何度か食事を重ね、そろそろ結婚後の暮らしについて話してもよいと思っていた。
そのとき相手から、「母が一人暮らしで、最近ちょっと危ないんだ」「結婚したら、実家の近くに住めると助かる」と言われる。
親御さんを大切にする気持ちは理解できます。自分にも親がいるから、介護を避けたいだけの人だと思われたくもありません。
それでも、頭には別の心配が浮かびます。
近くに住むだけなのか。同居するのか。通院や食事の世話まで求められるのか。自分の仕事は続けられるのか。介護費用を二人の生活費から出すことになるのか。
相手を好きな気持ちと、相手の家族の暮らしまで背負うことへの怖さは、同時にあって構いません。
この段階で知りたいのは、親御さんが介護状態かどうかだけではなく、相手が結婚後のあなたへ何を期待しているかです。
最初に聞くのは要介護度ではなく「私に何をしてほしいのか」です
介護の話になると、親御さんの病名や要介護度から尋ねたくなります。
もちろん現在の状態は必要な情報です。ただ、同じ要介護度でも、介護サービスを利用して一人暮らしを続けている家庭と、家族が毎日食事や排泄を支えている家庭では、結婚後の生活が大きく違います。
先に尋ねたいのは、相手が思い描いている役割です。
「結婚した場合、私には親御さんのことで、どのようなことをしてほしいと考えている?」
「実家の近くに住むというのは、時々様子を見に行くこと? それとも日常の介護を二人ですること?」
この質問は、介護を拒否する宣言ではありません。
相手が「今のところ何も頼むつもりはない。兄弟とサービスで対応している」と答える場合もあれば、「結婚したら家族なのだから、一緒にやるのが普通」と考えている場合もあります。
結婚後に初めてその違いへ気づくより、今聞く方が双方にとって誠実です。
「親御さんの介護があるか」ではなく、「現在誰が何をしており、結婚後は誰が何を担う予定なのか」まで聞いて初めて、生活への影響が見えてきます。
介護の状況は、五つの事実に分けて聞きます
「母はまだ元気」「少し手伝いが必要」「兄が見ている」といった説明だけでは、実際の負担は分かりません。
問い詰めるように質問を重ねるのではなく、結婚後の生活設計に必要な五つへ分けます。
| 聞くこと | 具体的に知りたい内容 |
|---|---|
| 現在の暮らし | 一人暮らし、家族と同居、施設入居、入院中など |
| 日常で必要な支援 | 食事、買い物、通院、服薬、入浴、排泄、金銭管理など |
| 現在の担当者 | 婚活相手、兄弟姉妹、親族、介護サービスの分担 |
| 今後想定していること | 同居、近居、施設、サービス追加、仕事の調整など |
| お金の出所 | 親御さんの年金・預貯金、兄弟の負担、立替えの有無 |
一度に全部聞くと、相手も親を値踏みされているように感じるかもしれません。
まず現在の生活と支援内容を聞き、交際が結婚へ近づいた段階で、住まいとお金まで具体化する流れでも構いません。
ただし、すでに同居を求められている、相手が介護で仕事を辞める予定、介護費をあなたにも負担してほしいと言われている場合は、後回しにできない話です。
「兄弟でやっている」は、担当と頻度まで聞かないと分かりません
相手から「介護は兄弟で分担しているから大丈夫」と言われても、その言葉だけで判断しない方がよいでしょう。
実際には、近くに住む一人だけが通院、買い物、緊急対応を担い、ほかの兄弟は電話をするだけという家庭もあります。
反対に、遠方の兄弟が費用や手続きを引き受け、無理なく役割を分けている場合もあります。
次のように、事実へ戻して聞けます。
「今は、あなたがしていることと、兄弟がしていることを教えてもらえる?」
「急に病院から連絡が来たときは、誰が対応しているの?」
「今後、お母さんの状態が変わった場合も、兄弟で話せる関係?」
兄弟仲が良いか悪いかを評価するためではありません。
結婚後、相手が毎週実家へ通うことになったり、兄弟の代わりにあなたが動くことになったりする可能性を見極めるためです。
