「また外に出たらどうしよう」と思う夜は、家族も眠れません
親御さんが夕方になると玄関に向かう。買い物に行くと言って出たのに、いつもの時間に帰ってこない。以前は迷わなかった近所の道で迷った。夜中に「家に帰る」と言って外へ出ようとする。
こうしたことが一度でもあると、ご家族は一気に緊張します。
鍵をかければいいのか。GPSを持たせればいいのか。近所に言うべきか。警察に相談していいのか。本人に強く言えば分かってくれるのか。考えることが多すぎて、家の中にいてもずっと玄関の音を聞いているような気持ちになります。
ただ、ここで「出歩かないで」「迷惑をかけないで」と責めるだけでは、うまくいかないことがあります。親御さん本人にも、外へ出る理由があります。昔の職場へ行こうとしている、実家へ帰ろうとしている、家族を探している、トイレや買い物のつもりで外へ出ている、不安でじっとしていられない。本人なりの目的がある場合もあります。
徘徊という言葉は家族の不安を表すには分かりやすい一方で、本人から見ると「理由なく歩き回っている」と決めつけられたように感じることもあります。この記事では検索されやすい言葉として「徘徊」も使いますが、本文ではできるだけ「外に出て戻れなくなる」「道に迷う」「一人歩きが心配」といった視点で整理していきます。
まず見るのは「なぜ出るのか」と「いつ危ないのか」です
見守り対策を考えるとき、最初からGPSや鍵を買う必要はありません。
まずは、親御さんがどんな時間に、どんなきっかけで、どこへ向かいやすいのかを見ます。ここが分かると、対策がかなり具体的になります。
| 見ること | 家族が書くメモ | 対策につながる理由 |
|---|---|---|
| 出やすい時間 | 夕方、夜中、早朝、デイサービス後など | 玄関センサー、家族の見守り、声かけの時間を合わせやすい |
| 出る前の様子 | そわそわする、荷物を持つ、昔の話をする、怒る、不安そう | 本人の不安や目的を読み取りやすい |
| 向かいやすい場所 | 昔の家、職場、駅、スーパー、畑、墓地、親戚宅など | 探す場所や近所への共有範囲が決まる |
| 服装・持ち物 | 上着、帽子、靴、杖、バッグ、財布、携帯電話 | 行方不明時に説明しやすい |
| 戻れなくなった経験 | 迷った場所、保護された場所、帰宅までの時間 | リスクの高さを判断しやすい |
| 家族の見守り限界 | 同居・別居、夜間対応、仕事中の不在、遠距離介護 | 家族だけでなく地域やサービスを使う判断材料になる |
メモは、親御さんを監視するためではありません。安全に戻れる道を増やすための地図です。
「昨日も出た」「また迷った」と感情だけで覚えていると、家族同士でも話がずれます。日付、時間、服装、行き先、見つかった場所だけでも残しておくと、地域包括支援センターや医師、ケアマネジャー、警察へ相談するときに役立ちます。
家の中の対策は、閉じ込めるより「気づける仕組み」を作ります
親御さんが外へ出るのを防ぎたいと思うと、玄関の鍵を増やす、ドアを開けにくくする、靴を隠す、といった方法が浮かぶかもしれません。
ただ、本人が外へ出ようとしている理由を無視して閉じ込めるような形になると、怒りや不安が強くなったり、別の出口から出ようとしたり、転倒や事故につながることがあります。火災や災害時の避難にも注意が必要です。
家の中では、「絶対に出さない」よりも「出ようとしたことに早く気づく」「安全な声かけにつなげる」仕組みを考えます。
| 対策 | できること | 注意点 |
|---|---|---|
| 玄関センサー・開閉ベル | ドアが開いたときに家族が気づける | 音に本人が驚かないか、夜間の使い方を考える |
| 室内の照明 | 夜間の転倒や出口の勘違いを減らす | まぶしすぎない照明にする |
| 靴や上着の置き方 | 外出準備の兆候に気づきやすい | 隠すだけでは本人の不安が強まる場合がある |
| カレンダー・予定表 | 「今日はどこへ行く日か」を見える化する | 本人が読める大きさ、場所にする |
| 玄関の張り紙 | 「今日は家で休む日」「出るときは声をかけて」などを伝える | 命令口調にしない。本人が嫌がる表現は避ける |
| 夜間の生活リズム | 昼寝、夕方の不安、トイレ、空腹、薬の影響を見る | 医師やケアマネジャーに生活リズムも相談する |
