デイサービスの車を見送ったのに、横になることができない
朝食を片付け、薬を飲ませ、着替えを手伝い、ようやく親御さんを送り出した。
数時間は自分の時間です。
それなのに、ソファへ座ると「洗濯をしておかなければ」「夕食を作らなければ」と次の用事が浮かびます。横になろうとすると、施設で過ごしている親御さんの顔が頭に浮かぶ。
親は慣れない場所で頑張っているのに、自分だけ眠ってよいのだろうか。介護サービスを使って休むなんて、怠けていると思われないだろうか。
結局、掃除や買い物を詰め込み、親御さんが帰るころには、利用前より疲れていることがあります。
介護には「ここまで終われば休める」という区切りがありません。食事が終われば排泄があり、夜になれば見守りがある。体調は毎日変わります。
そのため、介護者が休みを「仕事を全部終えた後のご褒美」にすると、いつまでも順番が回ってきません。
休むことと、放置することは同じではありません
介護を休むことへ罪悪感があるときは、「自分がそばにいない」という一点だけを見てしまいがちです。
けれども、判断するべきなのは距離ではありません。
休んでいる間、親御さんの安全と必要な介助を誰が担っているかです。
食事、服薬、排泄、移動、急変時の連絡を、家族、介護職、看護職などへ引き継いでいるなら、介護は途切れていません。担当する人が一時的に替わっているだけです。
反対に、介護者が限界まで我慢し、眠気の中で運転する、移乗中に手を滑らせる、薬を取り違える状態は、「休んでいないから安全」とは言えません。
休息の判断基準は「家族がそばにいるか」ではなく、「親御さんに必要な支援が引き継がれ、介護者も安全に介護を続けられる状態か」です。
罪悪感の中には、違う心配が重なっています
「休むのが申し訳ない」という気持ちは、一つの理由だけで起きるとは限りません。
親御さんに見捨てられたと思われそう
親御さんから「家にいたい」「知らない所へ行きたくない」と言われると、サービスを利用することが、親の希望を無視する行為に感じられます。
本人の戸惑いは軽く扱えません。ただ、本人が嫌がることと、家族が休んではいけないことは別の問題です。
本人が何を嫌がっているのかを、送迎、入浴、ほかの利用者、宿泊、食事などに分ければ、施設や利用時間を調整できる場合があります。
家族なのだから自分がやるべきだと思う
これまで親御さんに世話をしてもらった記憶があるほど、「今度は自分が返す番だ」と感じることがあります。
感謝があることと、介護を一人で引き受けることは同じではありません。
親御さんが望んでいるのも、家族が睡眠不足や病気になりながら介護を続けることとは限らないでしょう。
きょうだいや親族に責められそう
離れて暮らす家族から、「施設に預けるのはかわいそう」「もう少し家で見られないの」と言われることがあります。
夜間の排泄介助、同じ話への対応、通院の付き添いなど、毎日の負担を見ていない人ほど、理想を言いやすいことがあります。
だからといって、相手が親を心配していないわけでもありません。負担を説明するときは、誰が優しいかではなく、実際の介護時間と必要な交代へ話を戻します。
「まだ頑張れる」ではなく、介護の事故が増えていないかを見ます
本人が耐えられるかどうかだけで判断すると、限界はいつも後から分かります。
次の変化が続いているなら、休息を予定に入れる段階です。
- 夜間の対応で、まとまった睡眠を取れない
- 親御さんへ強い口調で話すことが増えた
- 介助中に腕を強く引く、乱暴に物を置くことがある
- 薬、食事、通院予定の間違いが増えた
- 腰痛、動悸、頭痛、めまいなどが続いている
- 食欲がなく、短期間で体重が変わった
- 仕事中も介護の連絡が気になり、集中できない
- 親御さんが眠っていても、自分は眠れない
- 何もしていないのに涙が出る
- 「いなくなってほしい」「自分も消えたい」と考えることがある
チェックの数で限界を判定するものではありません。
一つでも生活や安全に影響しているなら、「もっと頑張れば慣れる」と考えず、介護の組み方を変える理由になります。
休む時間は、「何時間」より「何を回復させるか」で決めます
