今月も自分だけが払い、兄弟のグループLINEを閉じた
デイサービスの利用料、通院のタクシー代、紙おむつ、実家へ通うためのガソリン代。
一つひとつは数千円でも、月末に合計すると五万円を超えていました。
近くに住んでいる自分が支払う方が早いため、最初は立て替えていただけです。ところが、遠方に住む兄へ明細を送ると、「お母さんの年金で払えないの?」「近くにいる人が買い物をするのは仕方ないでしょう」と返ってきた。
妹は既読のままです。
親御さんを放っておくわけにはいかない。けれど、自分の貯金から払い続けることにも納得できません。
腹が立つ一方で、兄弟にも住宅ローンや子どもの学費があることは分かっています。介護をしていない人には、こちらが何に時間とお金を使っているのか見えていないのかもしれません。
介護費用の話がこじれるのは、誰か一人が冷たいからとは限りません。
「親が払う費用」「子どもが補う費用」「介護を担う人に発生している費用」が混ざったまま、請求額だけが兄弟へ送られていることが多いからです。
兄弟で割る前に、親御さん本人が負担できる金額を出します
親御さんの介護に必要なお金だからといって、すぐ子どもたちの家計から出す必要があるとは限りません。
まず、親御さん本人の収入と資産、利用できる公的な軽減制度を見ます。
- 年金など毎月の収入
- 預貯金
- 介護保険サービスの自己負担割合
- 医療費や薬代
- 生命保険や給付金の対象となる契約
- 高額介護サービス費などの負担軽減
- 施設入所時の食費・居住費に関する負担限度額認定
介護保険サービスの利用者負担は、原則として費用の一割で、所得に応じて二割または三割です。ただし、支給限度額を超えて利用した部分や、食費、居住費、日用品などは別に負担します。
一か月の介護保険サービスの自己負担額が所得区分ごとの上限を超えた場合、高額介護サービス費の対象となることがあります。施設やショートステイを利用する低所得の方には、食費・居住費を軽減する負担限度額認定もあります。
いずれも対象条件があり、申請が必要な制度です。親御さんの住所地の市区町村へ、現在使える制度を尋ねてください。
兄弟で話すのは、親御さんの収入と制度を使っても足りない金額が見えてからです。
「介護費が月八万円だから、兄弟三人で割る」のではありません。親御さんが月六万円負担できるなら、兄弟で話す金額は残る二万円です。
介護費用と、介護する人の生活費を同じ袋へ入れないことです
介護に関係する支出でも、性質は同じではありません。
何を兄弟で分担するのか決めるため、費用を三つに分けます。
| 費用の区分 | 具体例 | 分担を考えるときの扱い |
|---|---|---|
| 親御さん本人の介護・生活費 | 介護サービス、施設費、医療費、食費、紙おむつ、福祉用具 | 原則として、まず本人の収入・資産から支払えるかを見る |
| 家族が介護のために実際に負担した費用 | 通院の交通費、実家へ通うガソリン代、立替購入、宿泊費 | 領収書や利用日を残し、精算対象とするか事前に決める |
| 介護者自身の通常の生活費 | 自宅の家賃、普段の食費、介護と関係のない車の維持費 | 介護費用として自動的に兄弟へ請求するものではない |
判断が難しいのは、介護者が仕事を休んだことによる減収や、頻繁な電話対応、親御さん宅で行う家事などです。
これらは領収書が出ませんが、負担が存在しないわけではありません。
ただし、後から「介護一時間につきいくら」と一方的に請求すると、兄弟間で合意しにくくなります。
介護を担う人の時間については、現金換算する方法だけでなく、ほかの兄弟が費用を多めに負担する、定期的な訪問を代わる、手続きや予約を担当する方法もあります。
均等割りが公平とは限りません
兄弟が三人なら三分の一ずつ。
分かりやすい方法ですが、全員の収入、家族構成、これまでの介護負担が大きく違う場合は続かないことがあります。
介護費用の分け方には、主に次の方法があります。
不足額を均等に分ける
三人とも収入や介護負担が近く、毎月の不足額も大きくない場合に使いやすい方法です。
計算は簡単ですが、一人だけが日常介護を担っている場合、現金まで均等にすると、その人の負担が重くなります。
収入に応じて割合を変える
兄弟の収入や家計に差がある場合、負担可能な割合を決めます。
正確な年収を全員が公開する必要はありません。「毎月一万円まで」「臨時費用は四割負担できる」など、出せる範囲を話す方法があります。
介護する人の現金負担を少なくする
一人が通院、買い物、夜間対応などを多く担っている場合、ほかの兄弟が不足額を多めに出します。
介護時間を細かく金額換算するより、役割を一覧にして、月額の分担へ反映させる方が話しやすいことがあります。
毎月の定額と臨時費用を分ける
