母から「買い物には行けている」と聞いていた。
ところが実家へ行くと、冷蔵庫には期限の切れた食品が残り、薬は曜日と合わず、玄関には転んだときについたという傷がありました。
本人は「大げさにしないで」と言います。まだ介護認定も受けていません。ご家族としても、今すぐ介護が必要なのか、少し様子を見ればよいのか、判断がつかないところでしょう。
さらに、すでに申請している場合でも、認定結果が届くまで親御さんの生活は止まりません。
この時期に必要なのは、親御さんを急に「介護される人」に変えることではなく、結果が出るまでの生活に、どこまで危険があるかを見分けることです。
介護認定の前でも、危険な状態まで待つ必要はありません
要介護認定は、介護保険サービスの必要性や程度を判定する手続きです。
しかし、認定を受けていなければ、家族が何もできないという意味ではありません。
親御さんの暮らしに変化があれば、申請前でも地域包括支援センターや市区町村の介護保険担当窓口へ状況を伝えられます。本人ではなく、ご家族だけで最初の話をすることもできます。
反対に、「認定がまだだから」と次の状態を放置するのは危険です。
| 親御さんの状態 | 行動の目安 |
|---|---|
| 以前より家事や外出が難しいが、食事・水分・服薬は保てている | 数日から一週間程度の変化を見ながら、地域包括支援センターへ連絡する |
| 食事を取れない、薬を何度も間違える、転倒を繰り返す、火の消し忘れがある | 認定結果を待たず、地域包括支援センター、かかりつけ医、市区町村へ早めに伝える |
| 急に会話が通じない、立てない、意識がおかしい、強い痛みや呼吸苦がある | 介護の手続きより、119番や医療機関への連絡を優先する |
| 行方が分からない、道路へ出て危険がある、事件や事故が心配 | 家族だけで探し続けず、110番へ連絡する |
認定申請は、日常生活で介護や支援が必要になったときに行うものです。完全に一人で暮らせなくなるまで待つ必要はありません。
「要介護になるほど悪いか」ではなく、「今の暮らしを本人だけで安全に続けられるか」を見ます。申請することは、施設入所やサービス利用をその場で決めることではありません。
心配の根拠は「できる・できない」より、変化で見ます
親御さんへ「一人で生活できる?」と聞けば、多くの場合は「できる」と答えます。
実際に、洗濯や食事の用意を自分でできている部分もあるでしょう。それでも、以前より時間がかかる、失敗が増えた、家族の手助けがなければ続かないという変化があれば、支援を考える材料になります。
見るのは、次のような生活場面です。
- 同じ食品を何度も買い、古い食品が残っている
- 体重が減った、食事の回数が減った
- 薬の飲み残しや重複がある
- 通院日を忘れる、病院まで一人で行けなくなった
- 段差や浴室で転ぶことが増えた
- 入浴や着替えの間隔が長くなった
- 請求書を開けない、支払い忘れが増えた
- 鍋を焦がした、電気やガスを消し忘れた
- 家族が訪問しないと、ごみ出しや買い物が止まる
- 以前より怒りっぽい、疑い深い、昼夜が逆転した
一つ当てはまるだけで、直ちに要介護とは言えません。
腰痛、感染症、薬の副作用、視力・聴力の低下、気分の落ち込みなどで、一時的に生活が難しくなることもあります。
だからこそ、「最近だらしなくなった」と評価するのではなく、いつから何が変わったかを見ます。
申請するか迷った段階で、地域包括支援センターへ連絡できます
地域包括支援センターは、高齢者の生活、介護、健康、権利擁護などを扱う地域の窓口です。
要介護認定を受けた人だけが利用する場所ではありません。
「申請すべきか分からない」「親が嫌がっている」「家族が遠方に住んでいる」という段階でも話せます。
電話では、診断名や要介護度を推測する必要はありません。
「一人暮らしの母について、介護認定を申請するか迷っています。最近、薬の飲み忘れと転倒があり、家族が毎週通わないと買い物ができません。今の段階で何を確認すればよいか聞きたいです」
地域包括支援センターでは、生活状況を聞いたうえで、要介護認定の申請、市区町村の生活支援、医療機関への受診など、次の入口を一緒に考えます。
連絡したからといって、本人の同意なく介護サービスの契約が始まるわけではありません。
認定を受けなくても使える支援がある場合があります
親御さんの状態によっては、すぐに要介護認定を申請するのではなく、市区町村の介護予防・日常生活支援総合事業などを案内される場合があります。
