朝起きると、天気より先に証券口座を開いてしまう
老後の足しにしようと思い、毎月少しずつ投資信託を買ってきました。
最初は評価額が増える日もあり、「預金だけにしておくよりよかったかもしれない」と思っていました。
ところが相場が下がり、口座画面にマイナスの数字が並びます。
マイナス8万円。数日後にはマイナス15万円。その後、少し戻ったと思ったら、また下がりました。
一度画面を閉じても、家事の途中や寝る前に気になって開いてしまいます。
「今売れば損が確定する」
「持っていれば、いつか購入価格まで戻るのだろうか」
「安くなった今こそ、追加で買うべきでは」
「数年後には退職するのに、このまま減ったら生活費は足りるのか」
配偶者には、まだ含み損の金額を話していません。責められそうだからではなく、自分でもどう説明すればよいか分からないからです。
含み損があるとき、相場の先を当てようとすると判断は難しくなります。
先に見るべきなのは、そのお金をいつ使うのか、今の家計に現金がいくら残っているのか、現在の商品をなぜ保有しているのかです。
含み損は、現時点で売った場合の差額です
含み損とは、現在の評価額が購入にかかった金額を下回っている状態です。
100万円で購入した投資信託の評価額が現在80万円なら、画面上は20万円の含み損となります。
| 状態 | 金額の例 | 意味 |
|---|---|---|
| 購入した金額 | 100万円 | 投資へ出した元の金額 |
| 現在の評価額 | 80万円 | 現在の基準価額で計算した価値 |
| 含み損 | 20万円 | 購入額と現在評価額の差 |
| 現在売却した場合 | おおむね80万円 | 費用等を除き、損失が実現する |
まだ売却していなければ、最終的な損失額は決まっていません。
ただし、「売らなければ損ではない」という言葉だけで放置するのも違います。
近く使う生活費を投資している、商品の中身を説明できない、資産の大半が一つの商品へ偏っている場合は、購入価格へ戻るのを待つ以外の対応も必要になります。
赤い数字を見る前に、五つの金額を紙へ移します
口座画面を開くたびに判断すると、下がった日は売りたくなり、少し戻った日は買い増したくなります。
まず、値動きから離れて現在地を書き出します。
| 書き出す項目 | 自分の状況 |
|---|---|
| 購入した合計額 | |
| 現在の評価額 | |
| 含み損の金額と割合 | |
| 投資とは別にある預貯金 | |
| 3年以内に使う予定額 |
含み損が同じ20万円でも、預貯金が十分にあり10年以上使わない資金なのか、来年からの生活費なのかで意味は変わります。
口座の数字だけでなく、家計の中でその投資がどの位置にあるかを見ます。
50代では「何年持てるか」より、何年後から使うかを考えます
「長期で持てばよい」と言われても、老後資金のすべてを長期間使わずにいられるわけではありません。
60歳で住宅ローンの返済に使うお金と、75歳以降の生活費として残すお金では、待てる期間が違います。
| お金を使う予定 | 含み損があるときの考え方 |
|---|---|
| 1~3年以内に使う | 値下がりしたまま売ると生活へ直結するため、必要額を現金へ戻すことも考える |
| 5年前後で使う | 使う時期が近づくほど、値動きの大きい資産を減らすか検討する |
| 10年以上使う予定がない | 商品と目的が合っていれば、短期の値動きだけで決めない選択もある |
| 時期未定の医療・介護費 | 投資とは別に、すぐ引き出せる預貯金を確保する |
| 家族へ残す可能性がある | 自分の生活費を確保したうえで、口座の存在や連絡先も共有する |
金融庁も、必要になる時期や金額は人によって異なるため、家計管理と生活設計を行い、資産状況や今後の計画に合わせて貯蓄と投資を使い分ける考え方を示しています。
生活費が足りないなら、購入価格へ戻るのを待つことが最優先ではありません
損失を確定させたくない気持ちは自然です。
けれど、手元の預金が少なく、家賃や住宅ローン、医療費まで投資信託から出さなければならない状態なら、相場より家計を優先します。
投資とは別に置いておきたいお金
- 毎月の最低生活費
- 退職から年金受給までの生活費
- 住宅ローンや家賃
- 税金・社会保険料
- 医療費・介護費の予備
- 家や車の修繕・買替え費用
- 近く予定されている家族への援助
必要な現金が不足している場合も、「全部売るか、一円も売らないか」の二択ではありません。
半年分の生活費だけを一部売却する、今後の積立を止めて現金を増やすなど、暮らしへの影響を小さくする方法があります。
含み損を確定させないことより、生活費を借入れで補わないことを優先した方がよい場合があります。
