「年のせいかな」で済ませてよい変化と、相談した方がよい変化
親御さんと電話で話していて、同じ話を何度も聞く。実家に行くと、冷蔵庫に同じ総菜がいくつも入っている。通帳や財布を探すことが増え、「誰かが持っていった」と怒ることがある。
そんな場面が続くと、ご家族の頭の中で小さな会議が始まります。「これは年齢のせい?」「病院に連れて行くべき?」「でも、認知症なんて言ったら傷つくかもしれない」。考えれば考えるほど、答えが出にくくなります。
まず知っておきたいのは、物忘れがあるだけで認知症と決まるわけではない、ということです。睡眠不足、薬の影響、脱水、うつ状態、環境の変化、体調不良などで、一時的に混乱が強く見えることもあります。
ただし、生活の中で困りごとが出ているなら、早めに相談先へつなぐ意味があります。診断名をつけるためではなく、親御さんの暮らしと安全を守るためです。
最初の相談先は、困っている内容で変わります
「認知症かもしれない」と思ったとき、多くのご家族が最初に迷うのは、病院に行くべきか、介護の窓口に行くべきか、という点です。
結論から言うと、親御さんの状態が日常生活に関わっているなら、地域包括支援センター。体調や薬、診断の相談から入りたいなら、かかりつけ医。専門的な検査が必要そうなら、もの忘れ外来や認知症疾患医療センターが候補になります。
| 困っていること | 最初に考えたい相談先 | 相談できる内容 |
|---|---|---|
| 物忘れが増えたが、病院に行くべきか迷う | かかりつけ医 | 体調、薬の影響、紹介先、受診の必要性を相談しやすい |
| 一人暮らし、火の元、食事、服薬、金銭管理が心配 | 地域包括支援センター | 介護、見守り、生活支援、家族だけの相談、地域サービスの案内 |
| 認知症かどうか、専門的に調べたい | もの忘れ外来、認知症疾患医療センター | 検査、診断、専門医療相談、今後の治療や支援の方向性 |
| 本人が受診を強く嫌がる | 地域包括支援センター、かかりつけ医 | 家族だけで状況を話し、受診につなげる言い方や段取りを相談 |
| 65歳未満で認知症のような症状がある | 若年性認知症の相談窓口、医療機関 | 仕事、生活、診断、支援制度などを含めた相談 |
| 介護サービスを使えるのか知りたい | 地域包括支援センター、市区町村の高齢者福祉担当課 | 介護認定、ケアマネジャー、デイサービス、見守り支援など |
迷ったら、地域包括支援センターに電話してよいです。名前が少し硬いので身構えますが、要するに「高齢者と家族の地域の相談窓口」です。親御さん本人がまだ相談に乗り気でなくても、ご家族だけで話を聞いてもらえることがあります。
電話する前に、きれいな資料はいりません。出来事を三つだけ集めます
相談の前に、立派なメモを作る必要はありません。むしろ、きれいにまとめようとして疲れてしまうくらいなら、最近気になった出来事を三つだけ書き出す方が役に立ちます。
相談先が知りたいのは、「認知症かどうかを家族がどう思っているか」よりも、「生活のどこで困っているか」です。
| 書いておくこと | 例 | 相談先に伝わること |
|---|---|---|
| いつ起きたか | 先週の日曜日、夕方ごろ | 頻度や最近の変化が分かる |
| 何が起きたか | 同じ薬を飲んだか分からず、もう一度飲もうとしていた | 服薬管理の危険度が分かる |
| 本人の反応 | 「飲んでいない」と言うが、薬ケースは空だった | 記憶の抜け方や自覚の有無が分かる |
| 家族が困ったこと | 遠方なので毎日確認できない | 家族側の支援体制も分かる |
| 危なかったこと | 鍋を焦がした、道に迷った、支払いを忘れた | 見守りや介護サービスの必要性を考えやすい |
「母が変です」「父が認知症かもしれません」だけだと、相談先も状況をつかみにくくなります。反対に、「火の消し忘れが2回ありました」「通院日を3回忘れました」と言えると、次に何を考えるべきかが見えやすくなります。