総合事業では、基本チェックリストなどを用いて本人の状態を見たうえで、地域の訪問型・通所型サービス、住民主体の活動、生活支援などにつなぐ仕組みがあります。
利用できる内容は市区町村で異なります。
- 買い物や掃除などの生活支援
- 運動や介護予防を目的とした通いの場
- 配食や見守り
- 外出支援
- 自治体独自の家事援助
これらがすべて無料というわけではなく、利用条件や自己負担も地域によって違います。
「介護認定がなくても、今の状態で使える生活支援はありますか」
この一言を地域包括支援センターや市区町村へ添えてください。
申請は、親御さんが寝たきりになっていなくてもできます
65歳以上の方は、病気の種類だけでなく、日常生活で介護や支援が必要な状態であれば要介護認定を申請できます。
40歳から64歳までの方は、医療保険へ加入しており、介護保険で定める特定疾病が原因で介護や支援が必要な場合が対象です。
申請先は、原則として親御さんの住民票がある市区町村の介護保険担当窓口です。
本人やご家族が申請できるほか、地域包括支援センター、居宅介護支援事業者、介護保険施設などに手続きを代行してもらえる場合があります。
一般的には、次の情報を準備します。
- 介護保険被保険者証
- 本人の氏名、住所、生年月日
- 主治医や通院先の名称
- 40歳から64歳までの方は、医療保険の資格情報
- 申請する家族の本人確認書類など
提出方法や必要書類は自治体によって異なります。被保険者証を紛失している場合も、申請できないと決めつけず、窓口へ伝えてください。
申請から結果までは原則30日ですが、長引くこともあります
要介護認定を申請すると、認定調査と主治医意見書の作成が進みます。
認定調査では、市区町村の職員や委託された調査員が自宅などを訪れ、心身の状態や日常生活について本人と家族から聞き取ります。
主治医意見書は、市区町村から主治医へ依頼します。主治医がいない場合は、市区町村へその旨を伝え、指定医の診察などについて案内を受けます。
申請から認定通知までは原則30日以内とされています。
ただし、調査日程、主治医意見書、審査会の状況などにより、30日を超える場合があります。
申請後に何の連絡もない、親御さんの状態が悪化している、退院日が迫っているときは、待ち続けず市区町村へ進み具合を聞いてください。
「認定を申請済みですが、親の状態が悪化しています。現在どの段階かと、結果前に使える支援があるかを確認したいです」
認定調査では「今日はできた」だけで答えないようにします
調査員が来ると、親御さんが普段よりしっかり答えることがあります。
家族へ心配をかけたくない、知らない人の前で弱った姿を見せたくないという気持ちもあるでしょう。
その日に歩けた、名前を答えられたという一場面だけでは、日常の困難が伝わらないことがあります。
家族が同席できる場合は、本人を否定しない形で具体例を補います。
「今日は歩けていますが、先週は玄関で転び、一人では起き上がれませんでした」
「本人は薬を飲んでいると言っていますが、直近一週間で三日分残っていました」
調査前には、次の情報を用意します。
- 直近一か月で転倒した回数と場所
- 食事、入浴、排泄、服薬で家族が手伝っていること
- 夜間の様子や一人のときに起きる問題
- 家族が訪問・電話している頻度
- 認知面や行動の変化
- 介護する家族の仕事や健康への影響
本人の前で言いにくい内容がある場合は、調査員へ別に伝える方法があるか、事前に市区町村へ聞いてください。
主治医には、診察室で見えない生活の変化を伝えます
主治医意見書は、介護認定の判断材料になります。
ただし、短い診察だけでは、自宅での転倒や服薬忘れ、夜間の混乱まで医師に伝わっていない場合があります。
受診時には、病名だけでなく生活上の変化を伝えてください。
「この一か月で二度転びました。薬を飲んだか分からなくなる日があり、買い物には家族の付き添いが必要です」
急に混乱が強くなった、食事が取れない、眠り方が大きく変わったという場合は、認知症や老化と決めつけず、医療面の評価も受けます。
認定結果を待てない場合は、暫定ケアプランを検討します
退院日が迫っている、一人での入浴が危険、家族が毎日通えないなど、認定結果まで待てない場合があります。
このようなときは、市区町村への届出など必要な手続きをしたうえで、居宅介護支援事業者や地域包括支援センターなどに「暫定ケアプラン」を作成してもらい、結果前に介護サービスを利用できる可能性があります。