ケアマネジャーへ「少し休みたい」とだけ伝えると、必要な支援の大きさが伝わりにくいことがあります。
まず、いま最も不足している休みを一つ決めます。
| 介護者が取り戻したいもの | 考えられる支援 | 伝え方の例 |
|---|---|---|
| 昼に2~3時間眠る時間 | デイサービス、訪問介護、家族の交代 | 「週に一度、昼寝ができる時間を3時間確保したいです」 |
| 夜に続けて眠る時間 | ショートステイ、夜間対応を含む支援の見直し | 「夜間介助が続き、3時間以上眠れません。一泊以上の交代が必要です」 |
| 自分の通院時間 | デイサービス、訪問介護、家族の付き添い交代 | 「私の受診中、4時間ほど母を一人にできません」 |
| 仕事を休まずに済む時間 | 通所、訪問、短期宿泊の組合せ | 「月末の2日間は仕事を外せないため、事前に預け先を決めたいです」 |
| 数日間、介護から離れる時間 | ショートステイ、短期入所療養介護 | 「疲労が強く、来月中に2泊3日の休息が必要です」 |
| 毎日の急な呼出しを減らすこと | 小規模多機能型居宅介護など、通い・訪問・宿泊の再設計 | 「予定外の対応が週に何度もあり、今のケアプランでは続きません」 |
休みの目的は旅行や趣味でなくても構いません。
眠る。病院へ行く。美容院で髪を切る。何も決めずに昼食を食べる。
介護以外の時間を過ごすことは、本人との関係を一度落ち着かせる意味もあります。
ショートステイは、介護者の負担を軽くするためにも使われます
ショートステイは、親御さんを短期間施設へ預けるサービスです。
短期入所生活介護では、食事、入浴、排泄などの日常生活上の支援や機能訓練を受けられます。医療や看護を含む支援が必要な方には、介護老人保健施設や介護医療院などを利用する短期入所療養介護が候補になる場合があります。
これらは、本人への支援だけでなく、家族の身体的・精神的な介護負担を軽くすることも目的に含まれています。
つまり、「家族が休むため」という理由は、制度の目的から外れていません。
利用できる施設、医療対応、空き状況は地域や本人の状態によって異なります。急に限界を迎えた日に必ず空いているとは限らないため、最初は一泊から試すなど、定期的な利用をケアプランへ組み込む方法があります。
費用は、介護度、所得に応じた負担割合、施設や部屋の種類によって変わり、食費、滞在費、日常生活費などが別途必要になる場合があります。所得などの条件によって負担軽減の対象になることもあるため、ケアマネジャーや市区町村へ見積りを依頼してください。
ショートステイを頼むときは、「限界です」だけで終わらせません
担当ケアマネジャーには、介護者の状態も具体的に伝えてください。
「母の状態」だけでなく、「介護する自分に何が起きているか」が、サービスを見直す材料になります。
たとえば、次のように伝えます。
「母は夜中に3回ほど起き、そのたびにトイレ介助が必要です。私はここ2週間、続けて3時間以上眠れておらず、昨日は移乗中に支えきれませんでした。今月中にショートステイを使い、今後は月1回以上休める計画を考えたいです」
すでにサービスを利用していても、介護者の疲労が強くなったなら、ケアプランを見直す理由になります。
要介護認定をまだ受けていない場合や、担当ケアマネジャーがいない場合は、親御さんの住所地を担当する地域包括支援センターへ連絡します。
「父を一人にできず、私は夜も眠れていません。介護認定の申請を含め、家族が休める支援を知りたいです」
と伝えれば構いません。
親御さんが「預けられるのは嫌だ」と言ったとき
本人が嫌がっているのに、自分が休むために押し切ることへ罪悪感を持つ方もいます。
まず、何を嫌がっているのかを一つずつ確かめます。
- 知らない人と泊まるのが怖い
- 家へ戻れなくなると思っている
- トイレや入浴を手伝われたくない
- 食事や薬の対応が心配
- 家族から見捨てられると感じている
- 以前利用した場所で嫌な経験があった
「家族が疲れているから行って」と伝えると、本人は自分が負担になったと感じる場合があります。
「私が楽をしたいから」だけではなく、「二人とも家で暮らし続けるために、夜の介護を代わってもらう日を作りたい」と説明します。
