
仕事を辞めたい理由が、収入や人間関係だけではなく、心身の限界に近い場合があります。
次の状態が続いているなら、「生活費を計算し終えるまで出勤する」と考えない方がよいでしょう。
- ほとんど眠れない日が続いている
- 食事が取れず、体重が減っている
- 出勤前に動悸、吐き気、強い頭痛が出る
- 通勤途中で職場へ向かえなくなる
- 仕事のミスや事故が急に増えた
- 休日も仕事のことを考え続けている
- 「消えてしまいたい」と考えることがある
この状態では、正常な判断が難しくなることがあります。
まず仕事を休み、医療機関へ現在の症状と仕事内容を伝えてください。差し迫った自傷のおそれ、意識の異常、強い胸痛や呼吸困難などがある場合は、119番を優先します。
業務外の病気やけがで働けず、給与を受けられない場合は、健康保険の傷病手当金を利用できる可能性があります。
一般に、連続する三日間を含めて四日以上仕事を休み、仕事に就けず、休業中の給与が支払われていないことなどが条件です。
退職後も継続して受け取るには、退職前の被保険者期間や退職日時点の状態などの条件があります。特に退職日に出勤すると、退職後の継続給付を受けられない場合があるため、退職届を出す前に加入中の健康保険へ確認してください。
「体調不良で休んでおり、退職も考えています。傷病手当金を退職後も受けるための条件と、退職日にしてはいけないことを教えてください」
失業給付は、退職の翌月から給与の代わりに入るとは限りません
雇用保険の基本手当は、退職すれば自動的に振り込まれる制度ではありません。
原則としてハローワークで求職の申し込みを行い、働く意思と能力があり、仕事を探している状態であることが求められます。
一般の自己都合退職では、受給資格決定後の七日間の待期に加え、2025年4月1日以降の離職では原則一か月の給付制限があります。
ただし、過去の自己都合退職の回数や離職理由などによって扱いが変わります。手続きから実際の振り込みまでにも時間がかかるため、退職翌月の生活費をすべて失業給付で賄う計算は避けてください。
受給資格は、原則として離職前二年間に雇用保険の被保険者期間が通算十二か月以上あることなどが条件です。倒産、解雇、契約終了、正当な理由のある自己都合退職などでは、異なる扱いになる場合があります。
健康上の理由、家族の介護、著しい労働条件の相違、職場での嫌がらせなどが退職理由に関係しているなら、証拠を捨てないでください。
- 診断書や受診記録
- 勤務時間の記録
- 雇用契約書、労働条件通知書
- 会社とのメールやメッセージ
- 配置転換や勤務軽減を申し出た記録
- 退職勧奨を受けた記録
離職票に書かれた理由と事実が違う場合は、ハローワークへ事情と資料を伝えます。最終的な離職理由は、本人と事業主双方の主張や資料を踏まえて判断されます。
なお、病気やけがで直ちに働けない状態では、基本手当をすぐ受けられない場合があります。三十日以上働けないときは、受給期間を延長できる可能性があるため、療養中でもハローワークへ手続きの期限を確認してください。
退職後の健康保険は、三つの金額を比べて選びます
退職すると、勤務先の健康保険は原則として退職日の翌日から使えなくなります。
次の就職先へすぐ入らない場合、主な選択肢は三つです。
- 退職前の健康保険を任意継続する
- 市区町村の国民健康保険へ加入する
- 配偶者などの健康保険の被扶養者になる
協会けんぽの任意継続では、退職前に継続して二か月以上加入していることなどが条件で、退職日の翌日から二十日以内に手続きが必要です。
退職後は会社負担がなくなるため、保険料は在職中に給与から引かれていた額より増えることがあります。
国民健康保険料は、前年の所得、世帯人数、自治体などによって異なります。配偶者の健康保険へ入る場合も、収入などの扶養条件があります。
退職前に、それぞれへ同じ条件で金額を尋ねてください。
「〇月末に退職予定です。任意継続した場合の月額、国民健康保険の概算、家族の扶養に入れる条件を比較したいです」
任意継続には申請期限があるため、退職後にゆっくり考えるのではなく、退職日を決める前後に見積もります。
50代は国民年金の切り替えも必要になる場合があります
二十歳以上六十歳未満の方が会社を退職し、すぐに厚生年金へ加入する職場で働かない場合は、国民年金第1号被保険者への切り替えが必要になることがあります。
配偶者の扶養条件を満たし、第3号被保険者になる場合は、配偶者の勤務先を通して手続きを行います。
失業により保険料の納付が難しい場合には、免除・納付猶予や失業等による特例を利用できる可能性があります。
払えないからと納付書を放置せず、市区町村または年金事務所へ次のように伝えます。
「退職して収入がなくなります。国民年金への切り替えと、失業による免除制度の対象になるかを確認したいです」
