冷蔵庫を開けると、同じ牛乳が五本並んでいた
実家へ行き、冷蔵庫を開けると、奥から同じ牛乳や豆腐がいくつも出てきます。
棚には未開封のしょうゆが四本。洗面所には同じ洗剤、玄関には箱のままのティッシュが積まれています。
親へ「こんなにあるのに、どうしてまた買ったの」と聞くと、
「安かったから買っておいた」
「そんな物、前からあった?」
「自分のお金で買っているんだからいいでしょう」
と返ってきます。
腐らせるのも、お金が減るのも心配です。それ以上に、家族の頭には、
「買ったことを忘れているのではないか」
「認知症が始まっているのではないか」
「このまま高額な商品まで買うようになったらどうしよう」
「注意したら、もう家へ入れてもらえなくなるかもしれない」
という思いが浮かびます。
同じ物が増えているのを見つけた日は、親の財布やカードを取り上げるより先に、「何を、どこで、どのように買っているか」を見てください。
買い物の重なり方には、その後の対応を選ぶ手がかりがあります。
同じ物が増える理由は、もの忘れだけではありません
買ったことを忘れて再び買う場合もありますが、それ以外の理由も考えられます。
| 起きていること | 考えられる理由 | 最初に試すこと |
|---|---|---|
| 棚の奥にある物をまた買う | 在庫が見えない、取り出しにくい | 同じ種類を一か所へまとめる |
| 安売りのたびに買う | 不足への心配、節約しているつもり | 家にある数と使い切る日数を一緒に見る |
| 毎週決まった物を買う | 長年の習慣で、在庫に関係なく手に取る | 買い物メモを出かける前に作る |
| 同じ日に同じ商品を買う | 購入した記憶が残っていない可能性 | 購入日とレシートを記録する |
| 電話やテレビを見て次々注文する | 勧誘、孤独感、健康への心配、契約内容の理解不足 | 注文履歴、請求書、定期購入の有無を見る |
| 必要以上に買い置きする | 災害や品不足への強い不安 | 保管上限を本人と決める |
たとえば、足元の低い収納に洗剤が入っていて、親がかがめないために見えていなかっただけかもしれません。
目が見えにくくなり、パッケージの違いや残量を判別しづらくなっている場合もあります。
最初から「忘れている」と決めると、親は自分を疑われたと感じます。まず、今の収納や買い物方法が本人に合っているかを見ます。
一週間だけ、買った物を責めずに記録します
「また買った」という印象だけでは、家族も親も話し合いにくいものです。
一週間から二週間ほど、重なった買い物だけを記録してください。
| 記録すること | 記入例 |
|---|---|
| 商品 | 牛乳1リットル |
| 購入日 | 7月20日 |
| 購入した場所 | 近所のスーパー |
| 購入方法 | 本人が一人で店頭購入 |
| 支払方法 | 現金 |
| 家にあった在庫 | 未開封3本 |
| 本人の説明 | 家にないと思った |
| ほかの変化 | 同日に薬の飲み忘れもあった |
すべての買い物を監視する必要はありません。
食品、日用品、通販など、特に重なっている物だけを選びます。
レシートがあれば日付順に封筒へ入れます。捨てている場合は、家へ商品が増えた日だけでも構いません。
記録すると、毎週同じ曜日に買っているのか、電話がかかってきた日に注文しているのか、在庫が見えない商品だけ重なるのかが分かります。
家の中を探し回らなくても、在庫が分かる置き方に変えます
収納場所が複数に分かれていると、記憶に問題がない人でも在庫を把握しにくくなります。
同じ種類の物は、できる範囲で一か所へまとめます。
| 商品 | 置き方の例 |
|---|---|
| 牛乳・豆腐・納豆 | 冷蔵庫の決まった段へ、古い順に手前から並べる |
| 調味料 | 使用中の一本と予備一本だけを見える場所へ置く |
| 洗剤・トイレットペーパー | 日常用と備蓄用を分け、上限数を書いておく |
| 缶詰・乾麺 | 箱の中へ隠さず、種類と数が見える向きに並べる |
| 化粧品・健康食品 | 使用中の商品と未開封の商品を分ける |
棚へ「しょうゆは予備1本」「牛乳は2本まで」と大きく書いたカードを置く方法もあります。
ただし、家族が勝手に細かなルールを貼り付けると、親は自分の家を管理されたように感じることがあります。
