送迎車が家の前へ着いた途端、父が上着を脱いで奥の部屋へ戻ってしまう。
「今日は行かない」
職員さんを待たせている。こちらは仕事へ出なければならない。昨日までは「行ってみてもいい」と話していたのに、何を言っても首を横に振ります。
つい声が強くなることがあります。
「家にいても何もしないでしょう」
「みんな心配しているの」
「一回くらい行ってくれてもいいじゃない」
親御さんのために勧めている気持ちは本当です。同時に、その数時間だけでも介護から離れたい、仕事や家事を片づけたいという気持ちもあるでしょう。
それでも拒まれると、こちらの苦労を分かってもらえないように感じます。
ただ、親御さんが拒否しているものは、デイサービスという制度そのものとは限りません。
一日中知らない場所にいること、集団で体操すること、入浴を手伝われること、迎えの車へ乗ることなど、嫌なのは一部分かもしれません。
「行きたくない」の中身を、一つずつ分けます
親御さんへ「なぜ嫌なの」と聞いても、「嫌なものは嫌だ」「必要ない」としか返ってこないことがあります。
理由をうまく説明できないからといって、わがままとは限りません。本人の中では、次のような抵抗が重なっている可能性があります。
| 親御さんが感じていること | 表に出やすい言葉 | 見直せること |
|---|---|---|
| 介護される人として扱われたくない | 「年寄りの行く所だ」「まだ世話はいらない」 | 本人が続けたい運動、入浴、趣味など具体的な目的から提案する |
| 知らない人の中で過ごすのがつらい | 「話す人がいない」「人が多くて疲れる」 | 少人数の事業所、静かな席、短い利用時間を検討する |
| 集団活動が合わない | 「子どもみたいなことはしたくない」 | 個別活動、機能訓練、囲碁、園芸など本人の好みに合う所を探す |
| 入浴や排泄の介助が恥ずかしい | 「風呂は家で入る」「人に触られたくない」 | 初回は入浴なしにする、同性介助の希望を伝える |
| 送迎や長時間利用が負担 | 「朝が早い」「帰るまでが長すぎる」 | 送迎時刻、利用時間、半日型などをケアマネジャーへ尋ねる |
| 体調が悪い | 「今日はだるい」「腰が痛い」 | 睡眠、便秘、痛み、薬の影響などを確かめる |
| 以前の利用で嫌なことがあった | 「もうあそこには行かない」 | 職員の対応、席、活動、利用者同士の出来事を聞く |
理由が分からないまま「楽しいところだから」と繰り返しても、親御さんが心配している部分には届きません。
「何があれば行けるか」ではなく、まず「どの場面が一番嫌だったか」を聞きます。
「お風呂が嫌だった? それとも一日いるのが長かった?」
「人が多いことと、送迎車に乗ることなら、どちらがつらい?」
二つほどの具体的な選択肢にすると、本人も答えやすくなります。
初めて勧めるときは、「介護のため」より一日の内容を伝えます
家族から「介護が必要だから行って」と言われると、親御さんには、できないことを指摘されたように聞こえる場合があります。
通所介護、いわゆるデイサービスでは、食事や入浴などの日常生活上の支援、機能訓練、交流などが提供されます。ただし、内容や雰囲気は事業所によってかなり違います。
制度名だけで勧めず、本人に関係する内容を伝えてください。
「足が弱らないように、午前中だけ運動できる所を見に行かない?」
「家のお風呂は滑りやすいから、広い浴室を一度見せてもらおう」
「将棋をする人がいるそうだから、見学だけして合わなければ帰ろう」
「昼ごはんを食べて、三時には帰れる所があるみたい」
実際に提供されない内容を、受け入れてもらうためだけに伝えてはいけません。
「病院へ行く」と言って車へ乗せ、着いた先がデイサービスだったという進め方は、その日は利用できても、次から家族や送迎職員を警戒する原因になります。
名称を言い換えてごまかすのではなく、「どこで、何をして、何時に帰るのか」を短く伝えます。
「ずっと通うか」ではなく、一回の見学に話を小さくします
