固定資産税の通知より先に、隣家から草刈りの連絡が来た
父から相続した土地は、今の自宅から車で三時間ほど離れた場所にあります。
家が建っているわけでもなく、家族の誰かが使う予定もありません。何がある土地なのかさえ、現地へ行かなければよく分からない状態です。
春に固定資産税の納税通知書が届き、夏には隣地の方から「草がこちらへ伸びています」と電話が入りました。
不動産会社へ聞くと、「この地域は買い手が少ない」と言われます。きょうだいは「父から受け継いだ土地だから、ただ同然で売るのは嫌だ」と言うものの、管理を引き受けるとは言いません。
使わない。売れない。それでも税金と管理は続く。
この状態になると、「何か活用しなければ」と駐車場や太陽光発電を考えたくなります。しかし、需要がない土地へ費用をかけても、管理負担が増えるだけかもしれません。
最初に探すのは、土地の立派な活用方法ではありません。
その土地が何で、誰の名義になっていて、持ち続けると毎年いくらかかるのか。その事実をそろえることが先です。
土地を見たことがないなら、使い道を決める前に「正体」を確かめます
相続した土地について、家族が知っているのは「山の近く」「昔は畑だった」といった話だけということがあります。
固定資産税の納税通知書、登記事項証明書、公図などを使い、少なくとも次の項目を見てください。
- 土地の所在地と地番
- 登記上の所有者と共有者
- 各共有者の持分
- 登記上の地目と現在の利用状況
- 土地の面積
- 抵当権などの権利が付いていないか
- 公道へ接しているか
- 隣地との境界が分かるか
- 建物、物置、井戸、廃棄物、樹木などがあるか
- 固定資産税や管理費が年間いくらかかるか
登記上は宅地でも、現地では竹や樹木が生い茂っている場合があります。反対に、登記では畑でも、長く耕作されていないこともあります。
地目の文字だけで処分方法を決めず、現地の写真や地図も見てください。
遠方で自分が行けない場合は、親族、地域の管理業者、不動産会社などへ、道路から撮影できる範囲の写真を依頼します。無断で隣地へ入ったり、崩れかけた斜面へ近づいたりする必要はありません。
使い道のない土地には、五つの出口があります
| 選択肢 | 向いている土地 | 先に見る負担 |
|---|---|---|
| 第三者へ売る | 周辺に取引需要があり、権利関係と境界を説明できる土地 | 仲介費用、測量、造成、税金、売却までの管理 |
| 貸す・活用する | 駐車場、資材置場、農地などとして使う人が見込める土地 | 整備費、契約、事故対応、固定資産税、利用終了後の状態 |
| 近隣所有者などへ譲る | 隣地と一体で使うと価値が出る小規模地や細長い土地 | 相手の同意、登記費用、測量、税金 |
| 管理しながら期限付きで保有する | 相続手続中、道路計画、家族利用などを短期間待つ理由がある土地 | 草刈り、倒木、防犯、税金、見直し期限 |
| 国へ引き渡す | 相続で取得し、国庫帰属制度の要件を満たす土地 | 審査手数料、負担金、建物撤去、境界や土地状態の改善 |
売れない土地でも、隣地の所有者には必要なことがあります。
庭や進入路を広げたい、農地をまとめたい、境界を分かりやすくしたいという事情があるからです。
一般の市場へ広告を出す前に、不動産会社を通して隣地所有者の意向を聞く方法もあります。
ただし、隣地へ「無料でよいから引き取って」と突然頼むと、相手は税金や登記費用を押し付けられると感じるかもしれません。
「売買または譲渡を検討しています。取得する意思があるか、費用条件を含めて一度聞かせてください」と伝える方が現実的です。
土地そのものに買い手がいなくても、隣接地と組み合わせることで利用価値が生まれる場合があります。最初から全国の買主だけを探さず、近隣で必要とする人がいないかも見ます。
「駐車場にすれば収入になる」は、車が止まる土地かを見てからです
使い道のない土地について調べると、月極駐車場、コインパーキング、資材置場、家庭菜園、太陽光発電などが候補に出てきます。
どれも、土地を持っているだけで収入になる方法ではありません。
例えば駐車場なら、次の条件が関わります。
- 車が安全に出入りできる道路幅があるか
- 駅、住宅、病院、店舗など周辺に需要があるか
- 舗装、照明、車止め、看板へいくらかかるか
- 事故、無断駐車、除雪、草刈りを誰が対応するか
- 土地の地目や法令上、予定する用途で使えるか
資材置場や看板用地として貸す場合も、借主が何を置くのか、騒音や廃棄物が残らないか、契約終了時にどの状態で返してもらうかを決める必要があります。
「活用できるか」ではなく、初期費用を何年で回収できるかまで計算してください。
年間収入から、固定資産税、管理費、修繕費、空き期間、保険、税務上の負担を引いても手元に残るかを見ます。
