洗濯物を持って二階へ上がり、途中で一度立ち止まる。
少し前までは何でもなかった階段なのに、最近は手すりを握る力が強くなっています。夜中にトイレへ行くときは足元が見えにくく、最後の一段でひやりとすることもある。
「この家で、あと何年暮らせるのだろう」
そう思っても、すぐに引っ越せるわけではありません。住宅ローンは終わっていても、修繕費や引っ越し費用は気になります。庭にも仏壇にも、近所付き合いにも長い年月があります。
子どもから「危ないから住み替えた方がいい」と言われると、心配してくれていることは分かる。それでも、自分の生活を取り上げられるように感じる場合があります。
一方、家族の側は、親御さんが階段から落ちるのではないかと気が気ではありません。
この問題では、住み続ける側と心配する側のどちらかが間違っているわけではありません。先に決めるのは「この家を手放すか」ではなく、階段を使う回数を減らし、転んでもおかしくない状態を放置しないことです。
住み替えを考える前に、七日間だけ「1階中心の生活」を試します
階段がつらくなったとき、最初から大がかりなリフォームを考える必要はありません。
まず、階段を使っている理由を一つずつ減らします。
寝室、衣類、薬、電話の充電器、よく使う書類、掃除道具などを一階へ移し、七日間だけ一階中心で過ごしてみてください。
完全に生活を移す必要はありません。目的は、「二階を使わないと何が困るか」を確かめることです。
- 寝室を一階へ移せるか
- 一階にトイレがあるか
- 着替えや薬を一階へ置けるか
- 洗濯から物干しまでを同じ階で済ませられるか
- 二階に残さなければならない物は何か
- 家族が来たときだけ二階を使う形にできるか
七日間試して不便が少なければ、今の家で暮らし続ける方法が見えてきます。
反対に、浴室やトイレが二階にしかない、一階に寝室を作れない、玄関までにも急な段差がある場合は、家具の移動だけでは足りません。部分的な改修や住み替えを比べる段階です。
階段そのものを直す前に、階段を何のために使っているかを減らします。上り下りが一日十回から二回になるだけでも、疲労と転倒の機会は大きく変わります。
「年齢のせい」で済ませず、身体の変化と家の問題を分けます
階段がつらい理由は、家の構造だけとは限りません。
膝や腰の痛み、筋力の低下、薬によるふらつき、視力の変化、息切れなどが重なっていることがあります。
以前より急につらくなった場合や、平らな場所でも歩きにくくなっている場合は、住宅改修だけで解決しようとしない方がよいでしょう。
| 今の状態 | 先に行うこと |
|---|---|
| 階段は上れるが、荷物を持つと疲れる | 荷物を上下させない配置に変え、階段の安全対策を行う |
| 手すりがないと上れない、最後の一段でふらつく | 一人での使用を減らし、手すりや照明を早めに見直す |
| 最近転んだ、何度も足を踏み外している | 階段を使わない生活へ一時的に切り替え、医療機関や介護の窓口へ状態を伝える |
| 急な息切れ、胸の苦しさ、強い痛み、片側の手足の動かしにくさがある | 住まいの検討ではなく、医療機関への連絡を優先する。緊急性が高い場合は119番を利用する |
| 転落して頭を打った、立てない、意識の様子がおかしい | 無理に起こしたり歩かせたりせず、119番へ連絡する |
「まだ上れるから問題ない」と考える方もいます。
しかし、階段は一度上れたかどうかではなく、疲れている日、夜間、荷物を持っているときにも安全に使えるかで見ます。
家族が気づいた場合は、「年だから危ない」と決めつけるより、具体的な出来事を伝えた方が話しやすくなります。
「昨日、最後の一段で足が止まっていたのが気になりました。引っ越しを決めたいわけではなく、まず上り下りを減らしたいです」
階段は、手すりを付けるだけでは安全にならないことがあります
階段の転倒対策では、手すりがよく挙げられます。
ただし、階段の幅、手すりの高さ、利き手、身体の状態によって使いやすい位置は異なります。壁の下地が弱い場所へ簡単に取り付けると、体重をかけたときに外れる危険もあります。
手すりと合わせて、次の部分を見直します。
- 階段の上と下に照明のスイッチがあるか
- 夜間も最初と最後の段が見えるか
- 電球が暗すぎたり、影が強く出たりしていないか