分配金を受け取っているなら、評価額だけでは全体の損益が分かりません
毎月または年に数回、分配金を受け取る投資信託を持っている人もいます。
その場合、現在の評価損益だけでなく、これまで受け取った分配金や、一部売却した金額を含めて見ます。
金融機関の画面や書面では、「トータルリターン」「投資損益」「運用損益」「累積損益」などの名称で、受け取った分配金を含む損益を表示している場合があります。
| 見る数字 | 注意すること |
|---|---|
| 現在の評価損益 | 受取済みの分配金を含まないことがある |
| 累計分配金 | すべてが運用利益とは限らない |
| 一部売却した金額 | 過去に確定した利益・損失がある |
| トータルリターン | 購入額、評価額、売却額、分配金を含めた見方ができる |
投資信託の分配金には、運用益などから支払われる普通分配金と、投資した元本の一部が払い戻される元本払戻金(特別分配金)があります。元本払戻金は、利益が増えたという意味ではありません。
毎月お金が入っているから順調だと決めず、分配金を含めた全体の損益を見てください。
持ち続けるかは、「購入価格へ戻りそうか」ではなく商品の中身で考えます
相場がいつ戻るかは、誰にも確実には分かりません。
そこで、購入時の価格ではなく、現在保有している理由を確かめます。
| 質問 | 見る内容 |
|---|---|
| 何へ投資する商品ですか | 国内・海外、株式・債券・不動産など |
| どこへ偏っていますか | 特定の国、業種、企業、通貨、テーマ |
| 購入目的は何でしたか | 老後の長期運用、分配金、数年後の支出など |
| その目的は今も同じですか | 退職時期、収入、家族状況が変わっていないか |
| どの程度の値動きがありますか | 過去の最大下落だけでなく、資産構成やリスク |
| 保有中の費用はいくらですか | 信託報酬やその他の費用 |
投資信託の交付目論見書では、主な投資先、運用方針、リスク、過去の運用実績、購入時や保有中の費用などを確かめられます。購入後は、運用報告書で実際の投資先や運用状況も見られます。
商品を複数持っていても、同じ方向へ偏っていることがあります
三つの投資信託を持っているから、十分に分散できているとは限りません。
商品名が違っていても、いずれも同じ国の大型企業や、似た業種を多く組み入れている場合があります。
商品ごとに並べたい項目
| 商品名 | 主な資産 | 主な地域 | 上位業種・銘柄 | 信託報酬等 |
|---|---|---|---|---|
| 商品A | ||||
| 商品B | ||||
| 商品C |
一つの国や資産だけに投資するより、値動きが異なる複数の資産へ分散することで、価格変動をある程度抑えることが期待できます。ただし、分散しても元本割れがなくなるわけではありません。
含み損の大きさだけでなく、家計全体が一つの市場へ寄りすぎていないかを見ます。
手数料は、値下がりしている期間も差し引かれます
投資信託では、商品によって購入時、保有中、売却・解約時に費用がかかります。
| 主な費用 | 見方 |
|---|---|
| 購入時手数料 | 購入時に販売会社へ支払う場合がある |
| 信託報酬 | 保有中、投資信託の資産から継続的に差し引かれる |
| その他の運用費用 | 監査費用や売買費用などが生じる場合がある |
| 信託財産留保額等 | 売却・解約時に差し引かれる商品がある |
費用が高い商品は必ず悪く、低い商品は必ずよいとは限りません。
ただし、どのような運用に対して、いくら費用を負担しているのかを説明できない場合は、目論見書の「手続・手数料等」を読み直します。投資信託の費用は商品ごとに異なります。
「持つ・売る」の二択ではなく、五つの選択肢があります
| 選択肢 | 変わること | 考えやすい状況 |
|---|---|---|
| 保有と積立を続ける | 今後も同じ商品を定期購入する | 余裕資金で、目的と商品が合っている |
| 積立額を減らす | 追加投資を小さくして現金を増やす | 商品は持ちたいが、家計の余裕が減った |
| 積立だけ停止する | 新規購入を止め、現在の商品は保有する | 落ち着いて調べる時間が必要 |
| 一部を売却する | 必要額や偏りの大きい部分だけ現金化する | 近く使うお金や生活防衛資金が不足している |
| 全額売却する | 値動きの影響をなくし、損益を確定する | 商品が目的に合わず、今後も保有したくない |
不安が強いときは、まず積立を止め、これ以上資金を増やさずに考える方法があります。
積立設定の停止と、保有中の商品の売却は別の操作です。
