最後の給与が入ったあと、通帳へ何も入らない月が始まる
退職した翌月、これまで給与が振り込まれていた日に通帳を見ても、入金はありません。
家賃や住宅ローン、光熱費、保険料は今までどおり引き落とされます。さらに、会社員のときは給与から差し引かれていた健康保険や税金を、自分で払う場面も出てきます。
「年金が始まるまで、貯金だけで暮らせるだろうか」
「失業給付はすぐ入ると思っていたけれど、本当だろうか」
「60歳から繰上げれば楽になる。でも一生減るのは怖い」
「退職金を生活費に使い始めたら、止まらなくなりそう」
年金開始までの空白が不安なのは、支出があるからだけではありません。
何月に、いくら入って、いくら出るのかが見えないまま、まとまった貯金が減り始めるからです。
最初にするのは、老後全体の資金計算ではありません。最後の給与から年金の初回入金までを、一か月ずつ並べることです。
「65歳まであと何年」ではなく、入金のない月を数えます
同じ60歳退職でも、誕生月や最後の給与日、失業給付の有無によって、実際の空白期間は変わります。
次の四つの日付を書いてください。
- 退職日
- 最後の給与・退職金が入る日
- 雇用保険などの収入が始まり、終わる見込み
- 老齢年金の初回入金が見込まれる時期
老齢基礎年金と老齢厚生年金は原則65歳からですが、年金は自動的に振り込まれるものではなく、請求手続きが必要です。年金請求書は原則65歳到達の3か月前に送付され、請求後も決定や初回入金まで一定の期間がかかります。原則として受給権が発生した月の翌月分から支給されますが、実際の振込は偶数月に前月・前々月分をまとめて行う仕組みです。
そのため、「65歳の誕生日までの生活費」だけでは足りないことがあります。
誕生日の翌月以降に発生する生活費も含め、初回入金までの予備費を残しておきます。
| 時期 | 入るお金 | 出るお金 | 不足額 |
|---|---|---|---|
| 退職月 | 最終給与、退職金 | 通常の生活費、退職時の精算 | 円 |
| 退職翌月 | なし・配偶者収入など | 生活費、健康保険、税金 | 円 |
| 失業給付の受給中 | 基本手当など | 生活費、保険料、求職活動費 | 円 |
| 失業給付終了後 | パート収入など | 生活費、医療費、税・保険料 | 円 |
| 年金初回入金前 | 原則なし | 通常の生活費 | 円 |
この表で不足する金額の合計が、年金受給前に用意しておきたい生活資金の目安になります。
無収入だと思っていても、途中に入るお金がないか一つずつ見ます
退職後から年金までを、すべて貯金だけで埋めるとは限りません。
| 考えられる収入 | 確かめること |
|---|---|
| 最後の給与 | 締め日と支払日、未精算の残業代 |
| 退職金・企業年金 | 支給日、一時金か年金形式か |
| 雇用保険の基本手当 | 受給資格、給付制限、給付日数 |
| 再就職・短時間パートの賃金 | 働ける日数、体力、交通費を引いた手取り |
| 配偶者の収入 | 家計へ入れられる額と期間 |
| 個人年金など | 受取開始日、税引き後の金額 |
| 特別支給の老齢厚生年金 | 生年月日や加入歴から対象となるか |
生年月日や厚生年金の加入期間によっては、65歳前に特別支給の老齢厚生年金を受けられる場合があります。自分は対象外だと決めず、「ねんきんネット」や年金事務所で受給開始年齢と見込額を確かめてください。ねんきんネットでは、今後の働き方や受給開始年齢を変えた試算もできます。
失業給付は、退職した人へ自動的に入る生活費ではありません
雇用保険の基本手当は、退職しただけで必ず受け取れるものではありません。
原則として、離職前2年間に被保険者期間が12か月以上あり、働く意思と能力があって、求職活動をしているにもかかわらず就職できないことなどが要件になります。会社都合や一定のやむを得ない事情による離職では、加入期間の要件などが異なる場合があります。
2025年4月1日以降に、正当な理由のない自己都合で退職した場合は、受給資格決定後の7日間の待期に加え、原則1か月の給付制限があります。過去の離職状況などにより、3か月となる場合もあります。
したがって、退職翌月から満額が振り込まれる前提で家計を作らない方が安全です。
退職前または離職票が届いた段階で、ハローワークへ次を尋ねます。
- 自分に受給資格があるか
- 給付制限があるか
- 給付日数とおおよその日額
- 最初の入金はいつ頃になりそうか
- 短時間働いた場合の申告方法
