親戚に「まだなの?」と聞かれた帰り道、親子の会話がなくなった
親戚の集まりで、成人した子どもが「結婚はまだ?」と聞かれた。
本人が黙っていたので、親として場を和ませるつもりで、「本当に困っているんですよ。誰かいい人がいたら紹介してください」と笑って答えた。
帰宅してから、子どもはほとんど口をきかない。
翌日になっても気まずさが残り、「あれくらいの冗談で怒らなくても」と思う一方で、言わない方がよかったのかもしれないという気持ちも出てきます。
親が心配しているのは、結婚式を見たいということだけではないでしょう。
自分たちが亡くなった後、一人で病気になったらどうするのか。仕事を失ったら、支える人はいるのか。年を取って孤独にならないか。実家で暮らし続けるなら、親の介護や家の管理はどうなるのか。
孫を抱いてみたい気持ちもある。周囲の子どもたちが次々と家庭を持ち、取り残されたように感じることもあります。
ただ、これらをすべて「結婚しなさい」という一言へまとめると、親の本当の心配は伝わりません。
子どもには、「今の生き方を否定された」「親を安心させるために結婚しろと言われた」と届くことがあります。
「結婚すれば安心」という前提から、一度離れて考えます
親の世代では、結婚することが生活の安定につながると考えられてきたかもしれません。
けれども、結婚したから孤独にならない、病気や老後の心配がなくなるとは限りません。反対に、結婚していなくても、友人、きょうだい、仕事仲間、地域との関係を持ち、自分なりの生活を築いている人もいます。
結婚そのものを心配の解決策にすると、相手選びや本人の気持ちより、「誰でもいいから早く」という方向へ進みやすくなります。
親が見るべきなのは、婚姻届を出しているかどうかだけではありません。
- 自分の生活費をどのようにまかなっているか
- 住まいを維持できているか
- 体調を崩したときに連絡できる人がいるか
- 困り事を話せる相手や場所があるか
- 働き方や今後の暮らしについて、本人なりの考えがあるか
- 親がいなくなった後も必要な手続きを行えるか
これらに問題がないなら、未婚であることだけを緊急事態として扱う必要はありません。
反対に、結婚については前向きに話していても、借金、失業、孤立、体調不良などがあるなら、そちらを先に扱う必要があります。
親が考えるべきなのは、「どうすれば結婚させられるか」ではなく、「結婚してもしなくても、この子が生活を続けられるか」です。
親の心配は、四つに分けると子どもへぶつけずに済みます
| 親の心配 | 結婚とは別に考えられること |
|---|---|
| 一人で寂しくならないか | 友人、親族、地域、職場など、本人がどのような人間関係を持っているか |
| 病気や老後を誰が支えるのか | 緊急連絡先、医療情報、住まい、貯蓄、利用できる制度などを本人が把握しているか |
| 生活が安定していない | 収入、家計、家事、住居、働き方について具体的に話す |
| 孫を見られないかもしれない | 親自身の願いとして受け止め、実現を子どもの義務にしない |
例えば、「老後に一人で倒れたら心配」という気持ちが強いなら、結婚を勧める前に、緊急時の連絡先や住まいについて話せます。
「仕事が不安定で、この先暮らしていけるか心配」なら、婚活ではなく、収入や生活費の話です。
「周囲に孫の話をされるのがつらい」なら、それは親側が扱う気持ちであり、子どもに結婚を求めて解消する問題ではありません。
心配の正体が分かると、子どもへ伝える必要があることと、親自身の中で受け止めることを分けられます。
結婚する気があるか聞くなら、一度で答えを決めつけないことです
本人の考えが何も分からないまま心配しているなら、結婚について尋ねること自体が悪いわけではありません。
ただし、親が期待する答えへ誘導しない聞き方が必要です。
聞きやすい言葉
「結婚について、今はどんなふうに考えている? 答えにくければ、今すぐ話さなくてもいいよ」
「結婚したいのに困っているのか、今は考えていないのかで、親が口を出してよい範囲も違うと思っている」
「私が急かしているように感じていたら教えてほしい。あなたの考えを聞かずに話を進めたくない」
本人が「結婚する気はない」と答えたとき、すぐに理由を問い詰めないでください。
「今はそう考えているんだね」と一度受け取ります。
親には理解しにくい答えでも、そこで「将来後悔する」「年を取ってからでは遅い」「強がっているだけ」と返せば、その後は本音を話してもらいにくくなります。
結婚についての考えは、今後変わるかもしれません。変わらないかもしれません。
どちらにしても、親がその場で結論を修正させる必要はありません。
子どもの答えによって、親ができることは変わります
「結婚したくない」とはっきり言っている場合
