総会の封筒を開くと、来年から月額一万円以上増えると書かれていた
管理組合から届いた封筒を、食卓の端に置いたままにしていました。
数日後に開いてみると、管理費と修繕積立金の改定案が載っています。現在は合わせて月二万八千円。それが来年度から四万円を超えるという内容でした。
現役で働いていた頃なら、家計を少し調整すれば払えたかもしれません。しかし、今は夫婦とも年金生活です。住宅ローンは終わっていても、固定資産税、医療費、給湯器の交換など、持ち家の支出はなくなりません。
配偶者は「必要な修繕なら仕方がない」と言います。
一方で、今回応じたら、数年後にまた上がるのではないか。払えなくなってから売ろうとしても、古いマンションに買い手が付くのか。そこまで考えると、値上げの金額だけでなく、老後の住まい全体が揺らいだように感じます。
この段階で、値上げへ賛成するか、マンションを売るかを決める必要はありません。
先に確かめるのは、「何の費用が、なぜ、いつから、今後どこまで増えるのか」です。
「管理費が上がる」と思ったら、通知書の内訳を分けます
毎月まとめて引き落とされているため、管理費と修繕積立金を一つの費用として考えている方は少なくありません。
しかし、二つは使い道が異なります。
- 管理費:清掃、管理員、共用部の電気、エレベーターの保守、管理委託費、保険、日常的な補修などに使う費用
- 修繕積立金:外壁、屋上防水、給排水管、エレベーターなど、将来の大規模な修繕に備えて積み立てる費用
管理費が上がる場合は、日常の管理に必要なお金が不足している可能性があります。
修繕積立金が上がる場合は、長期修繕計画を見直した結果、将来の工事費に対して積立額が足りない可能性があります。
同時に上がることもありますが、理由と今後の見通しは別々に見なければなりません。
通知書や総会議案書で、次の四か所へ印を付けてください。
- 現在の管理費と改定後の管理費
- 現在の修繕積立金と改定後の修繕積立金
- 改定が始まる年月
- 今後も段階的な増額を予定しているか
「合計で月一万円上がる」だけではなく、どちらがいくら増えるのかを分けると、質問すべき相手と資料が見えてきます。
値上げ理由は「物価高のため」で終わらせず、金額の根拠を見ます
管理費の増額理由として、管理員や清掃の人件費、共用部の電気代、設備保守、保険料、管理会社への委託費などの上昇が示されることがあります。
修繕積立金なら、工事費の上昇、修繕時期の変更、設備の更新追加、積立不足などが考えられます。
どれも値上げの理由にはなり得ます。ただし、「費用が上がったため」という一文だけでは、その金額が妥当か判断できません。
理事会や管理会社へ、次のように尋ねてください。
「値上げへ反対すると決めたわけではありません。現在の収支でいくら不足し、改定後は何年間不足を避けられる計算なのか、資料を見せてください」
管理費については、次の資料を見ます。
- 前年度の収支決算書
- 次年度の収支予算案
- 値上げ額の計算根拠
- 管理委託費や保守費用の変更内容
- 管理費の滞納額
- 清掃回数や管理員勤務時間など、業務内容の変更
費用を下げるために清掃や設備点検を減らせば、住環境や安全性へ影響する場合があります。
値上げを止めることだけを目標にせず、削減できる支出と、削ってはいけない管理を分けてください。
管理会社から値上げを求められても、住民が資料を見ずに受け入れる必要はありません
管理会社が委託費の増額を提案することはあります。
ただし、管理会社が区分所有者一人ひとりの負担額を自由に決めるわけではありません。多くのマンションでは、管理組合が管理規約や総会の手続に従って、予算や管理費等の扱いを決めます。
実際の決議方法は、それぞれのマンションの管理規約と総会議案書で確かめてください。
総会へ出席できない場合も、議案を読まずに委任状だけを提出するのではなく、質問書、議決権行使書、代理出席など、自分のマンションで利用できる方法を確認します。