親御さんが嫌がっているときに、「毎週二回通おう」と話せば、生活を急に変えられるように感じるでしょう。
最初は、決める範囲を小さくします。
「通うかはまだ決めない。建物を見て、職員さんと十分話したら帰ろう」
「一回だけ行って、嫌だったところを帰ってから教えて」
事業所によっては、見学や体験的な利用に対応している場合があります。実施内容、費用、送迎、食事の有無は異なるため、ケアマネジャーや事業所へ事前に尋ねてください。
見学の日は、本人が疲れにくい時間を選びます。
午後になると疲れて機嫌が悪くなる方なら午前中。朝の動き出しに時間がかかる方なら、早い時間を避けます。
見学で見るのは、建物の新しさだけではありません。
- 職員が利用者へどのような言葉で話しているか
- 一人で静かに過ごせる場所があるか
- 参加したくない活動を断れるか
- トイレや浴室で、どのようにプライバシーを守るか
- 本人の好きな活動があるか
- 送迎時間や利用時間を調整できるか
本人へも、帰宅後すぐ「楽しかったでしょう」と答えを誘導せずに尋ねます。
「一番嫌だったのは何だった?」
「次に行くなら、変えてほしいことはある?」
デイサービスなら、どこでも同じではありません
一か所を嫌がったからといって、すべての通所サービスが合わないとは限りません。
事業所には、それぞれ特徴があります。
食事・入浴・日中の介護を中心とする通所介護
一日を通して過ごし、食事、入浴、機能訓練などを受ける一般的なデイサービスです。
家で一人になる時間が長い方や、入浴の介助が必要な方、ご家族の介護負担を軽くしたい場合に候補となります。
運動やリハビリを中心とする通所サービス
体を動かすことに関心がある方は、「介護施設」よりも運動の場として受け入れやすい場合があります。
通所リハビリテーションは、医師の指示などのもとで、介護老人保健施設、病院、診療所などに通い、リハビリテーションを受けるサービスです。本人の状態や希望によって利用できるサービスが異なります。
認知症対応型通所介護
認知症の方を対象に、専門的なケアを行う通所サービスです。
一般的なデイサービスでは、人の多さや活動の進み方についていけず落ち着かない方でも、少人数で環境が合えば過ごしやすくなる場合があります。地域密着型サービスのため、原則として住民票のある市区町村内の事業所を利用します。
短時間型・小規模型の事業所
一日利用が長く感じる方には、短い時間で運動などを行う事業所や、少人数で過ごす事業所が合うことがあります。
ただし、入浴や食事を提供していない場合もあります。本人に必要な支援と、事業所の内容が合っているかを見てください。
「家から近い」「空きがある」だけで決めず、親御さんが嫌がった理由に対応できる場所かをケアマネジャーへ伝えます。
初回利用は、全部参加させる日ではありません
初日に、入浴、体操、昼食、レクリエーションをすべて経験してもらおうとすると、親御さんには負担が大きすぎることがあります。
最初は、成功させる条件を少なくします。
- 利用時間を短くできるか聞く
- 嫌がっている入浴は初回に入れない
- 集団活動への参加を強制しないよう頼む
- 職員から本人の仕事や趣味の話をしてもらう
- 落ち着ける席を用意できるか聞く
- いつも使う杖、上着、眼鏡などを忘れない
- 帰宅時刻を本人へ繰り返し伝えてもらう
認知症がある方は、慣れない場所で「いつ帰れるのか」「家族に置いていかれたのか」が分からず、不安が強くなることがあります。
事前に、職員へ本人の情報を渡してください。
「元大工で、道具や建物の話が好きです」
「大人数の歌は嫌がりますが、将棋は好きです」
「帰宅時刻を何度も聞きます。『三時に娘さんが待っています』と伝えると落ち着きます」
病名や介助量だけでなく、本人が話しやすいこと、苦手なこと、落ち着く言葉まで共有すると、初日の対応が変わります。
送迎車が来てから拒否したときは、玄関で説得を続けません
送迎当日の拒否は、ご家族にも職員にも焦りが出ます。
