冷蔵庫を開けたら、同じ豆腐が5個。怒る前に少し立ち止まりたい場面です
実家の冷蔵庫を開けたら、同じ牛乳が何本も入っている。卵がまだあるのに、また買ってきている。洗剤、ティッシュ、砂糖、しょうゆ、湿布、同じ薬局の商品が棚いっぱいに並んでいる。
最初は「安かったのかな」と思っても、何度も続くと心配になります。
「また買ってる」
「前にも言ったのに」
「冷蔵庫に入らないでしょ」
「お金、大丈夫なの?」
そう言いたくなるのは自然です。賞味期限が切れた食品を捨てるのも、棚を片づけるのも、支払いを心配するのも、家族にとっては負担です。
ただ、親本人も「困らせよう」として買っているとは限りません。
買ったことを忘れている。家にあるか不安で買う。昔から買い置きする習慣がある。特売を見ると買わないと損だと思う。買い物そのものが外出や気分転換になっている。あるいは、認知症や判断力の低下が関係している場合もあります。
親が何度も同じものを買ってくるとき、最初に必要なのは、叱ることではなく「買い物の中身を見えるようにすること」です。
認知症が気になる場合も、家族だけで決めつける必要はありません。厚生労働省は、「もしかして認知症では」と思われる症状に気づいたときの相談先として、地域包括支援センター、認知症疾患医療センター、かかりつけ医、もの忘れ外来などを案内しています。
まず「何を何度も買うのか」で、心配の種類を分けます
同じものを買ってくるといっても、食品なのか、日用品なのか、高額商品なのかで心配の中身は変わります。
冷蔵庫の中身が増えているだけなら在庫管理の工夫で済むこともあります。一方で、健康食品、布団、電化製品、定期購入、訪問販売などが絡む場合は、契約やお金の問題として早めに確認した方がよいことがあります。
| 何を買ってくるか | 起きやすい困りごと | 最初に見ること |
|---|---|---|
| 食品 | 賞味期限切れ、冷蔵庫に入らない、同じ食材ばかり食べる | 期限、量、買う曜日、買う店 |
| 日用品 | 洗剤や紙類が棚にあふれる | 保管場所、月に使う量、買い置きの不安 |
| 薬・健康食品 | 飲み合わせ、過剰摂取、定期購入 | 商品名、支払い方法、医師や薬剤師への確認 |
| 衣類・雑貨 | 使わないものが増える、部屋が狭くなる | 返品可否、買う理由、収納状況 |
| 高額商品 | 支払い負担、契約トラブル、家族間の不信感 | 契約書、領収書、販売方法、クーリング・オフの可能性 |
| 同じ店の同じ商品 | 店員にすすめられている、習慣化している | 店との関係、購入頻度、本人の説明 |
ここで大切なのは、「買うこと自体が悪い」と決めつけないことです。
食品や日用品の買い置きは、本人にとって安心材料かもしれません。戦後の物不足や、過去の節約経験が残っている世代では、「家にたくさんあると安心」という感覚が強い人もいます。
一方で、買ったことを覚えていない、同じものがあることを見ても納得しない、支払いが増えている、賞味期限切れを食べてしまうなどがあるなら、家族だけで「性格の問題」と片づけない方がよいです。
本人を責めると、買い物の話が「親子げんか」に変わってしまいます
同じものを何度も買ってくる親に対して、家族はつい強い言い方になります。
「また買ってきたの?」
「この前も言ったでしょ」
「冷蔵庫を見れば分かるでしょ」
「お金の無駄だよ」
言いたくなる理由はあります。片づけるのは家族かもしれませんし、親のお金が心配なのも事実です。
でも、本人からすると「買い物を責められた」よりも、「自分の生活を否定された」と感じることがあります。
| 避けたい言い方 | 本人が感じやすいこと | 言い換え例 |
|---|---|---|
| また同じもの買ってる | 失敗を責められた | 「これ、家にいくつかあったね。一緒に置き場所を決めよう」 |
| なんで覚えてないの? | バカにされた、情けない | 「買う前に見られるメモを作ってみようか」 |
| お金がもったいない | 自分のお金を管理される不安 | 「必要なものに使えるように、買う量を一緒に見たい」 |
| もう買い物に行かないで | 自由を奪われる | 「買い物は続けつつ、リストを持って行く形にしよう」 |
| 認知症なんじゃないの | 病人扱いされた、怖い | 「最近買い物で困ることが増えたから、体調も含めて相談してみよう」 |
買い物は、親にとって「自分で生活できている証拠」でもあります。
そこをいきなり取り上げようとすると、強く抵抗されても不思議ではありません。
目標は、買い物を全部やめさせることではなく、本人の自尊心を守りながら、食品ロス・支払い・危険な契約を減らすことです。
買い物の記録は、親を監視するためではなく、相談につなげる材料です