「積立を止めたら今までの投資も全部売らなければならない」と考える必要はありません。
買い増しは、「平均購入価格を下げたい」だけで決めない
値下がりした商品を追加購入すると、平均購入価格が下がる場合があります。
ただし、平均価格が下がることと、今後値上がりすることは別です。
買い増す前に答えたい質問
- 含み損がなかったとしても、今日この商品を買いたいか
- 追加するお金は、長期間使わない余裕資金か
- さらに30%下がっても生活費へ影響しないか
- この商品への偏りがさらに大きくならないか
- 損を早く取り戻したい気持ちだけで決めていないか
- 現金を増やす選択と比べたか
「安くなったから」という理由だけで追加すると、下落している商品へ家計資金が集中することがあります。
買い増す場合も、当初決めた資産配分と現在の生活状況から判断します。
現在の現金で、同じ商品をもう一度買いたいか考えます
含み損がある商品を売ると、「自分の失敗を認めるようでつらい」と感じることがあります。
しかし、購入時の価格はすでに過去の数字です。
判断に迷ったら、次のように考えます。
「今この投資信託を持っておらず、現在の評価額と同じ現金が手元にあったら、同じ商品を同じ金額だけ買うだろうか」
| 答え | 次に見ること |
|---|---|
| 今でも買いたい | 使う時期、投資割合、費用が家計に合っているか |
| 一部なら買いたい | 偏りを減らすため一部売却するか |
| 今なら買わない | 購入価格へ戻るのを待つ理由だけで持っていないか |
| 商品が分からず答えられない | 積立を止め、目論見書と運用報告書を読む |
別の商品へ乗り換える場合も、商品名や最近の上昇率だけでなく、投資先、値動き、費用、使う時期との相性を並べます。
NISAの含み損は、売却してもほかの利益と相殺できません
NISA口座の商品を損失が出た状態で売却した場合、その損失は税務上なかったものとみなされます。
そのため、特定口座や一般口座で生じた譲渡益や配当等との損益通算、翌年以降への繰越控除はできません。
| 口座 | 売却損の主な扱い |
|---|---|
| NISA口座 | ほかの口座の利益との損益通算や繰越控除はできない |
| 特定口座・一般口座 | 一定の上場株式等の損失は、要件を満たして確定申告をすると、対象となる利益や配当等との通算や最長3年間の繰越控除が可能な場合がある |
課税口座での損益通算や繰越控除には、対象となる取引や確定申告などの条件があります。繰越控除を続けるには、取引がない年も含め、所定の申告が必要となる場合があります。
税金だけで保有や売却を決めず、口座区分と家計への必要性を分けて考えてください。
含み損が気になって眠れないなら、金額が自分の許容範囲を超えています
「長期投資なのだから気にしない」と自分へ言い聞かせても、毎日口座を見てしまうことがあります。
その状態は、知識が足りないからだけではありません。
投資額や値動きが、自分が落ち着いて持てる範囲を超えている可能性があります。
金額を小さくするサイン
- 夜中に何度も口座を確認する
- 相場が下がると家族へ強く当たる
- 仕事や家事へ集中できない
- 生活費まで追加投資へ回したくなる
- 損失を取り戻すため別の商品へ次々乗り換える
- 含み損を家族へ隠し続けている
一部売却や積立額の減額は、投資に負けたという意味ではありません。
生活と気持ちを守れる大きさへ戻すための調整です。
画面を見る日を決め、値動きではなく割合を見ます
長期で保有するつもりの商品でも、毎日見れば一日の上下が大きな出来事に感じられます。
見る回数を減らす方法
- 口座を見る日を月1回や3か月に1回と決める
- 価格変動の通知を止める
- SNSの短期的な相場予想を追い続けない
- 商品単体ではなく、預貯金を含む家計全体の割合を見る
- 退職や介護など生活変化が起きたときに臨時で見直す
値動きで崩れた資産配分を元の割合へ近づけることをリバランスといいます。一定期間ごと、または最初に決めた割合から一定以上ずれたときに行う考え方がありますが、常に運用結果を良くするとは限りません。
見ないことと、放置することは違います。
年に一度など日を決め、目論見書や運用報告書、生活費、使う時期を一緒に見直します。
配偶者から「すぐ全部売って」と言われたときの話し方
含み損を伝えた途端、家族から強く売却を求められることがあります。
反対に、「長期なら絶対に戻る」と持ち続けるよう言われることもあります。
どちらも、商品の中身と使う時期を見ないままでは決められません。
最初に共有する数字
- 購入した合計額
- 現在の評価額
