「さっき飲んだよ」と伝えても、親には飲んだ記憶が残っていないことがあります
朝食を片付けていると、親が薬の袋を手にしている。
「その薬は、さっき飲んだよ」と声をかけても、「まだ飲んでいない」「飲ませてもらっていない」と言って聞かない。
薬の袋はごみ箱にあるのに、本人は納得せず、別の日の薬を探し始める。止めようとすると、「私の薬なのに、どうして隠すの」「具合が悪くなったら責任を取って」と怒られてしまう。
家族は、飲みすぎが怖い一方で、必要な薬まで止めてしまうのも心配です。
「本当に飲んだのだろうか」
「私の見間違いだったらどうしよう」
「一錠くらいなら、もう一度飲ませた方がいいのでは」
迷っている間にも、親は薬を口へ運ぼうとします。
この場面で必要なのは、親に記憶違いを認めさせることではありません。次の一回を安全に止め、すでに飲んだ可能性と、今後飲むべき薬を医療者と分けて考えることです。
目の前で再び飲もうとしているときは、追加分をいったん保留します
本人が薬を手にしていても、慌てて奪い取ると、かえって隠れて飲もうとすることがあります。
まず薬を飲ませないための理由を、記憶の間違いではなく「安全確認」に置き換えます。
| 親の言葉 | 返し方の例 | 避けたい返し方 |
|---|---|---|
| 「まだ薬を飲んでいない」 | 「飲んだか分からないから、もう一回飲む前に薬局へ聞こう」 | 「何度言ったら分かるの。さっき飲んだでしょ」 |
| 「薬を飲まないと具合が悪くなる」 | 「必要な薬だからこそ、重ならないように確認してからにしよう」 | 「今日はもう全部飲まなくていい」 |
| 「薬を隠したでしょう」 | 「隠したいのではなく、次に飲む分を一緒に確かめたいんだ」 | 「勝手に何度も飲むから取り上げた」 |
| 「自分の薬は自分で分かる」 | 「そうだね。今日は袋が一つ足りないように見えるから、一緒に確認させて」 | 「もう自分では管理できないでしょう」 |
薬の残り、空になった袋、服薬カレンダーなどを一緒に見ても、飲んだかどうか確定できない場合があります。
そのときは「たぶん飲んでいない」と推測して追加せず、薬の名前と服用時刻を確かめて、調剤した薬局や処方元へ連絡します。
飲み忘れた薬への対応は薬ごとに異なり、次の服用時に二回分をまとめて飲むことは避けるよう、日本薬剤師会も案内しています。糖尿病薬や週一回服用する薬など、一般的な飲み忘れ対応をそのまま当てはめられない薬もあります。
「二重に飲んだかもしれない」ときは、症状がなくても情報をそろえて連絡します
二回飲んだ可能性があると分かったら、次の薬をどうするかまで家族だけで決めないでください。
まず、本人の手元から残りの薬をいったん離し、これ以上追加で飲まない状態を作ります。そのうえで、薬局、処方医、医療機関のいずれかへ連絡します。
電話の前に、次の内容を一枚へ書いてください。
- 本人の年齢、体重、持病
- 薬の正確な名前と含量
- 何錠または何包を飲んだ可能性があるか
- 最初と二回目に飲んだ時刻
- ほかに飲んだ処方薬、市販薬、サプリメント
- 現在の症状と普段との違い
- 薬の袋、説明書、お薬手帳が手元にあるか
薬の名前が分からない場合は、「白い錠剤」だけで判断しようとせず、薬袋、一包化された袋、薬の写真、お薬手帳を探します。
| 現在の状況 | 最初の連絡先 |
|---|---|
| 薬名と量が分かり、本人に目立った症状がない | 調剤した薬局、処方医、受診先の医療機関 |
| 薬名や飲んだ量が分からない | 薬局・医療機関、または中毒110番 |
| 市販薬を含め、複数の薬を多く飲んだ可能性がある | 中毒110番または医療機関へ早急に連絡 |
| 意識や呼吸などに異常がある | 119番 |
日本中毒情報センターの中毒110番は、医薬品などによる急性中毒が実際に起きた場合に、一般向けの情報提供を24時間行っています。電話では、年齢、体重、薬の商品名、量、飲んだ時刻、現在の状態などを聞かれるため、薬の容器や袋を手元に置きます。
- 大阪中毒110番:072-727-2499
- つくば中毒110番:029-852-9999
中毒110番は、今後の服薬管理全般を相談する窓口ではなく、実際に誤って多く飲んだなど、急性中毒が起きた場面の相談先です。普段の管理方法は、かかりつけ医や薬剤師へつなぎます。