宿泊への抵抗が強ければ、見学、短時間の通所、一泊の利用と段階を踏めるか施設へ尋ねます。
ただし、介護者の健康が崩れ、現在の介護を安全に続けられない場合は、本人が完全に納得するまで何も変えないという選択も危険です。
家族へは「手伝って」ではなく、日時と仕事を指定します
きょうだいへ「少しは手伝ってほしい」と言っても、「何をすればよいか分からない」「行けるときに行く」と終わることがあります。
お願いする内容を、時間と作業へ変えてください。
「今週土曜の13時から17時まで、父と家にいてほしい。食事は用意するので、トイレの声かけと薬の確認だけお願いしたい」
「来月のショートステイ費用を、きょうだいで月5,000円ずつ負担できるか話したい」
遠方で来られない人には、施設探し、申込書類、通院予約、費用分担などを任せられる場合があります。
それでも協力を得られないことはあります。その場合、家族の公平さが決まるまで休みを延期するのではなく、公的な支援を含めて介護の量そのものを減らします。
休んでも疲れが戻らないときは、介護者自身の受診を考えます
一晩眠れば楽になる疲れもあれば、休息だけでは戻らない状態もあります。
不眠、食欲低下、動悸、涙が止まらない、何も楽しめない状態が続くなら、親御さんの主治医ではなく、介護者自身のかかりつけ医へ伝えてください。
「家族の介護で夜眠れず、仕事と家事ができなくなっています。介護の相談ではなく、私自身の体調を診てほしいです」
と言って構いません。
地域の保健所、保健センター、精神保健福祉センターでも、こころの健康や医療が必要かどうかを相談できます。
介護サービスの調整と、介護者自身の治療は別に進めます。ショートステイが取れれば心身の不調がすべて解決するとは限らないためです。
手を出しそうなときは、その場の介護を続けないでください
腹が立って大声を出したことがある、乱暴に腕をつかんだことがある。その事実を認めるのは簡単ではありません。
しかし、隠して介護を続けるより、危険が大きくなる前に交代を入れる方が、親御さんと介護者の双方を守れます。
次の状態では、一人で介護を続けないでください。
- たたく、揺さぶる、押さえつける可能性がある
- 食事や薬を与えたくないと感じている
- 親御さんを家へ置いたまま戻りたくないと思う
- 自分や親御さんを傷つける方法を考えている
- 運転や移乗を安全に行えないほど眠い
いったん距離を取り、別の家族、ケアマネジャー、事業所へ交代を求めます。親御さんを一人にすると危険な状態なら、代わりの人が到着するまで一人で抱えず、緊急の支援が必要だと伝えてください。
暴力が現在起きている、命や身体へ差し迫った危険がある場合は110番または119番を優先します。
差し迫った危険ではないものの、虐待につながりそう、介護を続けられないという場合は、市区町村の高齢者福祉担当または地域包括支援センターへ連絡します。
「親を責めたいのではありません。自分が手を出しそうで、今のまま二人きりで介護を続けるのが危険です」
この一言で構いません。こうした窓口は、親御さんの保護だけでなく、介護を担う家族への支援も含めて対応します。
今夜は、ケアマネジャーへ休みの希望日を一つ送ります
罪悪感がなくなってから休もうとすると、休める日はなかなか来ません。
まず、今後2週間の予定を見て、介護から離れたい日を一つ決めてください。
そのうえで、ケアマネジャーへ次の文章を送ります。
「夜間介護が続き、睡眠不足で安全に介助する自信がなくなっています。今後2週間以内に、半日または一泊休める方法を検討したいです。デイサービスの延長、ショートステイ、家で使える支援のうち、利用可能なものを教えてください」
担当者がいなければ、親御さんの地域包括支援センター名を市区町村のホームページで調べ、同じ内容を伝えます。
休んでよいかどうかを、疲れ切った自分の気持ちだけで判定しなくて構いません。
親御さんの安全を誰かへ引き継ぎ、介護者が眠る時間を予定へ入れる。今日決めるのは、介護をやめることではなく、次の介護を安全に行うための交代日です。