「同じ物を探すのが大変だから、私も分かる置き方にしていい?」
と本人へ聞き、一緒に場所を決めてください。
買い物メモは、品名だけでなく「家にある数」を書きます
「牛乳を買う」とだけ書いたメモでは、店に着いたとき、本当に必要か判断できないことがあります。
出かける前に、次のような形で書きます。
| 商品 | 家にある数 | 今回買う数 |
|---|---|---|
| 牛乳 | 未開封2本 | 買わない |
| 卵 | 残り2個 | 1パック |
| しょうゆ | 使用中1本・予備1本 | 買わない |
| トイレットペーパー | 残り2ロール | 1袋 |
スマートフォンを使える親なら、出かける前に冷蔵庫や棚の写真を撮る方法もあります。
紙のメモを使う場合は、財布、買い物袋、玄関など、出かけるとき必ず目に入る場所へ置きます。
メモを作っても持参できない場合は、「本人が努力すればできる」と考えず、買い物へ同行する日を作るなど、方法そのものを変えます。
注意するときは、「買ったこと」より「困っている場面」を伝えます
同じ物を見つけるたびに注意されると、親は買い物そのものを否定されたように感じます。
家族も、怒りたいわけではありません。食品を無駄にしたくない、お金を守りたい、親に安全に暮らしてほしいだけでしょう。
| 避けたい言い方 | 伝え直す例 |
|---|---|
| 「また同じ物を買ったの?」 | 「牛乳が五本あって期限までに飲み切れなさそう。一緒に置き方を変えたい」 |
| 「買ったことを忘れているでしょう」 | 「前に買った物が見えにくかったのかな。どこなら分かりやすい?」 |
| 「もう一人で買い物へ行かないで」 | 「重い物を買う日は私も一緒に行かせて」 |
| 「無駄遣いしないで」 | 「今月、同じ健康食品に2万円使っている。来月の生活費へ影響しない方法を考えたい」 |
| 「認知症なんじゃないの」 | 「最近、買い物や薬で迷うことが増えたから、体調も含めて一度医師に聞いてみたい」 |
親が怒った場合は、その場で認めさせようとしません。
商品とレシートを残し、別の日に「使い切れる数」を話します。
買った物を黙って捨てると、かえって買い足すことがあります
冷蔵庫へ入りきらない食品や、大量の洗剤を見ると、親がいない間に処分したくなるでしょう。
けれど、本人から見れば、家にあったはずの物がなくなっています。
「やはり足りない」と考え、さらに買う可能性があります。
期限切れや腐敗した食品は衛生面を優先して処分する必要がありますが、できれば本人へ見せながら、
「これは昨日までの期限で、においも変わっているから捨てるね」
と理由を伝えます。
未開封で使える商品は、次のように分けられます。
- 本人が使い切れる分を残す
- 家族が引き取る
- 本人の同意を得て知人へ譲る
- 未開封食品の寄付先が地域にあるか調べる
- 定期購入なら次回分を止める
片づけを目的にせず、次に同じ量を買わずに済む状態を作ることを優先します。
店頭・テレビ・電話・ネットでは、繰り返す理由が違います
| 購入方法 | 起きやすいこと | 家族が見るもの |
|---|---|---|
| 近所の店 | 習慣で同じ売り場へ行き、在庫に関係なく買う | レシート、買い物メモ、店へ行く曜日 |
| テレビショッピング | 限定、割引、残りわずかという言葉で急いで注文する | 注文確認書、返品条件、追加商品、定期購入 |
| 電話勧誘 | 断ったつもりでも契約になっている | 着信履歴、届いた書類、請求額 |
| インターネット通販 | 過去の購入履歴から同じ物を再注文する | 注文履歴、保存された支払方法、定期便 |
| 訪問販売 | その場で断れず、同じ種類の商品を契約する | 契約書、事業者名、契約日、支払方法 |
国民生活センターには、高齢の家族がテレビショッピングで次々と購入してしまうという相談も寄せられています。
親が自分から注文しているように見えても、電話口で別の商品やまとめ買いを勧められ、本人が理解した内容と実際の契約が違う場合があります。
届いた箱は捨てずに、定期購入になっていないかを見ます
同じ健康食品や化粧品が毎月届く場合、親がその都度注文しているとは限りません。
最初の一回だけのつもりが、定期購入や複数回契約になっている可能性があります。
- 注文確認書
- 納品書
- 請求書
