ヘルパーが来ると伝えた途端、親が家の鍵を閉めてしまう
実家へ行くと、冷蔵庫には傷んだ食品が残っている。薬も飲み忘れているようで、浴室には転びそうな物が置かれたままです。
家族が「週に一度だけでもヘルパーさんに来てもらおう」と話すと、親は強い口調で拒みます。
「知らない人を家に入れたくない」
「自分のことは自分でできる」
「家の中を勝手に触られたら困る」
「そんなものにお金を払う必要はない」
子どもから見ると、明らかに手助けが必要です。
それでも本人は困っていないと言い張る。話すたびに険悪になり、家族も次第に言葉が強くなります。
「できていないから言っているんでしょう」
「転んでからでは遅いよ」
「私が毎回来られないから使ってもらわないと困る」
どれも現実ではありますが、親には「できない人と決めつけられた」「自分の家なのに子どもが勝手に決めた」と聞こえることがあります。
介護サービスへの拒否は、支援の必要性を理解していないだけとは限りません。
自分の暮らしを他人に管理される怖さ、家の中を見られる恥ずかしさ、老いを認めるつらさ、家族に見捨てられる心配などが重なっています。
まずは「どうすれば利用させられるか」ではなく、「この人は何を奪われると感じているのか」を探すところから始めます。
「介護は嫌だ」という言葉の奥には、別の理由が隠れています
親へ理由を聞いても、「必要ない」の一点張りになることがあります。
言葉だけでは分からないときは、親がどの場面で表情や態度を変えるかを見てください。
| 親の言葉や態度 | 隠れている可能性がある気持ち | 家族が確かめたいこと |
|---|---|---|
| 「自分でできる」 | できない人と扱われたくない、自立を失う怖さ | 本人が続けたい作業と、手伝ってもよい作業は何か |
| 「他人を家に入れたくない」 | 家の汚れを見られる恥ずかしさ、盗難や詮索への心配 | 担当者の固定、触れてよい場所、家族同席から始められるか |
| 「お金がもったいない」 | 費用が分からない、子どもへ迷惑をかけたくない | 自己負担額と、今家族が負担している費用を本人が知っているか |
| 「介護される年ではない」 | 高齢者扱いへの抵抗、老いを認めるつらさ | 介護という言葉より、本人が困っている生活動作から話せるか |
| 「前に来た人が嫌だった」 | 職員との相性、乱雑な対応、物を動かされた経験 | 具体的に嫌だった言葉や行為、担当変更で解決するか |
| 「家族がやればいい」 | 家族以外へ頼る発想がない、家族にそばにいてほしい | 家族ができる範囲と、今後も続けられない部分 |
| 説明すると怒って話を終わらせる | 内容を理解しにくい、情報量が多い、判断を迫られる怖さ | 短い説明や二つの選択肢なら答えられるか |
| 利用する日になると忘れたと言う | 認知機能の変化、予定を保持しにくい、見慣れない人への警戒 | 説明の仕方、時間帯、担当者の顔なじみ化が必要か |
親が拒む理由と、家族が利用してほしい理由が食い違っていることもあります。
家族は転倒を心配しているのに、親は「自分の料理へ口を出されること」を心配している。家族は服薬を手伝ってほしいのに、親は「家を掃除される」と思っている。
何を頼むサービスなのかが曖昧なままでは、親の想像の中で支援が大きくなってしまいます。
家族が困っていることを「介護サービス」ではなく生活場面へ戻します
親に「介護サービスが必要」と伝えると、本人は生活のすべてを人に任せる話だと受け取ることがあります。
家族が実際に困っている場面を、一つずつ書き出してみてください。
| 現在起きていること | 家族が心配していること | 最小限の支援例 |
|---|---|---|
| 浴槽をまたぐときにふらつく | 一人で入浴中に転倒する | 手すりや浴槽台を試す、入浴する時間だけ支援を頼む |
| 薬が余っている | 飲み忘れや重複服用が起きる | 薬の保管方法を変え、訪問看護等の対象になるか尋ねる |