農地を相続した場合は、勝手に駐車場や宅地へ変えられません
田や畑を相続した場合は、一般の宅地と同じ方法では動かせません。
農地を相続した人は、農地がある市町村の農業委員会へ届出が必要です。農林水産省は、相続発生からおおむね十か月以内の届出を案内しています。
この届出は、法務局で行う相続登記とは別です。
自分で耕作しない場合は、農業委員会へ、地域で借り手を探せるか尋ねます。農地中間管理機構、いわゆる農地バンクへ貸し付ける方法もあります。
電話では、
「相続した農地ですが、遠方に住んでおり耕作できません。届出に必要な書類と、農地バンクや地域の担い手へ貸せる可能性を教えてください」
と伝えます。
農地を売ったり貸したりする場合は、原則として農業委員会の許可など、法律に基づく手続が必要です。
また、駐車場、住宅、資材置場など、農業以外の用途へ変える農地転用にも許可が必要になるのが原則です。
荒れているから農地ではない、長年作っていないから自由に使えるとは判断しないでください。
山林を相続したら、税額が低くても届出と管理が残ることがあります
山林は固定資産税が少額なこともあり、「持っていても困らない」と思われがちです。
しかし、倒木、土砂、境界、作業道、害虫などの問題が起きると、現地確認や対応が必要になります。
地域森林計画の対象となる森林の土地を相続などで取得した場合は、面積にかかわらず、土地の所有者となった日から九十日以内に市町村へ届出が必要です。
登記上の地目が山林でなくても、現況が森林なら対象になる可能性があります。
届出の対象か分からないときは、土地がある市町村の林務担当へ、地番を伝えてください。
「相続した土地が地域森林計画の対象か知りたいです。必要な届出と、管理や森林経営に関する制度を教えてください」
森林組合などへ施業や管理を頼める地域もありますが、木があるだけで収益になるとは限りません。搬出路、樹種、木の状態、面積によって費用が上回る場合もあります。
自治体への寄付は、申し出れば受け取ってもらえる制度ではありません
「売れないなら、市役所へ寄付すればよい」と考える方もいます。
自治体は、道路、公園、防災用地などとして使う具体的な目的がある土地なら、受入れを検討する場合があります。
一方、利用予定がなく、草刈りや崖の管理だけが必要な土地を、無条件で受け取るとは限りません。
寄付を希望する場合は、土地の所在地、面積、現況、境界、建物の有無を伝え、受入れ制度や公共利用の予定があるかを聞いてください。
「使い道がない土地を相続しました。自治体への寄付または地域利用の対象になり得るか、担当部署と必要資料を教えてください」
自治体が受け取らない場合でも、自治会、隣地所有者、地域団体などが必要としている可能性はあります。
ただし、贈与であっても登記、測量、税金などが関わるため、口約束で土地を渡さないことです。
相続土地国庫帰属制度は、「国がどんな土地でも引き取る制度」ではありません
相続土地国庫帰属制度は、相続や一定の遺贈によって土地を取得した相続人が、要件を満たす土地を国へ引き渡す制度です。
2023年4月27日より前に相続した土地も対象になり得ます。
ただし、次のような土地は、そのままでは申請できない、または承認されない可能性があります。
- 建物が残っている
- 抵当権など第三者の権利が設定されている
- 境界や所有権をめぐる争いがある
- 他人が通路などとして使用している
- 土壌汚染や管理を妨げる埋設物がある
- 危険な崖や倒木などがあり、過大な管理費を要する
- 通常の管理を妨げる廃棄物や工作物がある
- 共有地について、共有者全員の申請がそろわない
審査手数料は、土地一筆につき一万四千円です。申請を取り下げた場合や、不承認になった場合でも返還されません。
承認された後は、国による十年分の標準的な管理費に相当する負担金を納めます。二十万円が基本ですが、市街化区域などの一部の宅地・農地や森林では、面積に応じて二十万円を超える場合があります。
申請した時点で土地を手放せるわけではありません。承認され、指定された負担金を納めるまでは所有者が管理を続けます。
法務局への事前相談は予約制で、家族が相談することもできます。
相談票とチェックシートに加え、登記事項証明書、公図、境界資料、現地写真を用意すると、制度の対象になりそうかを聞きやすくなります。
「土地だけ相続放棄」はできません
相続した預金は受け取り、使い道のない土地だけ放棄したい。
このような選び方は、相続放棄ではできません。
相続放棄は、亡くなった方の財産上の権利と義務を、原則として一切受け継がないための手続です。
申述期間は、自己のために相続が始まったことを知ったときから原則三か月以内です。家庭裁判所へ申述する必要があり、親族へ「私は要らない」と伝えるだけでは相続放棄になりません。