普段は兄弟が毎月一定額を出し、入院、住宅改修、福祉用具の購入など、大きな支出が発生したときだけ別に話します。
「毎月は一人五千円、三万円を超える臨時支出は事前に全員へ連絡する」という決め方です。
一人の介護時間をゼロ円として計算しないでください
遠方に住む兄弟から見ると、実家へ通っている人の負担は「顔を見に行っているだけ」に見えることがあります。
実際には、通院の予約、薬の受け取り、ケアマネジャーとの連絡、請求書の管理、食料品の補充など、短い作業が積み重なっています。
兄弟へ費用の分担を求める前に、直近一か月の役割を見える形にします。
- 実家へ行った回数と滞在時間
- 通院や役所へ同行した回数
- 電話、予約、書類手続き
- 夜間や緊急時の対応
- 立て替えた金額と交通費
- 仕事を休んだ日数
これを「自分がこれだけ苦労している」と責める材料にはしません。
役割の一部をほかの兄弟へ移せるか、難しい場合は現金負担で補えるかを決めるために使います。
遠方の兄弟も、現地での身体介護は難しくても、次の役割を持てます。
- 病院や介護事業所への電話
- サービスや施設の情報収集
- 介護費用の集計
- 必要品の注文と配送
- 月に一度の訪問や介護交代
- 現金負担を多めに持つ
月の不足額を一枚にすると、話が「払う・払わない」だけになりません
例えば、親御さんの一か月の状況が次のような場合です。
- 年金などから介護と生活に回せる金額:月十二万円
- 介護サービス、医療、食費などの合計:月十四万五千円
- 親御さんの収入だけでは足りない金額:月二万五千円
- 近居する長女の交通費:月八千円
- 長女が担う通院同行:月二回
兄弟が三人なら、二万五千円を単純に三等分する方法もあります。
ただ、長女が毎月の交通費と通院同行を負担しているなら、ほかの二人が一万二千五百円ずつ出し、長女は介護と交通を担当する形も考えられます。
反対に、遠方の兄弟にも介護離職や教育費などの事情があるなら、毎月払える上限を決め、足りない分はサービス内容や親御さんの支出を見直す必要があります。
家族の誰かが無理をすれば成立する計画は、長くは続きません。
兄弟へ頼むときは、「公平にして」ではなく金額と期限を伝えます
「私ばかり払っている」
「少しくらい協力して」
気持ちは伝わっても、相手には何をすればよいか分かりません。
次のように、親御さんが負担する金額と不足額を分けて伝えます。
「今月の介護関連費は合計六万三千円でした。母の口座から四万円を支払い、残り二万三千円が不足しています。私は通院二回と交通費七千円を負担しているので、残り一万六千円を二人で八千円ずつ負担できないか、金曜日までに返事をください」
全額は難しいと言われたら、払える金額と代わりに担える役割を聞きます。
「八千円が難しければ、毎月出せる金額を教えてください。費用が難しい場合は、来月の通院予約と介護保険の手続きを担当してもらえると助かります」
相手へ選択肢を渡すことは、負担を免除することではありません。
実行できない金額を押しつけ、翌月また未払いになるより、続けられる役割を決めるためです。
「長男だから」「親から援助を受けたから」だけで決めないことです
介護費用の話になると、過去の家族関係が持ち込まれることがあります。
「長男なのだから多く払うべき」
「妹は結婚のときに援助してもらった」
「実家を継ぐ人が全部払えばいい」
それぞれに言い分はあっても、過去の援助や将来の相続を、現在の毎月の介護費と一度に精算しようとすると話が広がります。
まず、今月から半年程度の介護費用をどう支えるかを決めてください。
相続、不動産、過去の贈与について話す必要があるなら、介護費用とは別の議題にします。
「将来、実家をもらう人が払う」という約束も注意が必要です。相続内容がまだ決まっていない段階では、介護を負担した人が必ず実家を取得できるとは限りません。
立て替えたお金は、相続のとき自然に返ってくるとは限りません
「今は自分が出して、親が亡くなった後に遺産から返してもらえばよい」と考えることがあります。
しかし、支払った金額や目的について記録がなければ、ほかの相続人から「自分の判断で出したお金」「親への贈与だった」と受け取られる可能性があります。
立替えを続ける場合は、少なくとも次を残します。
- 支払日
- 支払先
- 介護や生活の何に使ったか
- 金額
- 領収書や振込記録
- 親御さん本人の同意
- 兄弟へ共有した日
- 親御さんから精算された金額
金額の大きな支出は、支払う前に兄弟へ連絡します。
「三万円を超える支出は事前に連絡する」「毎月末にまとめて精算する」などのルールを決めると、後から知らなかったと言われにくくなります。
親御さんの口座と介護する子どもの口座を混ぜないことです