免除の可否は、本人や世帯の所得などによって異なります。
住民税は、退職すればその月からなくなる税金ではありません
給与から差し引かれていた住民税は、退職後も残ることがあります。
個人住民税は前年の所得などを基に計算され、一般に給与所得者は六月から翌年五月まで給与から納めます。
途中で退職すると、残額が最後の給与からまとめて引かれたり、後日届く納付書で自分で納めたりします。退職時期や会社の処理によって異なるため、最終給与が普段より少なくなる場合もあります。
退職前に給与担当へ、次の三点を尋ねてください。
- 最後の給与から住民税をいくら引く予定か
- 普通徴収へ切り替わる金額はいくらか
- 退職金や未使用分の精算を含む最終手取りはいくらか
「退職月の手取りと、その後に自分で納める住民税の予定額を教えてください」
住民税の請求が来てから慌てないよう、生活費とは別に確保しておきます。
家族へは「辞めたい」だけでなく、持つ期間を伝えます
家族に仕事を辞めたいと話すと、「次を決めてからにして」「住宅ローンはどうするの」と返されることがあります。
本人の苦しさを軽く見ているとは限りません。家族も、収入がいつまで止まるのか分からず怖いのです。
感情だけで話し始めず、分かっている数字を持って伝えます。
「今のまま働き続けるのは難しいです。最低生活費は月23万円で、あなたの収入を除くと毎月12万円不足します。退職後に使える貯金で約八か月持つ見込みです。今月中に保険と失業給付を確認し、退職日はその後に決めたいです」
家族へ退職の許可を求める必要はありません。
ただし、世帯収入へ影響するなら、退職後の生活費、家事、求職期間については話し合う必要があります。
相手が強く反対した場合は、同じ夜に説得し切ろうとせず、次に見る数字を一つ決めて会話を終えます。
「今日は退職日を決めません。次は健康保険料の見積もりを持って、土曜日にもう一度話します」
50代の転職では、年収より「空白期間を短くする条件」を作ります
今と同じ年収、役職、雇用形態だけを求めると、転職先が決まるまで長くなることがあります。
一方で、焦って大幅に条件を下げ、生活費に足りない仕事へ移ると、再び転職が必要になります。
応募前に、条件を三段階へ分けます。
- 譲れない条件:最低手取り、通勤時間、健康上できない仕事
- 調整できる条件:雇用形態、役職、業界、勤務日数
- なくてもよい条件:肩書、会社規模、以前と同じ待遇
最低手取りは、世間の相場ではなく、自分の毎月の不足額から決めます。
退職前にハローワークや転職支援の窓口へ行く場合は、次のように伝えられます。
「50代で在職中ですが、現在の勤務継続が難しい状態です。退職を決める前に、私の経験で応募できる求人と、最低限必要な手取りに合う仕事があるかを知りたいです」
窓口を利用したからといって、応募や退職を決める必要はありません。市場にどのような求人があるかを見て、無職期間の見込みを現実に近づけるために使います。
退職届を出す前に、六つの資料を一か所へ集めます
退職を決める前後は、会社へ聞きたいことが増えます。
ところが、退職を伝えた後は職場に居づらくなり、書類を集めにくくなる場合があります。
先に次の資料を手元へそろえてください。
- 雇用契約書、労働条件通知書、就業規則
- 直近六か月の給与明細
- 有給休暇の残日数
- 退職金、賞与、企業年金の規程
- 健康保険の資格情報と傷病手当金の案内
- 勤務時間、体調悪化、会社とのやり取りの記録
会社へは、退職日の候補ごとに最終手取りと必要な手続きを聞きます。
月末退職か月途中退職かで社会保険料などの扱いが変わる場合がありますが、単純に「この日の方が得」とは限りません。次の健康保険へ切り替える日も含め、会社と加入先へ確かめてください。
今夜は退職届ではなく、次の給料日までの支払いを五つ見ます
今夜、仕事を辞めるかどうかを決めなくて構いません。
通帳かカード明細を開き、次の給料日までに引き落とされる金額のうち、大きいものを五つだけ拾ってください。
住宅費、保険料、カード代、学費、通信費などです。
その合計へ、食費と医療費を加えます。これが、退職後の最低生活費を計算する土台になります。
次に、会社の給与担当へ送る一文を下書きします。
「退職を検討しています。退職日を決める前に、最終給与、住民税、有給残日数、健康保険の手続きについて確認する時間をいただけますか」
送信するのは、体調と気持ちが落ち着いてからでも構いません。
「辞めたら暮らせない」という大きな恐れを、毎月の不足額、手続きの期限、次に入る可能性のある収入へ分けると、判断できる部分が増えていきます。
辞めるか続けるかは、その数字と身体の状態を見て決められます。今夜はまず、次の一か月に必要なお金を知るところまでで十分です。


