相談先に電話するときは、「認知症かどうかを決めたい」ではなく、「生活の中でこういう困りごとが出ていて、どこから動けばよいか知りたい」と伝えると話が進みやすくなります。
地域包括支援センターに電話するときの言い方
地域包括支援センターに電話するのは、少し勇気がいります。何を聞かれるのか、どこまで話してよいのか、親に知られるのか。そこが気になって、スマホを持ったまま固まってしまう方もいるはずです。
最初の電話では、完璧に説明しなくて大丈夫です。次のような言い方で十分です。
| 場面 | 電話での伝え方 |
|---|---|
| 親が一人暮らしをしている | 「一人暮らしの母の物忘れが増えていて、火の元や薬の管理が心配です。家族だけで相談できますか」 |
| 本人が病院を嫌がっている | 「本人は受診を嫌がっています。家族として、どう声をかければよいか相談したいです」 |
| 遠方で頻繁に行けない | 「私は遠方に住んでいて、月に何度も帰れません。地域で使える見守りや相談先を知りたいです」 |
| 近所から連絡があった | 「近所の方から、親が道に迷っていたようだと連絡がありました。今後どう動けばよいでしょうか」 |
| 兄弟で意見が割れている | 「家族内で受診や介護の考え方が分かれています。第三者に状況を聞いてもらいたいです」 |
地域包括支援センターは、すぐ施設をすすめる場所ではありません。介護認定が必要か、医療機関につなぐべきか、見守りを増やすべきか、家族だけで抱えないための入口として使えます。
かかりつけ医には「認知症を診てください」より「最近の変化」を伝える
親御さんにかかりつけ医がいる場合は、そこから始める方法もあります。昔から通っている医師なら、本人も受診を受け入れやすいことがあります。
ただし、診察室でいきなり「認知症だと思うんです」と言うと、親御さんが傷ついたり、怒ったりすることがあります。家族としては心配で言っているのに、本人からすると「自分をおかしい扱いされた」と感じてしまうのです。
伝えるときは、病名ではなく変化を中心にします。
| 避けたい言い方 | 伝えやすい言い方 |
|---|---|
| 認知症だと思うので診てください | 最近、薬を飲んだか分からなくなることが増えています |
| 何度も同じことを言って困っています | 同じ予定を何度も確認することがあり、本人も不安そうです |
| もう一人では危ないです | 火の消し忘れがあり、安全面が心配です |
| 本人が言うことを聞きません | 受診や手続きの話になると強く拒否が出ます |
家族だけで事前に電話できるか、メモを受付に渡せるかは、医療機関によって対応が異なります。受診の予約時に「家族から最近の様子を共有したい」と聞いてみるとよいでしょう。
本人が受診を嫌がるときは、説得より入口の言葉を変える
認知症の相談で難しいのは、本人が困っていない、または困っていることを認めたくない場合です。
「病院に行こう」と言っても、「どこも悪くない」「年寄り扱いするな」と返ってくる。ご家族も疲れて、つい強い言葉になってしまう。ここは本当に、家庭内で小さな火花が散りやすいところです。
受診につなげるときは、「認知症」という言葉を最初から前面に出さない方が進むことがあります。
- 「薬が合っているか、一度先生に見てもらおう」
- 「最近疲れやすそうだから、健康診断のつもりで行こう」
- 「眠れているか、先生に相談してみよう」
- 「これからも家で暮らすために、安全面だけ一緒に見てもらおう」
- 「私が心配しすぎかもしれないから、一緒に確認してほしい」
ポイントは、本人を否定しないことです。「あなたが変だから行く」ではなく、「これからも安心して暮らすために、一緒に確認する」という形にします。
それでも難しい場合は、家族だけで地域包括支援センターやかかりつけ医に相談して構いません。本人を連れて行けないから何もできない、というわけではありません。
兄弟姉妹や配偶者と意見が違うときは、感情より記録を先に置く
親御さんの認知症相談では、家族内の温度差もよく起きます。
