「介護保険で何が使えるの?」は、親の生活が少し崩れ始めたときに出てくる疑問です
親御さんの家に行ったら、冷蔵庫の中がほとんど空だった。薬が何日分も残っていた。お風呂に入る回数が減っている。玄関の段差でつまずいたと聞いた。
まだ施設に入るほどではない。けれど、家族だけで支えるには、少しずつ不安が増えてきた。
そんなときに出てくるのが、「介護保険って、結局何に使えるの?」という疑問です。
名前は聞いたことがあっても、訪問介護、デイサービス、ショートステイ、福祉用具、住宅改修……と並ぶと、急に制度の森に入ったような気分になります。しかも森の入口に「要介護認定」「ケアプラン」と書いてある。初見ではなかなかのダンジョンです。
ただ、介護保険サービスは、制度名から覚えようとすると難しくなります。
先に見るべきなのは、「親御さんが何に困っているか」「家族が何を抱えすぎているか」です。
介護保険サービスは「生活のどこで困っているか」から見ると分かりやすくなります
最初からサービス名で探す必要はありません。
たとえば、親御さんの生活を見て「食事」「移動」「入浴」「薬」「家事」「見守り」「家族の休息」に分けると、使える可能性のあるサービスが見えやすくなります。
| 困っている場面 | 家族が感じやすい不安 | 使える可能性がある介護保険サービス |
|---|---|---|
| 食事の準備が難しい | ちゃんと食べているか分からない | 訪問介護、通所介護、地域の生活支援サービスなど |
| 掃除・洗濯・買い物が負担 | 家が荒れてきた、家事が回っていない | 訪問介護、要支援の場合は総合事業など |
| お風呂に入れていない | 転倒、衛生面、本人の気力低下が心配 | 通所介護、訪問入浴介護、訪問介護の身体介護など |
| 歩くのが不安定 | 転倒しそう、外出できない | 福祉用具貸与、住宅改修、通所リハビリなど |
| 薬の飲み忘れがある | 病状悪化や受診忘れが心配 | 訪問看護、訪問介護、居宅療養管理指導など |
| 昼間ひとりでいる時間が長い | 孤立、認知症、転倒、火の元が心配 | デイサービス、小規模多機能型居宅介護、地域密着型サービスなど |
| 家族が休めない | 介護者が疲れて限界に近い | ショートステイ、デイサービス、小規模多機能型居宅介護など |
このように、「サービス名」ではなく「生活の困りごと」から入ると、家族会議でも話しやすくなります。
「デイサービスを使うべきか」ではなく、「昼間ひとりでいる時間が不安だから、日中に人の目が入る方法を考えたい」と言えるようになります。
使えるサービスは、要支援・要介護の認定結果で変わります
介護保険サービスを使うには、原則として市区町村へ要介護認定の申請を行い、本人の状態に応じた認定を受けます。
認定結果は、大きく「要支援」と「要介護」に分かれます。
| 区分 | 状態のイメージ | 相談の入口 |
|---|---|---|
| 要支援1・2 | 今は一部自立しているが、生活機能の低下を防ぎたい状態 | 地域包括支援センター、市区町村窓口 |
| 要介護1〜5 | 日常生活に継続的な介助や見守りが必要な状態 | ケアマネジャー、市区町村窓口、地域包括支援センター |
| 非該当 | 介護保険の要介護・要支援には当てはまらない状態 | 自治体の介護予防・生活支援サービス、地域包括支援センター |
「まだ介護認定を受けるほどではないかも」と迷うご家族も多いです。
ただ、転倒が増えた、食事や服薬が乱れている、認知面の変化がある、家族の負担が限界に近い場合は、早めに地域包括支援センターや市区町村へ相談して構いません。
相談したからといって、すぐ施設に入る話になるわけではありません。むしろ、家で暮らし続けるために何を足せるかを考える入口です。
自宅で暮らし続けるために使える主なサービス
在宅介護でよく使われる介護保険サービスには、家に来てもらうもの、日中に施設へ通うもの、短期間だけ泊まるもの、道具や住宅環境を整えるものがあります。
| サービス | 何をしてもらえるか | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 訪問介護 | ホームヘルパーが自宅を訪問し、身体介護や生活援助を行う | 入浴、排せつ、食事、掃除、洗濯、買い物などに困っている |
| 訪問看護 | 看護師などが訪問し、医療的な管理や療養上の支援を行う | 病気の管理、服薬、褥瘡、医療処置、退院後の生活が不安 |
| 訪問リハビリテーション | 理学療法士などが自宅でリハビリを行う | 歩行、立ち上がり、転倒予防、退院後の機能維持を考えたい |
| 通所介護 | デイサービスに通い、食事、入浴、機能訓練、交流などを受ける | 日中の見守り、入浴、外出機会、家族の休息が必要 |
| 通所リハビリテーション | 医療機関や介護老人保健施設などでリハビリを受ける | 身体機能の回復や維持を重視したい |
| 短期入所生活介護 | 施設に短期間泊まり、介護や生活支援を受ける | 家族の休息、冠婚葬祭、介護者の体調不良、緊急時 |
| 福祉用具貸与 | 車いす、介護ベッド、手すり、歩行器などを借りる | 転倒予防、起き上がり、移動、介助負担の軽減 |
