「通帳がない」と言われた瞬間、家族の心臓も少し止まりそうになります
親から突然、「通帳がない」「誰かが持っていった」「あんたが取ったんじゃないの」と言われる。
最初は、いつもの場所に置き忘れただけだと思って探します。引き出し、仏壇の横、タンス、バッグ、保険証のケース、昔の封筒。けれど見つからない。
そのうち親は不安そうになり、家族は焦り、最後には「だからちゃんと決めた場所に置いてって言ったでしょ」と強い言い方になってしまう。
認知症やもの忘れがある親の通帳が見つからないとき、問題は「通帳1冊」だけではありません。
生活費が引き出せないかもしれない。年金が入る口座なのかもしれない。印鑑やキャッシュカードも一緒にないかもしれない。誰かに取られたと思い込んで家族を疑うかもしれない。銀行で手続きしようとしても、本人確認や意思確認が必要になるかもしれない。
ここで家族が一番やってしまいやすいのは、親を問い詰めることです。
「どこに置いたの?」
「なんでまたなくすの?」
「さっき自分でしまったんじゃないの?」
言いたくなるのは自然です。家族も困っているのですから。
でも、親本人も不安の中にいます。通帳がないこと以上に、「自分の記憶があてにならない感じ」「お金を失う怖さ」「家族に管理されるかもしれない怖さ」を感じていることがあります。
まずは、探すこと、止めること、相談することを分けて進めましょう。
最初は「盗られたの?」ではなく、いつもの隠し場所を一緒に探します
認知症があると、本人は本気で「ここに置いたのにない」と感じていることがあります。
家族から見ると、しまった場所を忘れているだけに見えても、本人にとっては「誰かに取られた」くらい怖い出来事です。
だから最初の声かけは、事実確認より安心が先です。
| 避けたい言い方 | 理由 | 言い換え例 |
|---|---|---|
| またなくしたの? | 責められたと感じ、怒りやすくなる | 「見つからないと心配だよね。一緒に見てみよう」 |
| 自分でどこかに置いたんでしょ | 本人の不安を否定されたように感じる | 「いつも置く場所から順番に見よう」 |
| 誰も取らないよ | 本人には安心ではなく反論に聞こえる | 「大事なものだから、心配になるよね」 |
| ちゃんと管理してよ | 自尊心を傷つける | 「次から分かりやすい場所を一緒に決めよう」 |
| もう私が預かるから | お金を奪われる不安につながる | 「必要なときにすぐ出せるように、置き場所だけ一緒に決めたい」 |
探す順番も、家族の感覚だけで動くより、親の生活パターンに沿った方が見つかりやすいです。
- いつも通帳を置く引き出し
- 保険証や診察券を入れている袋
- 仏壇、神棚、写真立ての近く
- 古い封筒、手紙、年金通知の間
- バッグ、買い物袋、上着のポケット
- 寝室の枕元、布団の下、タンスの奥
- 冷蔵庫や台所の引き出しなど、本人が「大事」と思って隠しやすい場所
「そんなところにあるわけない」と思う場所から出てくることもあります。
通帳は、自分で歩いて逃げるわけではありません。でも、認知症のある暮らしでは、通帳が旅をしているように見える日があります。まずは旅先の候補を、責めずに一つずつ見ていきます。
通帳だけでなく、印鑑・カード・本人確認書類も一緒に見ます
通帳が見つからないとき、通帳だけを探していると見落とすものがあります。
印鑑、キャッシュカード、暗証番号を書いたメモ、保険証、マイナンバーカード、年金関係の書類。これらが一緒になくなっていると、金銭管理や不正利用の不安が大きくなります。
| 確認するもの | 見つからない場合の不安 | 最初にすること |
|---|---|---|
| 通帳 | 入出金履歴や口座情報が分からない | 最後に使った日、保管場所、銀行名を確認する |
| 届出印 | 通帳と一緒にあると手続きリスクが上がる | 印鑑ケース、引き出し、書類袋を確認する |
| キャッシュカード | 暗証番号を知られていると出金リスクがある | カードの有無、最近の出金履歴を確認する |
| 暗証番号メモ | 第三者に見られる可能性がある | 財布、手帳、電話帳、通帳ケースを確認する |
| 本人確認書類 | 再発行や銀行手続きで必要になる | 保険証、マイナンバーカード、運転免許証などの場所を見る |
| 年金通知・公共料金書類 | 生活費や引き落とし口座の確認が難しくなる | 郵便物、書類箱、役所関係の封筒を確認する |
通帳だけが見つからないのか、印鑑やカードも一緒にないのかで、対応の急ぎ方は変わります。
特に、キャッシュカードと暗証番号メモが一緒に見つからない場合は、早めに金融機関へ連絡した方がよいケースがあります。