- 商品が届いた箱
- メールやSMSの注文通知
- カードや口座の利用明細
- 販売業者の名称と連絡先
- 解約・返品条件
を集めてください。
通信販売は、一般的に訪問販売のようなクーリング・オフ制度の対象とはならず、返品や解約は表示された条件に基づくことがあります。
「返品できない」と思い込んで商品を開封せず、まず契約内容と事業者への連絡方法を見ます。
本人が注文した覚えがない、説明と違う契約になっている、解約できない、高額な請求がある場合は、消費者ホットライン188へ家族から状況を伝えられます。
買い物の金額は、一品の値段より一か月の合計で見ます
一回の買い物が数百円なら、家族も強く言いにくいでしょう。
しかし、同じ物を週に何度も買えば、食品の廃棄だけでなく、生活費へ影響します。
| 状態 | まず行うこと |
|---|---|
| 食品や日用品が少し重なる | 在庫の置き方と買い物メモを変える |
| 毎月数千円の重複が続く | 商品別・購入方法別に一か月の合計を出す |
| 健康食品や通販へ数万円使う | 契約内容、定期購入、支払方法を本人と見る |
| 生活費や公共料金が不足している | 買い物以外の支出も含め、家計全体を把握する |
| 借入れやカードの滞納がある | 新しい購入を止め、契約資料をそろえて消費生活相談へつなぐ |
「一つ500円だから問題ない」という話ではなく、同じ商品へ一か月でいくら使っているかを本人にも見せます。
本人が納得できる状態なら、食品、日用品、趣味などに分け、一週間または一か月の予算を一緒に決める方法もあります。
現金やカードを取り上げる前に、危険の大きさを分けます
繰り返し買う親を見ていると、家族が財布やカードを預かりたくなることがあります。
ただ、本人の同意なくお金を管理すると、親子関係が悪化し、買い物や請求を隠すようになる場合があります。
| 現在の状態 | 検討する対応 |
|---|---|
| 少額の商品が重なるだけ | 収納、買い物メモ、同行から始める |
| 支出額を本人が理解し、協力できる | 買い物用の財布、利用上限、レシート保管を一緒に決める |
| カードの使用額が分からなくなっている | 本人と明細を見て、利用限度額や支払方法をカード会社へ確認する |
| 契約内容を理解できず、高額購入を繰り返す | 医療・介護・消費生活の窓口へ並行して状況を伝える |
| 生活費がなくなる、借金が増える | 家族だけで管理方法を決めず、法律や福祉の窓口も利用する |
本人が自分で選び、支払う力をできるだけ残しながら、損失が大きくなる部分だけを補います。
一度にすべてのカードや現金を取り上げるのではなく、「通販用のカードは使わない」「買い物用の現金を週ごとに分ける」など、本人と合意できる範囲から始めます。
買い物へ同行するときも、家族がすべて決めない
親の買い物へ付き添うと、同じ商品を手にした瞬間に棚へ戻したくなるかもしれません。
その前に、家にいくつあるかを一緒に思い出します。
「家に牛乳が二本あったけれど、今日はもう一本必要?」
親が「必要」と答えたら、何に使う予定かを聞きます。
来客がある、家族へ渡す、特売のため備蓄したいなど、本人なりの理由があるかもしれません。
一方で、家にあること自体を何度伝えても思い出せない場合は、買わなかった事実だけでなく、その会話も記録します。
同行の目的は、買い物の楽しみを奪うことではありません。必要な物を自分で選ぶ部分は残し、重複しやすい物だけを一緒に見ることです。
買い物以外にも変化があるかを見る
同じ物を繰り返し買うことは、認知機能の変化でみられる場合があります。
国立長寿医療研究センターも、必要な物を買い忘れる、同じ物を何度も買う、期限切れの食品がたまるといった変化を、買い物に現れる生活上の変化として挙げています。
ただし、一つの行動だけで認知症とは決められません。
次のような変化が重なっていないかを見てください。
- 同じ質問や話を何度も繰り返す
- 薬の飲み忘れや重複が増えた
- 受診日や支払日を忘れる
- ATMやレジで支払い方が分からなくなる
- 料理の手順や味付けが変わった
- 期限切れの食品を食べようとする
- 公共料金やカードの支払いが遅れる
- 慣れた店や道で迷う
- 身だしなみや掃除への関心が下がった
- 以前より怒りっぽい、不安が強い
