「もう仕事を辞めるしかない」と思う前に、介護の中身を分ける
朝、親御さんの薬を確認してから出勤する。昼休みに病院やケアマネジャーからの電話を受ける。仕事が終わると買い物や通院の付き添いに向かい、帰宅した頃には自分の食事も後回しになる。
そんな日が続くと、「仕事を続けるのは無理かもしれない」「職場に迷惑をかけている」「親を見捨てるわけにはいかない」と、頭の中がいっぱいになります。
介護と仕事の両立がつらいとき、最初に必要なのは気合いではありません。何が仕事を続けにくくしているのかを、できるだけ小さく分けることです。
| 負担になっていること | よくある状況 | 相談先の例 |
|---|---|---|
| 通院付き添い | 平日昼間に病院へ行く必要がある | 職場、人事、ケアマネ、家族 |
| 急な呼び出し | 転倒、体調不良、施設や病院からの連絡がある | 地域包括支援センター、ケアマネ、見守りサービス |
| 朝夕の介助 | 食事、服薬、排せつ、着替えの見守りが必要 | ケアマネ、訪問介護、家族 |
| 夜間対応 | 夜中に起きる、徘徊、トイレ介助、呼び出しがある | ケアマネ、医療機関、ショートステイ、家族 |
| 家事・買い物 | 食事づくり、掃除、洗濯、買い物を一人で抱えている | 介護サービス、配食、家事支援、家族 |
| お金や手続き | 介護費用、介護認定、申請、支払い管理が負担 | 地域包括支援センター、自治体、ケアマネ、家族 |
「介護が大変」と一言でまとめると、全部を自分で背負うしかないように感じます。けれど、通院、夜間対応、買い物、書類、見守りに分けると、外に頼める部分や家族で分けられる部分が見えやすくなります。
退職は「介護を楽にする方法」に見えて、別の不安を増やすことがある
限界に近づくと、「もう仕事を辞めれば、親のそばにいられる」と考えることがあります。
たしかに、退職すれば時間は増えます。職場への欠勤連絡や、急な呼び出しへの罪悪感は減るかもしれません。
ただし、退職には別の重さがあります。収入が減る、将来の年金に影響する、再就職が難しくなる、自分の生活費が不安になる。介護が長く続いたとき、自分の暮らしまで苦しくなる場合があります。
これは「辞めてはいけない」という意味ではありません。心身が限界で、安全に暮らせない状況なら、働き方を大きく変える必要があることもあります。
ただ、退職届を出す前に、次の順番で確認しておくと後悔を減らしやすくなります。
| 退職前に見ること | 確認する内容 |
|---|---|
| 職場制度 | 介護休業、介護休暇、短時間勤務、在宅勤務、時差出勤、配置相談 |
| 介護サービス | 訪問介護、デイサービス、ショートステイ、配食、見守り、通院支援 |
| 家族分担 | 通院、買い物、金銭管理、書類、週末の見守り、緊急時対応 |
| お金 | 退職後の生活費、介護費、親御さんの年金、自分の収入減 |
| 体調 | 睡眠不足、疲労、メンタル不調、持病への影響 |
退職は最後のカードです。先に使ってしまうと、あとから選べる手段が少なくなることがあります。
職場には、介護の全部ではなく「仕事に影響する部分」を伝える
職場に介護のことを話すのは、勇気がいります。
「評価が下がるのでは」「迷惑だと思われるのでは」「家庭のことをどこまで話せばいいのか」と迷う方も多いはずです。
すべてを詳しく話す必要はありません。職場に伝えるべきなのは、介護の細かな事情そのものではなく、勤務に影響する点と、どのような調整があれば続けやすいかです。
職場へ相談する前に書くメモ
- 親御さんやご家族の介護がいつ頃から必要になったか
- 通院や手続きが多い曜日・時間帯
- 急な呼び出しがどれくらいあるか
- 遅刻、早退、欠勤が発生しそうな場面
- 介護休暇や時間単位の休みを使いたい場面
- 短時間勤務や在宅勤務があれば続けられそうか
- 配置や担当業務の変更で負担が減るか