| ごみを出せず室内にたまる | 衛生状態が悪化する | ごみまとめや搬出など、必要な作業だけ頼めるか検討する |
| 買い物へ行けず食事が偏る | 低栄養や食品不足につながる | 買い物支援、配食、家族の定期注文を組み合わせる |
| 立ち上がりで転びそうになる | 骨折や一人で動けなくなる | 福祉用具の試用、住宅環境の確認を頼む |
| 家族が夜も見守っている | 家族が眠れず、仕事や健康に影響する | 夜間の支援、短期宿泊、見守り方法を検討する |
介護保険で利用できるサービスには、自宅へ訪問するサービス、施設へ通うサービス、短期間宿泊するサービス、訪問・通い・宿泊を組み合わせるサービス、福祉用具などがあります。最初から一つの形に決めず、現在の困りごとに合うものを選ぶことができます。
「全部任せたいわけではない。お風呂で転びそうな時間だけ手伝ってほしい」と範囲を狭くすると、本人も話を聞きやすくなります。
サービス名を隠すのではなく、何をする人かを具体的に伝えます
親が「介護」という言葉に抵抗するからと、ヘルパーを「家の掃除をする人」とだけ説明したり、ショートステイを「旅行」と言ったりしたくなることがあります。
一時的には連れ出せても、後から事実を知れば、家族や職員への不信が強まるかもしれません。
名称だけを強調する必要はありませんが、本人をだます形にはしない方が、その後の支援を続けやすくなります。
| 伝わりにくい言い方 | 具体的な伝え方 |
|---|---|
| 介護サービスを使おう | 金曜日だけ、重いごみを玄関まで運ぶのを手伝ってもらいたい |
| ヘルパーさんが必要だよ | 私が来られない日に、昼食の準備と薬の声かけを頼めないか試したい |
| 福祉用具を入れよう | この椅子から立つときだけ危ないから、手を置ける物を一週間試してみない? |
| 訪問看護に来てもらおう | 薬と血圧のことを、家で看護師さんに見てもらえるか聞いてみたい |
| ショートステイを使って | 私が二日間家を空ける日に、食事と薬を手伝ってもらえる所へ一泊する方法を考えたい |
| ケアマネジャーに会って | 家で暮らし続ける方法に詳しい人へ、転ばない工夫だけ聞いてみない? |
「あなたはできないから」ではなく、「今の生活を続けるために、この部分だけ借りたい」と伝えます。
言い換えでごまかすのではなく、親に関係のある作業へ話を小さくするのがポイントです。
親へ話す前に、家族が「何を頼みたいか」を一つに絞ります
家族は、介護サービスを使うなら一度に多くの問題を解決したいと思いがちです。
掃除、調理、入浴、薬、運動、見守り。ところが、初対面の人に生活の多くを任せる話をされれば、親が身構えるのも無理はありません。
最初の支援は、次の条件で選びます。
- 現在最も事故につながりやすいこと
- 家族がこれ以上続けられないこと
- 親が比較的抵抗を示さないこと
- 短時間または一回だけ試せること
- 合わなければ変更や中止を検討できること
たとえば、家が片づいていないことより、浴室での転倒の方が差し迫っているなら、掃除の話を広げず入浴の安全から扱います。
家族が一番つらいのが毎日の食事作りなら、親の生活すべてを見直すのではなく、週に二回の昼食だけ別の方法へ変えます。
一つ受け入れられた後で、本人の様子を見ながら次を考えれば十分です。
訪問介護を嫌がる親には、家の主導権を残します
訪問介護への抵抗で多いのが、「自分の家に他人を入れたくない」という気持ちです。
家は、本人が長年守ってきた場所です。物の置き方、台所の使い方、掃除の順番にも本人なりの理由があります。
家族には散らかって見えても、本人は「どこに何があるか分かっている」と感じています。
最初の訪問で決めたいこと
- 職員が入ってよい部屋
- 触れてよい棚や引き出し
- 本人が自分で続ける作業
- 職員へ頼む作業
- 動かしてほしくない物
- 訪問中に家族が同席するか
- 担当者の交代を少なくできるか