複数人で囲み、「せっかく来てもらったのだから」と説得すると、本人は逃げ場を失ったように感じます。
まず、その日の体調を見ます。
- 眠れていたか
- 発熱や痛みがないか
- 便秘や下痢がないか
- 食事や水分を取れているか
- 薬を変更していないか
- 前回の利用後に強い疲れがなかったか
体調不良なら、無理に行かせず、事業所へ状況を伝えます。
体調に問題がなくても強く拒む場合は、送迎職員と短時間話してもらい、それでも難しければ、その日は中止する判断もあります。
「今日は行かないことにする。ただ、何が嫌だったかは後で教えてほしい」
一回休んだことを失敗と考える必要はありません。
ただし、家族が仕事へ行けないなど生活に直接影響する場合は、「また次回」と繰り返すだけでは続きません。ケアマネジャーへ当日の状況を伝え、時間、曜日、送迎担当、事業所そのものを変えられないか検討します。
帰宅後の「もう行かない」は、疲れだけで出ることもあります
利用後、親御さんが「二度と行かない」と言うことがあります。
その場で次回の約束を取ろうとせず、食事や休息を優先します。
翌日など、落ち着いた時間に聞きます。
「人が多かったのと、時間が長かったのでは、どちらが嫌だった?」
「職員さんにされて嫌だったことはあった?」
「お風呂なしなら、もう一度行けそう?」
事業所からも、利用中の様子を聞いてください。
本人は「何もしていない」と話していても、実際には食事を取り、職員と会話をし、穏やかに過ごしていた場合があります。一方、表面上は問題なく見えても、活動を断れず疲れ切っていた可能性もあります。
本人と事業所のどちらか一方だけを正しいとせず、利用中と帰宅後の両方を見ます。
家族が休むために利用することも、後ろめたいことではありません
通所介護には、本人の生活機能を維持するだけでなく、社会的な孤立を減らし、家族の介護負担を軽くする目的もあります。
それでも、親御さんへ「私が大変だから行って」と言うことに罪悪感を持つご家族は少なくありません。
逆に、介護者の都合を一切隠し、「全部あなたのため」と伝え続けると、親御さんも納得できないことがあります。
責める言い方を避けながら、家庭の事情を伝えて構いません。
「水曜日は仕事で家にいられない。お昼とお風呂を手伝ってもらえる所があると、家での生活を続けやすい」
「私も休む時間が必要だけれど、家から出したいわけではない。二人とも続けられる方法を探したい」
親御さんの希望だけでなく、支える家族の生活も、ケアプランに関わる事実です。
「行かないなら家で見る」以外の方法もあります
デイサービスを拒否されたからといって、家族だけで介護するしかないわけではありません。
嫌がっている理由によっては、次の支援が合うことがあります。
- 自宅へ来てもらう訪問介護
- 自宅での入浴が難しい場合の訪問入浴介護
- 医療的な管理が必要な場合の訪問看護
- 自宅で行う訪問リハビリテーション
- 短期間宿泊するショートステイ
- 地域の通いの場や介護予防活動
人が集まる場所そのものが苦手な方に、別のデイサービスを次々勧めても、同じ拒否が続くかもしれません。
「入浴を安全に行いたい」「家族が週一回休みたい」「昼間の服薬を見てほしい」など、必要な役割へ戻って考えます。
嫌がり方が急に強くなった場合は、サービス以前に体調を見ます
以前は通えていたのに、数日間で急に強く拒むようになった。怒り方が激しくなり、会話もかみ合わない。
この場合は、単に気が変わったとは限りません。
痛み、発熱、脱水、便秘、睡眠不足、薬の影響などにより、普段と違う混乱や拒否が出ることがあります。
急な変化があれば、事業所やケアマネジャーだけでなく、かかりつけ医へも伝えてください。
意識がもうろうとしている、呼吸が苦しい、突然ろれつが回らない、片側の手足に力が入らないなどの症状がある場合は、デイサービスへ行くかではなく、119番を含む救急対応を優先します。
