「そろそろ介護かも」と思った日は、たいてい突然やってきます
親御さんが転んだ。入院後に足腰が弱った。薬の飲み忘れが増えた。お風呂に入る回数が減った。冷蔵庫の中身が偏っている。電話では元気そうなのに、実家へ行くと家の中が少し荒れている。
そんな場面を見ると、家族の頭の中で一気に会議が始まります。
「介護サービスって、どうやって使うの?」
「要介護認定という言葉は聞くけれど、どこに申し込むの?」
「本人が嫌がったらどうする?」
「認定が出るまで、家族だけで頑張るしかないの?」
介護の始まりは、分からない言葉が多すぎます。市区町村、地域包括支援センター、認定調査、主治医意見書、ケアマネジャー。まるで介護用語の満員電車です。しかも、乗り換え案内が少ない。
でも、要介護認定の流れは、順番に分ければ見えてきます。
最初から制度を完璧に理解する必要はありません。まずは「申請する」「調査を受ける」「結果を待つ」「結果に応じてケアプランを作る」という大きな流れをつかむことから始めましょう。
介護サービスを使う入口が「要介護認定」です
介護保険サービスを利用するには、原則として要介護認定の申請が必要です。申請後、市区町村の職員などによる認定調査、主治医意見書、一次判定、介護認定審査会による二次判定を経て、市区町村が要介護度を決定します。結果は「非該当」「要支援1・2」「要介護1〜5」に分かれます。
つまり、要介護認定は「介護が必要かどうかを家族が証明するテスト」ではありません。
本人が日常生活でどれくらい支援を必要としているかを、制度上の区分として判断する手続きです。
| 認定結果 | 大まかな意味 | 次につながる先 |
|---|---|---|
| 非該当 | 介護保険の要支援・要介護には該当しない | 地域支援事業や生活支援サービスを相談できる場合がある |
| 要支援1・2 | 介護予防や生活機能の維持を目的に支援を考える段階 | 地域包括支援センターに介護予防ケアプランを相談 |
| 要介護1〜5 | 日常生活に介護が必要な状態として判定される | 居宅介護支援事業者のケアマネジャーにケアプランを相談 |
「認定が軽かったらどうしよう」「重く出たら親がショックを受けるのでは」と心配になる方もいます。
ただ、認定結果は親御さんの価値を決めるものではありません。利用できる支援を考えるための入口です。点数表ではなく、支援の地図だと思ってください。
申請先は市区町村。迷ったら地域包括支援センターに聞いて大丈夫です
要介護認定の申請先は、本人が住んでいる市区町村の介護保険担当窓口です。
ただ、いきなり役所に行くのが不安な場合や、本人の状態をどう説明すればよいか分からない場合は、地域包括支援センターに相談するところから始めても構いません。
地域包括支援センターは、市町村が設置主体となり、保健師、社会福祉士、主任介護支援専門員などが配置され、高齢者や家族介護者に対して初期段階から相談支援を行い、地域のサービスにつなげる役割を持つ窓口です。
| 相談・申請先 | 向いている場面 | 家族が伝えること |
|---|---|---|
| 市区町村の介護保険窓口 | 要介護認定の申請をしたい | 本人の住所、年齢、介護保険被保険者証、困っている生活状況 |
| 地域包括支援センター | 申請すべきか迷う、親が嫌がる、家族だけでは不安 | 転倒、物忘れ、食事、入浴、通院、家族の負担 |
| 病院の医療ソーシャルワーカー | 入院中、退院後の生活が心配 | 退院予定、家でできないこと、介護サービスの必要性 |
| かかりつけ医 | 主治医意見書に関わる、体調や病気を相談したい | 最近の変化、生活で困っていること、家族が心配している点 |
申請には、65歳以上の方は介護保険被保険者証が必要です。40〜64歳の第2号被保険者が申請する場合は医療保険証が必要で、介護保険の対象となる特定疾病が関係します。
「親がまだ認めたがらない」という場合でも、家族だけで地域包括支援センターへ相談できることがあります。本人をいきなり窓口へ連れて行く前に、家族が状況を話してよいか確認してみてください。
