子どもへ送る文章を書いては、消している
年金が振り込まれた翌週、固定資産税と電気代を支払うと、通帳の残高が思った以上に減っていました。
冷蔵庫にはまだ食べ物があります。今月の家賃も払えます。
けれど、来月には通院と車検が重なります。エアコンも異音がしており、夏まで使えるか分かりません。
成人した子どもへ、「少し助けてもらえないだろうか」とメッセージを書きます。
しかし、送信する前に指が止まります。
「子どもにも住宅ローンや教育費がある」
「一度頼ったら、毎月送ってもらうのが当たり前になりそう」
「親なのに、子どもの生活を圧迫するのは情けない」
「本当の残高を話したら、今まで何に使ったのか責められるかもしれない」
子どもへ頼るかどうかを考えるとき、親としての申し訳なさと、今後の生活への怖さが一緒に押し寄せます。
けれど、援助を頼むことと、老後の生活をすべて子どもへ任せることは同じではありません。
何に、いくら、いつまで必要なのかを分ければ、親子で引き受けられる範囲を話せるようになります。
「子どもに頼る」には、金銭以外の形もあります
老後資金が足りないと感じると、毎月仕送りを受ける場面だけを想像しがちです。
実際には、頼り方をいくつかに分けられます。
| 頼り方 | 具体例 | 親子で決めたいこと |
|---|---|---|
| 一度だけの援助 | 給湯器、車検、急な医療費 | 上限額、返すかどうか、支払先 |
| 期限付きの援助 | 年金開始まで月2万円を半年間 | 開始日、終了日、見直す日 |
| 継続的な仕送り | 毎月の生活費を補う | 子どもの家計で続けられる金額か |
| 現物での援助 | 米、日用品、通院時の交通費 | 親が本当に必要としている物か |
| 手続きの手伝い | 年金、給付金、保険の書類確認 | 本人の意思を尊重し、勝手に契約しない |
| 住まいの協力 | 同居、近居、空き部屋の利用 | 生活費、家事、介護、期間、プライバシー |
「お金を送るのは難しいけれど、固定費の見直しなら手伝える」という子どももいます。
現金援助だけを答えにせず、困っている支出を具体的に伝えてください。
最初に出す数字は、貯金の総額ではなく毎月の不足額です
「老後資金が足りない」と感じても、実際には毎月の赤字が原因なのか、近く大きな支払いがあるのかで対応が変わります。
1か月の収支を書きます
| 収入 | 月額 |
|---|---|
| 本人の年金 | 円 |
| 配偶者の年金 | 円 |
| 給与・事業収入 | 円 |
| 給付金・その他 | 円 |
| 収入合計 | 円 |
| 支出 | 月額 |
|---|---|
| 住居費 | 円 |
| 食費・日用品 | 円 |
| 電気・ガス・水道 | 円 |
| 通信費 | 円 |
| 医療・介護費 | 円 |
| 保険料 | 円 |
| 車・交通費 | 円 |
| その他 | 円 |
| 支出合計 | 円 |
収入合計が18万円、支出合計が21万円なら、毎月の不足額は3万円です。
「あと数百万円必要」と考えるより、「毎月3万円の不足をどう分けるか」と考える方が、できる対応を見つけやすくなります。
固定資産税や車検を、請求された月だけの赤字にしない
毎月の生活費は足りていても、年に数回の支払いで貯金が大きく減る家庭があります。
年払いの支出も12か月で割ります
| 年間支出 | 年間金額 | 月に分けた金額 |
|---|---|---|
| 固定資産税 | 120,000円 | 10,000円 |
| 自動車税・車検・保険 | 180,000円 | 15,000円 |
| 火災保険・年払い保険 | 60,000円 | 5,000円 |
| 家電・住宅修繕の積立 | 120,000円 | 10,000円 |
| 合計 | 480,000円 | 40,000円 |
毎月の支出が17万円に見えても、年払い費用が月換算4万円あれば、実際には月21万円必要です。
子どもへ頼む前に、この金額を入れておかないと、援助を受けても数か月後に再び足りなくなります。
年金は「だいたい」ではなく、本人と配偶者を分けて見ます
退職前であれば、将来の年金額を想像だけで置かないようにします。
「ねんきんネット」では、現在と同じ条件で加入した場合の簡易な試算に加え、今後の収入、就業期間、年金の受給開始年齢などを設定した試算ができます。
書き出したい年金の情報
- 本人の受給開始時期と見込額
- 配偶者の受給開始時期と見込額
- 企業年金・個人年金の有無
- 税金や保険料などを差し引いた後の入金額
- 片方が先に亡くなった場合に収入がどう変わるか