近くに住んでいる家族は「もう限界に近い」と感じている。遠方の兄弟姉妹は「電話では普通だった」と言う。配偶者は「昔からこういう人だから」と受け止めている。誰かが悪いというより、見えている場面が違うのです。
このとき、いきなり「あなたは分かっていない」と言うと、家族会議が一気に荒れます。なかなかの嵐です。まずは、事実を同じ机に置くことから始めます。
| 家族で共有したいこと | 共有のしかた |
|---|---|
| 最近起きた出来事 | 日付つきで、3〜5件だけ並べる |
| 危険があった場面 | 火の元、道迷い、薬、お金、転倒などに分ける |
| 誰が対応しているか | 通院、買い物、電話、書類、見守りの担当を書き出す |
| 家族の負担 | 仕事を休んだ回数、帰省頻度、夜間対応の有無を共有する |
| 次の一手 | 誰が地域包括支援センターへ電話するかだけ決める |
家族全員の意見を一度でそろえる必要はありません。最初の目標は、「認知症かどうかを家族で判定すること」ではなく、「第三者に相談するところまで一緒に進むこと」です。
相談後に起こりやすい流れを知っておく
相談したら、すぐに大きな決断を迫られるのではないか。そう思うと、電話一本でも重く感じます。
実際には、最初の相談では、状況の聞き取り、医療機関の案内、介護認定の説明、見守り方法の提案、家族の負担の確認などが中心になります。
| 相談後に出てきやすい話 | 内容 | その場で決めなくてよいこと |
|---|---|---|
| 医療機関への受診 | かかりつけ医、もの忘れ外来、認知症疾患医療センターなどの案内 | 診断名や治療方針を家族だけで決めること |
| 介護認定 | 介護保険サービスを使うための申請の流れ | すぐに施設へ入るかどうか |
| 見守りの強化 | 配食、安否確認、デイサービス、服薬支援、近所との連携 | すべてのサービスを一度に使うこと |
| 家族の役割分担 | 通院同行、書類、金銭管理、電話連絡などの分担 | 一人の家族が全部引き受けること |
| 今後の住まい | 一人暮らし継続、同居、施設、グループホームなどの選択肢 | 初回相談で結論を出すこと |
「相談する=すぐ介護開始」ではありません。むしろ、まだ大きな問題になる前に相談しておく方が、選べる手段が多くなります。
今日やるなら、親を説得する前に一本だけ電話する
親御さんの認知症が心配なとき、ご家族はつい「本人をどう説得するか」から考え始めます。けれど、最初から説得に挑むと、親子どちらも疲れてしまうことがあります。
今日できる一歩は、親御さんを説得することではありません。最近の出来事を三つ書き出し、地域包括支援センターか、かかりつけ医に相談の入口を作ることです。
- 親御さんの住所地の地域包括支援センターを調べる
- 最近気になった出来事を3つだけメモする
- 火の元、薬、食事、お金、外出、連絡のどこが心配か丸をつける
- 家族だけで相談できるか電話で聞く
- かかりつけ医がいる場合は、家族から状況共有できるか確認する
親御さんを責めなくて大丈夫です。ご家族が一人で全部決めなくても大丈夫です。まずは「これは家族だけで抱えなくてよい話だ」と外に出すこと。それだけでも、次の道が少し見えます。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」
- 厚生労働省「主な認知症施策について」
- お住まいの市区町村の高齢者福祉担当課
- 地域包括支援センター
- かかりつけ医、もの忘れ外来、認知症疾患医療センター
相談窓口の名称、受付時間、対象者、利用できる制度やサービスは、自治体や時期によって異なる場合があります。実際に連絡する際は、お住まいの市区町村や各相談窓口で最新情報をご確認ください。
親御さんの変化に気づくのは、近くで見ているご家族だからこそです。その気づきは、決めつけではなく、支援につなげるための入口になります。まずは一人で抱えず、出来事を三つだけ書き出して、相談先に渡せる形にしてみてください。