体調不良などで今すぐ働けない場合は、「求職できる人」を対象とする基本手当とは扱いが異なります。年金までのつなぎとして失業給付を当てにする前に、現在の体調と働ける状態をハローワークへ伝えてください。
退職後は、収入がなくても税金と保険料がすぐゼロになるとは限りません
空白期間の生活費を考えるとき、食費や家賃だけを計算すると不足します。
見落としやすいのが、退職後に自分で払う税金と社会保険料です。
| 支出 | 退職後に起こること |
|---|---|
| 健康保険料 | 任意継続、国民健康保険、家族の扶養などから選ぶ |
| 国民年金保険料 | 60歳未満で厚生年金を外れた場合、原則として手続きが必要 |
| 住民税 | 前年の所得をもとに、無収入になった後も請求されることがある |
| 所得税 | 退職した年の収入や控除によって精算が必要な場合がある |
| 住宅・車の費用 | 固定資産税、自動車税、保険、車検などが続く |
住民税は前年の所得を基に計算されます。退職時に残額を給与から一括徴収されても、退職した年に給与収入があれば、その所得に対する住民税の通知が翌年に届くことがあります。自治体によって納付時期や方法が異なるため、退職した年と翌年の税額を市区町村へ聞いておくと安心です。
退職金が入ったからといって、その全額を年金までの生活費として計算しないでください。
まず、税・保険料や一年以内の大きな支払いを別に取っておきます。
健康保険は、退職前に三つの金額を取り寄せます
会社を辞めた後の健康保険には、主に次の選択肢があります。
| 選択肢 | 主な問い合わせ先 | 見ること |
|---|---|---|
| 退職前の健康保険を任意継続する | 協会けんぽ・健康保険組合 | 月額保険料、申請期限、家族の扱い |
| 国民健康保険へ加入する | 市区町村 | 前年所得による保険料、減免の有無 |
| 家族の健康保険の被扶養者になる | 家族の勤務先・健康保険 | 収入などの扶養要件 |
協会けんぽの任意継続は、原則として退職前に継続2か月以上の被保険者期間があり、退職日の翌日から20日以内に申し出る必要があります。国民健康保険の保険料は前年所得や世帯状況、自治体によって異なるため、任意継続と実額を比べて決めます。
退職後に調べ始めると、任意継続の期限まで時間がありません。
退職日が決まったら、三つの窓口へ「月額はいくらになるか」を聞き、年額で比べてください。
60歳未満で退職する方は、国民年金保険料も空白期間へ入れます
日本国内に住む20歳以上60歳未満の方が退職し、厚生年金に加入しなくなった場合は、配偶者の扶養に入る場合などを除き、原則として国民年金の第1号被保険者になる手続きが必要です。
無収入になり保険料の納付が難しい場合には、所得などの要件により免除・納付猶予を利用できる可能性があります。未納のまま放置するのではなく、市区町村や年金事務所へ退職したことを伝えてください。
60歳以上で受給資格期間が足りない、または満額へ近づけたい方は、条件を満たせば65歳まで任意加入できる場合があります。年金開始前の生活費が厳しいときに保険料を払い続けるかどうかは、増える年金額も試算して判断します。
年金の繰上げは、「今月足りない」だけで決めない
60歳以降、年金を繰り上げて受け取れば、空白期間へ定期収入を入れられます。
ただし、繰上げる月数に応じて年金額が減り、その減額は生涯続きます。
1962年4月2日以降生まれの方は、1か月繰り上げるごとに0.4%、60歳まで繰り上げると最大24%減額されます。1962年4月1日以前生まれの方は1か月0.5%、最大30%です。
| 比べる案 | 今の空白期間 | 65歳以降への影響 |
|---|---|---|
| 貯金から定額を補う | 貯金が減る | 本来の開始年齢の年金額を受け取る |
| 短時間で働く | 給与で不足の一部を補う | 体力や仕事の条件を考える必要がある |
| 支出を一時的に下げる | 不足額を小さくする | 医療や生活に必要な支出まで削らない |
| 年金を繰り上げる | 定期収入が入る | 年金額の減額が生涯続く |
繰上げ受給が間違いというわけではありません。
健康状態、貯金額、働ける見込み、配偶者の収入などによっては、早く受け取ることが生活を守る場合もあります。
ただし、「あと半年だけ足りない」のか、「65歳以降も毎月赤字になる」のかで判断は変わります。
ねんきんネットや年金事務所で、65歳開始と繰上げ開始の年金額を並べてから決めてください。
空白期間の長さによって、優先する方法を変えます
| 現在の状態 | 先にすること |
