葬儀の打ち合わせ中、「最後に喪主様からご挨拶を」と言われて手が止まる
死亡届、遺影写真、会葬者への連絡、供花の並び順。次々と決めることが続く中で、葬儀社の担当者から「出棺前に、喪主様から一言お願いします」と言われる。
その瞬間、葬儀そのものより挨拶のことが頭から離れなくなる方がいます。
「人前で話すのが苦手なのに、声が出るだろうか」
「途中で泣いてしまったら、式を止めてしまう」
「故人のことをきちんと話さなければ、冷たい家族に見えそう」
「親戚の前で言い間違えたら、あとまで覚えられてしまうのでは」
夜になって例文を探すと、難しい言葉が並んだ長い挨拶が出てきます。読んでみても自分の言葉には思えず、覚えようとするほど不安が大きくなります。
けれど、参列した方が待っているのは、立派な演説ではありません。
「来てくださって、ありがとうございました」と遺族から伝えられることです。
故人の経歴をすべて紹介しなくても、死因を説明しなくても、思い出を上手にまとめなくても構いません。
話せる言葉だけで、短く終えて大丈夫です。
30秒の挨拶なら、三つの言葉だけで成り立ちます
喪主挨拶へ入れられる内容は多くありますが、すべてを話す必要はありません。
短くする場合は、次の三つに絞ります。
| 順番 | 伝えること | 短い言葉の例 |
|---|---|---|
| 1 | 来てくださったことへのお礼 | 「本日はお越しいただき、ありがとうございました」 |
| 2 | 故人がお世話になったことへの感謝 | 「生前にいただいたご厚情に、心より感謝いたします」 |
| 3 | もう一度お礼を述べて結ぶ | 「本日は誠にありがとうございました」 |
故人の人柄や最期の様子、今後のお付き合いへのお願いは、話せそうなら加える項目です。省いたからといって、挨拶として成り立たないわけではありません。
参列へのお礼、生前のお付き合いへの感謝、故人についての一言などを簡潔に伝えればよく、原稿を見ながら話しても問題ないと案内されています。
30秒ほどで終える最短の例文
「本日はお忙しい中、父○○のためにお越しいただき、誠にありがとうございました。生前に皆様からいただきましたご厚情に、家族一同、心より感謝申し上げます。本日は本当にありがとうございました」
言葉が出なくなりそうなときの、さらに短い例文
「本日は、○○のためにお集まりいただき、本当にありがとうございました。皆様に見送っていただき、家族一同、心より感謝しております」
二文でも、お礼は伝わります。
「短すぎて失礼では」と心配になるかもしれませんが、悲しみの中にいる喪主へ、長く話すことを求めて参列している方ばかりではありません。
一分話せそうなら、故人らしい一場面を一つだけ加えます
少しだけ故人について触れたい場合も、生涯をまとめようとしなくて大丈夫です。
「仕事熱心な人でした」「花が好きでした」だけでも、その人らしさは伝わります。
| 思い出す手掛かり | 挨拶へ入れる一言の例 |
|---|---|
| よくしていたこと | 「父は、休日になると庭の手入れをすることを楽しみにしていました」 |
| 周囲から言われていたこと | 「母は、いつも人の話をよく聞く人だと皆様から言っていただきました」 |
| 家族が覚えている姿 | 「孫が来る日には、朝から玄関を何度ものぞいて待っていました」 |
| 仕事や地域での姿 | 「長年の仕事を通じ、多くの皆様に支えていただきました」 |
| 晩年の様子 | 「療養中も、家族へ何度も『ありがとう』と話していました」 |
エピソードは一つで十分です。二つ、三つと増やすと、どこで終えればよいか分からなくなります。
出棺時などの挨拶は、参列へのお礼、故人への厚情に対する感謝、遺族からの結びを簡潔に伝える形が基本とされ、故人のエピソードは必須ではありません。
故人の一場面を加えた一分程度の例文