申請前に、親御さんの「できる日」と「できない日」をメモしておきます
要介護認定の申請で家族が悩むのは、「何を伝えればいいのか」です。
親御さんは、調査の日だけ頑張ってしまうことがあります。普段は立ち上がりに苦労しているのに、調査員の前では背筋を伸ばして受け答えする。家では薬を間違えるのに、「大丈夫です」と言う。親のプライド、ここでなかなかの瞬発力を見せます。
だからこそ、普段の様子を家族がメモしておくことが役立ちます。
| メモする項目 | 具体例 | 伝え方の例 |
|---|---|---|
| 移動 | 家の中でつまずく、階段が怖い、外出が減った | 「普段は手すりにつかまらないと階段が不安です」 |
| 食事 | 食事量が減った、同じ物ばかり食べる、買い物に行けない | 「冷蔵庫に古い食品が残ることが増えました」 |
| 入浴 | 浴槽をまたげない、入浴回数が減った、転倒が心配 | 「一人で入浴するのが危ないため、家族が声をかけています」 |
| 排せつ | トイレに間に合わない、夜間に何度も起きる | 「夜中のトイレで転びそうになったことがあります」 |
| 服薬 | 飲み忘れ、飲み間違い、薬の管理ができない | 「薬の残数が合わないことがあり、家族が確認しています」 |
| 認知面 | 同じ話が増えた、約束を忘れる、火の消し忘れがある | 「本人は覚えていると言いますが、通院日を忘れることがあります」 |
| 家族の負担 | 通院付き添い、買い物、見守り、緊急対応 | 「週に何回、家族が実家へ行っているか」を数字で伝える |
メモは立派な介護記録でなくて大丈夫です。
カレンダーに「転倒」「薬忘れ」「入浴できず」「病院付き添い」と書くだけでも、申請や認定調査で話しやすくなります。
親御さんが「できる」と言っていることより、普段どの場面で困っているかを具体的に残します。「一人で歩けます」だけでなく、「外では歩けるが、夜のトイレでふらつく」など、生活場面で伝えると状況が伝わりやすくなります。
認定調査では、本人の前で言いにくいことをどう伝えるかが悩みどころです
申請後、市区町村等の調査員が自宅や施設などを訪問し、心身の状態を確認する認定調査が行われます。あわせて、市区町村の依頼により、かかりつけ医が主治医意見書を作成します。主治医がいない場合は、市区町村の指定医の診察が必要になることがあります。
認定調査で家族が困るのは、本人の前で言いにくい内容です。
「薬を飲み忘れます」
「お風呂に入れていません」
「トイレを失敗することがあります」
「火の消し忘れが心配です」
本人の尊厳を傷つけたくない。でも伝えないと、実際より元気に見えてしまう。ここは家族にとって本当に難しい場面です。
| 困る場面 | 家族の工夫 | 伝え方の例 |
|---|---|---|
| 本人が「全部できます」と言う | 否定ではなく、補足として伝える | 「できる日もありますが、週に数回は家族の声かけが必要です」 |
| 本人の前で失敗を言いにくい | 事前メモを用意し、調査員へ渡せるか確認 | 「本人の前で話しにくいことがあるので、メモを見ていただけますか」 |
| 家族が同席できない | 調査日程を調整できるか早めに相談 | 「普段の様子を伝えたいので、家族同席の日程にできますか」 |
| 認知面の変化がある | 具体的な出来事を日付つきで残す | 「通院日を忘れて行けなかったことが2回あります」 |
| 家族の負担が限界 | 介護者側の状況も伝える | 「仕事を休んで付き添う回数が増え、家族だけでは続けにくいです」 |
認定調査は、親御さんを悪く言う場ではありません。
普段の生活でどの支援が必要かを伝える場です。本人の前で話しづらいことがある場合は、自治体や調査員にメモ提出や別途説明ができるか確認しましょう。
結果が出るまでの間も、困っていることは窓口に伝えておきます
要介護認定の結果通知は、申請から原則30日以内に行われるとされています。結果が出るまでの間に、認定調査、主治医意見書、一次判定、介護認定審査会による二次判定が行われます。
