冷蔵庫を開けると、食べ物はあるのに食事になる物が少ない
久しぶりに実家へ行き、冷蔵庫を開けてみる。
奥には賞味期限の切れた豆腐があり、手前には同じ種類の菓子パンがいくつも並んでいる。野菜室はほとんど空で、牛乳も卵もありません。
「買い物はどうしているの」と聞くと、親は「近くの店へ行っている」「別に困っていない」と答えます。
けれど、以前なら歩いて十分だったスーパーまで、今は途中で何度も休んでいる。雨の日は外へ出ず、重い米や飲み物は何週間も買っていないようです。
離れて暮らす子どもには、別の心配も浮かびます。
「食事をきちんと取れているのだろうか」
「転びそうになっても、無理に買い物へ行くのではないか」
「毎週こちらが買って届ける生活を、いつまで続けられるだろう」
「宅配を頼んでも、注文や受け取りができるのだろうか」
親のために宅配を申し込めば解決するように思えますが、実際には、商品を選ぶ、注文する、支払う、荷物を受け取る、冷蔵庫へしまう、調理するという作業が残ります。
どこで困っているのかを見ないままサービスだけ増やすと、届いた食品を使い切れなかったり、親が「勝手に決められた」と感じたりすることがあります。
「買い物に行けない」を六つに分けると、必要な手助けが見えてきます
同じようにスーパーへ行けない状態でも、困っている場所は人によって違います。
| 困っていること | 親の様子 | 考えられる支え方 |
|---|---|---|
| 店まで移動できない | 長く歩けない、坂道や横断歩道が怖い | 宅配、移動販売、送迎、買い物同行 |
| 荷物を持てない | 店へは行けるが、米や飲料を運べない | 重い物だけ宅配、店からの配送 |
| 商品を選べない | 文字が見えにくい、似た商品を間違える | 家族と注文表を作る、電話・紙注文を使う |
| 注文操作が難しい | パスワードやスマートフォン操作で止まる | 電話注文、カタログ注文、家族による注文補助 |
| 受け取りが難しい | 呼び鈴が聞こえない、配達時間を忘れる | 定期曜日の配送、置き配条件の調整、家族への通知 |
| 届いても食べられない | 調理ができない、食材を傷ませる | 調理済みの配食、調理支援、食生活全体の見直し |
たとえば、親がスーパーへ行くこと自体を楽しみにしており、重い荷物だけが負担なら、買い物をすべて宅配へ変える必要はありません。
米、飲料、洗剤などを届けてもらい、野菜や総菜は本人が店で選ぶ形でもよいでしょう。
反対に、店まで行けても、同じ食品ばかり買う、会計で混乱する、帰り道が分からなくなるなどの変化がある場合は、荷物運びだけの問題ではありません。
宅配・配食・移動販売・買い物代行は、できることが違います
サービス名だけでは、親の困り事に合うか判断できません。
| 方法 | 向いている状態 | よいところ | 気をつけたいところ |
|---|---|---|---|
| ネットスーパー | 欲しい食品を自分または家族が選べる | 生鮮品から日用品まで、必要な日に頼みやすい | 配送料、最低注文額、配達地域、欠品時の代替品を確認する |
| 生協などの定期宅配 | 毎週ほぼ同じ曜日に食品が必要 | 注文と配送のリズムを作りやすい | 締切から配達まで日数があり、急な不足には向かないことがある |
| 配食サービス | 調理や献立を考えることが負担 | 調理済みの食事を定期的に受け取れる | 量、硬さ、味付け、保存方法、見守りの範囲を確かめる |
| 移動スーパー | 自分の目で商品を選びたい | 自宅近くで選ぶ楽しみを残せる | 訪問曜日、時間、取扱商品、支払方法は地域で異なる |
| 家族による代理注文 | 注文操作は難しいが、欲しい物を伝えられる | 離れていても手配でき、内容を一緒に決められる | 本人の希望を聞かずに送りすぎない |
| 民間の買い物代行 | 細かな希望に沿って購入してほしい | 店舗や品目を指定できる場合がある | 利用料、交通費、立て替え、キャンセル条件を確認する |
| 訪問介護などの生活援助 | 介護が必要で、買い物を含む生活支援がケアプラン上必要 | 生活全体の支援と組み合わせられる | 家族分の買い物など、本人の生活援助に当たらない内容は対象外となる |
介護保険の訪問介護では、本人ができる限り自宅で生活できるよう、掃除、洗濯、調理、買い物などの生活援助が提供される場合があります。ただし、利用には本人の状態やケアプランとの関係があり、同居家族のための買い物などは対象になりません。