親へは、次のように伝えられます。
「家の中を全部触ってもらう話ではないよ。最初は台所にも入らず、玄関のごみを運ぶことだけお願いしてみよう。嫌だったことがあれば、次に変えてもらおう」
家族が先に事業所へ連絡し、「本人は物を動かされることを強く嫌がる」「初回は挨拶だけに近い形にしたい」と伝えておくことも役立ちます。
初日から作業量をこなすより、本人と職員が安心して同じ部屋にいられることを目標にした方が、その後につながる場合があります。
福祉用具や住宅改修を嫌がるときは、試して戻せる物から始めます
手すり、歩行器、介護ベッドなどをすすめると、「そんな年寄りの物はいらない」と拒まれることがあります。
本人にとって福祉用具は、便利な道具ではなく、衰えを認める印に見えているのかもしれません。
そこで、年齢ではなく具体的な動作へ話を戻します。
| 避けたい言い方 | 試しやすい言い方 |
|---|---|
| もう危ないから歩行器を使って | 買い物へ行く途中で休める物を、一度試してみない? |
| 介護ベッドに替えないと駄目 | 朝起きるときに腰がつらそうだから、高さを変えられるベッドを試せるか聞いてみよう |
| トイレに手すりが必要 | 立つときに壁をつかんでいるから、手を置ける場所があると楽か見てみない? |
| 転ぶ前に家を改修しよう | まず置くだけの手すりで、動きやすくなるか試してから考えよう |
福祉用具には貸与の対象となるものと、購入の対象となるものがあります。利用できる品目や給付の条件は、要介護度や本人の状態などによって異なるため、購入や工事を先に進めず、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員へ確認してください。
家族が便利そうな物を勝手に置くと、本人が使わなかったり、かえって動線を狭めたりすることがあります。
本人が普段どこへ手を伸ばし、どこでふらつくかを見てもらい、可能なら試用してから判断します。
訪問看護や服薬支援を嫌がる親には、病気扱いへの抵抗を聞きます
看護師の訪問をすすめると、「寝たきりではない」「病人扱いするな」と言われることがあります。
家族は血圧や薬の管理を心配していても、親は「健康を監視される」と受け取っているかもしれません。
何を見てもらいたいのかを具体的にします。
「毎日管理してもらう話ではないよ。薬が余っている理由と、飲みやすい分け方を一度家で見てもらいたい」
「病院へ行く回数を増やすより、家で血圧と体調を見てもらえる方法が合うか先生に聞きたい」
訪問看護は誰でも同じ条件で利用できるわけではなく、医師の指示や本人の状態、利用する保険などによって手続きが異なります。ケアマネジャー、主治医、訪問看護事業所へ対象と利用方法を確かめてください。
薬の飲み忘れだけが問題なら、すぐに多くの訪問を入れる前に、薬局や主治医へ薬のまとめ方、服用回数、保管方法を相談できることもあります。
ショートステイへの拒否には「家を追い出される怖さ」があります
家族が休むために短期宿泊を提案すると、親から「私を施設へ入れるつもりか」と言われることがあります。
親にとっては、一泊だけでも、家へ帰れなくなる入口のように感じられるのかもしれません。
説明するときは、期間と目的、帰宅日を曖昧にしないようにします。
「ずっと住む場所を決める話ではないよ。私が病院へ行く木曜日から金曜日まで一泊して、金曜日の午後に家へ戻る予定を考えている」
いきなり宿泊から始めず、可能であれば次の段階を事業所へ相談します。
- 家族と一緒に見学する
- 居室や食事場所を本人に見てもらう
- 日中だけ過ごして帰る
- 一泊だけ試す
- 本人が使い慣れた衣類や日用品を持参する
- 帰宅日時を紙に書いて本人へ渡す
家族の休息を隠す必要はありません。
「あなたが邪魔だから」ではなく、「これからも家で一緒に暮らすために、私が休む日も必要になった」と伝えます。
デイサービスだけを嫌がるなら、通所サービス固有の理由を分けます
