窓口まで連れて行ったのに、親が質問へ答えられず手続きが止まります
母から「定期預金を普通預金へ移したい」と頼まれ、一緒に銀行へ行く。
ところが、窓口で職員から理由や金額を尋ねられると、母は黙り込みます。
隣から説明しようとすると、「ご本人からお答えいただけますか」と言われる。
父の住所変更をしようと通帳と印鑑を持って行ったのに、本人が来ていないため受け付けてもらえないこともあります。
家族としては、親のお金を取ろうとしているわけではありません。
「入院費の支払いが迫っている」
「通帳を何度もなくしている」
「足が悪く、一人で銀行へ行けない」
「説明を聞いても家へ帰ると忘れてしまう」
必要に迫られて動いているのに、疑われているようでつらくなることもあるでしょう。
一方、銀行には、預金者本人の財産を守り、家族を名乗る第三者による不正な引き出しを防ぐ役割があります。
家族だから当然に代わりにできるのではなく、親がどこまで理解し、どのような助けがあれば意思を伝えられるのかを銀行と共有することが出発点です。
「一人でできない」を、体の問題と判断の問題に分けます
親が銀行手続きをできない理由によって、必要な支えは変わります。
| 親の状態 | 考えられる支え方 |
|---|---|
| 手続きの目的や金額を理解し、自分の希望を話せる | 家族が付き添い、移動や書類探し、説明の補助をする |
| 手が震える、目が見えにくいなど、記入が難しい | 代筆が可能か、銀行職員の前で確認する |
| 耳が聞こえにくく、説明を理解しづらい | 静かな席や筆談、ゆっくりした説明を事前に依頼する |
| 緊張すると答えられないが、落ち着けば希望を話せる | 目的と金額を書いたメモを本人と作って持参する |
| 目的や金額の説明が毎回変わる | 窓口手続きだけでなく、判断力や生活全体の支援を考える |
| 手続きの意味を理解できず、意思確認が難しい | 銀行、地域包括支援センター、成年後見等の窓口へ相談する |
歩けないことと、お金の使い道を判断できないことは別です。
親が内容を理解し、自分で決められるなら、家族の役割は「代わりに決める人」ではなく、「本人が手続きしやすいよう支える人」です。
銀行へ行く前に、手続き名を一つに絞って電話します
窓口へ着いてから「親の口座についていろいろ相談したい」と伝えると、その日に必要書類がそろわないことがあります。
まず、取引のある支店へ電話し、具体的な手続きを一つずつ伝えます。
| したいこと | 銀行へ伝える内容 |
|---|---|
| 現金を引き出したい | 金額、使い道、本人が来店できるか |
| 病院や施設へ支払いたい | 請求先、請求額、支払期限、請求書の有無 |
| 定期預金を解約したい | 本人が内容を理解しているか、来店できるか |
| 住所や電話番号を変更したい | 本人確認書類、新旧住所が分かる書類 |
| 通帳やカードを紛失した | 紛失した物、最後に確認した日、不正利用の有無 |
| 家族が今後手続きを支えたい | 銀行独自の代理人登録や財産管理サービスの有無 |
電話での伝え方
「80代の母の定期預金解約について相談したいです。母は内容を理解して自分の希望を話せますが、歩行と書類記入が難しく、一人では来店できません。本人と私が一緒に行く場合、必要な物と予約方法を教えてください」
親が来店できない場合は、その理由も伝えます。
「父は入院中で、本人名義の口座から入院費を支払う必要があります。本人の意思をどのような方法で確認できるか、請求書など何を用意すればよいか教えてください」
付き添う日は、親が答えやすい一枚のメモを作ります
窓口では、親へ次のような質問がされる場合があります。
- 今日は何の手続きに来たのか
- いくら動かしたいのか
- 何に使うお金なのか
- 誰から説明を受けたのか
- 手続き後のお金を誰が管理するのか
緊張すると言葉が出にくい親には、事前に答えを一緒に考えます。
| メモすること | 記入例 |
|---|---|
| 今日する手続き | 普通預金から病院へ30万円振り込む |
| 手続きをする理由 | 入院費の請求書が届いたため |
| 本人の希望 | 自分の預金から支払いたい |
| 家族に頼むこと | 書類の記入と振込先の確認を手伝ってほしい |
| 手続き後の管理 | 通帳は本人宅の保管場所へ戻す |
家族が作った答えを暗記させるのではありません。
本人が本当に望んでいる内容を、窓口で思い出せる形へするためのメモです。