預金を使ったり、土地を処分したりした後は、相続放棄が難しくなる場合があります。
まだ相続発生から間もなく、土地以外の借金や財産も分からない場合は、土地の処分を急ぐ前に遺産全体を調べてください。
三か月で調査が終わらない場合は、家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てられることがあります。
登記をしないまま放置しても、土地は消えません
相続登記をしなければ、自分の土地にならず、税金や管理から離れられると思う方がいます。
しかし、登記が亡くなった親御さんの名義のままでも、相続関係そのものがなくなるわけではありません。
2024年4月1日から相続登記は義務化されています。
不動産を相続で取得したことを知った日から、原則三年以内に相続登記が必要です。2024年4月1日より前に相続したことを知り、まだ登記していない不動産については、原則として2027年3月31日までが期限になります。
正当な理由なく義務を果たさない場合、十万円以下の過料が科される可能性があります。
遺産分割が決まらず、期限内に所有者を確定できない場合は、相続人申告登記によって義務を果たせる場合があります。
ただし、相続人申告登記だけでは、土地を売却するための所有権登記にはなりません。処分するときは、遺産分割などに基づく相続登記が必要です。
売れる土地でも、税金の期限を知らずに保留すると差が出ることがあります
相続した土地を売却して利益が出た場合は、譲渡所得に対する税金が関わります。
土地の取得費は、原則として亡くなった方が購入したときの代金などを引き継ぎます。古い土地で購入資料が見つからないと、税額の計算へ影響することがあります。
売却を考えるなら、売買契約書、領収書、造成費、測量費など、亡くなった方が保管していた資料を捨てないでください。
相続税を納めた人が相続財産を一定期間内に売却した場合、相続税の一部を取得費へ加算できる特例があります。
売却期限などの要件があるため、「数年は何もせず持っておく」と決める前に、適用の可能性を税務署や税理士へ確かめます。
きょうだいが「残したい」と言うなら、管理する人と金額まで決めます
一人は売りたい。もう一人は、親の土地を手放したくない。
この場合、思い出の価値を否定しても話はまとまりません。
残す案を選ぶなら、次の三点まで決めます。
- 固定資産税や管理費を誰が、何割払うか
- 草刈り、倒木、近隣対応を誰が担当するか
- いつまで保有し、どの時点で処分を再検討するか
話を始めるときは、次のように伝えます。
「売るか残すかを今日決めたいわけではない。ただ、年間の税金と管理費が〇円かかっている。残すなら、費用と現地対応を誰が担うか、次に見直す日まで決めたい」
土地が共有名義になっている場合、全体を売却したり国庫帰属を申請したりするには、共有者全員の意思が関わります。
誰も管理を引き受けないまま「とりあえず共有」にすると、次の世代で共有者が増え、さらに処分しにくくなる可能性があります。
倒木や崩落の危険がある土地は、売却先探しより先に安全を確保します
草が伸びている程度なら、管理方法を決めながら売却や活用を検討できます。
一方、次の状態では、家族会議や査定を待たずに動いてください。
- 木が道路や隣家へ倒れそうになっている
- 崖や石垣が崩れかけている
- 土地から大量の水や土砂が流れ出している
- 不法投棄された物に油、薬品、火気の危険がある
- 不審者が侵入している、または違法行為が進行している
差し迫った火災や人身危険があれば119番、不法侵入や犯罪が起きている場合は110番を優先します。
緊急性はないものの、道路、崖、倒木など周辺への影響が心配なときは、市町村の道路、建築、林務、防災などの担当部署へ地番と現況を伝えてください。
今日は固定資産税の通知書で、土地の地番と地目だけを見ます
売る、貸す、国へ渡す。どれを選ぶとしても、土地を特定できなければ話は進みません。
今日は固定資産税の納税通知書を開き、対象土地の「所在地・地番」「地目」「地積」「所有者名」の四か所を見てください。
その内容を使い、法務局で土地の登記事項証明書を一通取得します。
農地なら農業委員会、森林の可能性があれば市町村の林務担当、一般の宅地や雑種地なら不動産会社へ、同じ地番を伝えます。
最初の連絡は、次の一文で構いません。
「相続した土地の使い道がなく、売却、賃貸、国庫帰属を含めて考えています。まず、この土地に必要な届出と、利用・処分の制限を教えてください」
今日、処分方法まで決める必要はありません。
土地の正体が分かれば、漠然とした「いらない土地」を、売れる土地、貸せる土地、管理する土地、制度を使って手放す土地へ分けられます。


