質問は、感情的に「高すぎる」と伝えるより、次の形にすると回答を得やすくなります。
「管理委託費のうち、どの業務がいくら上がりますか。現行業務を維持する案、業務を一部見直す案、他社の見積もりを取る案を比べていますか」
他社の見積もりを取れば必ず安くなるとは限りません。引継ぎ、管理員、緊急対応、設備管理の質も含めて見る必要があります。
修繕積立金の値上げは、低く抑えれば安心という問題ではありません
修繕積立金が上がると、家計の負担は重くなります。
その一方、必要な積立てが足りないまま工事時期を迎えると、多額の一時金を求められたり、工事を延期したりする可能性があります。
国土交通省のガイドラインでは、将来必要となる修繕費を長期修繕計画へ反映し、それに基づいて積立額を設定する考え方が示されています。長期修繕計画は一度作れば終わりではなく、物価や建物の状態に合わせ、定期的に見直すことが推奨されています。
修繕積立金の改定案では、次の点を見てください。
- 長期修繕計画を最後に見直した時期
- 計画期間と、予定されている大規模修繕の回数
- 現在の修繕積立金残高
- 今後予定する工事と概算費用
- 改定後も資金不足が発生しないか
- 一時金や借入れを予定しているか
- 機械式駐車場、エレベーター、給排水管など高額設備の更新予定
当初の負担を抑え、数年ごとに積立額を上げる「段階増額積立方式」では、老後に入ってから増額が重なることがあります。
今回の改定だけでなく、五年後、十年後の予定額まで出してもらってください。
月額が上がること自体より、値上げ後も積立不足が残るのか、さらに増額や一時金が予定されているのかを確かめる方が、老後の負担を判断しやすくなります。
老後の住居費は、管理費だけでなく一年分を月割りします
毎月の管理費等が四万円なら、住居費は四万円だけではありません。
分譲マンションで暮らし続ける場合、次の費用も家計から出ていきます。
- 管理費
- 修繕積立金
- 駐車場、駐輪場、専用庭などの使用料
- 固定資産税・都市計画税
- 住宅ローン
- 専有部分の給湯器、水回り、内装などの修繕費
- 火災保険、地震保険
一年に一度払う費用も十二で割り、月々の負担へ入れてください。
毎月の管理費等+住宅ローン+固定資産税等の月割額+専有部分修繕費の積立額=実際の月間住居費
夫婦で暮らしている場合は、二人分の年金で払えるかだけでなく、一人になった後の収入でも計算します。
子どもへは、次のように伝えると話が広がりすぎません。
「今すぐ売る相談ではなく、管理費等が上がった後、一人分の年金でも住居費を払えるかを見てほしい」
家族から「足りなければ助ける」と言われても、金額や期間が決まっていない支援を長期計画へ入れるのは慎重にしてください。
住み続けるか売るかは、月額ではなく10年間の支出で比べます
管理費等が上がっただけで、すぐ売却した方が得とは限りません。
売却後も、新しい住まいの家賃や管理費、引っ越し費用がかかるからです。
| 選択肢 | 計算に入れる費用 | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| 現在のマンションに住み続ける | 管理費等、税金、専有部分の修繕、ローン | 今後の増額、一時金、建物や設備の老朽化 |
| 売って小さいマンションへ移る | 売却・購入費用、新居の管理費等、引っ越し | 新居でも修繕積立金が上がる可能性がある |
| 売って賃貸住宅へ移る | 家賃、共益費、更新費用、保証料、引っ越し | 高齢期の入居条件と将来の家賃負担 |
比較する期間は、少なくとも今後十年程度を目安にします。
現在のマンションでは、管理費等の予定額と固定資産税、専有部分の修繕費を足します。
住み替える場合は、売却価格ではなく、ローン残高や仲介手数料などを差し引いた手取りと、その後の住居費を使います。