「本日はお忙しい中、父○○の葬儀にご会葬いただき、誠にありがとうございました。父は人と話すことが好きで、皆様と過ごした時間をいつも楽しそうに家族へ話しておりました。このように多くの方に見送っていただき、父も喜んでいることと思います。生前に賜りましたご厚情に、家族一同、心より御礼申し上げます。本日は誠にありがとうございました」
故人について話し始めると涙が出そうな場合は、エピソードを入れない短い形を選んで構いません。
通夜・出棺・家族葬では、同じ挨拶を使い回さなくても大丈夫です
喪主の挨拶は、一度だけとは限りません。
通夜の終了時、告別式や出棺の前、精進落としの始めや終わりなど、複数の場面で求められることがあります。
ただし、すべての場面で別の長い原稿を用意する必要はありません。
| 場面 | 中心にする内容 | 長さの考え方 |
|---|---|---|
| 通夜の終了時 | 参列へのお礼、翌日の告別式などの案内 | 30秒から1分程度でもよい |
| 告別式・出棺前 | 参列へのお礼、生前の厚情への感謝、故人への一言 | 1分前後を目安に、無理なら短くする |
| 家族葬 | 近しい方が集まってくれたことへの感謝 | 普段に近い言葉でもよい |
| 精進落としの開始 | 葬儀が無事に終わったことへのお礼、会食の案内 | 数文でよい |
| 会食の終了時 | 最後まで付き合ってくれたことへのお礼 | 短く締める |
各場面での挨拶は、長く話すより、目的に合う内容を簡潔に伝える形が紹介されています。家族葬では、かしこまった表現にこだわらず、身近な方へ普段に近い言葉で感謝を述べる方法もあります。
通夜終了時の短い例文
「本日はお忙しい中、母○○の通夜にお越しいただき、誠にありがとうございました。皆様からいただきました温かいお心遣いに、家族一同、深く感謝しております。本日はありがとうございました」
出棺前の短い例文
「本日は父○○の葬儀にご会葬いただき、誠にありがとうございました。皆様に最後までお見送りいただき、父も喜んでいることと思います。生前のご厚情に、心より御礼申し上げます」
家族葬での短い例文
「今日は母のために集まってくださり、本当にありがとうございました。身近な皆様に見送っていただけたことを、家族一同ありがたく思っています。母も安心していることと思います」
会食を始めるときの短い例文
「本日は最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。ささやかではございますが、お食事をご用意しております。どうぞ故人をしのびながら、お召し上がりください」
故人との関係に合わせて、主語だけ替えれば話せます
例文にある「父」や「母」を替えるだけでも使えますが、故人との関係によって、話しやすい言葉は少し変わります。
| 喪主と故人の関係 | 入れやすい言葉 | 無理に入れなくてよいこと |
|---|---|---|
| 配偶者 | 共に過ごした年月、支えてくれた方への感謝 | 夫婦だけの詳しい思い出 |
| 子ども | 親としての姿、家族が覚えている習慣 | 親子関係を美しくまとめること |
| 兄弟姉妹 | 幼い頃からの人柄、親族への感謝 | 家族内の事情 |
| 親 | 子どもを見送る悲しみの中で、参列への感謝だけでもよい | 亡くなった経緯や気持ちの説明 |
| 親族代表・喪主代理 | 喪主に代わって挨拶すること、遺族からの感謝 | 自分と故人との長いエピソード |
夫を見送る妻の短い例文
「本日は夫○○のためにお越しいただき、誠にありがとうございました。生前、皆様から温かくお付き合いいただきましたことに、心より感謝申し上げます。夫も皆様に見送っていただき、喜んでいることと思います」
母を見送る子どもの短い例文
「本日は母○○の葬儀にお越しいただき、ありがとうございました。母は皆様とのご縁に恵まれ、幸せな人生だったと思います。家族一同、心より御礼申し上げます」