金融機関によって手続きは異なるため、「本人が認知症気味で通帳が見つからない」「カードや印鑑も不安がある」と状況を説明し、取引停止や再発行に必要なものを確認してください。
銀行へ行く前に、本人確認と意思確認でつまずくことを知っておきます
家族が「再発行すればいい」と思って銀行へ行っても、すぐ手続きできないことがあります。
銀行の手続きでは、原則として本人確認や本人の意思確認が求められます。家族だからといって、本人の通帳を自由に再発行したり、お金を引き出したりできるとは限りません。
ここで家族がショックを受けることがあります。
「親の生活費なのに」
「介護費を払うためなのに」
「家族なのに、どうしてできないの?」
でも、金融機関側も本人の財産を守るために確認が必要です。本人を守る仕組みが、家族にとっては手続きの壁になることがあります。
| 銀行へ行く前に確認すること | 理由 | メモする内容 |
|---|---|---|
| 本人が来店できるか | 本人確認や意思確認が必要な場合がある | 歩けるか、会話できるか、同行できるか |
| 本人確認書類があるか | 再発行や取引停止に必要になる | 保険証、マイナンバーカード、免許証など |
| 通帳以外に何がないか | カード・印鑑紛失なら対応が変わる | 通帳のみ、カードもない、印鑑もない等 |
| 生活費や介護費の支払い予定 | 緊急性を説明しやすくなる | 家賃、施設費、医療費、公共料金 |
| 本人の判断能力の状態 | 手続き方法や制度の検討に関わる | 会話の様子、診断の有無、受診状況 |
全国銀行協会は、判断能力が低下した高齢者等との取引について、金融取引の代理等に関する考え方を示しています。ただし、具体的な対応は金融機関や本人の状態によって異なります。
だから、窓口へ突然行く前に、まず電話で「必要書類」「本人の来店が必要か」「代理人でできる範囲」「通帳・カード紛失時の手続き」を聞いておくと、親を何度も連れ回さずに済みます。
銀行の窓口で親が疲れて怒り出すと、通帳より家族の気力が先に紛失します。事前確認は、かなり大事です。
「盗られた」と言い張るときは、否定より安心と記録を優先します
認知症やもの忘れが進むと、通帳が見つからない理由を「誰かに盗られた」と感じることがあります。
家族としては、そんなことはないと分かっている。だから「盗られてないよ」「また自分で隠したんでしょ」と言いたくなります。
でも、本人にとっては本気の不安です。
強く否定すると、「家族が味方になってくれない」「隠している」と感じ、かえって不信感が強くなることがあります。
| 本人の言葉 | 避けたい返し | 落ち着かせやすい返し |
|---|---|---|
| 誰かが盗った | 「そんなわけないでしょ」 | 「大事なものがないと怖いよね。一緒に確認しよう」 |
| あんたが持っていった | 「失礼なこと言わないで」 | 「私は持っていないけど、心配だと思うから一緒に探すね」 |
| 銀行のお金がなくなる | 「考えすぎ」 | 「残高や出金が分かるように、銀行に確認する方法を聞こう」 |
| もう誰も信用できない | 「勝手にしなさい」 | 「信用できる形にするために、置き場所を一緒に決めよう」 |
本人が強く疑っているときは、その場で正しさを証明しようとしなくて大丈夫です。
大切なのは、次の3つです。
- 本人を責めない
- 通帳・印鑑・カードの有無を確認する
- 同じ訴えが繰り返される場合は記録する
「盗られた」という訴えが何度も出る、家族への疑いが強い、生活に支障が出ている場合は、認知症の相談先やかかりつけ医に状況を伝えてください。
本人の言葉を全部事実と決める必要はありません。でも、本人が本当に怖がっていることは、事実として受け止めてよいと思います。
再発行だけで終わらせず、次になくさない置き方を作ります
通帳が見つかった、または再発行できたとしても、同じことが繰り返される可能性があります。
「見つかったからよかった」で終わると、数週間後にまた通帳探しが始まることがあります。
再発を減らすには、本人が納得しやすい保管方法を作ることが必要です。
| 保管方法 | 向いている場合 | 注意点 |
|---|---|---|
| 決まった引き出しに置く | 本人がまだ場所を覚えやすい | ラベルを貼り、他の物を入れすぎない |
| 通帳ケースを1つにまとめる | 複数の銀行口座がある | 印鑑や暗証番号メモを一緒にしない |
| 家族と一緒に保管場所を決める | 本人が家族を信頼している | 本人に無断で移動しない |
| 普段使い用と保管用を分ける | 年金口座や生活費口座が複数ある | どの口座から何を払うかメモする |