- 階段に新聞、箱、衣類などが置かれていないか
- 敷物や滑り止めがめくれていないか
- 靴下やスリッパで滑りやすくなっていないか
- 両手で抱える荷物が視界を塞いでいないか
- 一段目と最終段を見分けられるか
荷物を運ぶときは、片手で手すりを持てる量にします。洗濯かごや掃除機を抱えて階段を使っているなら、各階へ道具を分けて置く方が安全です。
照明は、工事を伴わない人感センサー式の製品でも補える場合があります。ただし、途中で消灯しないこと、階段全体を照らせることを確かめてください。
滑り止めは、浮きや剥がれが新たなつまずきの原因にならないよう、階段に合った物を選びます。
今の家で暮らし続ける方法を、費用の小さい順に比べます
階段の負担を減らす方法は、手すりか引っ越しかの二択ではありません。
| 選択肢 | 向いている状態 | 先に確かめること |
|---|---|---|
| 家具と生活用品を一階へ移す | 一階にトイレと生活できる部屋がある | 寝室、収納、洗濯、冷暖房を一階で完結できるか |
| 照明・滑り止め・手すりを整える | 階段を使う力はあるが、暗さやふらつきが心配 | 本人の動きに合う位置と、壁の強度 |
| 水回りや寝室を一階へ移す | 長く住み続けたいが、一階だけでは生活が完結しない | 工事費、構造、配管、断熱、工事中の居場所 |
| 階段昇降機などを設置する | 階段を自力で上り下りするのは難しいが、上下階を使う必要がある | 階段幅、曲がり、乗り降りする場所、停電時の対応、保守費用 |
| 平屋・集合住宅などへ住み替える | 家全体の管理、買い物、通院、庭の手入れも負担になっている | 売却・賃貸の見込み、住居費、周辺環境、家族との距離 |
階段だけを直しても、玄関、浴室、トイレ、買い物や通院が大きな負担なら、問題の一部しか変わりません。
住み続けるための工事を考えるときは、「二階へ上れる家」ではなく、体調が悪い日にも一階で生活が止まらない家を目標にします。
住宅改修は、工事業者を呼ぶ前に生活動作を見てもらいます
リフォーム会社へ「階段に手すりを付けたい」と頼めば、工事そのものの提案は受けられます。
ただ、手すりをどちら側に付けるか、どの高さなら使えるか、階段以外に危険な場所がないかは、身体の動きと一緒に見た方が安全です。
すでにケアマネジャーがいる場合は、次のように伝えます。
「階段の上り下りがつらくなり、最後の一段でふらつきます。一階だけで暮らす方法と、手すりなどの住宅改修を一緒に見てほしいです」
ケアマネジャー、理学療法士、作業療法士、福祉用具専門相談員などに実際の動作を見てもらえると、階段だけでなく寝室、トイレ、玄関まで含めて検討しやすくなります。
まだ介護サービスを利用していない場合は、お住まいの地域を担当する地域包括支援センターへ連絡できます。
「介護が必要かは分かりませんが、階段がつらくなり、今の家で安全に暮らせるか考えています。住宅改修や介護予防について、最初に何を確かめればよいですか」
連絡しただけで、介護サービスの利用や住宅工事が決まるわけではありません。身体の状態と住まいの困りごとを伝え、利用できる支援の入口を聞くための連絡です。
介護保険を使う可能性があるなら、工事前の申請を忘れないでください
要支援・要介護認定を受けている方が、生活上必要な住宅改修を行う場合、介護保険の住宅改修費を利用できることがあります。
対象となる改修には、手すりの取り付け、段差の解消、滑りにくい床材への変更、扉や便器の取り替えなどがあります。
支給限度基準額は、原則として一人につき生涯20万円です。その範囲内で、所得に応じて費用の7割から9割が保険給付の対象となります。
ただし、工事代金20万円がすべて支給される制度ではありません。対象外の工事や限度額を超えた部分は自己負担です。
原則として、次の順番で進めます。
- ケアマネジャーなどへ住宅改修の必要性を伝える
- 工事内容と見積もりを決める
- 必要な理由書などをそろえる
- 市区町村へ工事前に申請する
- 自治体の確認後に工事を行う
- 完成後に領収書などを提出する
先に工事を始めると、給付を受けられない可能性があります。
自治体によって申請書類や支払方法が異なるため、契約前に市区町村の介護保険担当へ確認してください。