親御さんが自分で判断できる状態なら、介護費用をどこから払い、子どもへ何を任せるかは、本人の希望を聞いて決めます。
親御さんの介護費用は、可能であれば親御さん名義の口座から支払い、子どもの立替えを減らした方が記録も明確です。
一方、親御さんの現金を介護する人が自分の財布へ入れ、そこから買い物や自分の生活費を払う形は避けてください。
家族間の信頼があっても、後から入出金を説明できなくなります。
親御さんの判断力が低下し、契約や財産管理の意味を理解することが難しい場合、子どもが通帳や暗証番号を知っているだけで、自由に管理できるわけではありません。
地域包括支援センターへ現在の状態を伝え、日常生活自立支援事業や成年後見制度などを含め、どの支援方法が合うかを確かめます。
成年後見制度は、家族が親のお金を使いやすくするためだけの制度ではなく、本人の権利や財産を守るための仕組みです。開始後は簡単にやめられるものではないため、制度の特徴を理解したうえで検討してください。
兄弟が「払わない」と言ったとき、同じ請求を繰り返す前に理由を分けます
兄弟から支払いを拒まれた場合、理由によって次の対応が変わります。
金額の根拠が分からない
親御さんの負担分、制度による軽減、子どもが補う不足額を示します。領収書をすべて送りつけるのではなく、月ごとの合計表と大きな支出の資料を共有します。
自分も生活が苦しい
毎月の負担額を下げ、電話、予約、買い物の注文など、現金以外の役割を提案します。
介護方針に納得していない
高額な自費サービスや施設を一人で決めていないか見直します。緊急時を除き、費用が増える変更は事前に共有してください。
親との関係が悪く、関わりたくない
過去の関係を会議の場で裁かず、「身体介護は求めない。親の費用不足について、月いくらなら検討できるか」と範囲を絞ります。
連絡を無視される
長文を何度も送らず、金額、根拠、返答期限、選べる方法を一度に伝えます。
「今月の不足額は一万八千円です。六千円を負担する、難しい金額を伝える、手続きを一つ担当する、のいずれかを日曜日までに返信してください」
法的な扶養義務があっても、兄弟全員が同額を払うとは決まりません
民法では、親子などの直系血族や兄弟姉妹は、互いに扶養する義務があると定められています。
ただし、これだけで「子ども三人が介護費を必ず三分の一ずつ払う」と自動的に決まるわけではありません。
親御さんにどの程度の支援が必要か、それぞれの子どもにどの程度の負担能力があるかなど、個別の事情が関係します。
親御さんに生活費や介護費を賄う資力がなく、家族間で扶養の方法や金額を話し合えない場合、家庭裁判所の扶養請求調停や審判が利用されることがあります。
扶養請求調停では、親御さんの必要額や扶養する側の収入、生活状況などを踏まえ、話し合いが進められます。
兄弟へ支払いを求めるための脅しとして制度名を出すのではなく、親御さんの生活を維持する方法がどうしても決まらない場合の手段として考えてください。
支払期限が迫っているなら、兄弟の合意を待たずに窓口へ伝えます
施設費や介護サービス費を払えず、利用停止や退去が心配な状態なら、兄弟全員の返事がそろうまで待たないでください。
施設、介護事業所、ケアマネジャー、市区町村の介護保険窓口へ、支払いが難しい金額と期限を伝えます。
「家族で分担を話していますが、今月末の支払いが三万円不足します。利用できる負担軽減制度、支払い方法、サービスの組み直しについて教えてください」
高額介護サービス費、負担限度額認定、生活状況に応じた支援など、利用できる可能性のある制度を確認できます。
ケアマネジャーは兄弟の金銭トラブルを裁く立場ではありませんが、現在のサービス内容、費用、減らせない支援を家族へ説明する材料を示せる場合があります。
今日は兄弟へ「今月の不足額」だけを送ってください
これまでの立替え総額や昔の不公平を、最初の連絡ですべて解決しようとすると、返事が来にくくなります。
まず今月分について、次の形にします。
「今月の介護関連費は合計〇円、親の年金・預金から〇円を支払い、不足は〇円です。私は通院〇回と交通費〇円を負担しました。不足額について、〇円の負担が可能か、難しければ可能な金額か担当できる作業を〇日までに知らせてください」
これなら、兄弟は「協力するかどうか」という曖昧な質問ではなく、具体的な金額と役割について答えられます。
今月の分担が決まったら、三か月後に見直す日を決めます。
介護状態も、親御さんの収入も、兄弟の生活も変わるからです。
永遠に公平な分け方を一度で完成させる必要はありません。
親御さんの生活を守りながら、誰か一人の家計と体力だけで支えない形を、まず次の三か月について作る。それが現実的な出発点です。