窓口では、最初に親本人へ話してもらいます
家族がすべて説明すると、銀行側は、本人が内容を理解しているのか、家族に言われるまま手続きしようとしているのかを判断しにくくなります。
最初は、本人から短く伝えてもらいます。
親本人から伝える例
「今日は入院費を払うために来ました。娘に書類を手伝ってもらいたいです」
「通帳をなくしたので、再発行したいです。息子は付き添いです」
家族から補足する例
「母の希望は、請求書どおり病院へ振り込むことです。耳が聞こえにくいため、説明を紙でも示していただけると助かります」
「父は手が震えて自筆が難しい状態です。代筆が可能であれば、銀行の指示に従って記入します」
親の返答が遅くても、すぐに代わって答えず、待つ時間を作ります。
委任状があれば何でもできるわけではありません
本人が内容を理解し、家族へ手続きを頼める場合には、銀行所定の委任状などで代理手続きができることがあります。
ただし、委任状の様式、本人確認方法、実印や印鑑登録証明書の要否、代理で扱える取引は金融機関ごとに異なります。
- 銀行の所定様式が必要か
- 本人が自筆する欄はどこか
- 代筆が認められるか
- 本人と代理人の本人確認書類は何か
- 印鑑登録証明書が必要か
- 発行から何か月以内の書類が必要か
- 代理できない取引があるか
家で家族がすべて記入し、親へ署名だけを求めるのではなく、書き始める前に銀行へ方法を聞いてください。
委任状は、本人が手続きの内容を理解したうえで、特定の行為を家族へ頼むための書類です。手続きの意味を本人が理解できない状態になってから、家族だけで作るものではありません。
家族だからといって、親のカードと暗証番号を当然に使えるとは限りません
親から「カードを渡すから、必要なだけ下ろして」と言われることがあります。
本人の生活費へ使うつもりでも、家族が本人のキャッシュカードや暗証番号を使うことが、銀行との契約上認められているとは限りません。
また、本人の意思が曖昧になった後に家族の判断だけで引き出すと、きょうだい間で「何に使ったのか」と疑われる原因にもなります。
全国銀行協会は、親族であっても本人の意思に基づかない預金の払い戻しは問題となるため、本人の状態、資金の使い道、金額などを確認しながら銀行が対応する必要があると説明しています。
親のカードを預かる前に、取引銀行へ正式な代理方法があるかを聞いてください。
親が入院中でも、「家族なので下ろしたい」だけでは進まないことがあります
入院費、介護施設費、家賃など、支払期限が迫っている場合があります。
本人が来店できず意思確認も難しいときは、次の物を用意して取引銀行へ事情を伝えます。
- 病院や施設からの請求書
- 支払期限と振込先が分かる書類
- 親本人の状況が分かる情報
- 家族関係を示すため銀行から求められた書類
- 本人と来店者の本人確認書類
- これまで銀行と話した日時と担当部署
預金の払い戻しには原則として本人の意思確認が必要ですが、本人の生活費、入院費、介護施設費などで困っている場合は、まず取引銀行へ相談するよう全国銀行協会は案内しています。銀行によっては、資金の使い道や本人との関係を確認したうえで、支払先へ直接振り込むなど、個別事情に応じた方法を検討する場合があります。
家族からの申し出だけで必ず払い戻せるという制度ではありません。
「緊急だから現金を渡してほしい」と求めるより、請求書を見せて、本人のための支払いだと確認できる方法を聞きます。
銀行で断られたときは、理由と次の方法を聞きます
その日に手続きができなかったからといって、そこで終わりとは限りません。
窓口で聞きたいこと
- 不足しているのは書類か、本人確認か、代理権か
- 本人と電話や面談で意思確認できるか
- 予約して再来店すれば対応できるか
- 銀行所定の委任状や代理人制度があるか
- 病院や施設への直接支払いを検討できるか
- 銀行内の高齢者対応や相談担当へつないでもらえるか
- 将来に向けて利用できる財産管理サービスがあるか
伝え方の例
「今日できない理由を、必要書類、本人の意思確認、代理権のどれかに分けて教えてください」
「本人の入院費で支払期限があります。現金での払い戻しが難しい場合、病院への直接振込など別の方法はありますか」
「次回までに何を用意すればよいか、書面または箇条書きでいただけますか」
金融機関によって具体的な対応は異なります。銀行との話し合いで困った場合は、全国銀行協会相談室でも、本人の口座から入院費を支払いたいといった銀行取引の相談や苦情を受け付けています。