|---|---|
| 年金開始まで半年未満 | 初回入金時期、税・保険料、半年分の不足額を確定する |
| 年金開始まで1~2年 | 失業給付、短時間就労、固定費の見直しを組み合わせる |
| 60歳から65歳まで大きく空く | 一年ごとに収入源を置き、全期間を貯金だけで埋めない方法を探す |
| 体調のため働けない | 求職を前提とする給付だけでなく、医療・福祉制度を含めて考える |
| すでに家賃や税金が払えない | 繰上げ受給や借入を急ぐ前に、自治体へ家計全体を伝える |
年金開始まで5年ある場合も、5年分を一度に用意する必要はありません。
「退職から失業給付終了まで」「その後の短時間就労期間」「年金初回入金まで」と区切ると、どの時期に対策が足りないかが見えてきます。
夫婦では、「貯金がいくらあるか」より毎月誰が何を払うかを決めます
夫婦の一方が退職し、もう一方が働いている場合、「しばらく相手の収入で何とかなる」と曖昧にしがちです。
けれど、働く側は負担がいつまで続くのか不安になり、退職した側は生活費を使うたびに遠慮します。
次の内容を月額で話してください。
- 配偶者の収入から家計へ入れられる額
- 貯金から補う額
- 各自が自由に使える額
- 家族援助や住宅費を続けるか
- 何月に家計を見直すか
会話は、次のように始められます。
「年金まで何となく貯金を使うのが怖い。最後の給与から年金の初回入金まで、毎月いくら不足するか一緒に並べたい」
子どもが手伝う場合も、すぐ生活費を渡すのではなく、年金見込額、失業給付、税・保険料の通知を一緒にそろえるところから始めます。
すでに生活費が足りないなら、貯金がなくなるまで待たない
家賃、税金、公共料金の支払いが遅れ始めている場合は、年金開始まで一人で耐え続けないでください。
生活困窮者自立支援制度では、仕事、住まい、家計などの困り事をまとめて受け付け、家計の見える化や給付制度の利用、滞納の解消に向けた支援などを行っています。相談先は居住する地域の自立相談支援機関です。
雇用保険を受けられず、再就職のための技能を身につけたい方は、要件を満たせば、職業訓練を受けながら給付金を受け取る求職者支援制度の対象になる可能性もあります。
相談時には、「お金がない」だけでなく、次をメモして持っていきます。
- 年金開始予定月
- 現在の預貯金
- 毎月の生活費
- 税・保険料や家賃の滞納
- 働ける状態かどうか
- 失業給付の申請状況
今日するのは、65歳まで我慢できるかを決めることではありません
今夜、老後全体の答えを出す必要はありません。
紙やスマートフォンへ、次の五行だけ書いてください。
- 最後の給与が入る日:
- 年金の初回入金見込み:
- その間の月数:
- 一か月の最低生活費:
- 途中に入る可能性がある収入:
たとえば、次のようになります。
「最後の給与は2026年9月。年金の初回入金は2030年秋頃を想定。空白は約4年。最低生活費は月17万円。失業給付、週3日の仕事、配偶者収入を確認する」
次に、健康保険、住民税、60歳未満なら国民年金保険料を加えます。
ここまで書ければ、「何年も無収入でどうしよう」という不安が、「この6か月は失業給付」「その後は月5万円不足」「年金前の3か月分を別に残す」という具体的な課題へ変わります。
年金までの空白を埋める方法は、一つでなくて構いません。
失業給付を受ける。無理のない時間だけ働く。固定費を一つ減らす。予定した額だけ貯金を使う。それでも不足する場合に、繰上げ受給を含めて比べる。
まず明日は、年金事務所またはねんきんネットで、自分の受給開始時期と見込額を確かめてください。
空白期間の終わりが分かれば、ただ貯金が減る日々ではなく、何月までを、どの収入でつなぐかを決められるようになります。
出典・確認先メモ
- 日本年金機構「老齢年金の請求手続きの流れ」:年金請求から初回入金までの流れや支払月を確かめる資料。
- 日本年金機構「ねんきんネットによる年金見込額試算」:働き方や受給開始年齢を変えて年金額を比較する資料。
- 日本年金機構「年金の繰上げ受給」:繰上げによる減額率と生涯減額を確かめる資料。
- 厚生労働省「雇用保険の基本手当」:受給要件や自己都合退職時の給付制限を確かめる資料。
- 全国健康保険協会「退職後の健康保険」:任意継続、国民健康保険、家族の扶養を比べる資料。
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」:生活費、家賃、税金などの支払いが難しい場合の相談先を確かめる資料。


