「月四万円は高いから賃貸へ移れば楽」と思っても、家賃が月八万円なら、総支出は増えるかもしれません。
売却を考えるなら、管理状況も査定材料として見せます
マンションの売却では、部屋の広さや内装だけでなく、建物全体の管理状態も買主の判断材料になります。
長期修繕計画が定期的に見直されているか、修繕積立金が足りているか、滞納が多くないか、大規模修繕の予定があるかといった情報です。
管理費等が安いマンションが、必ず売りやすいとは限りません。必要な積立てが不足し、購入後に大幅な増額や一時金が予想されるなら、買主にとっても負担になります。
査定時には、不動産会社へ次の資料を見せてください。
- 管理規約
- 直近の総会議事録
- 管理費と修繕積立金の改定資料
- 長期修繕計画
- 大規模修繕の実施履歴
- 管理計画認定の有無
不動産会社へは、
「管理費等の改定が予定されています。改定後の金額を前提にした査定額と、売却までの期間を教えてください」
と伝えます。
値上げ前の金額だけを示して売り出すのではなく、買主へ伝えるべき改定情報を確認してください。
支払いが難しくても、使っていない設備分だけ止めることはできません
「エレベーターを使わないから、その分は払わない」
「空室にするから管理費を止めたい」
そう考えたくなることもあります。
しかし、管理費や修繕積立金は、原則として管理規約などに基づき区分所有者が負担する費用です。個人の判断で一部だけ支払いを止めることはできません。
滞納が始まると、管理組合から書面や電話による督促を受け、その後も支払いがなければ、遅延損害金や法的手続が問題になる場合があります。
次回の引落しが難しいと分かった段階で、管理会社または管理組合へ連絡してください。
「年金生活で、管理費等の改定後は月〇円不足する見込みです。滞納になる前に、支払日や分納などについて取り扱える方法があるか教えてください」
分納や猶予が認められるかは、管理規約や管理組合の判断によります。連絡すれば支払いが免除されるわけではありませんが、何も伝えず滞納するより、支払いの見通しを共有できます。
管理費等を払うために、カードローンや高金利の借入れを増やすと、翌月以降の不足が大きくなるおそれがあります。
建物の問題と自分の家計は、別の相手に聞きます
管理費や修繕積立金が妥当かを考えるには、管理組合の会計と建物の計画を見る必要があります。
一方、年金生活で払えるかを考えるには、自分の家計全体を見なければなりません。
- 管理組合・理事会:値上げ理由、決算、予算、滞納額、今後の議決予定を聞く
- 管理会社:委託業務、保守費用、値上げ項目の内訳を聞く
- マンション管理士・マンション管理センター:長期修繕計画、管理組合運営、修繕積立金の考え方を聞く
- 家計相談:年金、貯蓄、医療・介護費を含め、住居費を何年払えるかを見る
- 不動産会社:売却時の手取りと、改定後の費用を踏まえた売却見込みを聞く
管理会社は、管理組合から業務を委託されている立場です。個々の所有者にとって、住み続けるか売却するかを中立的に決める家計相談先とは役割が異なります。
今日は値上げ案の四つの数字を管理組合へ問い合わせます
総会資料をすべて理解する必要はありません。
今日は、現在額、改定後の金額、改定開始日、次回の増額予定の四つを抜き出してください。
分からない項目があれば、管理組合または管理会社へ次の一文を送ります。
「老後の家計を見直すため、管理費と修繕積立金を分けて把握したいです。現在額、改定後の金額、改定理由、今後十年間の増額予定、一時金の予定を教えてください。総会議案書と長期修繕計画の該当箇所も案内してください」
その回答を受け取ってから、年金の手取りと毎月の生活費を横へ置きます。
今日決めるのは、売却でも値上げへの賛否でもありません。
このマンションへ住み続けるために、来年、五年後、十年後にいくら必要なのか。まず、その金額を見える状態にするところから始められます。


