複数の変化が続いている場合は、記録を持ってかかりつけ医へ伝えます。
「認知症か調べてほしい」と言いにくければ、
「同じ食品を週に三回買い、薬の飲み忘れも増えています。体調や薬の影響も含めて見てほしいです」
と、生活で起きていることから話せます。
急に買い物の様子が変わったときは、体調も見ます
以前は問題なく買い物できていた親が、数日のうちに急に大量購入したり、支払いが分からなくなったりした場合は、ゆっくり進むもの忘れだけとは限りません。
- 発熱や咳がある
- 水分や食事を取れていない
- 転倒して頭を打った可能性がある
- 薬が追加・変更された
- 眠れない日が続いている
- 会話が急にかみ合わなくなった
- 普段より強くぼんやりしている
- 気分が高ぶり、ほとんど眠らず活動している
こうした変化がある場合は、買い物の仕組みだけを直すのではなく、早めに医療機関へ現在の状態を伝えてください。
突然の混乱、意識の変化、強いふらつきなどがある場合は、救急を含めた対応が必要になることもあります。
親が受診を嫌がるときは、もの忘れを前面に出さない
「認知症の検査へ行こう」と言うと、親が強く拒むことがあります。
その場合は、本人が困っていることを理由にします。
| 本人が困っていること | 受診の切り出し方 |
|---|---|
| 買った物を持ち帰るのが重い | 「足腰や体調も含めて、買い物が楽になる方法を先生に聞こう」 |
| 支払いで焦る | 「薬や体調で集中しにくくなることがないか、一度聞いてみよう」 |
| 家族に注意されるのが嫌 | 「私たちだけで言い合いになるから、第三者に方法を聞きたい」 |
| 食品を捨てられるのが嫌 | 「安全に食べ切れる買い方を一緒に考えてもらおう」 |
本人が受診しなくても、家族だけでかかりつけ医や地域包括支援センターへ相談できる場合があります。
地域包括支援センターへは、年齢、同居か別居か、買い物の回数、金額、ほかの生活上の変化、家族が困っていることを伝えます。
兄弟間では、「止める人」一人へ役割を集中させない
離れて暮らす親の買い物を、一人の子どもだけが確認している家庭もあります。
注意する役を一人が引き受け続けると、親との関係が悪くなり、家族も疲れます。
| 役割 | 担当の例 |
|---|---|
| 在庫を見る | 近くに住む家族が週に一度確認する |
| 請求を見る | 本人の同意を得て、別の家族が明細を一緒に見る |
| 買い物へ同行する | 配偶者やきょうだいが交代で付き添う |
| 医療・介護へ伝える | 一人が記録をまとめて連絡する |
| 通販契約へ対応する | 注文書を集め、消費生活相談へ状況を伝える |
「母をしっかり見ておいて」と曖昧に頼むのではなく、「今月のカード明細だけ一緒に見てほしい」と具体的に分けます。
今日することは、親の買い物を全面禁止することではありません
同じ商品が増えていると気づいた日は、家中を片づけたり、すべての支払いを止めたりしなくても構いません。
今日は、特に重なっている商品を一つだけ選んでください。
そして、次の五つを書きます。
- 家にいくつあるか
- 最後に買った日
- どこで買ったか
- どの方法で支払ったか
- 親が買った理由をどう説明したか
その商品を一か所へまとめ、親へ、
「これを責めたいわけではなく、次に買う日が分かる置き方を一緒に考えたい」
と伝えます。
通販商品なら、箱と書類を残し、次回の配送予定と定期購入の有無を見ます。
買ったこと自体を忘れている様子があり、薬、お金、約束などにも変化が出ているなら、その事実を一枚にまとめ、かかりつけ医か地域包括支援センターへ伝えてください。
親の買い物をすべて取り上げなくても、安全に選べる部分は残せます。
同じ物を見つけるたびに叱るのではなく、在庫が見える場所を一つ作る。買った日を一つ残す。生活のほかの変化を一つ見る。
その積み重ねが、親の自尊心を傷つけずに、お金と暮らしを守る方法へつながります。
出典・確認先メモ
- 国立長寿医療研究センター「認知症とMCI」
- 国立長寿医療研究センター「認知症はどう予防する?もの忘れと認知症を知ろう」
- 国民生活センター「テレビショッピングにかかる消費者トラブル」
- 国民生活センター「高齢者の消費者被害」
- 厚生労働省「地域包括支援センターについて」