ただ、家族からすると「30日」と聞いても、その間どうすればいいのかが問題です。
親御さんが退院してくる。お風呂に入れない。転倒が続いている。仕事を休んで付き添っている。そんな状態で「結果が出るまで待ってください」と言われると、心の中で「いや、今なんですけど」と言いたくなります。
この場合は、申請時や地域包括支援センターへの相談時に、今すぐ困っていることをはっきり伝えてください。
| 急いで伝えたい状況 | 窓口に伝える言い方 | 相談先 |
|---|---|---|
| 退院日が近い | 「退院後すぐに家での生活が不安です」 | 病院の相談員、市区町村、地域包括支援センター |
| 転倒が続いている | 「結果を待つ間の見守りや手すりなどを相談したいです」 | 地域包括支援センター、市区町村 |
| 家族が通えない | 「遠方で毎日は行けません。使える支援を知りたいです」 | 地域包括支援センター |
| 食事や買い物ができない | 「食事の確保や買い物支援を急ぎで相談したいです」 | 自治体の高齢者福祉窓口、地域包括支援センター |
| 認知症が疑われる | 「火の消し忘れや徘徊が心配です」 | 地域包括支援センター、医療機関 |
認定結果が出る前でも、相談してはいけないわけではありません。
制度上の利用開始や費用の扱いは自治体や状況によって確認が必要ですが、「結果が出るまで家族だけで黙って耐える」ではなく、困っていることを早めに窓口へ伝えることが大切です。
認定結果が届いたら、次は「何を使うか」を決める段階です
認定結果が届いたあと、すぐに介護サービスが自動で始まるわけではありません。
次は、どのサービスを、いつ、どれくらい使うかを考えるケアプラン作成に進みます。
要支援1・2の場合は地域包括支援センターに介護予防サービス計画を相談し、要介護1以上の場合は、介護支援専門員であるケアマネジャーがいる居宅介護支援事業者へケアプラン作成を依頼する流れが示されています。
| 認定結果 | 次にすること | 家族が考えたいこと |
|---|---|---|
| 非該当 | 地域支援事業や生活支援サービスを相談 | 介護保険以外で使える見守り、体操、配食、生活支援がないか |
| 要支援1・2 | 地域包括支援センターに介護予防ケアプランを相談 | 今の生活機能を落とさないために何を使うか |
| 要介護1〜5 | 居宅介護支援事業者のケアマネジャーに相談 | 訪問介護、デイサービス、福祉用具、住宅改修などの組み合わせ |
| 結果に納得できない | 市区町村に説明を求め、必要に応じて区分変更申請などを確認 | 日常の困りごとが調査で十分伝わったか |
非該当の場合でも、市区町村が行う地域支援事業などにより、生活機能を維持するためのサービスや生活支援サービスを利用できる場合があるため、市区町村または地域包括支援センターに相談するよう案内されています。
結果が思ったより軽かった場合も、すぐに諦める必要はありません。
本人の状態が変わったときは、有効期間の途中でも変更申請ができる場合があります。まずは、市区町村や地域包括支援センター、ケアマネジャーに「今の状態だと何が使えるのか」「再申請や区分変更を考える状況か」を確認してください。
家族の役割は、申請係・同席係・記録係に分けると一人に偏りにくいです
要介護認定の手続きは、家族の誰か一人に集中しがちです。
近くに住む子どもが役所へ行く。病院へ付き添う。調査に同席する。兄弟へ連絡する。ケアマネジャーとも話す。気づけば、その人だけが「介護事務局」になっています。家族内に突然発足する部署です。しかも無給です。
一人に抱え込ませないために、役割を分けておきましょう。
| 役割 | 担当すること | 遠方の家族でもできるか |
|---|---|---|
| 申請係 | 市区町村窓口、地域包括支援センターへの連絡 | 電話確認や書類準備なら可能 |
| 同席係 | 認定調査、病院受診、ケアマネジャー面談に同席 | オンライン参加できる場合もある |