「家族の介護が始まり、平日の通院付き添いと急な連絡対応が必要になっています。仕事は続けたいので、介護休暇や勤務時間の調整について相談したいです」と伝えると、退職相談ではなく、両立の相談として話しやすくなります。
ここで大事なのは、「迷惑をかけるので辞めます」と先に言わないことです。辞める前に、どの制度や働き方が使えるのかを確認する余地があります。
介護休業と介護休暇は、目的が少し違う
介護と仕事の両立でよく出てくる制度に、介護休業と介護休暇があります。
名前が似ていますが、使う場面は少し違います。
| 制度 | 使う場面のイメージ | 考え方 |
|---|---|---|
| 介護休業 | まとまった期間、仕事を休んで介護体制を整えたいとき | 自分がずっと介護をする期間というより、サービス手配や家族分担を整える準備期間として考える |
| 介護休暇 | 通院付き添い、ケアマネとの打ち合わせ、手続きなどで短く休みたいとき | 1日単位や時間単位で使える場合があり、スポット対応に向いている |
| 勤務調整 | 時差出勤、短時間勤務、在宅勤務、残業免除など | 会社の制度や職場状況によって利用可否が変わる |
制度は、名前を知っているだけでは使いにくいものです。就業規則、人事部、上司、労働局の相談窓口などで、自分の職場でどう使えるかを確認してください。
また、介護休業は「休んでいる間に自分が全部介護する」ためだけのものではありません。ケアマネジャーや地域包括支援センターとつながり、介護サービスを組み、家族分担を決めるための時間として使う考え方もあります。
ケアマネジャーには「仕事が続かない」と具体的に伝える
すでに介護保険サービスを利用している場合は、ケアマネジャーに仕事との両立が難しいことを伝えてください。
「親の介護が大変です」だけだと、何を変えればよいか見えにくいことがあります。
たとえば、次のように具体的に伝えると、サービス調整の相談につながりやすくなります。
- 朝の支度に時間がかかり、出勤が遅れそうになる
- 平日の通院付き添いで何度も休む必要がある
- 夜間の見守りで眠れず、仕事中に集中できない
- 買い物や食事づくりまで自分が担当して限界に近い
- 急な呼び出しが多く、職場に説明しづらい
- 一人で介護を抱えていて、休日も休めない
ケアマネジャーは、介護サービスの内容や時間、利用回数、ショートステイ、デイサービス、訪問介護、福祉用具などを一緒に考える存在です。仕事の悩みそのものを解決する人ではありませんが、介護側の負担を軽くする相談はできます。
まだケアマネがいない場合は、地域包括支援センターが入口になります
親御さんの介護が始まったばかりで、まだ介護認定も受けていない。どこに相談すればよいか分からない。そんな場合は、地域包括支援センターが入口になります。
地域包括支援センターは、高齢者の暮らしや介護に関する相談窓口です。介護認定、介護サービス、見守り、家族の負担、認知症の心配などを相談できます。
地域包括支援センターに相談するときのメモ
- 親御さんの住所、年齢、同居・別居の状況
- 最近困っていること
- 通院、服薬、食事、入浴、排せつ、買い物の様子
- 認知症や物忘れの心配があるか
- 自分が仕事を休んで対応している頻度
- 介護認定を受けているか
- 家族で手伝える人がいるか
相談するときは、「親の介護で仕事が続けられないかもしれない」と正直に伝えて構いません。介護される本人だけでなく、介護するご家族の生活を守ることも大切です。
家族会議では「手伝って」ではなく、作業を分けて頼む
介護は、気づいた人、近くに住んでいる人、まじめな人に負担が偏りがちです。
兄弟姉妹がいても、「仕事が忙しい」「遠いから無理」「自分はよく分からない」と言われ、結局一人で抱えることがあります。
このとき、「少しは手伝ってよ」と言うと、相手も身構えます。何をどれくらい頼まれるのか分からないからです。