自治体によっては、介護予防・日常生活支援総合事業や地域の生活支援として、買い物、配食、見守りなどにつながるサービスがあります。内容、対象者、料金は全国一律ではありません。
親が自分で選ぶ部分を、一つは残します
子どもが心配するあまり、冷蔵庫の中身を見て必要そうな物をすべて注文することがあります。
しかし親からすると、食べたくない物が届き、冷蔵庫の場所まで変えられ、「自分の家なのに自分で決められない」と感じるかもしれません。
支援を始めるときは、本人が決める部分と、家族が手伝う部分を分けます。
| 本人が決めること | 家族が手伝うこと |
|---|---|
| 食べたい物、避けたい物 | 注文画面の操作 |
| 宅配を受け取る曜日 | 配達地域や料金の比較 |
| 自分で店へ行きたい回数 | 重い物やかさばる物の手配 |
| 一週間に必要な量 | 重複や買い忘れの確認 |
| 現金・口座・カードなどの支払方法 | 請求額と注文履歴の照合 |
親へは、できなくなったことを並べるより、負担が大きい部分だけを減らす提案をします。
「もう買い物へ行くのは危ないから、宅配にしよう」
この言い方では、外出や選ぶ楽しみまで奪われるように聞こえます。
次のように範囲を小さくすると、受け入れられやすくなります。
「お米と飲み物だけ届けてもらわない?野菜は今までどおり、お母さんが選べるよ」
「雨の日だけ使えるよう、一度試してみない?」
「私が勝手に選ばず、電話で欲しい物を聞いてから注文するね」
最初の注文は、一週間分を完璧にそろえようとしない
初めて宅配を使うとき、食品や日用品を一度にたくさん注文すると、親も受け取り後の片づけに疲れます。
冷蔵庫へ入りきらない、似た物が家に残っていた、食べ切る前に傷むといったことも起きます。
最初は、次のような小さな注文で試します。
- 牛乳、卵、豆腐など、普段よく使う物
- 米、飲料、洗剤など、運ぶのが大変な物
- 冷凍食品や日持ちする食品を少量
- 本人が食べたいと言った総菜を一つ
配達後には、次の点を本人へ聞きます。
- 配達時刻は生活に合っていたか
- 呼び鈴や電話に気づけたか
- 商品を冷蔵庫へしまえたか
- 量が多すぎなかったか
- 代替商品で困らなかったか
- 支払方法を理解できたか
一度うまくいかなかっただけで、宅配は使えないと決めなくても構いません。
曜日、商品数、注文方法、受け取り方のどこが合わなかったかを変えて、もう一度だけ試す方法があります。
受け取りまで考えないと、玄関先で荷物が止まります
注文は子どもができても、受け取るのは親です。
特に重い物や冷蔵品は、玄関へ届いたあとに運ぶ作業が残ります。
| 受け取り時の困り事 | 事前に決めておくこと |
|---|---|
| 呼び鈴が聞こえない | 電話連絡、光で知らせる機器、定時配送などが使えるか |
| 配達時間を忘れる | カレンダーへ記入し、当日に家族から短く連絡する |
| 玄関から台所まで運べない | 小分け注文にするか、配達員が置ける範囲を事業者へ聞く |
| 冷蔵・冷凍品を放置する | 受け取り後に電話し、しまえたか確かめる |
| 知らない人を家へ入れたくない | 玄関先での受け取りにし、毎回の流れを決める |
| 置き配が不安 | 保冷方法、置き場所、回収容器、防犯面を確認する |
| 現金精算を間違える | 定額・口座振替など、本人が理解できる支払方法を選ぶ |
「玄関まで届くから安心」ではなく、台所へしまい、食べるところまで無理なくできるかを見てください。
配達の見守りは便利ですが、すべての宅配についているわけではありません
定期的に人が訪ねる宅配や配食には、親の様子を知るきっかけになる利点があります。
実際に、配達時の在宅状況を家族へ知らせたり、郵便物がたまっているなどの異変を自治体や緊急連絡先へ伝えたりする取組もあります。また、移動販売や宅配事業者が地域の見守り活動に参加している例もあります。
ただし、通常の商品配送と、契約上の見守りサービスは同じではありません。
申し込む前に、次の点を具体的に聞きます。
- 商品を手渡しするのか、玄関前へ置くのか
- 不在だった場合、誰へ連絡するのか
- 何回応答がなければ異変として扱うのか
- 家族へ届くのは毎回の通知か、異変時だけか
- 緊急時に警察や消防へ連絡することがあるか
- 見守り部分に追加料金や登録条件があるか
見守り付きと書かれていても、体調を毎回詳しく確認するサービスとは限りません。