夫婦で暮らしている間の収入だけでなく、一人になったときの住居費や生活費も別に考えておきます。
低所得の年金受給者向けの給付を受けられる場合があります
年金を含めても所得が一定基準以下の方には、年金へ上乗せして支給される「年金生活者支援給付金」があります。
老齢基礎年金を受けている方については、年齢、世帯の市町村民税、前年所得などの支給要件が定められています。金額や基準は改定されることがあるため、日本年金機構から届く案内や年金事務所で対象になるか確かめてください。
案内が届いていたのに、内容が分からず保管したままになっている場合もあります。
子どもへお金を頼む前に、未開封の年金関係書類がないか見てください。
支出は、一律に削るのではなく順番を決めます
生活が苦しいと、食費や医療費など目につきやすい支出から削りたくなります。
しかし、食事や必要な受診を減らしすぎると、体調を崩して別の負担が増えることがあります。
先に見直しやすい支出
| 順番 | 見るもの | 具体例 |
|---|---|---|
| 1 | 使っていない契約 | 動画配信、会員費、新聞、定期購入 |
| 2 | 重複している保障・サービス | 複数の医療保険、端末補償、ロードサービス |
| 3 | 生活に対して大きい固定費 | 車、通信契約、保険、住居費 |
| 4 | 慣習で続けている支出 | 親族への贈答、冠婚葬祭、子どもへの援助 |
| 5 | 日々の変動費 | 外食、嗜好品、趣味 |
老後資金が足りないのに、成人した子どもへ毎月お金を渡しながら、別の子どもへ生活費を求めようとしているケースもあります。
援助を頼む前に、自分から家族へ出しているお金も一覧にしてください。
保険は、すぐ解約せず「何のための保障か」を分けます
保険料が毎月数万円あると、すべてやめれば生活は楽になります。
ただし、解約すると同じ条件で入り直せない場合や、解約返戻金が想定より少ない場合があります。
契約ごとに確認したいこと
- 誰のための保障か
- 何が起きたときに、いくら受け取れるか
- 保障はいつまで続くか
- 現在の保険料はいくらか
- 解約・減額・払済変更をした場合の扱い
- 公的な医療・介護制度で補える部分は何か
子どもへ保険料を払ってもらう前に、保障を残す方法と負担を下げる方法を契約先へ尋ねます。
住まいは「持ち家だから安心」「売れば解決」と決めつけない
持ち家でも、固定資産税、火災保険、管理費、修繕費がかかります。
賃貸なら、家賃が毎月続き、更新料や保証料が必要な場合があります。
| 選択肢 | 減らせる可能性があるもの | 新たに生じる負担 |
|---|---|---|
| 今の家に住み続ける | 引っ越し費用が不要 | 修繕、税金、管理、庭の手入れ |
| 小さい家へ住み替える | 住居費・光熱費 | 売却・引っ越し費用、新しい環境への適応 |
| 子どもと同居する | 一部の住居費 | 生活費、家事、介護、プライバシーの調整 |
| 公営住宅等を検討する | 家賃負担 | 所得要件、募集時期、抽選、転居 |
子どもとの同居を、毎月の援助の代わりに安易に決めると、家事や介護の役割でもめる場合があります。
同居するなら、生活費だけでなく、食事、掃除、通院、来客、同居期間まで話します。
まだ働ける場合も、生活を壊す働き方は選ばない
不足額が月2万円であれば、週5日のフルタイム勤務でなくても補える可能性があります。
| 不足の状態 | 考えられる補い方 |
|---|---|
| 月1万~2万円 | 短時間勤務、固定費の見直し、給付の確認 |
| 月3万~5万円 | 週数日の就労と支出削減を組み合わせる |
| 月5万円以上 | 住居費を含む家計全体と制度利用を見直す |
| 医療・介護で一時的に不足 | 制度、減免、期限付きの援助を確認する |
全国の主要なハローワークには、概ね60歳以上の求職者を対象とした生涯現役支援窓口があり、年金の受給状況や生活環境を踏まえた職業相談・紹介、職場見学、面接会などの案内を行っています。
ただし、通院、介護、体力などから働くことが難しい場合に、無理を前提にする必要はありません。
家計が苦しくなり始めた段階で、自治体へ持っていけます
「今日食べる物がない」という状態になるまで、公的窓口へ行ってはいけないわけではありません。
生活困窮者自立支援制度では、仕事、住まい、家計など生活上の困りごとを受け付け、状況に応じた支援計画や家計改善支援などを行っています。
窓口へ持っていくメモ
- 毎月の収入と不足額
- 現在の預貯金
- 家賃・住宅ローン