訪問介護や福祉用具は受け入れるのに、デイサービスだけは嫌がる場合があります。
その場合は、介護サービス全般への拒否ではなく、集団活動、入浴、送迎、長い利用時間など、通所先の条件が合っていない可能性があります。
- 大勢の中に長時間いるのが疲れる
- 歌や体操への参加を求められるのが嫌
- ほかの利用者と自分を比べられたくない
- 人前で入浴や着替えをしたくない
- 送迎車に長時間乗るのがつらい
- 職員の話し方や事業所の雰囲気が合わない
通うこと自体を説得し続けず、入浴なし、短時間、少人数、機能訓練中心など、何を変えれば試せるかをケアマネジャーへ伝えてください。
デイサービスが合わないからといって、訪問型の支援や別の通所先まで使えないとは限りません。
親が話を聞く相手は、子どもとは限りません
同じ内容でも、子どもから言われると反発し、かかりつけ医や昔から知る人の話なら聞く親もいます。
これは、子どもの説明が下手だからではありません。
親子の間には、長年の役割があります。親はいつまでも「子どもに世話をされる側」になりたくないことがあります。
本人が信頼している人がいれば、同意を得たうえで協力を頼む方法があります。
| 話す人 | 頼めること |
|---|---|
| かかりつけ医 | 転倒、服薬、入浴など、健康面から必要な支援を説明してもらう |
| ケアマネジャー | 本人の希望を聞き、複数のサービスや利用方法を示してもらう |
| 地域包括支援センター職員 | 介護認定前を含め、生活上の困りごとを本人と一緒に聞いてもらう |
| 親が信頼する親族 | 家族の説得役ではなく、本人の心配を聞く役になってもらう |
| 薬剤師 | 薬の飲み方や管理方法について、本人へ説明してもらう |
ただし、大勢で親を囲み、全員から利用を迫る形は避けたいところです。
親には「自分を説得するために裏で話を進められた」と見える可能性があります。
一人か二人で、結論を押しつけずに話します。
ケアマネジャーとの面談自体を嫌がるなら、挨拶だけから始めます
親が介護サービスだけでなく、ケアマネジャーや地域包括支援センターとの面談も拒むことがあります。
「役所の人が調べに来る」「施設へ入れられる」と誤解している場合もあります。
そのときは、初回から生活のすべてを聞き取る場にせず、目的を一つにします。
「今日はサービスを決める日ではないよ。家のお風呂で転ばない方法を知っている人に、浴室だけ見てもらう」
「困っていることがなければ、何も申し込まなくていい。どんな方法があるか話を聞くだけにしよう」
介護保険サービスを利用するには、原則として市区町村へ要介護・要支援認定を申請し、認定後に本人や家族の希望、心身の状態を踏まえたケアプランを作成して利用へ進みます。非該当となった場合でも、市区町村の地域支援事業などを利用できる場合があります。
まだ認定を受けておらず、家族だけで話を進められない場合は、親の居住地を担当する地域包括支援センターへ家族から先に事情を伝えられます。
地域包括支援センターは市町村に設置されている介護の総合相談窓口で、保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが相談を受け、必要に応じて支援先へつなぎます。
家族が先に相談したからといって、本人の知らないところで契約を進めるのではありません。
親が何を嫌がり、家族が何に困り、どのような会い方なら受け入れられそうかを専門職と考えるための相談です。
認知症がある親には、正論より「選べる形」を用意します
認知症がある場合、必要性を詳しく説明しても、内容を覚えておくことが難しい場合があります。
「先週も説明した」「自分で了承した」と言っても、本人にとっては毎回初めて聞く話かもしれません。
説明を短くし、今の場面で答えられる選択肢にします。
| 答えにくい聞き方 | 選びやすい聞き方 |
|---|---|
