入学金の話を聞いた夜、通帳を開いたまま手が止まった
子どもから電話があり、「孫の進学費用が少し足りない」と打ち明けられた。
希望していた学校へ進めるなら、できる限り助けてやりたい。孫が申し訳なさそうにしていると聞けば、なおさら断りにくくなります。
一方で、電話を切ってから自分たちの通帳を開くと、別の心配が出てきます。
この先、何年元気でいられるのか。家の修繕や車の買い替え、通院、介護にいくらかかるのか。年金だけで毎月の生活をまかなえるのか。
配偶者へ話せば、「孫のためなら出してあげよう」と言うかもしれません。反対に、「これまでにも十分出した」と言われ、夫婦の間が気まずくなることもあります。
助けたい気持ちと、自分たちの生活を守りたい気持ちは、どちらかが間違っているわけではありません。
問題は、かわいい孫の顔を思い浮かべたまま、老後に必要なお金まで一緒に差し出してしまうことです。
「出せる預金額」ではなく「出した後も暮らせる額」で考えます
預金が1,000万円あるから、100万円くらいは援助できる。
このような考え方だけでは、自分たちが将来使うお金が抜けています。
援助額を決める前に、預金を次の四つへ分けて考えます。
| 老後に残すお金 | 含めるもの |
|---|---|
| 毎月の不足を補うお金 | 年金などの手取り収入と、現在の生活費との差額 |
| 数年以内に使う予定のお金 | 住宅修繕、車、家電、冠婚葬祭、ローン返済など |
| 医療・介護に備えるお金 | 通院、入院、介護用品、住み替え、施設入居時の費用など |
| 急な出来事へ備えるお金 | 災害、家族の緊急事態、収入減少などへの予備費 |
例えば、毎月の生活費が25万円、年金などの手取りが21万円なら、毎月4万円の不足です。年間では48万円になります。
この不足が何年続くと考えるかに加え、家の修繕や医療・介護に備える額を引いた後が、援助を考えられる範囲です。
自宅の評価額や、値動きのある株式・投資信託を、そのまま「使える老後資金」と考えるのは慎重にしてください。家は売却しなければ生活費に使えず、金融商品の価格は必要なときに下がっている可能性もあります。
援助できる額は、「今持っているお金」から決めるのではなく、「自分たちが今後使うお金」を先に除いて決めます。
援助の前に、孫の夢ではなく子ども世帯の計画を聞きます
孫が進学や習い事を望んでいると聞くと、費用を出すかどうかだけを考えがちです。
けれども、継続的な援助を決める前に、孫の親である子ども世帯がどのような計画を立てているかを聞く必要があります。
- 必要な費用の総額はいくらか
- いつまでに支払う必要があるか
- 子ども世帯で用意できる金額はいくらか
- 今回だけ不足しているのか、毎月不足するのか
- 奨学金、分割納付、公的な支援などを調べたか
- 祖父母へ希望しているのは一時金か、継続的な援助か
- ほかの祖父母からも援助を受ける予定があるか
これは、子どもを問い詰めるためではありません。
入学時の30万円だけが不足している場合と、毎月5万円を何年も出さなければ通えない場合では、引き受ける負担がまったく違います。
子ども世帯へ聞く言葉
「孫のためにできることは考えたい。ただ、私たちにも老後の生活があるので、まず必要な総額と、そちらで準備できる額を教えてほしい」
「今回の入学金だけの話なのか、卒業まで毎月必要なのかを分けて考えたい」
「今日中に返事はできないよ。夫婦で今後の生活費を見てから、いつまでに返事をするか連絡するね」
頼まれた日に結論を出さなくても、孫を大事にしていないことにはなりません。
一度の援助と、毎月続く援助は別の約束です
最初は制服代だけだった。
次は塾の夏期講習、その次は受験料、入学金、下宿代。頼まれるたびに出しているうちに、いつ終わるのか分からなくなることがあります。
援助は、金額だけでなく期間まで決めます。
| 援助の形 | 決めておくこと | 注意したい点 |
|---|---|---|
| 一度だけ援助する | 金額、使い道、支払日 | 次回も同じ条件で出すとは約束しない |
| 一定期間援助する | 月額、開始月、終了月 | 「卒業まで」ではなく年月を決める |
| 費用の一部を負担する | 授業料だけ、教材費だけなど対象を限定する | 不足分をすべて補う約束にしない |
| 請求先へ直接支払う | 学校、病院、事業者など支払先を確かめる | 領収書や請求書を残す |
| 子ども世帯へ貸す | 金額、返済開始、毎月の返済額 | 返済できる見込みがないなら、貸付けの形だけ作らない |
「必要な間は出してあげる」という約束は、祖父母と子ども世帯で想定する期間がずれやすくなります。
「今年度の授業料として30万円まで」「来年3月まで月2万円」のように、終わりが分かる形にしてください。
老後資金を守りやすい援助の形へ、小さく変えることもできます
求められた全額を出せないからといって、何もできないわけではありません。
自分たちの生活に影響しにくい形へ、援助の内容を変えられます。