階段昇降機については、固定工事の費用が住宅改修費の対象になるとは限りません。一方、製品によっては介護保険の福祉用具貸与に含まれる「移動用リフト」として扱われる可能性があります。
機種、設置方法、要介護度、自治体の判断によって異なるため、購入や工事の契約前に、ケアマネジャー、市区町村、福祉用具貸与事業者へ対象範囲を確かめます。
階段昇降機は「乗れればよい」だけでは選べません
階段昇降機には、いすに座って移動するタイプなどがあります。
階段を壊さず設置できる場合もありますが、どの家にも付けられるわけではありません。
見積もりでは、本体価格だけでなく次の点を聞いてください。
- 階段の直線・曲線、幅、勾配に設置できるか
- 上下の乗り降り場所に十分な広さがあるか
- 座る、立つ、ベルトを締める動作ができるか
- 昇降機を使わない家族が階段を通れるか
- 停電時にどこまで動くか
- 定期点検と修理にいくらかかるか
- 身体状態が変わった後も使えるか
- 撤去する場合の費用はいくらか
階段を上り下りできなくても、昇降機へ安全に乗り移れなければ利用は難しくなります。
本人だけでなく、介助する人の動きも含め、実機を試せるなら試乗してから判断します。
住み替えを考える目安は、階段以外の負担が増えているかです
長く住んだ家を離れる判断は、階段が一つつらくなっただけでは決めにくいものです。
次の負担も重なっているなら、改修費と住み替え費用を並べる価値があります。
- 庭、外壁、屋根などの維持管理ができなくなってきた
- 買い物や通院に車が欠かせない
- 一人になった後も広い家を管理している
- 一階に寝室や水回りを作る工事が大きくなる
- 冬の寒さや浴室の温度差も気になる
- 家族が遠方で、緊急時に来られない
- 近所の坂道や玄関までの階段もつらい
住み替える場合は、今の家を売れるかだけでなく、移った後の生活を見ます。
病院、スーパー、公共交通、家族との距離、家賃や管理費、段差、エレベーター、浴室とトイレの使いやすさを確かめてください。
エレベーター付きの集合住宅でも、玄関や浴室に段差があることがあります。内見時には、元気な日の目線だけでなく、杖を使う日や荷物を持つ日を想像して歩きます。
「今はまだ引っ越さない」と決めても構いません。
ただし、転倒や入院の直後に急いで探すより、体力があり、本人が物件を見られるうちに候補だけ見ておく方が選択肢は広がります。
親御さんが住み替えを拒むときは、家を手放す話から始めません
子ども世代から見れば危険な階段でも、本人にとっては毎日の暮らしそのものです。
「危ないから引っ越して」と言われると、家だけでなく、自分で生活を決める権利まで失うように感じることがあります。
最初の話題を、売却や施設にしない方が進みやすくなります。
「家を手放す話ではありません。まず一週間、二階へ上らなくても暮らせる形を試しませんか」
「どこまで直せば、この家に住み続けられるかを一緒に見たいです」
本人が嫌がる理由も分けます。
- 引っ越し費用が心配
- 近所や友人と離れたくない
- 仏壇や荷物を動かしたくない
- 子どもに家を取られるように感じる
- まだ自分は大丈夫だと思っている
- 知らない人に家の中を見られたくない
理由が費用なら試算が必要です。人間関係なら近居という方法があります。荷物が問題なら、住み替えと片付けを同じ日に決める必要はありません。
「住み続けるか、出ていくか」の二択にしないことで、話せる部分が増えていきます。
今夜は、階段を使う理由を一つだけ一階へ移します
今夜、家の将来を決める必要はありません。
まず、階段を上る目的を一つ選んでください。
二階へ薬を取りに行っているなら薬を一階へ。着替えのためなら一週間分の衣類を一階へ。充電器のためなら予備を置きます。
そのうえで、階段を上から一枚、下から一枚撮影してください。
写真を見ると、暗い場所、手すりの切れ目、置いたままの荷物、滑り止めの剥がれなど、使っている本人には見慣れてしまった危険が見つかることがあります。
一つ移して、一つ写す。
それで今夜の作業は終わりです。
今の家に残るか、改修するか、住み替えるかは、その後に考えられます。先に階段を使う回数を減らせば、大きな決断を急がずに、安全を少し前へ進められます。


