呼びかけへの反応や呼吸がおかしい場合は、薬局への電話より119番を優先します
飲んだ薬によって現れやすい症状は異なります。
ただし、次のような状態があるときは、薬の名前を調べ続けず、119番へ連絡してください。
- 呼びかけても反応しない、受け答えが明らかにおかしい
- 起こしてもすぐ眠り込み、普段どおりに目を覚まさない
- 息が苦しそう、呼吸が遅い・浅い、唇の色が悪い
- 立てないほどふらつく、急に倒れた
- けいれんしている
- 何度も吐いている
- 冷や汗が強い、顔色が悪い
- 大量に飲んだ可能性があり、量を確認できない
消防庁の救急受診ガイドでも、薬を多く飲んだ、間違った薬を飲んだ場合を緊急度判断の対象とし、呼吸や意識、顔色などの異常がある場合は緊急受診が必要としています。
119番へ電話するときは、「高齢の母が薬を二重に飲んだ可能性があり、呼びかけへの反応が鈍いです」と最初に伝えます。
救急隊が来るまで、薬の袋、お薬手帳、残っている錠剤をまとめておきます。いつ、何を、どれだけ飲んだ可能性があるかもメモしておくと、引き継ぎやすくなります。
薬を何度も飲もうとする理由は、記憶だけとは限りません
「認知症だから忘れる」と決めつけると、管理方法を変えても同じことが起きる場合があります。
親が薬を繰り返し手に取る背景を、生活場面から見てみます。
| 考えられる背景 | よくある様子 | 見直したいこと |
|---|---|---|
| 飲んだ記憶が残らない | 服用直後でも「飲んでいない」と言う | 本人の記憶ではなく、袋や記録で服用済みを示す |
| 薬の区別がつかない | 朝・昼・夕や日付の違う袋を開ける | 一度に見える薬を減らし、表示を大きくする |
| 曜日や時間が分からない | 夜中に朝の薬を飲もうとする | 時計、日付、食事と服薬を結びつける |
| 症状を早く楽にしたい | 痛み止め、睡眠薬、便秘薬などを繰り返し求める | 症状の強さと薬を求めた時刻を医師へ伝える |
| 薬の回数が多すぎる | 食前・食後・眠前などが混在している | 服用回数や処方の簡素化が可能か聞く |
| 複数の医療機関から薬が出ている | 似た薬を別々の袋から飲む | すべての薬を一つの薬局や医師へ見せる |
| 見えにくい・聞こえにくい | 小さな文字を読めず、説明も聞き取れていない | 大きな表示、眼鏡、補聴器、分かりやすい説明を使う |
| 薬を飲む行為が習慣になっている | 食事をするたび薬を探す | 服薬後に別の決まった行動へ切り替える |
高齢者は、複数の病気や医療機関から薬が増えやすく、薬の種類が多いことに伴って服用間違いや薬による有害な症状が起こりやすくなります。単に薬の数だけを減らせばよいわけではなく、本人の病状、生活、管理能力を含め、処方全体を医師・薬剤師に見直してもらう必要があります。
服薬カレンダーは、本人の状態によっては逆に何包も取り出せてしまいます
飲み忘れ対策として、薬を曜日と時間ごとのポケットへ入れる服薬カレンダーがよく使われます。
しかし、本人が日付や時間を判断できなくなっている場合、カレンダーへ一週間分を並べると、見えている薬を次々に飲んでしまうことがあります。
「便利そうだから」で選ばず、本人がどこまで一人で判断できるかに合わせます。
| 本人の状態 | 管理方法の例 | 注意点 |
|---|---|---|
| 曜日・時間が分かり、自分で記録できる | 服薬カレンダー、薬箱、チェック表 | 記録だけ付けて飲み忘れることがないか見る |
| 声をかければ、目の前の一回分を飲める | 家族が一回分だけ準備し、服用を見届ける | 一週間分を本人の手元へ置かない |
| 飲んだ直後に再び飲もうとする | 服薬後は残りを本人から見えない安全な場所へ戻す | 必要な薬まで家族が独断で止めない |
| 一人暮らしで家族が毎回行けない | 訪問薬剤師、訪問看護、介護サービスとの連携を検討する | 機器だけに任せず、飲み残しや二重服用を定期的に見る |
| 袋を破ることや錠剤を取り出すことも難しい | 一包化、開けやすい包装、服薬介助を薬剤師へ相談する | 薬によっては一包化に向かない場合がある |
一包化とは、同じ時刻に飲む薬を一袋へまとめる方法です。日本薬剤師会も、飲み忘れを防ぐ工夫の一つとして案内しています。