- 年間の上限額を決める
- 毎月ではなく、入学時など一度だけにする
- 現金ではなく、制服、教材、通学用品などを購入する
- 請求書を見て、対象となる費用だけ直接支払う
- 祖父母が全額出さず、子ども世帯と分担する
- 定期預金を崩さず、毎月の家計から無理なく出せる範囲にする
- 高額な援助ではなく、食事や送迎など別の支え方を選ぶ
例えば、100万円の援助を頼まれても、老後資金に影響するなら、
「100万円は出せないけれど、入学時の教材費として20万円までなら援助できる」
と答えられます。
援助は、求められた額をそのまま受け入れるか、完全に断るかの二択ではありません。
夫婦のどちらかが反対しているなら、先に孫へ約束しないでください
祖父母のどちらかが孫をかわいがり、「私のお金だから自由に出したい」と考えることがあります。
名義上は自分の預金でも、今後の生活費や介護費を夫婦で支える予定なら、一人だけの問題ではありません。
孫や子ども世帯へ先に約束すると、反対した配偶者が悪者になってしまいます。
夫婦で話すときは、「孫を助けたいか」という感情だけで決めず、次の数字を並べます。
- 現在の預貯金と換金しやすい資産
- 毎月の手取り収入
- 毎月の生活費
- 住宅ローンや借入れの残額
- 今後予定している大きな支出
- すでに子どもや孫へ渡した金額
- 今回援助した後に残る金額
配偶者へ話す言葉
「孫を助けたい気持ちはある。ただ、気持ちだけで決めず、援助した後に私たちの生活がどうなるかを一緒に見たい」
「全額ではなく、一度だけ20万円にする方法も含めて考えたい」
「私一人では約束しない。二人が納得できる額でなければ今回は出さないことにしたい」
援助を断ることより、援助をきっかけに夫婦の信頼が崩れる方が、老後の暮らしへ長く影響します。
「前にも出してもらったから」が、援助を続ける理由になっていないか見直します
一度援助すると、子ども世帯にも祖父母側にも、「次も同じように」という空気が生まれることがあります。
以前は働いて収入があった。医療費も少なかった。住宅の修繕も必要なかった。
今は年金生活になり、状況が変わっているかもしれません。
過去に出せた金額を、今後も出せるとは限りません。
「前回は働いていたので出せました。今は年金生活に入り、同じ金額を続けることはできません」
「これまでの援助を後悔しているわけではありません。ただ、今後は年間10万円までと決めました」
事情が変わったことを説明すれば、以前の約束を永遠に守る必要はありません。
きょうだいや孫の間で、同額にすることだけが公平とは限りません
一人の孫へ進学費用を出すと、ほかの孫にも同じ額を渡さなければならないのかと悩むことがあります。
援助の公平さには、二つの考え方があります。
- 全員へ同じ金額を渡す
- 必要な時期や事情に応じて援助する
どちらが正しいとは一概に言えません。
ただし、家族ごとに扱いが違うなら、祖父母の中で方針を決めておいた方がよいでしょう。
例えば、
「進学時に一人30万円まで」
「医療や教育など必要性が高い費用だけ」
「各家庭へ総額50万円を上限とする」
など、基準を作れます。
援助額を孫本人へ比較させたり、「あなたには出したのだから将来介護して」と見返りを求めたりしないでください。
まとまった金額を特定の子や孫へ渡す場合は、日付、金額、目的を残します。将来の相続時に、家族から「誰へいくら渡したか」と尋ねられたときにも説明しやすくなります。
教育費なら何でも贈与税がかからない、というわけではありません
祖父母から孫へお金を渡す場合、贈与税の扱いも確かめる必要があります。
一般的な暦年課税では、贈与を受けた人が、その年の1月1日から12月31日までに受け取った財産の合計額から、基礎控除額110万円を差し引いて税額を計算します。
110万円は「祖父から110万円、祖母から110万円」のように、渡した人ごとに使える枠ではありません。孫がその年に複数の人から受け取った暦年課税の贈与を合計して考えます。
一方、父母や祖父母などの扶養義務者から受け取る生活費や教育費のうち、通常必要と認められる範囲で、必要な都度、その費用へ直接使われるものは、贈与税の課税対象にならない場合があります。
学校から請求された授業料をその都度支払う場合と、将来の教育費として数年分をまとめて孫の口座へ渡し、預金や投資に回す場合では扱いが異なります。
税金が心配なときは、次の資料を用意して税務署などへ尋ねます。
- 誰から誰へ渡すのか
- 孫の年齢
- 金額
- 支払日
- 学費、生活費などの使い道
- 学校などからの請求書
- 孫や子ども世帯が、その年にほかの人から受けた贈与
教育資金の一括贈与の非課税制度は、2026年3月末で新規適用が終了しています
祖父母から孫への教育資金については、以前、金融機関で専用の契約を結ぶことで一定額まで非課税となる特例がありました。