- 税金・保険料の未払い
- 借入れ・カード残高
- 医療・介護の支出
- 子どもから現在受けている援助
子どもへ継続的に仕送りを求める前に、使える制度や減らせる負担がないか、一緒に見てもらう方法があります。
生活そのものが維持できないときは、子どもの返事を待たない
次のような状態では、親子の話し合いだけで何とかしようとせず、自治体へ早めに連絡してください。
- 食費や家賃を払えない
- 電気・ガス・水道が止まりそう
- 必要な医療を受けられない
- 借入れで毎月の生活費を補っている
- 住まいを失うおそれがある
- 子どもへ何度頼んでも生活が立て直せない
生活保護は、利用できる資産や能力、他制度などを活用しても生活に困窮する方に対し、最低限度の生活を保障し、自立を支える制度です。申請・相談の窓口は、住んでいる地域を担当する福祉事務所です。
同居していない親族へ先に相談しなければ生活保護を申請できない、ということではありません。必要書類がすべてそろっていなくても申請できると厚生労働省は案内しています。
「子どもに迷惑をかけられないから」と、食事や受診を削り続けないでください。
子どもへ頼むなら、金額より先に四つを決めます
| 決めること | 例 |
|---|---|
| 援助の目的 | 年金開始までの生活費、給湯器の交換 |
| 必要な金額 | 月2万円、合計15万円まで |
| 援助の期間 | 6か月間、今回一度だけ |
| 次に見直す日 | 3か月後、再就職の結果が出た時点 |
「これからずっと助けて」と言われると、子どもは自分の家計で引き受けられるか判断できません。
期限が分からない場合も、「まず3か月分を相談し、その間に自治体で家計を見てもらう」と区切れます。
親から子どもへは、残高を隠さず、反省会を求めない形で話します
毎月の援助を頼む会話例
「年金の手取りが月14万円で、年払いの税金や車の費用を月割りすると、毎月2万円ほど足りないことが分かった。固定費を見直して、車も今後手放せないか考えている。その間の6か月だけ、月1万円を援助できるか相談したい」
一度だけの援助を頼む会話例
「給湯器が壊れて、交換に18万円必要と言われた。預金から10万円は出せるので、残り8万円について、一部だけ助けてもらえるか話したい。難しければ、分割払い以外の方法を自治体や業者にも聞く」
お金以外の手伝いを頼む会話例
「仕送りを頼む前に、保険と携帯電話の契約を見直したい。今度来たときに、請求書を一緒に見てもらえないかな」
子どもへ伝えるのは、困っている気持ちだけではありません。
自分でも何を変えようとしているかを添えると、「親の生活を全部背負わされる」という不安を減らせます。
子どもがその場で答えられなくても、拒絶と決めつけない
子どもにも、住宅ローン、教育費、病気、離婚、収入減など、親には話していない事情があるかもしれません。
「親が困っているのに助けないのか」と迫ると、金額の話が親子関係の判定へ変わってしまいます。
返事を待つときの言葉
「すぐ返事をしなくていいよ。あなたの家計で無理がないか、家族とも話してから教えてほしい」
「全額でなくても、手続きの手伝いなど、できることがあれば聞かせてほしい」
「難しい場合は、自治体の窓口へ行くので、断りにくいと思わなくて大丈夫」
援助できないという返事は、親を大切に思っていないという意味ではありません。
兄弟姉妹がいる場合は、一人へ黙って負担を集中させない
近くに住む長女だけ、収入が高そうな長男だけに頼ると、後からきょうだい間でもめることがあります。
| 分担の例 | 内容 |
|---|---|
| 金額を分ける | 3人が可能な範囲で月額を分担する |
| 役割を分ける | 一人は金銭、一人は通院、一人は手続きを担当する |
| 一時費用だけ共同負担 | 修繕費などを一度だけ分ける |
| 援助できない人も情報を共有する | 負担できない事情を責めず、状況だけ共有する |
過去に親から援助を受けた額を持ち出して、「あなたは多くもらったから今回は払って」と迫ると、昔の不満まで広がります。
今の能力と今後の継続可能性を基準にします。
援助が「贈与」か「貸付け」かを曖昧にしない
子どもから受け取るお金を後で返すつもりなら、返済額や時期を簡単な書面へ残します。
返済を求めない援助であれば、そのことも双方で認識を合わせます。
残しておきたい項目
- 援助または貸付けの金額
- 使い道
- 渡した日
- 返済の有無
- 返済する場合の期限と方法
- 継続援助の終了日