配達時に会えたことを知らせるだけなのか、異変時の連絡まで含むのかを分けてください。
「配達が来たから安心」ではなく、届いた食品が減っているかを見ます
毎週食べ物が届いていても、親が食べているとは限りません。
冷蔵庫に同じ弁当が残る。封を開けていない牛乳が並ぶ。ご飯は食べず、菓子だけが減っている。
買い物の問題だと思っていたものが、調理、食欲、飲み込み、体調などの問題につながっている場合があります。
次のような変化が重なっていないかを見ます。
- 同じ食品が何個も残っている
- 賞味期限切れや傷んだ物が増えた
- 配食を受け取っても手をつけていない
- 米や調味料がほとんど減っていない
- 以前より服が緩くなった
- 食事の時間を尋ねても答えが曖昧
- 火を使うことを怖がるようになった
- 食べ物の硬さや飲み込みに困っている
配食を選ぶ場合は、値段だけでなく、量、味付け、食べやすさ、保存方法が本人に合うかを試します。
厚生労働省は、高齢者向け配食について、注文時の状態把握や継続利用中のフォローを含む栄養管理のガイドラインと資料を公表しています。体調や食事制限がある場合は、事業者へ対応範囲を聞き、必要に応じて医療・介護の担当者にも食事の状況を伝えてください。
遠方の子どもは、注文担当と見守り担当を一人で背負わない
離れて暮らす親の買い物を子どもが手配すると、最初は週一回の注文でも、次第に負担が増えることがあります。
電話で欲しい物を聞く。ネットで注文する。欠品の連絡に対応する。配達後に受け取ったか電話する。請求額を確かめる。
兄弟姉妹がいても、一人だけが注文方法を知っていると、その人が休めません。
| 役割 | 担当の分け方の例 |
|---|---|
| 親の希望を聞く | 近くに住む家族、または週末に電話する人 |
| 宅配を注文する | ネット操作に慣れた家族 |
| 配達後の連絡 | 曜日を決めて兄弟姉妹で交代 |
| 料金を見る | 本人と一緒に月1回だけ確認する家族 |
| 体調変化を共有する | 家族の共有メモやグループ連絡を使う |
| 急な不足への対応 | 近隣の親族、地域サービス、予備の注文方法を決める |
毎日電話することが安心につながる親もいれば、監視されているように感じる親もいます。
「何を買ったの」「ちゃんと食べたの」と尋ね続けるより、次の注文日を一緒に決め、困ったときの連絡先を明確にする方が負担を減らせることがあります。
宅配を嫌がる親には、「できないから」ではなく「楽になる部分」を伝えます
親が宅配を拒む理由は、頑固だからとは限りません。
- 配送料がもったいない
- 知らない人が来るのが不安
- 注文方法が難しそう
- 商品を自分で見て選びたい
- 買い物まで奪われたくない
- 子どもにお金を管理されたくない
理由に合わない説得を続けても、受け入れられません。
| 親の言葉 | 返し方の例 |
|---|---|
| 「まだ自分で行ける」 | 「行くのをやめてとは言わないよ。重い物だけ届けてもらおう」 |
| 「配送料がもったいない」 | 「タクシー代や私が届ける交通費と比べて、一度だけ見てみよう」 |
| 「変な物を送られたくない」 | 「注文する前に、商品名と金額を電話で読むね」 |
| 「知らない人を家に入れたくない」 | 「家の中には入ってもらわず、玄関先で受け取れるか聞こう」 |
| 「使い方が分からない」 | 「操作はしなくていいよ。欲しい物を紙に丸をつける方法を探そう」 |
一度試したら、そのまま契約を続けなければならないわけではありません。
二週間だけ、重い物だけ、悪天候の日だけと範囲を限定すると、親も判断しやすくなります。
宅配だけでは足りないと感じたら、地域の支援を一緒に探します
買い物以外にも、掃除、調理、薬の管理、通院などで困る場面が増えているなら、子どもと宅配事業者だけで支える段階を超えている可能性があります。
地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談窓口で、介護予防、生活支援、権利擁護、地域の支援体制などを扱っています。介護認定をまだ受けていない段階でも、親の暮らしについて相談できます。
電話するときは、「買い物に困っています」だけでなく、生活場面を具体的に伝えます。
「店まで歩けますが、荷物を持って帰れません」
「宅配を頼んでも、配達時刻を忘れることがあります」
「冷蔵庫に期限切れの食品が増えています」
「離れて暮らしており、週に一度しか様子を見られません」