ただし、一包化すれば二重服用が自動的になくなるわけではありません。
本人が複数の日付の袋を自由に取れる状態なら、袋ごと何度も飲む可能性があります。一包化と同時に、「本人の目の前へ出すのは一回分だけ」という運用まで決めます。
薬局へは「一包化できますか」だけでなく、実際に起きた場面を話します
薬局で「母が薬を忘れます」とだけ伝えると、家族が困っている状況が十分に伝わらないことがあります。
実際の場面を、次のように具体化してください。
「朝の薬を飲ませた10分後に、まだ飲んでいないと言って翌日の袋を開けます」
「服薬カレンダーに一週間分を入れていますが、夜中に複数のポケットを開けています」
「一人暮らしで、家族が確認できるのは朝と夜だけです」
そのうえで、次の項目を薬剤師へ聞きます。
- 同じ時間に飲む薬を一包化できるか
- 袋へ日付、曜日、朝・昼・夕を大きく印字できるか
- 服用回数を減らせる可能性を処方医へ照会できるか
- 飲み忘れた場合と二重に飲んだ場合の連絡方法
- 市販薬やサプリメントとの重複がないか
- 残薬を持参して数を確かめてもらえるか
- 自宅での服薬管理を薬剤師に見てもらえるか
厚生労働省の資料では、薬剤師の在宅訪問で、残薬の確認、本人や家族からの服薬状況の聞き取り、管理方法の検討、医師との処方調整、多職種との情報共有などが行われています。利用条件や費用は、医療保険・介護保険の状況や薬局によって異なるため、かかりつけ薬局やケアマネジャーへ尋ねてください。
複数の病院から出ている薬は、一度すべて同じ机へ並べます
親の家には、内科、整形外科、眼科、心療内科など、別々の医療機関から出た薬が置かれていることがあります。
以前の処方薬、飲み残し、市販のかぜ薬、健康食品が、別の引き出しから出てくることもあります。
一度、本人が使用しているものを集めます。
- 現在処方されている薬
- 飲み残している古い薬
- 市販の痛み止め、かぜ薬、胃腸薬、睡眠改善薬
- 貼り薬、目薬、吸入薬、塗り薬
- サプリメントや健康食品
- 複数冊に分かれたお薬手帳
集めた薬を家族だけで「不要」と判断して捨てたり、飲むのを止めたりしないでください。
袋ごと薬局へ持参し、現在必要な薬、すでに中止された薬、重複の可能性がある薬を分けてもらいます。
薬の服用歴を一か所で把握するため、お薬手帳を一冊にまとめ、普段利用する薬局を決めておくことも役立ちます。政府広報も、薬のリスクを減らすためにお薬手帳と、身近に相談できるかかりつけ薬剤師・薬局の活用を案内しています。
家族が複数いる場合は「誰かが飲ませたはず」をなくします
同居する配偶者、近くに住む子ども、訪問介護員など、複数の人が関わっていると、誰が薬を渡したか分からなくなることがあります。
親だけでなく、家族側の情報共有不足で二重に飲ませてしまう場合もあります。
| 決めること | 具体的な方法 |
|---|---|
| 一回分を準備する人 | 薬の仕分けは一人または薬局にまとめる |
| 服用を見届ける人 | 朝・昼・夕ごとに担当を決める |
| 飲んだ記録 | 時刻と担当者名を共通の表や連絡ノートへ残す |
| 薬が変わったときの連絡 | 処方変更を家族、訪問職、ケアマネジャーへ同日に共有する |
| 頓服薬を使う条件 | どの症状で、何時間空け、何回までかを医師・薬剤師に聞く |
| 異変があったときの連絡先 | 薬局、処方医、夜間連絡先を薬箱の近くへ表示する |
「飲ませました」と口頭で伝えただけでは、数時間後に情報が分からなくなります。
薬を渡した人が、その場で記録するところまでを一つの作業にします。
家族のグループ連絡を使うなら、「朝の薬、8時15分、長女が確認」のように、薬名ではなく服用区分と時刻を短く共有します。個人情報を必要以上に広げないよう、共有する人も限定してください。
親が管理を嫌がるときは、薬を取り上げる話から始めません
親には、長年自分で薬を管理してきた自負があります。
家族が突然薬箱を持ち去れば、「自分では何もできないと思われた」「勝手に生活を支配された」と感じるかもしれません。
最初は、本人が困っていることに沿って切り出します。
| 親の困りごと | 切り出し方の例 |
|---|---|
| 薬の袋が多くて探しにくい | 「朝の分だけすぐ取れるように、薬局でまとめてもらわない?」 |