| 銀行の代理人制度を確認する | 本人に判断能力があるうちに備えたい | 金融機関ごとに条件が異なる |
| 成年後見などを検討する | 本人の判断能力低下が進み、家族管理が難しい | 家庭裁判所や専門家への確認が必要 |
本人に無断で通帳を取り上げると、「家族にお金を奪われた」と感じる場合があります。
特に認知症がある場合、本人の安心感はとても大切です。
保管場所を変えるときは、できるだけ本人の前で一緒に決めてください。
たとえば、こう伝えます。
「また探すと疲れるから、ここを通帳の場所にしよう。必要なときは一緒に出せるように、ここに書いて貼っておくね。」
「預かる」より「一緒に分かる場所にする」という言い方の方が、受け入れられやすいことがあります。
兄弟姉妹には、通帳の場所より先に「何が起きたか」を共有します
親の通帳が見つからない問題は、兄弟姉妹で揉めやすいテーマです。
近くに住む子どもが探しているのに、遠方の兄弟から「ちゃんと管理してよ」と言われる。逆に、通帳を預かると「勝手にお金を管理しているのでは」と疑われる。
お金の話は、家族でもすぐ空気が重くなります。
だからこそ、最初から透明にしておくことが大事です。
| 共有すること | 例 | 目的 |
|---|---|---|
| 起きたこと | 母が7月3日に「通帳がない」と言った | 事実をそろえる |
| 探した場所 | 寝室、仏壇、バッグ、書類箱を確認済み | 同じ作業の繰り返しを防ぐ |
| 見つかったもの・ないもの | 通帳はないが、カードと印鑑はある | リスクを共有する |
| 本人の反応 | 「盗られた」と言って不安が強い | 認知症相談の必要性を共有する |
| 次の対応 | 銀行に必要書類を確認する | 誰が何をするか決める |
| お金の動き | 最近の出金履歴は未確認、確認予定 | 不正や使い込みの疑いを避ける |
兄弟姉妹に送るなら、感情より先に事実を短く伝えます。
「母が今日、通帳がないと言っています。寝室、仏壇、バッグ、書類箱は確認しました。キャッシュカードと印鑑はあります。本人は不安が強く、盗られたと言っています。明日、銀行に再発行や取引停止の条件を確認します。今後のお金の管理も一人で判断したくないので、週末に共有させてください。」
このように残しておくと、後から「聞いていない」「勝手にやった」と言われにくくなります。
家族間の信頼を守るには、通帳そのものより、やり取りの記録が役立つことがあります。
親のお金を家族が使ってよい範囲は、あいまいにしない方がいい
親の通帳が見つからないとき、生活費や介護費を家族が立て替えることがあります。
病院代、薬代、介護サービス費、紙おむつ、食費、家の修理、公共料金。最初は小さな立て替えでも、積み重なると大きくなります。
また、親の通帳やカードを家族が預かるようになると、「どこまで使っていいのか」が曖昧になりやすいです。
| お金の使い道 | 本人のためと言いやすいもの | 注意が必要なもの |
|---|---|---|
| 医療費 | 受診料、薬代、入院費 | 領収書を残す |
| 介護費 | 介護サービス、福祉用具、施設費 | 契約書・請求書を残す |
| 生活費 | 食費、日用品、光熱費 | 家族分と混ざらないようにする |
| 住まいの費用 | 親の家の修繕、家賃、管理費 | 高額修繕は兄弟共有する |
| 家族への謝礼 | 介護している家族への支払い | 本人の意思確認や兄弟間の合意が必要になりやすい |
| 贈与・大きな移動 | 本人の明確な意思が必要 | 税金や相続、法的問題が関わるため専門確認が必要 |
親のお金は、親の生活と安心のためのお金です。
家族が管理を手伝う場合も、「何にいくら使ったか」を残しておくことが、親を守り、家族を守ることにつながります。
領収書、レシート、銀行の入出金記録、兄弟への共有メモ。面倒ですが、あとで家族間の疑いを減らします。
お金の記録は、愛情がないからつけるのではありません。愛情だけでは説明しきれない場面に備えるためです。
判断能力が落ちてきたら、家族管理だけでなく制度も検討します
親が通帳をなくすことが増えた。お金を引き出したことを忘れる。必要のない契約をしてしまう。家族を疑う。銀行の手続きが本人だけでは難しくなっている。
こうした状態が続く場合、家族だけで通帳を預かって何とかするのは限界があります。
本人の判断能力や生活状況に応じて、制度の利用を検討することがあります。
| 制度・相談先 | 向いている場面 | 確認したいこと |
|---|---|---|
| 地域包括支援センター | 認知症、介護、お金の管理に不安が出てきた | 家族相談、介護保険、見守り、制度の入口 |