親が同じものを買ってくる頻度が増えているなら、家族の記憶だけで判断しない方がよいです。
「最近多い気がする」と思っていても、記録してみると、特定の曜日だけだったり、同じ店に行った日だけだったり、食事の準備が不安な日に増えていたりします。
| 記録すること | 書き方の例 | 分かること |
|---|---|---|
| 日付 | 7月3日 | 頻度や曜日の傾向 |
| 買ったもの | 牛乳2本、卵1パック、豆腐3個 | 重複しやすい品目 |
| 買った場所 | 近所のスーパー、ドラッグストア | 店員との関係や特売の影響 |
| 家にあった在庫 | 牛乳がすでに2本あった | 在庫確認ができているか |
| 支払い方法 | 現金、カード、電子マネー | 使った金額の把握しやすさ |
| 本人の説明 | 「なかったと思った」「安かった」 | 忘れたのか、不安で買ったのか |
記録は、本人に見せて責めるためのものではありません。
かかりつけ医や地域包括支援センターに相談するとき、「同じものをよく買うんです」だけより、「この1か月で卵を5回重複して買っています」「冷蔵庫の中身を見ても、あると分からないようです」と伝えた方が、状況が伝わりやすくなります。
厚生労働省も、症状が軽い段階で認知症に気づき、適切な治療を受けられれば、薬で進行を遅らせられることもあると案内しています。気になる変化を記録しておくことは、早めの相談につながります。
在庫を減らすより先に、「買う前に見える仕組み」を作ります
同じものが増えると、家族はまず片づけたくなります。
冷蔵庫を整理して、賞味期限切れを捨てて、棚を空ける。もちろんそれも必要です。
ただ、片づけるだけでは、次の買い物でまた同じものが増えることがあります。
大切なのは、親が買い物に行く前に「家にあるものが分かる仕組み」を作ることです。
| 工夫 | やり方 | 向いている場合 |
|---|---|---|
| 冷蔵庫メモ | 冷蔵庫の扉に「牛乳あり」「卵あり」と大きく書く | 食品の重複が多い |
| 買い物リスト | 買ってよいものだけを書いたメモを持って行く | 店に行くと予定外のものを買う |
| 在庫ボックス | 洗剤、紙類、缶詰などを1か所にまとめる | 日用品の買い置きが多い |
| 写真を撮る | 出かける前に冷蔵庫や棚をスマホで撮る | スマホを見られる親 |
| 買い物曜日を決める | 週2回などに固定する | 毎日のように買い物へ行く |
| 一緒に行く日を作る | 月数回、家族が同行する | 高額商品や支払いも心配 |
ポイントは、「買わせない」ではなく「買う前に思い出せるようにする」ことです。
本人がまだ自分で買い物をしたいなら、その気持ちはできるだけ残したいところです。買い物は運動や外出、人との会話にもなります。
ただし、腐る食品が増える、火を使う調理が危ない、支払いが大きい、詐欺や不要な契約が疑われる場合は、本人の自由だけでなく安全も見なければなりません。
食品が増えすぎるときは、冷蔵庫より先に食事の不安を見ます
同じ食品ばかり買う親の背景には、「食事をどうしたらいいか分からない」という不安があることがあります。
食べるものがない気がする。献立を考えるのが面倒。買っておけば安心。ひとり暮らしで、冷蔵庫にものがないと心細い。
そうした気持ちから、同じ食品を何度も買うこともあります。
| 冷蔵庫の状態 | 考えられること | 家族ができること |
|---|---|---|
| 同じ食品が大量にある | 家にあるか覚えていない、買い置きで安心したい | 在庫メモ、買う数の上限を決める |
| 賞味期限切れが多い | 管理が追いついていない | 週1回の冷蔵庫確認、手前に期限が近いものを置く |
| 調理しない食材が多い | 料理の段取りが負担になっている | 調理済み惣菜、宅配弁当、簡単な食品へ切り替える |
| 甘いものや同じ菓子が多い | 気分転換や寂しさで買っている | 買い物以外の外出や会話の機会を作る |
| 冷蔵庫がいっぱいで見えない | 在庫確認が難しい | 棚ごとに置くものを決め、透明ケースを使う |
「買いすぎ」を止めたいときほど、実は食事の負担を減らす工夫が効くことがあります。
たとえば、親が毎日料理をしようとして疲れているなら、週に数回は宅配弁当や配食サービスを使う。買い物を続けたいなら、買うものを「牛乳1本、豆腐1個、卵は買わない」とメモにする。
冷蔵庫の中身を減らすだけではなく、親が「今日の食事は何とかなる」と思える形を作ることが大事です。
お金の心配が出てきたら、家計ではなく支払いの流れを見ます
同じものを何度も買うことが続くと、家族はお金も心配になります。
現金が減っている。カードの請求が増えた。電子マネーにいくら入れているか分からない。定期購入を申し込んでいるかもしれない。店員にすすめられるまま買っているかもしれない。