鍵を強化する場合も、本人の安全、家族の負担、緊急時の避難をセットで考えてください。家族だけで判断に迷うときは、地域包括支援センターやケアマネジャーに家の状況を伝え、住宅内の安全対策として相談すると進めやすくなります。
外に出る前提で、身元が分かる工夫をしておきます
本音を言えば、外へ出ないでほしい。そう思うのは当然です。
ただ、現実には、家族が24時間ずっと見ていることは難しいです。だからこそ、「もし出たら、早く身元が分かる」準備が必要になります。
| 身元確認の工夫 | 具体例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 連絡カード | 名前、緊急連絡先、持病、住所の一部などをカードにする | 個人情報をどこまで書くか家族で決める |
| 衣類の名前タグ | 上着、帽子、靴、バッグに連絡先を入れる | 本人が嫌がらない形にする |
| 見守りシール・QRコード | 自治体の見守り登録やシールを使う | 自治体によって制度や申込方法が異なる |
| 最近の写真 | 顔写真、全身写真、よく着る服装を撮っておく | 探すときにすぐ共有できるよう家族で保管する |
| よく行く場所リスト | 駅、スーパー、公園、昔の家、墓地、職場跡など | 行方不明時の捜索範囲を絞りやすい |
| 医療・介護情報 | 認知症の診断、服薬、持病、歩行状態など | 保護後の対応や医療判断に役立つ |
本人に持たせるものは、「迷子札」のように見えると嫌がられることがあります。財布の中、バッグの内側、靴の内側、上着のタグなど、本人の尊厳を傷つけにくい形を選びましょう。
行方不明になったとき、昔の写真では服装や髪型が違って探しにくいことがあります。正面の顔写真だけでなく、よく着る上着や帽子を含めた全身写真も残しておくと、警察や地域の協力者へ説明しやすくなります。
GPSは役立ちますが、それだけで安心とは考えません
徘徊対策として、GPSや見守り端末を考えるご家族は多いです。
GPSは、親御さんの居場所を確認する助けになります。特に、一人で外へ出ることがある、過去に迷ったことがある、遠距離介護で様子が見えにくい場合には、家族の不安を減らす手段になります。
ただし、GPSは万能ではありません。
| GPSでできること | 弱いところ | 補う方法 |
|---|---|---|
| 現在地の目安を確認できる | 建物内や地下ではずれることがある | よく行く場所リストと組み合わせる |
| 家族がスマホで位置を見られる | 家族が通知に気づかないことがある | 見る担当を複数人にする |
| 一定範囲を出たら通知できる機種がある | 設定や通信環境に左右される | 最初に自宅周辺で試す |
| 早く探し始められる | 本人が持っていなければ使えない | 靴、杖、バッグ、上着など持ちやすい場所に工夫する |
| 遠距離の家族も状況を把握しやすい | 充電切れや契約費用がある | 充電担当と月額費用を家族で決める |
GPSを選ぶときは、機能だけでなく「本人が持ち続けられるか」を見てください。
大きすぎる、重い、充電が面倒、本人が外してしまう、バッグを持たずに出る。こうした理由で、いざというとき役に立たないことがあります。靴に入れるタイプ、キーホルダー型、バッグに入れるタイプ、スマホアプリなど、生活習慣に合うものを選ぶ必要があります。
近所に知らせるか迷うときは、範囲と伝え方を決めます
親御さんの一人歩きが心配でも、近所に言うのは迷うものです。
「認知症だと知られたくない」「うわさになったら嫌だ」「親のプライドを傷つけるのでは」と考えるご家族もいます。
その気持ちは自然です。ただ、実際に外へ出て戻れなくなる可能性がある場合、近所の協力が早期発見につながることもあります。
| 共有する相手 | 伝える内容 | 伝えすぎないこと |
|---|---|---|
| 隣近所の信頼できる人 | 一人で歩いていたら家族に連絡してほしい | 病名や詳しい家庭事情をすべて話す必要はない |
| よく行く店 | 同じ物を何度も買う、道に迷うことがある場合の連絡先 | 本人を止める役割まで押しつけない |
| 自治会・民生委員 | 見守りが必要な高齢者として情報共有できるか | 本人の尊厳を損なう言い方を避ける |
| 交番・警察署 | 行方不明時の連絡、事前登録制度の有無 | まだ事件ではないからと遠慮しすぎない |
| 地域包括支援センター | 見守り体制、介護サービス、自治体制度を相談する | 家族だけで結論を急がない |