| これから介護サービスを利用することに同意する? | 今日は玄関で話す? それとも居間で話す? |
| ヘルパーに何をしてもらいたい? | ごみ出しと昼食の準備なら、どちらを頼みたい? |
| 福祉用具を使った方がいいでしょう? | この手すりを一週間置いてみる? 今日は見るだけにする? |
| 一人暮らしは危ないと思わない? | 夜に困るのは、トイレへ行くとき? 薬を飲むとき? |
言葉だけでなく、本人の表情や行動も見ます。
「いいよ」と答えていても、職員が来るたびに隠れる、食事が取れなくなる、強い緊張が続くなら、本当に受け入れられているかを見直します。
厚生労働省の意思決定支援ガイドラインでは、認知症があっても本人には意思決定する力があることを前提とし、分かりやすい情報の提供や、本人の意思・選好を確かめる支援が示されています。家族と本人の意見が異なる場合も、専門職が理由や利用できる社会資源を一緒に検討することが求められています。
認知症だから家族がすべて決める、本人が一度拒否したから何もできない、という二択にしないことが必要です。
拒否が急に強くなったら、サービス以外の変化も見ます
以前は職員を受け入れていたのに、突然「来るな」と怒り始めた場合は、単なる気分の変化とは限りません。
- 発熱や痛み、便秘などで体調が悪い
- 薬が変更された
- 聞こえにくくなり、職員の説明が分からない
- 職員が物を動かした、急かしたなど、嫌な出来事があった
- 担当者が代わり、知らない人への警戒が強くなった
- 利用時間や作業内容が本人の想定と違った
- 金銭や物品の紛失を心配している
- 認知機能や精神状態に変化がある
まず事業所へ、その日の様子や担当者の変更、本人とのやり取りを尋ねます。
本人の訴えを「思い込み」と片づけず、事実を確かめてください。
体調や認知面に急な変化がある場合は、かかりつけ医などへ、いつから何が変わったかを伝えます。
サービスが必要でも、今の担当者や事業所が合っていないことがあります
親が介護サービスを拒むと、家族は本人の性格や病状だけを原因にしがちです。
しかし、職員との相性や事業所の対応に問題がある場合もあります。
| 親が嫌がったこと | 調整できる可能性があること |
|---|---|
| 毎回違う人が来る | 担当者をなるべく固定できるか尋ねる |
| 幼い子どものように話しかけられる | 本人が嫌う呼び方や話し方を管理者へ伝える |
| 物を勝手に動かされた | 触れてよい場所を書面で共有する |
| 作業を急かされた | 訪問時間や作業量を見直す |
| 必要のないことまでされる | ケアプランと実際の支援内容を照らし合わせる |
| 本人と職員の相性が悪い | 担当変更や別事業所への変更をケアマネジャーへ相談する |
一人の職員と合わなかったことと、介護サービスそのものが不要であることは別です。
本人の不満を具体的に聞き、ケアマネジャーや事業所の管理者へ伝えます。
変更を申し出ることを、わがままだと思う必要はありません。ただし、相手を責めるだけでなく、「どの言葉や行動を本人が嫌がったか」「次はどうしてほしいか」を示すと調整しやすくなります。
家族の限界は、本人を説得するための脅しにせず事実として伝えます
親の意思を尊重しようとして、家族が介護をすべて引き受け続けることがあります。
本人がヘルパーを嫌がるから、毎週実家へ通う。ショートステイを拒むから、何か月も外泊せず夜間対応を続ける。
やがて家族は、本人へ優しく話す余裕まで失っていきます。
「そんなに嫌なら、もう勝手にして」
「私が倒れても知らないからね」
限界まで我慢した後に出る言葉は、親と家族の双方を傷つけます。
そうなる前に、できないことを具体的に伝えます。
「これからも毎日夕食を作りに来ることはできない。月曜と木曜は私が来るけれど、ほかの日の昼食をどうするか、一緒に別の方法を選びたい」
「家のお風呂で体を支えるのは、私の腰も危なくなっている。今までと同じ方法は続けられないから、安全な入り方を専門の人と考えたい」