また、親御さんが物を投げる、家族を殴ろうとするなど、けがの危険がある状態では、一人で送迎車へ乗せようとしないでください。距離を取り、身の危険が迫る場合は110番、けがや急病は119番へ連絡します。
拒否が三回続いたら、説得ではなく利用計画を変えます
毎回同じ時間に、同じ言葉で勧め、同じように拒否されているなら、親御さんの気持ちだけの問題ではありません。
利用条件が合っていない可能性があります。
次の順番で見直します。
1.拒否した場面を一件ずつ残す
「いつも嫌がる」ではなく、日時、直前の様子、本人の言葉、利用後の疲れを記録します。
「火曜日午前8時半。送迎車が見えると『風呂には入らない』と言って奥の部屋へ移動。前回は入浴後に疲れて夕食を取らなかった」
2.ケアマネジャーへ、変えてほしい条件を伝える
「利用を続けさせる方法ではなく、入浴なし、短時間、別の事業所を含めて組み直したいです」
3.一つだけ条件を変えて試す
曜日、利用時間、入浴、活動、送迎職員などを一度に全部変えると、何が合ったのか分かりません。
最も嫌がっている条件を一つ外します。
4.本人の様子と家族の負担を一緒に振り返る
利用中に落ち着いていたかだけでなく、帰宅後の疲れ、翌日の体調、ご家族が介護を続けやすくなったかも見ます。
ケアプランは、一度作ったら変えられないものではありません。本人の状態や希望、家族の状況に合わせて、ケアマネジャーと見直します。
利用条件と費用は、要介護度や地域で異なります
介護保険の通所介護は、一般に要介護1から5の認定を受けた方が対象です。要支援の方は、市区町村が行う介護予防・日常生活支援総合事業など、別の枠組みで通所型サービスを利用する場合があります。
サービスを利用する際は、本人の状態や希望に応じたケアプランを作り、事業所と契約します。
利用者の負担額は、要介護度、利用時間、地域区分、所得による負担割合、事業所の加算などで変わります。食費、おむつ代、行事費などが別途必要になる場合もあります。
費用については、ケアマネジャーや事業所へ次のように尋ねてください。
「週一回利用した場合、介護保険の自己負担と食費などを合わせて、月にいくらほどになりますか」
「欠席や当日キャンセルの場合に、食費やキャンセル料はかかりますか」
「入浴を外した場合、費用と利用内容はどう変わりますか」
親御さんが契約前でも、家族だけで状況を伝えられます
親御さんがデイサービスという言葉を聞くだけで拒否する場合、本人を無理に窓口へ連れて行く必要はありません。
既にケアマネジャーがいるなら、家族だけで拒否の様子を伝えられます。
介護認定を受けていない、担当者がいない場合は、親御さんが住む地域の地域包括支援センターへ連絡してください。
「母がデイサービスを強く嫌がります。入浴と日中の見守りが必要ですが、集団活動が嫌なようです。本人を説得する前に、利用方法や別の支援を家族だけで聞きたいです」
地域包括支援センターへ話したからといって、利用契約や介護認定が自動的に始まるわけではありません。
現在の困りごとを伝え、どの制度やサービスが合いそうかを聞く場所です。要支援の方が利用できる地域の通所型サービスなど、自治体独自の情報も確かめられます。
今は、親御さんが嫌がった一場面だけを伝えます
今夜、もう一度親御さんを説得する必要はありません。
ケアマネジャーへ、次の形で一文送ってください。
「送迎車が来たとき、『お風呂に入りたくない』と言って利用を拒否しました。入浴なし、短時間、別の事業所を含めて調整できる方法を教えてください」
「デイサービスを嫌がる」という大きな問題ではなく、嫌がった場面を一つ伝えます。
親御さんに合う場所が見つからないこともあります。今は通所より訪問の方が合う場合もあるでしょう。
目的は、何としてもデイサービスへ通わせることではありません。
親御さんの生活を守り、ご家族も介護を続けられる形を作ることです。そのために条件を変える、場所を変える、通う方法そのものを変える。次の一手は、一つではありません。