国税庁は、親子などの扶養義務者から、通常必要と認められる生活費を必要な都度受け取り、直接その生活費へ使う場合は贈与税の対象にならないと案内しています。一方、数年分を一括で受け取り、預貯金や投資などに回した部分には贈与税がかかる場合があります。
金額、渡し方、使途によって税務上の扱いは異なるため、まとまった援助や不動産を含む援助は税務署や税理士へ個別に確かめてください。
子どもの名義や信用を使って借りる方法には進まない
援助を断られたからと、次の方法へ進むのは避けてください。
- 子ども名義でカードローンを契約してもらう
- 住宅や車のローンで保証人になってもらう
- 子どものクレジットカードを借りる
- 子どもの住所や勤務先を無断で申込書へ書く
- 返す予定がないのに「必ず返す」と言って借りる
- 損失を取り戻すため、子どものお金で投資する
一度の不足を借金で埋めても、毎月の赤字が残っていれば返済分だけ負担が増えます。
借入れを考える前に、家計改善支援や多重債務の相談窓口へ現在の収支を持っていきます。
子どもの立場では、「できる額」と「できないこと」を言葉にします
親からお金を求められた子どもは、「断れば親を見捨てることになる」と感じるかもしれません。
しかし、自分の家庭が赤字になる援助は続きません。
子どもからの返答例
「毎月3万円を続けるのは難しいけれど、半年間なら月1万円まで出せる。その間に家計相談へ一緒に行こう」
「現金の援助はできないけれど、携帯電話と保険の見直し、役所の手続きは手伝える」
「今回は10万円まで援助できる。ただし、次回から同じ額を出すことは難しいので、今後の不足額を一緒に計算したい」
親を助けることと、自分の生活を守ることは両立できます。
家計全体を中立的な立場で見てもらう方法もあります
家族だけで話すと、過去の使い方や親子関係の話になり、数字を見られないことがあります。
J-FLECでは、家計管理や生活設計、資産形成などに関する無料の相談機会を提供しています。個別の金融商品やサービスを提案・推奨しない相談も用意されています。
相談時に持っていくもの
- 年金の振込額が分かる通帳
- 1か月の支出メモ
- 税金・保険料の通知
- 保険証券や契約一覧
- 住宅ローン・借入れの残高
- 現在の預貯金
- 子どもへ頼みたい金額と期間
「子どもへいくら頼めばよいか」ではなく、「子どもの援助がなくても減らせる不足はいくらか」と聞くと、長く続けられる家計へつながります。
今日するのは、子どもへメッセージを送ることではありません
今日は紙に、次の三つだけ書いてください。
| 今日書く数字 | 自分の家の金額 |
|---|---|
| 毎月の収入合計 | 円 |
| 年払い費用を含む毎月の支出 | 円 |
| 毎月の不足額 | 円 |
次に、その不足が一時的なのか、今後も続くのかを書きます。
来月の車検だけなら、一度の支払いをどうするか考えます。
毎月3万円足りないなら、固定費、給付、就労、住まい、公的支援を組み合わせます。
それでも不足が残ったとき、初めて子どもへ頼む金額と期間を決めます。
子どもの援助を受けることは、親として失敗した証明ではありません。
けれど、子どもの好意を、期限のない老後計画の代わりにしないことも必要です。
「いくらでもいいから助けて」ではなく、「月1万円を6か月。その間に固定費と制度を見直す」と伝える。
それなら子どもも、自分の生活を守りながら答えを考えられます。
まずは今日、三つの数字を書いてください。
頼るかどうかを決めるのは、その後で遅くありません。
出典・確認先メモ
- 日本年金機構「ねんきんネットによる年金見込額試算」:就業期間、収入、受給開始年齢などを設定した年金見込額の確認先。
- 厚生労働省「年金生活者支援給付金制度」:所得が一定基準以下の年金受給者に対する給付の要件と手続きの確認先。
- 厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」:家計改善、住まい、就労など、生活上の困りごとに関する確認先。
- 厚生労働省「生活保護制度」「生活保護を申請したい方へ」:制度の要件、福祉事務所、親族への相談と申請の関係に関する確認先。
- 厚生労働省「生涯現役支援窓口事業」:概ね60歳以上の求職者向けの職業相談・紹介に関する確認先。
- 国税庁「贈与税がかからない場合」:扶養義務者間で受け取る通常必要な生活費と贈与税の扱いに関する確認先。
- J-FLEC「専門家に相談したい」:家計管理や生活設計に関する無料相談の確認先。
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