認定は申請日に遡って適用されるため、認定された範囲内であれば介護保険給付の対象になり得ます。
ただし、見込んでいた要介護度より低い結果になった、利用額が支給限度額を超えた、非該当になったという場合には、一部または全部が自己負担になる可能性があります。
利用を始める前に、次の点を確かめてください。
- 認定結果が非該当だった場合の料金
- 想定より低い要介護度だった場合の自己負担
- 一回当たり、または一か月の利用見込額
- 結果後にサービス内容を変更できるか
- 契約やキャンセルの条件
電話では、次のように伝えます。
「認定結果を待つと生活が維持できません。暫定ケアプランで使えるサービスと、認定結果が見込みと違った場合の自己負担を説明してください」
親御さんが申請を嫌がるときは「介護が必要」と決めつけません
親御さんへ「介護認定を受けよう」と言うと、「まだそんな年ではない」「施設へ入れるつもりか」と反発されることがあります。
本人にとっては、申請が自立を失う宣告のように聞こえているのかもしれません。
介護の必要性を争うのではなく、実際に困っている一場面から話します。
「介護が必要だと決めたいわけではないよ。先週転んだことと、買い物が大変になったことを、どうすれば家で続けられるか聞きたい」
「認定を受けたら必ずサービスを使うわけではない。使える選択肢を確認してから決めたい」
本人が話を拒む場合も、ご家族だけで地域包括支援センターへ状況を伝え、切り出し方を考えられます。
遠方の家族は、電話の受け答えだけで大丈夫と判断しません
電話では普段どおり話していても、冷蔵庫、服薬、郵便物、室内の温度までは分かりません。
遠方に住んでいる場合は、近くの親族や知人へすべてを任せるのではなく、見たい項目を絞って頼みます。
- 冷蔵庫に食べられるものがあるか
- 薬が日付どおり減っているか
- 督促状や未開封の郵便が増えていないか
- 室内に転倒しそうな物がないか
- 本人の体重、服装、清潔に変化がないか
ご家族が親御さんの居住地へ行けなくても、地域包括支援センターには家族から連絡できます。訪問の可否や支援方法は地域・状況によって異なりますが、遠方で日常を見られない事情を伝えてください。
家族が限界になる前に、認定申請の理由へ含めます
親御さんが何とか暮らせているように見えても、その生活が家族の毎日の訪問によって成り立っている場合があります。
食事を運ぶ、薬を並べる、通院へ付き添う、夜中の電話へ対応する。それらを家族がしているから、表面上は一人暮らしが続いているのです。
家族の支援をすべて外した状態で、本人が何をできるかを見る必要があります。
「今は娘が週四日通っているので生活できていますが、仕事との両立が難しく、来月以降は週一日しか行けません」
この情報も、地域包括支援センター、認定調査員、ケアマネジャーへ伝える材料になります。
親御さんの意思を尊重することと、ご家族が倒れるまで介護を引き受けることは同じではありません。
結果が届いたら、要介護度より先に「できる生活」を決めます
認定結果は、非該当、要支援1・2、要介護1から5までに分かれます。
要支援1・2の場合は地域包括支援センターなどへ、要介護1以上の場合は居宅介護支援事業者のケアマネジャーへ、ケアプランの作成を依頼するのが一般的です。
ただし、要介護度が分かっても、利用するサービスが自動的に決まるわけではありません。
本人が続けたい生活と、危険になっている部分を伝えます。
「自分で料理は続けたい。ただし、買い物と薬の管理は手伝ってほしい」
「週に一度は家族が行ける。平日の入浴と食事を支えてほしい」
非該当になった場合も、総合事業や自治体独自の支援を利用できる可能性があります。結果だけを見て「何も使えない」と決めず、市区町村または地域包括支援センターへ次の選択肢を聞いてください。
今日は、親御さんの居住地を担当するセンター名だけ調べます
今夜、介護申請を決める必要はありません。
親御さんが住む市区町村名と「地域包括支援センター」を検索し、担当地区のセンター名と電話番号を見つけてください。
電話をする前に用意するのは、直近の三つの出来事です。
- 転倒した
- 薬が残っていた
- 買い物へ行けなかった
このように、生活上の変化を三つだけ伝えます。
「認定を申請するべき状態か、申請前に使える支援があるか聞きたいです」
最初の連絡は、そこまでで構いません。介護を始める決断ではなく、親御さんの暮らしを今のまま続けるために、何が足りないかを確かめる連絡です。