| 飲んだか心配になる | 「飲んだ後に印が残れば、何度も心配しなくて済みそうだね」 |
| 錠剤を取り出しにくい | 「袋を開けやすくできないか、薬剤師さんに聞こう」 |
| 家族が薬を隠したと怒る | 「取り上げたいのではなく、次に飲む分が分かる形にしたいんだ」 |
| 受診時に薬を説明できない | 「先生へ見せられるように、今の薬を一緒に一袋へまとめよう」 |
それでも繰り返し飲もうとし、命に関わる危険がある場合は、本人の納得を待つだけでは足りません。
薬の保管場所を変え、一回分だけ本人へ渡す体制に切り替えたうえで、処方医、薬剤師、ケアマネジャー、地域包括支援センターへ現状を伝えます。
家族が仕事中で見守れない、一人暮らしで毎回確認できないなど、生活上できないことも隠さず話してください。「家族が頑張ればできる方法」ではなく、続けられる支援を組む必要があります。
服薬の問題と一緒に、認知機能や体調の変化も医師へ伝えます
薬を何度も飲もうとすることだけで、認知症と決めることはできません。
ただし、以前は自分で管理できていた人に次の変化が重なっている場合は、かかりつけ医などへ伝えます。
- 飲んだ直後のことを覚えていない
- 曜日や朝・夜が分からなくなる
- 古い薬と現在の薬を区別できない
- 同じ質問や行動を短時間に繰り返す
- 買い物、支払い、火の管理にも失敗が増えた
- 急にぼんやりする、ふらつく、眠り込むようになった
薬の副作用や相互作用が、眠気、ふらつき、食欲低下、認知機能の変化などに関係することもあります。高齢者の薬物療法では、本人の日常生活の様子を医師・薬剤師・看護師・介護職などで共有し、処方と服薬支援を見直すことが求められています。
受診時には、「物忘れがあります」だけでなく、服薬場面を具体的に伝えます。
「朝8時に飲んだ後、8時20分にもう一度飲もうとします。週に4回ほどあります」
「眠前薬を夜中に追加で探し、翌日は昼まで起きられません」
「一人暮らしで、薬の袋の数と残りが合わない日があります」
回数、時刻、薬の種類、服用後の様子が分かると、管理方法だけでなく処方内容を見直す材料になります。
今日できる一歩は、薬を全部片付けることではなく「次の一回」を決めることです
親が薬を何度も飲もうとすると、家族は一日中、薬箱を見張らなければならない気持ちになります。
けれども、今日すべての管理方法を完成させる必要はありません。
まず、次の一回だけを安全にします。
- 今飲む分以外の薬を、本人が次々に取れない場所へ移す
- 飲んだ時刻を紙へ書く
- 薬袋とお薬手帳を一か所へまとめる
- 調剤した薬局の電話番号を確認する
- 明日以降の管理方法を薬剤師へ相談する
二重に飲んだかもしれないなら、推測で次の薬を足したり抜いたりせず、薬名、量、時刻をそろえて連絡します。
本人へは、次の一言で十分です。
「必要な薬だから、重ならないように薬剤師さんへ聞いてから飲もう」
薬を管理することは、親から生活の主導権を奪うことではありません。
一人で判断しなくても、必要な薬を必要な分だけ飲める形へ変えることです。
服薬カレンダーが合わなければ、一回分だけを渡す。家族だけでは無理なら、薬局や介護職へ役割を渡す。薬の回数が多すぎるなら、処方医へ見直せないか聞く。
親の記憶力だけに頼らず、家族の注意力だけにも頼らない仕組みに変えていけば、毎回の言い争いと二重服用の危険を少しずつ減らせます。
出典・確認先メモ
- 日本薬剤師会「薬と健康」:飲み忘れ時の考え方、二回分をまとめて服用しないこと、一包化や服薬カレンダーなどの工夫に関する確認先。
- 公益財団法人日本中毒情報センター「中毒110番・電話サービス」:医薬品を誤って多く飲んだ場合の相談先、受付時間、電話時に伝える情報に関する確認先。
- 厚生労働省「高齢者の医薬品適正使用の指針」:高齢者の多剤服用、服用間違い、薬物有害事象、医療・介護職の連携に関する確認先。
- 厚生労働省「在宅医療分野の薬剤提供に係る課題への対応」:薬剤師による在宅での残薬確認、服薬状況の把握、管理方法の検討、医師との連携に関する確認先。
- 総務省消防庁「救急受診ガイド」:薬を多く飲んだ場合と、呼吸・意識などに異常がある場合の緊急受診に関する確認先。