親が判断できるうちに、銀行の代理人制度を聞いておきます
今は一緒に窓口へ行けても、数年後には外出や記入がさらに難しくなるかもしれません。
本人が自分のお金の使い方を理解し、誰に何を任せるか決められるうちに、取引銀行へ次を聞いておきます。
- 代理人を事前登録できる制度があるか
- 代理人ができる取引の範囲
- 利用開始に必要な本人確認
- 本人の判断力が低下した後も利用できるか
- 家族向けのカードや生活費口座を設けられるか
- 財産管理・信託などのサービスがあるか
- 手数料や利用条件
全国銀行協会は、銀行によって独自の代理人制度や財産管理サービスがあり、取扱いの有無や内容が異なるため、早い時期に取引銀行へ確認することを案内しています。
制度の名称だけで決めず、「誰が、何のために、いくらまで動かせるのか」を具体的に見ます。
将来の財産管理を任せる人を自分で決めたいなら、任意後見という方法もあります
本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が不十分になった場合に備え、財産管理などを任せる相手と内容を公正証書で決めておく制度が任意後見です。
任意後見契約は、契約を結んだだけで家族がすぐ自由に口座を動かせる制度ではありません。本人の判断能力が低下した後、家庭裁判所が任意後見監督人を選任してから効力が生じ、任意後見人は契約で定めた範囲の事務を行います。
親が元気なうちに話す場合は、次の希望を聞きます。
- 日常の支払いを誰へ任せたいか
- 施設費や医療費をどの口座から払うか
- 不動産や定期預金をどう扱いたいか
- 家族へどこまで財産情報を共有するか
- 専門職へ依頼する場合の費用をどう考えるか
「認知症になる前提で話そう」と切り出すより、「入院や足腰の衰えで銀行へ行けなくなったとき、誰に何を頼みたい?」と聞く方が話しやすくなります。
手続きの内容を理解できない状態なら、委任状だけで解決しようとしません
次のような状態が続いているときは、窓口へ連れて行くことだけでなく、財産管理全体の支援を考える時期かもしれません。
- 何の手続きか説明しても理解できない
- 引き出す金額や使い道が何度も変わる
- 手続きしたことをすぐ忘れ、繰り返し銀行へ行く
- 通帳やカードを頻繁になくす
- 見知らぬ人へ送金しようとする
- 生活費を払えない一方で、高額商品を契約している
- 家族ごとに違う指示を出し、本人の希望が分からない
成年後見制度は、認知症などによって判断能力が十分でない人について、家庭裁判所が本人の権利を守る支援者を選び、預貯金の管理や契約などを法律面から支える制度です。本人の状態や必要な支援に応じた手続きがあるため、地域の相談窓口や家庭裁判所の案内で最新の制度を確かめます。
成年後見は、銀行手続きを一度だけ済ませるための簡単な委任状ではありません。
申立て後の財産管理や報告を含む継続的な制度なので、親の生活全体に必要かを考えて利用します。
成年後見の前に、日常のお金を支える制度が合う場合もあります
親が金銭管理に不安を感じていても、支援内容を説明すれば理解し、契約する意思を示せる場合があります。
そのような人を対象に、社会福祉協議会などが行う日常生活自立支援事業を利用できることがあります。
この事業では、利用者との契約に基づき、福祉サービスの利用援助や、日常生活に必要な預金の払い戻し・預け入れなどの金銭管理を支援します。利用には、契約内容を判断できる力があることなどの条件があり、地域の社会福祉協議会が相談窓口です。
| 親の困り事 | 相談先の候補 |
|---|---|
| 銀行へ一人で行けないが、手続きの内容は理解できる | 取引銀行へ付き添い・代理制度を相談 |
| 日常の支払いや通帳管理を一人で行いにくい | 社会福祉協議会の日常生活自立支援事業 |
| 判断能力の低下があり、財産や契約全体の支援が必要 | 地域包括支援センター、成年後見の中核機関 |
| 銀行との対応について苦情や相談がある | 銀行のお客さま窓口、全国銀行協会相談室 |
地域包括支援センターは、高齢者の総合相談や権利擁護を担い、必要に応じて成年後見などの制度や関係機関へつなぐ地域の窓口です。親が暮らす地域の担当センターへ、家族だけで最初の相談をすることもできます。
家族がお金を動かしたときは、少額でも記録を残します
親のために行ったことでも、記録がなければ、後から家族同士で疑いが生まれる場合があります。