| 記録係 | 転倒、服薬、食事、通院、困りごとをメモする | 家族LINEや共有メモで可能 | 医療連絡係 | 主治医、薬、受診予定を管理する | 通院付き添いが難しくても情報整理は可能 |
| 費用係 | 交通費、介護用品、サービス費用を記録する | レシート写真や口座履歴で共有できる |
| 緊急連絡係 | 転倒、救急搬送、入院時の連絡先を決める | 順番や連絡網を作ることは可能 |
家族で分担するときは、「誰が一番親思いか」を競わないことです。
介護は気持ちだけでは続きません。時間、距離、仕事、体力、お金、家庭事情があります。
できる人が全部やるのではなく、できる形で分ける。これが、介護を長く続けるための現実的な考え方です。
本人が申請を嫌がるときは、「介護」より「暮らしやすくする」で話します
親御さんが要介護認定の申請を嫌がることもあります。
「まだ介護なんていらない」
「年寄り扱いするな」
「人の世話にはなりたくない」
「知らない人を家に入れたくない」
この反応は珍しくありません。
本人にとって要介護認定は、自分の衰えを認めさせられるように感じることがあります。家族は心配しているだけでも、本人には「できない人扱いされた」と届くことがあるのです。
| 避けたい言い方 | 言い換えるなら | 理由 |
|---|---|---|
| もう介護が必要でしょ | 転ばないように、家で使える支援があるか聞いてみない? | できないことの指摘ではなく安全の話にする |
| 認定を受けないと困る | 使うかどうかは後で考えて、選択肢だけ持っておこう | 申請=すぐサービス利用ではないと伝える |
| 家族が大変だから申請して | お互いに無理を減らす方法を一緒に探したい | 本人を責める形にしない |
| 調査員に全部話して | 普段困っていることを聞かれるだけだから、私も一緒にいるよ | 調査への不安を下げる |
本人が強く拒む場合でも、家族だけで地域包括支援センターに相談して、切り出し方や進め方を聞くことはできます。
無理に押し切るより、本人のプライドを守りながら、暮らしを守る言葉に変えていきましょう。
今日できることは、役所へ行く前に「困りごとメモ」を3つ書くことです
要介護認定の流れは、最初は難しく見えます。
でも、今日やることは大きくありません。
- 親御さんが一人でできなくなってきたことを3つ書く
- 転倒、薬の飲み忘れ、入浴、食事、買い物など最近の出来事を日付つきでメモする
- 本人の介護保険被保険者証の場所を確認する
- 市区町村の介護保険窓口、または地域包括支援センターの連絡先を調べる
- 家族の中で、申請や調査に同席できる人を一人決める
申請書を完璧に書く前に、困っていることを言葉にする。
そこからで大丈夫です。
介護は、ある日突然「正解」を選べるものではありません。親御さんの体調、家族の仕事、住まい、お金、本人の気持ちを見ながら、少しずつ形を作っていくものです。
まずは紙に、「移動」「食事」「薬」「入浴」「家族の負担」と書いてみてください。分かるところだけ埋めれば十分です。そのメモが、申請窓口や地域包括支援センターで話すときの道しるべになります。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「要介護認定」:要介護認定に関する通知、認定調査、主治医意見書などの確認先。
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム|サービス利用までの流れ」:要介護認定の申請、認定調査、主治医意見書、一次判定・二次判定、結果通知、ケアプラン作成の流れを確認する際の参考。
- 厚生労働省「地域包括支援センターについて」「地域包括ケアシステム」:地域包括支援センターの役割、高齢者や家族介護者への相談支援を確認する際の参考。
- 厚生労働省「特定疾病の選定基準の考え方」:40〜64歳の第2号被保険者が介護保険の対象となる特定疾病を確認する際の参考。