伝え方は、次のように短くて構いません。
| 場面 | 言い方の例 |
|---|---|
| 近所へ | 「最近、母が一人で外に出て道に迷うことがあります。もし見かけて心配な様子なら、こちらに連絡をいただけると助かります」 |
| よく行く店へ | 「父が同じ買い物で何度か来ることがあります。困っている様子があれば、家族に連絡いただけますか」 |
| 交番へ | 「認知症の親が一人で外に出ることがあり、事前にできる登録や相談があるか確認したいです」 |
| 地域包括支援センターへ | 「親が外へ出て戻れなくなることが心配です。家族だけで見守るのが難しく、地域の制度を知りたいです」 |
地域に知らせることは、親御さんをさらし者にすることではありません。安全に戻るための目を、家族以外にも少し持ってもらうということです。
自治体の見守り登録やSOSネットワークは、早めに調べておきます
自治体によっては、認知症の方や行方不明になるおそれのある高齢者を対象に、見守り登録、SOSネットワーク、QRコードシール、メール配信、協力事業者への情報共有などを行っている場合があります。
制度名や内容は地域によって違います。だからこそ、「まだ大丈夫」と思う段階で調べておく方がよいです。
| 制度・仕組み | できることの例 | 確認先 |
|---|---|---|
| 見守り登録 | 氏名、特徴、写真、連絡先、よく行く場所などを事前登録する | 自治体、高齢者福祉担当課、地域包括支援センター |
| SOSネットワーク | 行方不明時に地域や協力機関へ情報共有する | 自治体、警察、地域包括支援センター |
| QRコード・見守りシール | 発見者が連絡につなげやすくする | 自治体、地域包括支援センター |
| GPS貸与・購入助成 | GPS端末の費用補助や貸与を受けられる場合がある | 自治体、介護保険担当、高齢者支援窓口 |
| 認知症初期集中支援チーム | 医療・介護につながりにくい場合に訪問支援を受けられることがある | 地域包括支援センター、市区町村 |
| 認知症カフェ・家族会 | 家族の悩みや地域情報を共有できる | 自治体、地域包括支援センター、家族会 |
こうした制度は、いざ行方不明になってから調べると間に合いません。事前登録が必要なものもあります。
地域包括支援センターへ電話して、「外に出て戻れなくなることが心配です。見守り登録やSOSネットワークはありますか」と聞いてみてください。これだけでも、家族だけで抱えている状態から一歩外に出られます。
行方不明になったときは、遠慮せず早く動きます
親御さんが見当たらないとき、ご家族は最初に「少し待てば帰ってくるかも」と思うことがあります。
もちろん、近所を歩いているだけで戻ることもあります。ただ、認知症の方が道に迷っている場合、時間が経つほど移動範囲が広がり、暑さ、寒さ、転倒、交通事故、脱水などの危険も高まります。
見つからないときは、家族だけで探し続けず、早めに警察へ連絡してください。
| すぐ確認すること | 具体例 |
|---|---|
| 最後に見た時間 | 何時ごろ、どこで見たか |
| 服装 | 上着、ズボン、帽子、靴、バッグ、杖 |
| 持ち物 | 財布、携帯、GPS、鍵、保険証、交通系ICカード |
| よく行く場所 | 駅、スーパー、公園、昔の職場、親戚宅、墓地 |
| 移動手段 | 徒歩、自転車、バス、電車、車 |
| 写真 | 最近の顔写真、全身写真 |
| 体調 | 持病、薬、歩行状態、暑さ寒さへの弱さ |
家族内で探す場合も、役割を分けます。
| 役割 | すること |
|---|---|
| 警察連絡担当 | 行方不明の届出や相談、特徴の説明をする |
| 自宅待機担当 | 本人が戻ったときに対応する |
| 近所確認担当 | よく行く場所、近所、店、駅、公園を確認する |
| 家族連絡担当 | 兄弟姉妹、親族、ケアマネジャーへ共有する |
| 情報整理担当 | 写真、服装、持ち物、時間をまとめる |
「大げさかもしれない」とためらう必要はありません。行方不明の対応は、早いほど選択肢が増えます。
本人を責めない帰宅後の声かけが、次の安全につながります
親御さんが無事に見つかったとき、ご家族は安心と怒りが一気に来ます。
「どこに行っていたの」「どれだけ心配したと思っているの」「もう出ないで」。言いたくなるのは当然です。こちらも心臓が何個あっても足りません。