「親孝行したい」と「配偶者に介護してほしい」は別の話です
相手が親御さんを支えたいと考えること自体は、責めることではありません。
ただし、その希望を実現するために、配偶者が仕事を減らす、同居する、食事や排泄の介助を担うことまで当然とされるなら、二人の生活に関わる重大な条件です。
結婚しただけで、日々の介護を誰が担当するかが自動的に決まるわけではありません。
民法には親族間の扶養に関する規定がありますが、誰が同居し、誰が仕事を辞め、誰が身体介護をするかまで一律に決めるものではありません。
相手が自分の親を支えたいなら、まず相手自身が担える範囲と、利用できる介護サービスを考える必要があります。
「親御さんを大事にしたい気持ちは分かる。ただ、結婚したら私が主に介護するという形は考えていない。あなた自身は、仕事と介護をどう続けるつもり?」
ここで相手が、一緒に方法を考えようとするのか、「冷たい」「結婚する資格がない」と責めるのか。その反応も大きな判断材料です。
同居は「必要になったら考える」だけでは足りません
婚活中に介護の話をすると、「将来のことは、そのときにならないと分からない」と言われる場合があります。
確かに、親御さんの状態を正確に予測することはできません。
しかし、今の時点での考え方は聞けます。
- 同居を第一の選択肢にしているか
- 親御さん本人は同居を望んでいるか
- 実家へ移り住む可能性があるか
- 夫婦だけで暮らす住まいを維持したいか
- 同居前に介護サービスや施設を検討するか
「必要になったら同居するしかない」という相手と、「できる限り別居を保ち、サービスを使う」という相手では、結婚後の住まいが違います。
あなた自身も、どこまでなら受け入れられるかを伝えます。
「近くに住んで時々手伝うことは考えられる。でも、同居して日常介護を担うことは難しい」
「同居が必要になった場合は、その前にサービスや施設を含めて二人で考えたい」
今後考えが変わる可能性はあります。それでも、現時点の線を言葉にしておく意味はあります。
介護費用は、親御さんのお金と夫婦のお金を混ぜない前提で考えます
介護には、介護サービスの自己負担だけでなく、通院交通費、日用品、住宅改修、配食、施設費などがかかる場合があります。
費用は親御さんの年金や預貯金で賄うのか、子どもたちが負担しているのか。婚活相手が毎月いくら出しているのかを聞きます。
聞きにくい話ですが、結婚後の生活費へ直接影響します。
「親御さんの介護費用は、今はどこから出しているの? 結婚後に二人の家計から出す想定があるなら、金額も話しておきたい」
親御さんの資産額を細かく開示してもらうことが目的ではありません。
相手が毎月負担している金額、今後増える可能性、兄弟との分担が分かれば、二人の住居費や老後資金を考えられます。
また、親御さんの介護費用を理由に、あなた名義で借りる、保証人になる、婚前の貯金をまとめて渡すことは、その場で決めないでください。
相手が仕事を続けられる体制かも、結婚生活へ影響します
相手が現在、親御さんの介護で頻繁に早退や欠勤をしている場合、結婚後に収入が減る可能性があります。
それ自体を責める話ではありません。
ただ、「あなたが家のことをしてくれれば、自分は仕事を続けられる」という設計になっていないかは見ておく必要があります。
相手へ、現在の勤務と介護の両立方法を聞きます。
「今は急な呼び出しがあったとき、仕事はどうしているの?」
「勤務先の介護休暇や介護休業、短時間勤務について調べたことはある?」
仕事と介護を両立する制度には、介護休業、介護休暇、残業や深夜業の制限、短時間勤務等があります。対象要件や申出方法は制度ごとに異なるため、相手自身が勤務先へ確かめる必要があります。
結婚相手が介護を引き受ければ済む、という話に置き換えないことが肝心です。
親御さん本人の希望が抜けている話には注意します
相手や兄弟が「施設に入れる」「家へ引き取る」と話していても、親御さん本人がどう考えているか分からない場合があります。