本人が自分の生活を送り、結婚を望んでいないなら、親が婚活を勧め続ける理由はありません。
心配な生活面があれば、結婚とは切り離して扱います。
「結婚のことは分かった。今後一人で暮らすとして、病気のときや住まいについて困っていることはない?」
こう聞けば、本人の選択を否定せず、現実的な備えを話せます。
「いつかはしたいが、今は動いていない」場合
この答えを聞くと、親が婚活方法を調べ、相談所の資料を取り寄せたくなるかもしれません。
先に、本人が手伝いを望んでいるかを尋ねます。
「紹介や婚活の情報が必要なら手伝えるけれど、こちらで勝手に進めることはしないよ。何か頼みたいことはある?」
「ない」と言われたら、そこで止めます。
「結婚したいけれど、うまくいかない」場合
このときも、「もっと積極的になりなさい」と励ますだけでは、本人が何に困っているか分かりません。
出会いがないのか。人と会うと疲れるのか。仕事や収入が気になるのか。過去の交際で傷ついたのか。
本人が話した範囲で聞きます。
「こちらから解決策を言う前に、今は話を聞いてほしいのか、一緒に方法を考えてほしいのか、どちらが近い?」
親が良かれと思って先回りするより、求められている役割を聞いた方が助けになります。
結婚の話を避け、怒ったり黙ったりする場合
話したくない理由は、親への反抗とは限りません。
交際について説明したくない。過去に傷ついた。自分の生き方を否定されると感じている。親にまだ伝えていない事情がある。
さまざまな可能性がありますが、親が推測で決めつける必要はありません。
「この話題を出されるのが嫌なら、こちらからはしばらく聞かない。困ったときは話してくれればいい」
そう伝えて、一度話題を置きます。
紹介や婚活を手伝う前に、本人の同意を取ってください
親の友人から「いい人がいる」と言われ、本人に聞く前に写真や勤務先を伝えてしまう。
結婚相談所へ親だけで話を聞きに行き、入会資料を食卓へ置く。
親戚へ「誰か紹介して」と頼み、子どもの年齢、仕事、収入、過去の交際について話す。
親に悪意はなくても、本人にとっては、自分の個人情報や人生が周囲へ勝手に広げられたことになります。
手伝う場合は、次の順番を守ります。
- 本人が結婚や交際を望んでいるか聞く
- 親からの紹介を受けたいか聞く
- 相手へ伝えてよい情報を本人に決めてもらう
- 断った理由を詳しく聞き出さない
- 一度断られた相手を繰り返し勧めない
親が費用を出す場合も、「お金を出したのだから成果を見せて」とは言えません。
婚活は、面接や受験ではありません。会った相手との関係を続けるかどうかは、本人が決めることです。
避けたいのは、心配を装った比較と期限です
親が軽い気持ちで言った言葉が、子どもには長く残ることがあります。
「同級生はもう二人目が生まれた」
「弟の方が先に結婚するなんて」
「私たちが元気なうちに孫を見せて」
「その年齢で選んでいたら誰もいなくなる」
「老後に一人で後悔しても知らないよ」
これらは親の心配を伝えているようで、実際には比較、罪悪感、恐怖によって決断を促す言葉です。
子どもが結婚を望んでいる場合でも、自信を失わせる可能性があります。
伝えるなら、本人を評価する言葉ではなく、自分の言動を改める言葉にします。
「親戚の前で結婚の話をしてしまって悪かった。あなたのことを勝手に話さないようにする」
「私の心配を、あなたの期限のように言っていたと思う。結婚のことをこちらから何度も聞くのはやめる」
謝るときに、「でも親なら心配するのは当然でしょう」と付け足すと、謝罪が打ち消されます。
実家暮らしが心配なら、結婚ではなく生活の分担を話します
成人した子どもが実家で暮らしていると、「結婚しないまま、この家にずっといるのでは」と心配になることがあります。
ただし、実家暮らしと未婚は同じ問題ではありません。
働いて生活費を入れ、家事を分担し、今後の住まいを考えているなら、実家で暮らしていることだけで自立していないとは言えません。
反対に、収入があっても生活費を入れず、家事や手続きを親任せにしているなら、結婚を勧める前に家庭内の役割を変える必要があります。
「結婚しないなら家を出て」と結びつけず、次の項目を具体的に話します。
- 毎月の生活費をいくら負担するか
- 食事、洗濯、掃除をどのように分けるか
- 親が病気になったとき、生活をどう回すか
- 実家の修繕費や固定費を誰が負担するか
- 親が介護施設へ移る、または亡くなった後に住まいをどうするか
話し方は、結婚の有無と切り離します。
「結婚について決めてほしい話ではないよ。一緒に暮らしている大人同士として、家事と生活費を見直したい」
こう伝えれば、子どもの人生を変えさせる話ではなく、現在の共同生活の話になります。
孫を望む気持ちは、否定せず、子どもへ背負わせないことです
孫を抱いてみたかった。
家族が増える光景を楽しみにしていた。