この段階では、「無駄遣いしないで」と言うだけでは不十分です。
どこから、どれくらいお金が出ているのかを見ます。
| 確認すること | 見るもの | 注意点 |
|---|---|---|
| 現金の減り方 | 財布の中身、引き出し頻度 | 責める口調にならないようにする |
| カード利用 | 利用明細、請求書 | 本人の同意や家族間の共有を意識する |
| 電子マネー | チャージ履歴、残高 | 本人が仕組みを理解しているか見る |
| 定期購入 | 健康食品、サプリ、化粧品、通販 | 契約条件、解約方法、次回発送日を確認する |
| 訪問販売・電話勧誘 | 契約書、領収書、名刺 | 消費生活センターへの相談も検討する |
| 生活費への影響 | 家賃、光熱費、医療費、介護費 | 必要な支払いが滞っていないか見る |
親のお金は親のものです。
ただし、判断力の低下が疑われる中で支払いが増えている場合、家族が何も見ないままだと、生活費や介護費に影響することがあります。
本人の尊厳を守ることと、お金の流れを放置しないことは、両立できます。
明細を見る必要があるときは、「使いすぎを責めたい」のではなく、「必要な支払いに困らないように一緒に見たい」と伝える方が、受け入れられやすくなります。
認知症かもと思ったら、買い物だけで判断しない
同じものを買ってくることが続くと、家族は「認知症では」と不安になります。
ただ、同じものを買うだけで認知症と決めることはできません。
買い置きの習慣、不安、節約意識、寂しさ、視力や聴力の低下、うつ状態、薬の影響、体調不良などでも、買い物の様子が変わることがあります。
一方で、買い物以外にも変化があるなら、早めに相談した方がよい場合があります。
| 買い物以外の変化 | 家族が見たいポイント | 相談の目安 |
|---|---|---|
| 同じ話を何度もする | 数分前の会話を忘れるか | 頻度が増えているなら記録する |
| 約束や日付を間違える | 予定表を見ても分からないか | 通院や支払いに影響するなら相談 |
| 料理の段取りが難しい | 焦がす、同じ料理ばかり、食材を腐らせる | 火の元の危険があれば早めに対応 |
| お金の管理が変わった | 支払い忘れ、同じ商品購入、通帳や財布の紛失 | 地域包括支援センターや金融機関へ相談 |
| 怒りっぽい・疑い深い | 盗られたと言う、家族を責める | 家族だけで抱えず専門職へ相談 |
| 外出で迷う | いつもの店や道で迷う | 安全確保を含めて早めに相談 |
認知症に関する相談先として、地域包括支援センターはすべての市町村に設置されており、相談内容に応じて認知症疾患医療センターや認知症初期集中支援チームなどと連携することもあるとされています。
親をいきなり「認知症」と決めつける必要はありません。
ただ、「買い物だけの問題」として片づけず、生活全体に変化が出ていないかを見ることは大切です。
買い物を取り上げる前に、買い物を安全に続ける方法を考えます
家族としては、同じものを買ってくるなら「もう一人で買い物に行かせない方がいいのでは」と思うことがあります。
確かに、危険な契約や大きな支払いがある場合は、制限が必要になることもあります。
ただ、買い物は親にとって大切な外出の機会でもあります。
店員と話す、季節の商品を見る、自分で選ぶ、財布からお金を出す。そうした行為は、本人の生活感覚や自立感につながっています。
いきなり取り上げる前に、段階を作りましょう。
| 段階 | 対応 | 向いている状態 |
|---|---|---|
| 1段階目 | 買い物メモを持って行く | 軽い重複があるが、一人で行ける |
| 2段階目 | 買う曜日や店を決める | 毎日のように買い物してしまう |
| 3段階目 | 家族が週1回一緒に行く | 食品ロスや支払いが増えている |
| 4段階目 | 重いものや日用品は宅配にする | 荷物や転倒が心配 |
| 5段階目 | 高額商品や契約は家族確認にする | 判断力低下や契約トラブルが心配 |
| 6段階目 | 介護サービスや見守りを入れる | 一人での買い物が安全面で難しい |
「全部だめ」より、「これは自分で買える」「これは家族と一緒に決める」と分ける方が、本人も受け入れやすくなります。
たとえば、野菜やパンは本人が買う。日用品と健康食品は家族と確認する。高額なものはその場で買わず、いったん帰ってから決める。
買い物の自由を残しながら、危ない部分だけ支えを足す形です。
家族や兄弟姉妹には、感情より先に「事実」を共有します
親の買い物問題は、兄弟姉妹で温度差が出やすいです。
近くに住む家族は、冷蔵庫の中身や賞味期限切れを見て焦っている。遠方の兄弟は、「それくらい買い置きじゃないの?」と軽く受け取る。