- これまで受け取った分配金
- 投資とは別にある預貯金
- このお金を使う予定時期
本人からの伝え方
「今30万円の含み損がある。全部売るかどうかを今日決めるのではなく、退職後2年分の生活費が現金で残っているか一緒に見てほしい」
「追加購入はいったん止める。そのうえで、商品の中身と手数料を調べてから、一部を売るか考えたい」
家族からの伝え方
「損を出したことを責めたいわけではないよ。このお金をいつ使う予定だったのか、まず一緒に分けよう」
「全部売る前に、半年以内に必要な生活費だけ現金へ戻す方法も比べてみない?」
本人に無断でログインしたり、暗証番号を聞き出して売却したりしないでください。
購入した金融機関へは、「上がりますか」ではなく事実を聞きます
今後上がるか下がるかを、金融機関も確実には答えられません。
代わりに、商品と契約について質問します。
窓口へ持っていく質問
- この商品の主な投資先はどこですか
- 現在の値下がりへ影響している主な要因は何ですか
- 同じ分類の商品や連動対象と比べた推移はどうですか
- 保有中に差し引かれる費用はいくらですか
- 受け取った分配金に元本払戻金は含まれていますか
- 一部売却はできますか
- 売却注文から入金まで何営業日かかりますか
- 現在の口座区分はNISA・特定口座・一般口座のどれですか
別の商品を提案された場合は、その場で乗り換えず、現在の商品との投資先・リスク・費用の比較資料を持ち帰ります。
商品を売る話より、家計全体を見てほしいとき
販売した金融機関とは別の立場で、生活費、退職時期、預貯金、投資割合を整理したい場合があります。
J-FLECでは、家計管理や生活設計、NISAなどの資産形成、金融商品・サービスに関する無料相談を提供しています。無料体験では個別商品の提案や推奨を行わないと案内されています。
金融機関から受けた説明や勧誘、契約対応に疑問がある場合は、金融庁の金融サービス利用者相談室で、制度や論点に関する一般的な案内を受けられます。個別の紛争を仲介・解決する窓口ではない点には注意が必要です。
相談時に持っていきたいもの
- 最新の残高報告書
- 購入時の交付目論見書
- 直近の運用報告書
- 分配金と売却の履歴
- 特定口座年間取引報告書
- 預貯金と毎月の生活費
- 退職予定と年金の見込み
- このお金を使う時期
「売るべきですか」と結論だけを求めるより、「この投資額が退職後の生活費に対して大きすぎないか」と聞く方が、暮らしに沿った検討ができます。
今日するのは、売却注文でも買い増しでもありません
今日は、含み損が最も気になる投資信託を一つだけ選んでください。
そして、次の五つを書きます。
| 今日書くこと | 自分の状況 |
|---|---|
| 購入額と現在の評価額 | |
| このお金を使う時期 | |
| 投資とは別に残っている預貯金 | |
| 投資先の資産・地域・業種 | |
| さらに30%下がった場合、生活へ影響するか |
使う時期が近く、値下がりすると生活費が足りないなら、必要額を現金へ戻すことを考えます。
当面使わず、商品内容も目的に合っているなら、毎日の値動きで売買せず、次に見直す日を決めます。
中身や費用を説明できないなら、積立をいったん止め、資料を読みます。
含み損は、投資を始めた自分が間違っていたという判定ではありません。
同時に、我慢して持ち続ければ必ず報われるという約束でもありません。
50代では、損を取り戻す速さより、退職後の生活費を守りながら判断できる状態を作る方が先です。
全部売るか、何もしないかではなく、積立を止める、一部を現金へ戻す、偏りを減らす、見る日を決める。
今日の五つを書ければ、赤い数字に追われる状態から、自分の暮らしを基準に選ぶ状態へ少し戻れます。
出典・確認先メモ
- 金融庁「資産形成の基本」:家計管理、生活設計、貯蓄と投資の使い分け、元本割れ、長期・積立・分散投資に関する確認先。
- J-FLEC「投資信託の目論見書を見るポイント」:投資先、リスク、運用実績、費用、運用報告書に関する確認先。
- J-FLEC「普通分配金と特別分配金の違い」「トータルリターンの通知制度」:分配金を含む損益と元本払戻金に関する確認先。
- 国税庁「NISA制度」:NISA口座の損失を損益通算・繰越控除できないことに関する確認先。
- 国税庁「上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」:課税口座の一定の損失に関する申告手続の確認先。
- J-FLEC「専門家に相談したい」・金融庁「金融サービス利用者相談室」:家計・資産形成と金融機関対応に関する相談先。


