子どもを見送る親の、言葉を絞った例文
「本日は○○のためにお集まりいただき、本当にありがとうございました。皆様からいただきました温かいお気持ちに、家族一同、心より感謝しております」
子どもを見送る親が、故人の人生や最期を挨拶で語れないのは不自然なことではありません。お礼だけを述べ、終えて構いません。
亡くなった経緯を、挨拶で説明する義務はありません
事故、急な病気、自死、長い療養など、亡くなった経緯をどこまで話すか迷う場合があります。
参列者が事情を知りたがっているように感じても、喪主挨拶で詳しく説明する必要はありません。出棺時の挨拶でも、死因には触れずに構わないと案内されています。
| 状況 | 短く伝える例 |
|---|---|
| 長い療養の後 | 「療養中は多くの皆様からお心遣いをいただき、ありがとうございました」 |
| 突然亡くなった | 「あまりに突然のことで、家族もまだ気持ちの整理がついておりません」 |
| 詳細を話したくない | 亡くなった経緯には触れず、参列と生前の厚情へのお礼だけを述べる |
| 参列者へすでに説明済み | 挨拶で繰り返さず、「皆様のお心遣いに感謝します」と結ぶ |
家族内で、「病名は伝えるのか」「亡くなった時刻や場所は言うのか」「療養中の話はどこまで触れるのか」を決めておくと、当日に迷いません。
喪主一人で決めにくければ、配偶者、子ども、故人の兄弟姉妹などと、話してよい範囲を合わせてください。
カンペは、小さく隠すより堂々と読める形にします
原稿を見ることを「格好が悪い」と感じ、丸暗記しようとする方がいます。
しかし、葬儀の前後は睡眠不足や緊張もあり、普段なら言える言葉も出てこないことがあります。
原稿を見ながら話すこと自体は、失礼には当たりません。
当日読みやすい原稿には、次の工夫があります。
- 用紙は一枚に収める
- 文字を普段より大きくする
- 一文を短くし、意味の区切りで改行する
- 故人の名前、日付、年齢には印を付ける
- 読みにくい漢字へふりがなを付ける
- 「ここで一呼吸」と書いておく
- 最後の一文を太く囲む
たとえば、次のように区切ります。
本日はお忙しい中、
父○○のためにお越しいただき、
誠にありがとうございました。
生前に皆様からいただきましたご厚情に、
家族一同、心より感謝しております。
本日は本当に、
ありがとうございました。
長い文章を横へ追うより、短い行を上から順に読む方が、途中で場所を見失いにくくなります。
原稿は喪服のポケットへ無理に折り込まず、葬儀社の担当者や近くの家族に預け、挨拶の直前に渡してもらう方法もあります。
途中で泣いたら、言い直さず最後の一文へ進んで大丈夫です
故人の名前を口にした瞬間、涙が出ることがあります。
声が震えたら、まず黙って一度息を吐きます。謝り続ける必要はありません。
| 起きたこと | その場でできること |
|---|---|
| 涙が出て読めない | 原稿から顔を上げず、数秒待つ。落ち着かなければ最後のお礼へ進む |
| 声が震える | 小さな声でもよいので、速度を落として一文ずつ読む |
| 読む場所を見失った | 途中を探さず、囲っておいた最後の一文を読む |
| 言葉を間違えた | 細かく訂正せず、そのまま次へ進む |
| 何も言えなくなった | 「本日はありがとうございました」とだけ伝え、一礼する |
「取り乱して申し訳ありません」と何度も謝ると、さらに言葉が出にくくなります。
どうしても一言添えたいなら、次のように短く伝えます。
「申し訳ありません。まだ気持ちの整理がついておらず、うまく言葉にできません。本日はお越しいただき、本当にありがとうございました」
泣かずに話せたから立派、泣いたから失敗ということではありません。
挨拶の目的は、悲しみを隠すことではなく、来てくれた方へ感謝を届けることです。