逆に、遠方の兄弟が「認知症なんじゃないの」と言ってくるのに、実際に片づけるのは近くの家族ということもあります。
このとき、感情だけを送ると揉めやすくなります。
| 共有すること | 書き方の例 | 目的 |
|---|---|---|
| 買ったもの | 今週、牛乳が計6本、卵が3パックあった | 量を具体化する |
| 食品ロス | 賞味期限切れで豆腐を4個処分した | 生活への影響を伝える |
| お金 | 同じ健康食品を2回購入していた | 支払いの心配を共有する |
| 本人の反応 | 「なかったと思った」と言っていた | 忘れている可能性を伝える |
| 家族の対応 | 冷蔵庫メモを作った。次は買い物同行を試したい | 次の役割分担につなげる |
兄弟姉妹に送るなら、こうした文面が使えます。
「最近、母が同じものを重ねて買うことが増えています。今週は牛乳が6本、卵が3パックあり、賞味期限切れも出ています。本人は『なかったと思った』と言っています。まず冷蔵庫メモを作りますが、買い物やお金の管理について地域包括支援センターにも相談したいです。」
このように事実を共有しておくと、「大げさ」「気にしすぎ」と言われにくくなります。
お金の管理が不安なら、日常生活自立支援事業や成年後見も視野に入ります
同じものを買うだけでなく、お金の管理全体が不安になってきた場合は、家族だけで抱えない方がよいことがあります。
たとえば、支払いを忘れる、通帳や財布をなくす、高額な商品を契約する、同じ健康食品を何度も購入する、家族を疑う、生活費が足りなくなる。
こうした状態があるなら、金銭管理の支援や制度も検討します。
| 相談先・制度 | 向いている場面 | 確認すること |
|---|---|---|
| 地域包括支援センター | 認知症や買い物、お金の管理が心配 | 家族相談、見守り、介護保険、地域の支援 |
| 社会福祉協議会 | 日常的な金銭管理や福祉サービス利用が不安 | 日常生活自立支援事業の利用条件や内容 |
| 消費生活センター | 高額商品、訪問販売、電話勧誘、定期購入がある | 契約内容、解約、クーリング・オフの可能性 |
| かかりつけ医・もの忘れ外来 | 認知症や体調変化が疑われる | 診察、検査、薬、今後の生活支援 |
| 司法書士・弁護士 | 財産管理、成年後見、相続、家族間の対立がある | 成年後見、保佐、補助、財産管理の方法 |
厚生労働省は、日常生活自立支援事業について、認知症高齢者など判断能力が不十分な方が地域で自立した生活を送れるよう、利用者との契約に基づき福祉サービスの利用援助等を行うものと説明しています。
ただし、制度には利用条件があります。本人が契約内容を理解できるか、どの程度の支援が必要か、家族状況はどうかによって使える選択肢は変わります。
「制度を使えば全部解決」ではありませんが、家族だけでお金の見守りを続けるより、安全で透明な形に近づけられることがあります。
今日できる一歩は、買ったものを捨てることではなく「買い物メモ」を作ることです
同じものが増えていると、片づけたくなります。
もちろん、傷んだ食品や危険なものは整理が必要です。
でも、今日の一歩を「全部片づける」にすると、家族も親も疲れてしまいます。
まずは、次の5つだけで十分です。
- この1週間で重なっているものを3つ書く
- 冷蔵庫や棚の目立つ場所に「あるものメモ」を貼る
- 次の買い物で買ってよいものを紙に書く
- 支払い方法と金額が大きくなっていないか見る
- 買い物以外のもの忘れや生活変化も記録する
親が何度も同じものを買ってくると、家族は不安になります。
その不安は、食品の量だけではなく、「この先、親の生活は大丈夫なのか」という不安でもあります。
だからこそ、怒りだけで動かず、在庫、支払い、本人の気持ち、認知症の可能性を分けて見ていきましょう。
親の買い物をすぐ取り上げる必要はありません。
まずは、買う前に思い出せる仕組みを一つ作る。家族で事実を共有する。必要なら地域包括支援センターやかかりつけ医に相談する。
同じものが増えている棚は、親を責める証拠ではなく、支え方を変えるサインかもしれません。
今日できる小さな工夫から、親の暮らしと家族の負担を少しずつ整えていきましょう。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」:地域包括支援センター、認知症疾患医療センター、かかりつけ医、もの忘れ外来などの確認先。
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」:認知症高齢者など判断能力が不十分な方への福祉サービス利用援助等に関する確認先。