その願いを持つこと自体を、無理に恥じる必要はありません。
ただし、孫を持つかどうかは、子どもの結婚だけでは決まりません。結婚しても子どもを望まない人もいれば、事情があって持たない、持てない人もいます。
「孫がほしい」は親の願いであり、子どもがかなえなければならない約束ではありません。
本人へ一度気持ちを話すとしても、返事や説明を求めない形にします。
「私は孫がいたらうれしいと思っていた。でも、それをあなたの義務のように言うべきではないと思っている。あなたの人生について決めるのはあなたです」
すでに何度も伝えているなら、もう言葉にしない方がよい場合もあります。
親の寂しさは、友人との時間、趣味、地域との関わりなど、親自身の生活の中で扱う必要があります。
親の老後を、子どもの将来の配偶者へ預けないでください
子どもが結婚すれば、将来は夫婦で親を支えてくれる。
そう期待していると、子どもの未婚が親自身の老後不安と重なります。
しかし、子どもが結婚しても、遠方に住む、共働きを続ける、配偶者側の家族にも事情があるなど、親の介護を担えるとは限りません。
まだ会ってもいない将来の配偶者を、親の支え手として数えることもできません。
親の老後については、子どもの結婚と別に考えます。
- 年金や預貯金で、どの程度生活できるか
- 現在の家に住み続けられるか
- 病院や買い物へ行けなくなったとき、どの支援を使うか
- 緊急連絡先を子ども一人だけにしていないか
- 介護が必要になったとき、子どもへ頼みたいことは何か
- 遺言、財産、葬儀、住まいについて伝えるべきことは何か
「あなたが結婚しないと、私たちの老後が心配」と言われれば、子どもは自分の人生と親の老後を同時に背負うことになります。
親が自分の暮らしを整えることは、子どもを遠ざける行為ではありません。結婚を親孝行の条件にしないための備えです。
結婚ではなく、現在の生活に危険があるなら話を先送りしません
子どもが未婚であること自体は、急いで介入する理由になりません。
ただし、次のような状態がある場合は、結婚の話ではなく、生活や安全について具体的に声をかけます。
- 長期間仕事へ行けず、食事や入浴も十分にできていない
- 借金や家賃滞納があり、住まいを失いそうになっている
- 交際相手から暴力、脅し、金銭要求を受けている
- SNSで知り合った相手へ繰り返し送金している
- 家族や友人との連絡を急に断っている
- 「生きていても仕方がない」などの発言がある
この場合、「早く結婚して支えてもらいなさい」とは言いません。
今起きていることを尋ねます。
「結婚の話をしたいのではないよ。最近、仕事へ行けず食事も取れていないように見えるので、体のことが心配です。病院へ行くかどうかも含めて、今困っていることを聞かせてほしい」
本人や周囲に命や身体の危険がある場合は、親子だけで説得を続けず、状況に応じて110番や119番などを優先します。
親戚には、子どもの代わりに事情を説明しなくて構いません
お盆や正月のたびに、「まだ結婚しないの?」と聞かれる家庭もあります。
親が困って、子どもの仕事、交際、婚活状況を詳しく話してしまうことがあります。
しかし、親戚へ納得してもらうために、本人の個人的な事情を公開する必要はありません。
短く終えて構いません。
「本人のことなので、親からは話しません」
「結婚については本人に任せています」
「その話題は本人が嫌がるので、今日はやめてください」
子どもが同席している場では、親が先に話を止めることで、「親も一緒になって追い詰めるわけではない」と伝えられます。
これは、子どもの結婚観に全面的に賛成したという表明ではありません。
本人の話を、本人の許可なく周囲の話題にしないという線引きです。
次に会う日は、結婚について何も聞かない日にしてください
親子で会うたび、結婚、交際、孫の話をしていたなら、子どもは「また聞かれる」と身構えているかもしれません。
次の食事や電話では、結婚について何も聞かないと決めてください。
代わりに、現在の暮らしを知る質問を一つだけ選びます。
「最近、仕事は忙しい?」
「今の暮らしで、何か困っていることはある?」
「この前話していた趣味は続けている?」
答えが短くても、さらに聞き出そうとしなくて構いません。
親が結婚の話をしない時間を重ねることで、子どもは別の悩みを話せるようになるかもしれません。
結婚するかどうかは、成人した子どもが決めることです。
親にできるのは、決断を代わることではありません。本人の暮らしに本当に困っている部分があれば一緒に考え、頼まれていない人生設計には踏み込みすぎないことです。
今日から変える距離は、大きくなくて構いません。
次の一回だけ、結婚を尋ねずに話を終える。それが、親子の会話を取り戻す最初の一歩になります。
