家族に頼むときは、作業を小さく分ける方が話しやすくなります。
| 分担できること | 頼み方の例 |
|---|---|
| 通院付き添い | 月1回だけ、平日の通院に付き添ってほしい |
| 買い物 | 週末にまとめ買いだけお願いしたい |
| 電話確認 | 週2回、夜に親へ電話して様子を聞いてほしい |
| 書類手続き | 介護保険や医療費の書類を一緒に見てほしい |
| 費用負担 | サービス利用料の一部を兄弟で分けられないか話したい |
| 緊急時対応 | 自分が仕事中に出られないときの連絡先になってほしい |
家族会議は、感情のぶつけ合いになると長引きます。最初は「誰が悪いか」ではなく、「どの作業を誰が持つか」に絞る方が進みやすいです。
自費サービスや民間サービスは、足りない部分だけ使う考え方でよい
介護保険サービスだけでは、通院付き添い、夜間の見守り、家事、急な外出支援などが足りないことがあります。
その場合、自費の訪問介護、配食、見守り、家事支援、タクシーや移動支援などを検討することもあります。
ただし、民間サービスは費用がかかります。焦って全部を外部化しようとすると、家計への負担が大きくなる場合があります。
使い方としては、「自分が仕事を休まないと対応できない部分」から優先して検討するのが現実的です。
| 困りごと | 外部化を考えやすい部分 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 通院付き添い | 付き添い、受付、帰宅支援 | 対応範囲、料金、交通費、予約方法 |
| 食事 | 配食、買い物、調理支援 | 費用、配達地域、安否確認の有無 |
| 夜間見守り | 夜間対応、自費見守り、ショートステイ | 対応時間、料金、緊急時対応 |
| 家事 | 掃除、洗濯、買い物代行 | 介護保険内か自費か、対象範囲 |
| 遠距離介護 | 見守り、定期訪問、連絡代行 | 報告方法、頻度、費用、対応エリア |
外部サービスは、家族の代わりにすべてを背負ってくれる魔法ではありません。けれど、仕事を続けるために必要な一部分を支えてくれることはあります。
今日できる一歩は、退職届ではなく「相談する順番」を決めること
介護と仕事の両立ができないと感じているとき、心も体もかなり疲れているはずです。
そんな状態で、退職、転職、施設入居、同居、介護サービス、家族分担を一気に決めようとすると、頭の中が介護会議で満席になります。しかも議題が多すぎて、なかなか閉会しません。
今日やることは、一つで大丈夫です。
- 職場に相談する
- ケアマネジャーに仕事との両立が難しいと伝える
- 地域包括支援センターへ電話する
- 家族に作業分担のメモを送る
- 介護で休んだ日や対応内容を3日分だけ書き出す
この中から、いま一番近いものを一つ選んでください。
介護をしているあなたの生活も、守られるべき生活です。親御さんやご家族を大切にすることと、自分の仕事や収入を守ることは、どちらか一方を捨てる話ではありません。
退職を決める前に、介護の中身を分ける。職場と介護側の両方に相談する。家族で作業を分ける。そこまでしても難しいときに、働き方を大きく変えるかを考える。
順番を変えるだけで、選べる道が少し増えることがあります。まずは今日、相談する相手を一人だけ決めてみてください。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省:介護休業制度、介護休暇、仕事と介護の両立支援に関する情報
- 厚生労働省:地域包括ケアシステム、地域包括支援センターに関する情報
- 市区町村:介護保険、介護認定、地域包括支援センターの窓口
- 勤務先:就業規則、人事労務、介護休業・介護休暇・勤務調整に関する制度
- ハローワーク:介護休業給付金など雇用保険に関する確認先