認知症がある方についても、本人の意思を最初から無視してよいわけではありません。理解できる言葉や選択肢を用いながら、生活上の希望を確かめていく考え方が示されています。
婚活中のあなたが、親御さんの介護方針を決める必要はありません。
ただ、相手が本人の希望を聞こうとしているかは見てください。
「お母さん自身は、今後どこで暮らしたいと言っているの?」
「家族だけで決めず、ケアマネジャーとも話している?」
親御さんの気持ちを一切聞かず、家族の都合だけで話を進める相手なら、将来あなたの希望も同じように扱われないか考える必要があります。
まだ介護サービスを使っていないなら、家族だけで抱える前提を見直します
親御さんの生活に手助けが必要なのに、「家族で何とかするものだから」と介護保険の申請や地域の窓口を利用していない家庭もあります。
介護保険サービスを利用する場合は、原則として市区町村へ要介護・要支援認定を申請し、認定後に本人や家族の希望と状態を踏まえたケアプランを作成します。
まだ認定を受けていない場合や、何から始めればよいか分からない場合は、親御さんの居住地を担当する地域包括支援センターへ、本人や家族が話を持ち込めます。
相手へは、次のように聞けます。
「結婚後に二人だけで抱える前に、地域包括支援センターや市役所へ聞いてみる考えはある?」
窓口へ連絡したからといって、すぐ施設入所やサービス契約が決まるわけではありません。現在の状態で利用できる支援や、認定申請の進め方を知る入口です。
質問を嫌がる相手と、答えがまだない相手は分けて見ます
将来の介護について、すべて明確な答えを持っている人は多くありません。
「まだ兄弟と話せていない」「親が介護の話を嫌がる」と正直に答える相手なら、今後一緒に確かめる余地があります。
一方、次のような態度が続く場合は、結婚の結論を急がない方がよいでしょう。
- 「結婚したら親の世話をするのが当然」と役割を決めつける
- 同居や退職を断ると、愛情がないと責める
- 親の状態や兄弟分担を聞いても、話をそらす
- 介護費用や借金を隠したまま、結婚を急がせる
- あなたの親の介護には関わらないが、自分の親は支えてほしいと言う
- サービス利用を拒み、家族だけで介護することにこだわる
答えが未定であることより、話し合いそのものを拒むことの方が問題です。
結婚生活では、親御さんの状態、仕事、住まい、家計が変わります。最初の答えが変わったとき、再び話し合える相手かどうかを見ます。
結婚を断る理由を、親御さんのせいにしなくてもよい
介護のある家庭との結婚を見送ると、「困っている家族を見捨てたようで後ろめたい」と感じる方もいます。
しかし、親御さんに介護が必要だから断るのではなく、相手が期待する暮らしと、自分が続けられる暮らしが合わないこともあります。
「親御さんの介護があることだけで決めたわけではありません。結婚後に同居し、私が日常の介護を担うという生活は続けられないと判断しました」
反対に、介護があっても、相手が主体的に動き、兄弟やサービスと役割を分け、あなたの生活も守ろうとしているなら、交際を続けながら考えることもできます。
「介護のある人とは結婚できない」「好きなら全部引き受けるべき」という二択ではありません。
次に会う日は、介護の質問を一つだけ持っていきます
一度の食事で、同居、費用、施設、相続まで全部決める必要はありません。
次に会う前に、今最も怖いことを一つ選びます。
同居が心配なら、こう聞きます。
「親御さんに介護が必要になった場合、あなたは同居を前提に考えている?」
役割が心配なら、こちらです。
「結婚した場合、私には具体的に何をしてほしいと思っている?」
答えの内容だけでなく、相手があなたの心配を聞き、二人で考えようとするかを見てください。
その場で納得できなければ、「今日は答えを出さず、持ち帰って考えたい」と伝えて構いません。
結婚の返事を急ぐより、介護が始まった後にも話し合いを続けられる相手かを知ること。その一問が、あなた自身と、相手の親御さんを無理な暮らしへ巻き込まないための準備になります。
