ただ、帰宅直後に強く責めると、本人が外出を隠すようになったり、家族への不信感が強くなったりすることがあります。
| 避けたい言い方 | 代わりの言い方 |
|---|---|
| 「なんで勝手に出たの」 | 「戻ってきてくれてよかった。寒くなかった?」 |
| 「迷惑をかけないで」 | 「心配だったから、次は一緒に出られるようにしよう」 |
| 「もう外に出ないで」 | 「出かけたいときは、声をかけてくれると助かる」 |
| 「認知症なんだから」 | 「道が分かりにくかったかもしれないね」 |
| 「家族がどれだけ大変か分かる?」 | 「安全に帰れる方法を一緒に考えよう」 |
帰宅後に見るべきなのは、叱ることではなく、次に同じことが起きたときの備えです。
- どこで見つかったか
- 何時ごろ出たか
- どんな服装だったか
- GPSや連絡カードを持っていたか
- 誰が気づいたか
- どこに連絡すれば早かったか
この記録を残して、地域包括支援センターやケアマネジャーに共有してください。家族だけで反省会をすると、責め合いになりがちです。第三者に入ってもらう方が、次の対策につながります。
家族だけで24時間見守る前提をやめてもいい
親御さんの徘徊が心配になると、ご家族は「自分たちが見ていなければ」と思い詰めやすくなります。
でも、24時間ずっと見守る生活は、家族の心身を削ります。夜眠れない。仕事中もスマホが気になる。買い物中も不安。遠距離の家族は現場に行けない罪悪感を抱える。こうなると、介護する側が先に倒れてしまいます。
見守りは、家族だけで完結させるものではありません。
| 家族の状態 | 考えたい支援 | 相談先 |
|---|---|---|
| 夜間外出がある | 夜間の見守り、ショートステイ、生活リズムの見直し | ケアマネジャー、地域包括支援センター、医師 |
| 日中一人になる | デイサービス、訪問介護、地域見守り | 地域包括支援センター、ケアマネジャー |
| 遠距離で様子が見えない | 見守り機器、近所・自治体制度、定期訪問 | 自治体、高齢者福祉窓口、民間サービス |
| 行方不明歴がある | SOS登録、警察相談、GPS、写真準備 | 警察、自治体、地域包括支援センター |
| 家族が眠れない | 介護サービスの見直し、レスパイト、施設相談 | ケアマネジャー、地域包括支援センター |
見守り対策は、「家で頑張るか、施設に入るか」の二択ではありません。デイサービス、訪問介護、ショートステイ、地域の見守り、GPS、自治体登録、近所の協力を組み合わせることで、家族の負担を少しずつ分散できます。
今日できる一歩は、玄関を見張り続けることではありません
徘徊が心配になると、家族はずっと親御さんの動きを見張るようになります。
でも、見張り続ける生活は長く続きません。今日できる一歩は、監視を強めることではなく、見つけやすくする準備を一つ増やすことです。
- 最近の顔写真と全身写真を撮る
- よく行く場所を5つ書き出す
- 連絡カードを財布やバッグに入れる
- 地域包括支援センターに見守り制度を聞く
- 自治体のSOSネットワークや見守り登録を調べる
- GPSを使うなら、充電と持たせ方を家族で決める
- 行方不明時に誰が警察へ連絡するか決める
全部を今日やらなくて大丈夫です。まずは一つで十分です。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」
- 厚生労働省「見守り・SOS体制づくり基本パッケージ・ガイド」
- 厚生労働省「行方のわからない認知症高齢者等をお探しの方へ」
- 警察庁「行方不明者届受理等の状況」
- 地域包括支援センター、市区町村の高齢者福祉担当課
- 警察署・交番、ケアマネジャー、かかりつけ医、認知症疾患医療センター
自治体の見守り登録、SOSネットワーク、GPS助成、QRコードシール、警察への事前相談、介護サービスの利用条件は地域によって異なります。実際に利用する際は、お住まいの自治体や地域包括支援センター、警察署などで最新情報をご確認ください。
親御さんが外へ出て戻れなくなるかもしれないと思うと、家族は本当に休まりません。けれど、外出をゼロにすることだけを目標にすると、本人も家族も苦しくなります。早く気づく、早く見つける、安全に戻れる。そのための小さな仕組みを、今日一つだけ増やしてみてください。