| 日常生活自立支援事業 | 判断能力が不十分で、福祉サービス利用や日常的な金銭管理が不安 | 対象条件、契約できる状態か、利用料、支援内容 |
| 成年後見制度 | 判断能力の低下により、財産管理や契約を一人で行うのが難しい | 後見・保佐・補助の違い、申立て、費用、後見人の権限 |
| 金融機関の代理人手続き | 本人に判断能力があるうちに、家族が手続きを補助したい | 代理人届、家族カード、取引範囲、必要書類 |
| 司法書士・弁護士 | 兄弟間で揉めそう、財産が多い、不動産や相続が関わる | 成年後見、遺言、相続、財産管理の相談 |
厚生労働省は、認知症高齢者など判断能力が不十分な方が地域で自立した生活を送れるよう、利用者との契約に基づき福祉サービスの利用援助等を行うものとして、日常生活自立支援事業を案内しています。
また、法務省は法定後見制度について、本人の判断能力の程度に応じて「後見」「保佐」「補助」の3つの制度があると説明しています。
どの制度がよいかは、本人の判断能力、財産の内容、家族関係、生活状況によって変わります。
家族だけで「この制度にしよう」と決めるより、まず地域包括支援センターや社会福祉協議会、司法書士、弁護士などに現状を話して、使える選択肢を確認してください。
親が怒る、疑う、隠すときほど、家族も一人で抱えない
通帳の話は、家族の心を削ります。
本人は不安で怒る。家族は責められて傷つく。兄弟姉妹は遠くから意見を言う。銀行手続きは思うように進まない。介護費や生活費の支払いは待ってくれない。
これを一人で抱えるのは無理があります。
地域包括支援センターは、認知症かもしれないと気づいたときや介護に悩んだときの相談先として厚生労働省が案内しており、すべての市町村に設置されています。
| 家族がつらくなっているサイン | 早めにしたいこと |
|---|---|
| 親に疑われて、会うのが怖くなっている | 地域包括支援センターに対応方法を相談する |
| 兄弟姉妹とお金のことで険悪になっている | 事実と支出記録を共有し、役割を分ける |
| 親の支払いを自分が立て替え続けている | 領収書を残し、今後の支払い方法を相談する |
| 通帳や印鑑を勝手に預かるしかないと思っている | 金融機関や専門家に、適切な手続きを確認する |
| 親の言動に怒鳴り返してしまう | 一人で対応する時間を減らし、相談先を入れる |
親のお金を守ることは、家族の責任感だけで何とかするには重いテーマです。
制度や相談先を使うことは、親を見捨てることではありません。家族だけで抱えて、親子関係が壊れてしまう前に、外の人にも状況を見てもらうことです。
今日できる一歩は、通帳を探し続けることではなく「状況を1枚にまとめること」です
通帳が見つからないと、家中を探し続けたくなります。
もちろん、まず探すことは必要です。でも、何時間も探して家族が疲れ切り、本人も不安で怒り、結局何も決まらないまま夜になることがあります。
今日やるなら、次の順番で十分です。
- 本人を責めず、よく置く場所を一緒に探す
- 通帳、印鑑、カード、本人確認書類の有無を分けて確認する
- 最近の出金や支払い予定を確認する
- 見つからない場合は、銀行へ必要な手続きを電話で聞く
- 兄弟姉妹に、起きたことと次の対応を共有する
- 同じことが繰り返されるなら、地域包括支援センターへ相談する
親を責めても、通帳は出てこないことがあります。
でも、責めずに状況を分ければ、次に取れる行動は見えてきます。
通帳を探すことと、親のお金を守ることは似ていますが、同じではありません。
通帳が見つかっても、またなくすかもしれない。通帳が見つからなくても、銀行で止める、再発行する、保管方法を変える、制度につなぐことはできます。
まずは紙に、銀行名、なくなったもの、見つかったもの、支払い予定、相談先を書いてみてください。
家族の頭の中が少し静かになれば、親への言葉も少しやわらかくなります。そこから、次の一歩を選んでいきましょう。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「認知症に関する相談について」:地域包括支援センター、認知症疾患医療センター、かかりつけ医、もの忘れ外来などの確認先。
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」:判断能力が不十分な方への福祉サービス利用援助や日常的な金銭管理支援に関する確認先。
- 法務省「法定後見制度について」:判断能力の程度に応じた後見・保佐・補助の制度に関する確認先。