地域によっては、配食と安否確認、家事援助、住民や民間事業者による見守りなどの生活関連サービスが掲載されています。介護サービス情報公表システムでも、地域の見守り・安否確認、配食、家事援助などを探せますが、利用条件や提供状況は自治体ごとに異なります。
注文を家族が代わるときは、支払いと契約を曖昧にしない
子どもが親の代わりにネットで注文する場合、誰の契約で、誰が支払うのかを決めます。
- 親本人のアカウントを家族が操作するのか
- 子どものアカウントから親宅へ送るのか
- 代金は親と子どものどちらが負担するのか
- 定期注文や自動継続になっていないか
- 返品・欠品・代替商品の連絡を誰が受けるのか
- 注文履歴や領収書をどこへ残すのか
少額だからと子どもが払い続けると、数か月後には誰がいくら負担したか分からなくなります。
親が負担するなら、月1回まとめて精算するなど、無理のない方法を決めます。
また、通販では、知らない間に定期購入になっていた、解約方法が分かりにくいといった高齢者のトラブルも報告されています。広告から急いで申し込まず、最終的な支払額、購入回数、解約条件を注文前に家族と一緒に見てください。
本人も家族も申し込んでいない商品が届く、代金の請求が続く、解約できないなどの問題がある場合は、事業者とのやり取りを記録し、消費生活センターなどへ状況を伝えます。
二週間試すときは、便利だったかではなく暮らしが回ったかを見ます
サービスを試したあと、「便利だった?」とだけ聞くと、親は気を使って「大丈夫」と答えるかもしれません。
二週間後に、次の項目を見ます。
- 無理に買い物へ出る回数が減ったか
- 重い荷物を運ばずに済んだか
- 必要な食品が切れにくくなったか
- 届いた物を食べ切れているか
- 冷蔵庫の中身が増えすぎていないか
- 注文・受け取り・支払いで混乱しなかったか
- 本人が自分で選べたと感じているか
- 家族の電話や訪問の負担が減ったか
親の負担だけ減り、家族の注文作業が増えすぎているなら、注文方法を簡単にする必要があります。
家族は楽になったものの、親が嫌々受け取っているなら、商品や回数を本人が決める形へ戻します。
宅配は、一度選んで終わりではありません。親の体力や生活が変われば、移動販売から宅配へ、食材宅配から配食へと、合う方法も変わります。
今日することは、宅配会社を一社に決めることではありません
親の買い物が心配になると、すぐに評判のよいサービスを探したくなります。
けれど、先に一枚の紙へ、次の三行を書いてください。
- 親が今も自分でできること:
- 最近つらくなったこと:
- 家族だけでは続けにくいこと:
たとえば、次のように書けます。
「商品は自分で選べる。店まで歩き、重い荷物を持つことがつらい。子どもが毎週車で届けるのは続けにくい」
この場合は、すべての買い物を代行するより、米、飲料、洗剤だけを定期配送にするところから始められます。
「注文も受け取りも難しく、届いた食材を調理できない」と分かったなら、食材宅配より、配食や生活援助を含めて考える必要があります。
親を支えることは、できることを家族が全部引き取ることではありません。
本人が選び、決め、受け取れる部分は残し、危険や負担が大きいところだけを別の手に渡す。その方が、親も家族も長く続けられます。
まず今夜は、「買い物へ行けるか」ではなく、「買い物のどの場面が一番つらい?」と聞いてみてください。その答えが、宅配、配食、見守りのどれを選ぶかを決める最初の手がかりになります。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「地域包括ケアシステム」:地域包括支援センターの役割や高齢者の総合相談に関する確認先。
- 厚生労働省・介護サービス情報公表システム「訪問介護」:買い物・調理などの生活援助と、対象外となる支援の確認先。
- 厚生労働省「介護予防・日常生活支援総合事業」:市町村による多様な生活支援の仕組みに関する確認先。
- 介護サービス情報公表システム「生活関連情報」:地域の見守り・安否確認、配食、家事援助などを探す際の確認先。
- 厚生労働省「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理」:高齢者向け配食の選択と利用状況のフォローに関する確認資料。
- 消費者庁「高齢者の見守り」「高齢者の消費者トラブル」:宅配・移動販売を通じた見守りの事例や、通販・定期購入の注意点に関する資料。


