喪主本人が話せないときは、家族へ代わってもらえます
喪主が高齢で立ち続けられない、体調を崩している、声が出ない、悲しみが深く人前へ立てないということもあります。
その場合、家族や親族の代表者が代わって挨拶する方法があります。喪主本人が必ず最後まで話さなければならないわけではありません。喪主が体調を崩した場合に、親族が代わって挨拶する文例も示されています。
喪主代理の短い例文
「本来であれば喪主の○○からご挨拶申し上げるところですが、体調が優れないため、私が代わってご挨拶いたします。本日は故○○のためにお越しいただき、誠にありがとうございました。生前に賜りましたご厚情に、遺族一同、心より御礼申し上げます」
当日になって急に話せなくなることもあります。前日までに、次のことを葬儀社と家族へ伝えておくと安心です。
- 話せなくなった場合に代わる人
- 代理の人が持つ原稿
- 喪主が座ったまま一礼する形にできるか
- マイクの位置や立つ時間を短くできるか
- 葬儀社の司会者から感謝を代読できるか
「自分が喪主なのだから」と無理を重ね、式の途中で具合が悪くなる必要はありません。
避ける言葉を覚えるより、言いにくい表現を普段の言葉へ替えます
喪主挨拶を調べると、「重ね重ね」「たびたび」などの重ね言葉や、直接的な表現を避けるという説明が出てきます。
気をつけられる範囲で整えればよいものの、避ける言葉をすべて暗記しようとすると、肝心のお礼が言えなくなってしまいます。
| 言いにくい表現 | 話しやすい言い換え |
|---|---|
| ご厚誼を賜り | 温かくお付き合いいただき |
| ご会葬いただき | 葬儀にお越しいただき |
| ご指導ご鞭撻を | 今後ともお付き合いいただければと思います |
| 生前のご厚情に | 故人が生前お世話になりましたことに |
| ご挨拶に代えさせていただきます | 心よりお礼申し上げます |
普段使わない言葉は、当日も口から出にくいものです。
「故人が生前お世話になり、本当にありがとうございました」と、自分が無理なく読める言葉へ替えて構いません。
前日に家族と確認するのは、文章の上手さではなく五つの事実です
原稿ができたら、文章を何度も直すより、間違えると困る部分を家族と見ます。
- 故人の名前と読み方
- 喪主と故人の関係
- 亡くなった経緯をどこまで話すか
- 家族が公にしたくない情報が入っていないか
- 挨拶する場面と、次の案内が必要か
享年や亡くなった日時を入れる場合は、葬儀社の資料と照合します。ただし、数字を言うことが負担なら、省いても挨拶は成り立ちます。
最後に一度だけ、椅子へ座ったままでよいので、声に出して読みます。
息が続かない文章は二つに分ける。読みにくい言葉は平易にする。涙が出る箇所は削る。
原稿を美しくするのではなく、今の自分が読み切れる文章へ近づけます。
今日用意するのは、最初と最後の一文だけでも構いません
葬儀の準備で疲れ切っているときに、完璧な挨拶文を作る必要はありません。
まず、紙へ次の二文を書いてください。
「本日は○○のためにお越しいただき、誠にありがとうございました」
「生前にいただきましたご厚情に、家族一同、心より感謝申し上げます」
この間に、故人について話せそうな一文を入れる。入らなければ、そのまま終える。
それで十分です。
当日、原稿どおりに読めなくても構いません。声が小さくても、途中で止まっても、最後の「ありがとうございました」だけになっても、お礼は伝わります。
喪主挨拶は、故人への思いの深さを測る試験ではありません。
言葉が短いことも、涙が出ることも、誰かに代わってもらうことも、故人を大切に思っていない証拠にはなりません。
今のあなたが口にできる言葉で、来てくださった方へ一度お礼を伝える。それができれば、喪主としての挨拶はもう果たせています。