| 記録すること | 具体例 |
|---|---|
| 日付 | 7月15日 |
| 金額 | 42,800円 |
| 使い道 | 介護施設の7月利用料 |
| 支払先 | ○○ホームへ振込 |
| 本人の意思確認 | 請求書を見せ、本人が支払いを希望 |
| 残した資料 | 請求書、振込明細、領収書 |
- 親のお金と自分のお金を同じ財布や口座で混ぜない
- 現金を引き出したら、領収書と残金を記録する
- きょうだいがいる場合は、定期的に一覧を共有する
- 大きな支出は、本人の希望と家族の話し合いを残す
- 通帳や印鑑を保管する人を決める
これは家族を疑うためではなく、支えている人自身を守るための記録です。
親が付き添いを嫌がるときは、通帳を取り上げる話にしません
親は、「銀行へ一人で行けない」と認めることで、すべてのお金を子どもに管理されるように感じる場合があります。
避けたい切り出し方
「もう一人では無理だから、通帳は私が預かる」
「また忘れたの? これから全部こちらでやる」
伝え方を変える例
「お金の使い方を私が決めたいわけではないよ。銀行で困る部分だけ手伝いたい」
「今日は通帳を預かる話ではなく、次に一人で行けないときの方法を銀行へ聞きたい」
「説明はお母さんからして、私は書類と移動を手伝う形にしよう」
「銀行へ行く前に、何をしてほしいか一緒に一行だけ書いておこう」
本人ができる部分を残し、困っている部分だけを補う話にします。
状態別に、今日することを一つへ絞ります
| 現在の状態 | 今日すること |
|---|---|
| 親は判断できるが、体が不自由 | 銀行へ予約と付き添い方法を電話で聞く |
| 記入だけが難しい | 銀行所定の代筆・委任状の扱いを聞く |
| 入院費などの期限が迫っている | 請求書を用意し、本人のための直接支払いが可能か聞く |
| 親の説明が毎回変わる | 取引を急がず、生活状況を地域包括支援センターへ話す |
| 日常のお金の管理に不安がある | 社会福祉協議会へ日常生活自立支援事業を聞く |
| 本人が手続きの意味を理解できない | 成年後見を含む権利擁護の相談窓口を利用する |
| 銀行の説明に納得できない | できない理由と代替手段を書面で確認する |
今日の一歩は、通帳を預かることではなく銀行へ一本電話することです
親が銀行手続きを一人でできなくなると、家族は「これから全部、自分が管理しなければ」と考えてしまいます。
しかし、最初からすべてを引き受ける必要はありません。
紙へ次の四つを書いてください。
| 書くこと | 記入例 |
|---|---|
| したい手続き | 介護施設へ利用料を振り込みたい |
| 親ができること | 支払いの目的と金額を説明できる |
| 難しいこと | 歩行と書類の記入 |
| 銀行へ聞くこと | 付き添い時の必要書類と予約方法 |
その一枚を手元に置き、親の取引銀行へ連絡します。
「家族が代理でできますか」だけではなく、親ができることと難しいことを分けて話してください。
本人の意思が確認できるなら、それを伝えられる方法を銀行と考える。
判断する力が揺らいでいるなら、家族だけでお金を動かすのではなく、銀行と福祉の窓口をつなぐ。
親の財産を守ることと、親自身の意思を残すことは、どちらか一つを選ぶ話ではありません。
今日決めるのは、通帳を誰が持つかではなく、次の手続きを正式な方法で進めるために、誰へ何を聞くかです。
出典・確認先メモ
- 全国銀行協会「預金者本人の意思確認ができない場合における預金の引出し」:本人の生活費、入院費、介護施設費などで困っている場合の銀行への相談について。
- 全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方」:高齢者や認知判断能力が低下した人の代理取引は、金融機関や個別事情によって対応が異なることの確認資料。
- 全国銀行協会「認知症になった場合の資産管理」:銀行独自の代理人制度、財産管理サービス、後見制度支援預金などを確かめる際の資料。
- 法務省・裁判所「成年後見制度」:法定後見と任意後見の仕組み、利用手続きを確かめる際の資料。
- 厚生労働省「日常生活自立支援事業」:日常的な金銭管理の支援内容と利用条件を確かめる際の資料。
- 厚生労働省「地域包括支援センター」:高齢者の総合相談、権利擁護、成年後見制度への支援を確かめる際の資料。