本人の拒否を無視するのではなく、家族にも続けられないことがあると示します。
地域包括支援センターは、介護を受ける本人だけでなく、家族介護者からの相談にも対応する窓口です。親がサービスを拒んでいることとともに、家族の睡眠、仕事、健康への影響も伝えてください。
拒否されたままにできない危険があるときは、家族だけで抱えません
本人が嫌がっているからと様子を見続けるうちに、安全に関わる状態が進むことがあります。
- 転倒を繰り返し、一人で立ち上がれないことがある
- 薬の飲み忘れや重複が続いている
- 火の消し忘れや、危険な調理がある
- 食事や水分が十分に取れていない
- 排せつ物やごみが室内にたまっている
- 道に迷い、帰宅できないことがある
- 家族が怒鳴る、手を上げそうになるほど追い詰められている
- 親または家族の生命や身体に差し迫った危険がある
この段階では、上手な説得方法だけを探すのではなく、ケアマネジャー、地域包括支援センター、市区町村の高齢者福祉窓口、かかりつけ医などへ状況を伝えます。
緊急のけがや病気、生命の危険がある場合は、救急要請など、その場に応じた緊急対応を優先してください。
親の気持ちを尊重することは、危険を家族だけで見守り続けることではありません。
本人の意思をできる限り聞きながら、安全を保つ別の方法を専門職と探す段階です。
今日するのは、親を納得させることではなく「一番嫌なこと」を一つ見つけることです
介護サービスを拒まれると、家族は次こそ説得しようと、制度の利点や危険性を調べ続けます。
けれど、情報を増やしても、親が嫌がる点とずれていれば話は進みません。
今日は、次の三つだけを書いてください。
- 家族が今、最も困っている生活場面
- その支援を話したとき、親が実際に言った言葉
- 全部ではなく一部分だけ頼むなら、どこまで小さくできるか
たとえば、次のようになります。
「ごみを出せず、台所に袋がたまっている。親は『家の中を勝手に見られたくない』と言う。最初は職員を台所へ入れず、玄関に置いた袋を運ぶことだけ頼めないか聞く」
「浴槽から立ち上がれない。親は『人に裸を見られたくない』と言う。訪問での入浴介助を急ぐ前に、手すりや浴槽台を試せるか聞く」
そのメモを持って、ケアマネジャーがいる場合は担当者へ、いない場合は親の地域の地域包括支援センターへ連絡します。
電話では、次のように伝えられます。
「母は介護サービス全般を嫌がり、知らない人を家に入れたくないと言います。一方で、ごみ出しと入浴を家族だけで支えるのが難しくなっています。全部を利用するのではなく、本人が受け入れられそうな一部分から始める方法を一緒に考えてもらえますか」
一度の会話で、親に老いや介護を受け入れてもらう必要はありません。
本人が嫌なことを一つ言えた。家族ができないことを一つ伝えた。支援の範囲を一つ小さくできた。
その積み重ねで、介護サービスは「暮らしを奪うもの」から、「今の家で暮らすために一部分だけ借りるもの」へ変わっていきます。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム・公表されている介護サービスについて」:訪問、通所、短期宿泊、複合型サービス、福祉用具など、介護保険サービスの種類に関する確認先。
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム・サービス利用までの流れ」:要介護認定、ケアプラン、サービス利用開始までの手続きに関する確認先。
- 厚生労働省「家族介護に直面している方への支援を知りたい」:地域包括支援センターの役割と家族介護者からの相談に関する確認先。
- 厚生労働省「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」:認知症のある本人への情報提供、意思・選好の確認、家族と本人の意見が異なる場合の支援に関する確認先。