この「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税制度」は、2026年3月31日で新規適用が終了しています。
2026年4月1日以後に、新たにこの特例を利用することはできません。2026年3月31日までに適用を受けた契約については、契約終了などの条件に応じて引き続き制度の対象になります。
以前の制度を紹介する古い記事や銀行資料を見て、「今も1,500万円まで非課税で渡せる」と思い込まないよう注意してください。
これから援助する場合は、必要な教育費をその都度支払う方法、暦年課税、相続時精算課税などの違いを確かめ、自分たちの事情に合う方法を選びます。
税の制度を選ぶことだけで、老後資金の問題が解決するわけではありません。非課税にできる可能性があっても、自分たちの暮らしに必要なお金まで渡さないことが先です。
貸すのか、あげるのかを曖昧にすると、後から家族関係へ残ります
子どもから「今は足りないから貸して」と言われ、返済日を決めないままお金を渡すことがあります。
数年後、親は貸したつもりなのに、子どもはもらったと思っている。返済を求めると、「孫のために出してくれたのでは」と言われる。
こうした食い違いを避けるため、渡す前にどちらかを決めます。
贈与として渡す場合
「返済は求めない援助として、今回30万円を渡す。これ以降の援助は別に考える」
日付、金額、目的を残し、税の扱いを確かめます。
貸付けとして渡す場合
「50万円を貸し、来年4月から毎月2万円ずつ返す」
金額、返済開始日、回数、振込先を書面にします。
ただし、子ども世帯に返済できる余裕がないのに「貸した形」にするだけでは、問題を先送りすることになります。実際に返済を求めるのか、家計から返せるのかまで考えてください。
援助を断るときは、孫への愛情まで説明し直さなくて構いません
断ると、子どもから「孫がかわいくないの」「困っているのに助けてくれないの」と言われるのが怖い方もいます。
けれども、自分たちの医療費や生活費を削って援助し、後に子ども世帯へ生活を支えてもらうことになれば、援助の負担を先へ移すだけです。
断るときは、長い弁解をせず、出せない範囲と、できることを伝えます。
全額を出せない場合
「希望している80万円は、私たちの老後資金を考えると出せません。入学用品として15万円までなら援助できます」
継続的な援助を終える場合
「毎月の援助は今年度末で終わりにします。私たちの収入が年金中心になり、これまでと同じ額は続けられません」
今回は援助できない場合
「孫を応援する気持ちは変わりません。ただ、今は住宅修繕と医療費に備える必要があるため、お金の援助はできません」
返事を急かされた場合
「支払期限があることは分かりました。ただ、今日中には決めません。私たちの生活費を見て、〇日までに返事をします」
相手が残念に思うことと、援助しなければならないことは別です。
借金や保証で孫を支える方法は選ばないでください
預金では足りないため、自宅を担保にする、カードローンを使う、子どもの教育ローンの保証人になるといった話が出ることがあります。
しかし、自分たちの返済能力を超える援助は、贈り物ではなく老後の負債になります。
次のような援助は、その場で決めないでください。
- 子ども世帯のローンや賃貸契約の保証人になる
- 自宅や土地を担保にして借りる
- 年金収入で返せないローンを組む
- 老後の医療・介護資金をすべて解約する
- 配偶者に隠してまとまった額を渡す
- 子どもから使い道や総額を聞かずに振り込む
子ども世帯が借金、家賃滞納、生活困窮などを抱えているなら、孫への援助だけでは根本の不足を埋められないことがあります。
祖父母の預金で一時的に見えなくする前に、子ども世帯の収支、利用できる制度、返済の見通しを別に考える必要があります。
今夜は振り込まず、次の12か月に払う予定を先に見てください
孫への援助を頼まれた直後は、断れば機会を奪ってしまうように感じます。
それでも、今日は振り込みをせず、これから12か月以内に自分たちが支払う予定だけを見ます。
- 毎月の生活費の不足
- 税金、保険料、住宅費
- 通院や治療の予定
- 家や車、家電の修繕・買い替え
- すでに約束している家族への援助
- 急な支出へ残しておく金額
その金額を除いた後で、今回出せる上限を夫婦で決めます。
子どもへは、次の一文だけ先に伝えてください。
「孫のことなので前向きに考えたいけれど、私たちの老後資金を見ずには約束できません。必要な総額と期限を送ってください。〇日までに返事をします」
孫を思う気持ちは、援助額の大きさだけでは決まりません。
自分たちが将来、子どもや孫へ生活を支えてもらわずに済むよう備えることも、家族へ負担を残さない支え方です。
全額を出せなくても、期間や使い道を限定した援助はできます。今回は出さず、別の方法で応援することもできます。
まず守る金額を決め、その残りから援助を考える。それなら、孫を助けた後に、自分たちの暮らしを悔やまずに済みます。
