| 特定福祉用具販売 | 入浴や排せつに使う一部の福祉用具を購入する | ポータブルトイレ、入浴補助用具など衛生面から購入が必要なもの |
| 住宅改修 | 手すり設置、段差解消など、自宅を安全にする工事 | 玄関、廊下、浴室、トイレなどで転倒が心配 |
| 小規模多機能型居宅介護 | 通い、訪問、泊まりを組み合わせて支える地域密着型サービス | 状態や家族の予定に合わせて柔軟に支えてほしい |
どれを使うかは、本人の状態と家族の負担によって変わります。
「全部使えるなら全部使いたい」と思うかもしれませんが、介護保険には要介護度ごとの支給限度額があり、限度額を超えた分は自己負担になる場合があります。ここは気合で突破するところではなく、ケアマネジャーと作戦会議です。
デイサービスは「預ける場所」ではなく、生活リズムを作る場所でもあります
デイサービスと聞くと、「親を預けるみたいで申し訳ない」と感じるご家族もいます。
けれど、デイサービスは家族が楽をするためだけのものではありません。
親御さん本人にとっても、外に出る機会、人と話す時間、入浴、食事、軽い運動、生活リズムを作る場になります。
- 家ではお風呂に入らないが、デイサービスでは入浴できる
- 家では寝てばかりだが、通う日は身支度をする
- 家族とは話さないが、職員や他の利用者とは話す
- 家族が仕事中の日中に、見守りの目が入る
- 介護している家族が、数時間だけ休める
もちろん、本人が強く嫌がる場合は、いきなり週何回も入れる必要はありません。
まずは見学、体験利用、短い時間から相談できることもあります。本人の性格、疲れやすさ、入浴への抵抗、人付き合いの好みも含めて、ケアマネジャーに伝えてみてください。
福祉用具と住宅改修は、転んでからではなく「転びそう」の段階で考えます
介護保険というと、人に来てもらうサービスを思い浮かべがちですが、福祉用具や住宅改修も大事です。
手すり、歩行器、介護ベッド、車いす、ポータブルトイレ、浴室のすべり止め、段差解消などは、本人の安全だけでなく、家族の介助負担を減らすことにもつながります。
| 家の中の場所 | よくある危険 | 考えられる対策 |
|---|---|---|
| 玄関 | 段差でつまずく、靴の脱ぎ履きでふらつく | 手すり、踏み台、段差解消 |
| 廊下 | 壁づたいに歩く、夜間に転びそうになる | 手すり、足元灯、障害物の整理 |
| トイレ | 立ち座りがつらい、間に合わない | 手すり、補高便座、ポータブルトイレ |
| 浴室 | すべる、またぎ動作が危ない、ひとりで入れない | 浴室用いす、手すり、すべり止め、訪問入浴やデイサービス入浴 |
| 寝室 | 起き上がり、立ち上がりが難しい | 介護ベッド、ベッド柵、手すり |
福祉用具や住宅改修は、事前相談が重要です。
自己判断で買ったり工事を進めたりすると、介護保険の給付対象にならない場合があります。担当ケアマネジャー、福祉用具専門相談員、市区町村に相談してから進めてください。
介護保険でできないこともあります
介護保険は心強い制度ですが、「家族が困っていることを何でも代わりにしてくれる制度」ではありません。
本人の生活支援や介護に必要な範囲が中心であり、家族の分の家事や、日常的な見守りだけを長時間行うこと、趣味や娯楽の付き添いなどは、介護保険だけでは対応しにくい場合があります。
| 困りごと | 介護保険での扱い | 考えたい代替策 |
|---|---|---|
| 家族全員分の食事作りや掃除 | 本人への生活援助が中心で、家族分は対象外になりやすい | 家族分担、家事代行、配食サービス |
| 長時間の見守りだけ | 目的や内容によって介護保険では難しいことがある | 見守りサービス、自費介護、地域の支援 |
| 病院内の長時間付き添い | 介護保険だけでは対応範囲が限られる場合がある | 病院相談員、家族分担、自費付き添いサービス |
| 草むしり、大掃除、家具移動 | 日常生活援助の範囲外になりやすい | シルバー人材センター、民間サービス、親族協力 |
| 毎日の安否確認だけ | 介護保険サービスとして組みにくい場合がある | 配食時見守り、電話見守り、緊急通報サービス |
| 急な泊まり込み介護 | 保険内サービスだけでは不足することがある | ショートステイ、自費介護、家族の交代制 |
ここでがっかりしすぎなくて大丈夫です。
介護保険で足りない部分は、自治体の生活支援、民間サービス、家族の分担、自費サービスを組み合わせることがあります。
ポイントは、「介護保険でできないなら全部家族がやる」と決めつけないことです。そこを決めつけると、家族の腰と心が先に悲鳴を上げます。
ケアマネジャーには、サービス名より「家で起きていること」を伝えると話が進みます
初めて相談するとき、「何を頼めばいいのか分からない」と感じる方は多いです。
でも、最初から正しいサービス名を言えなくても大丈夫です。
ケアマネジャーや地域包括支援センターに伝えるべきなのは、サービス名より、実際に起きている生活の変化です。
| 家族が言いがちな言い方 | 伝わりやすい言い方 |
|---|---|
| 何かサービスを使いたいです | 母が週に2回しか入浴できておらず、浴室で転びそうで心配です |
| デイサービスがいいですか? | 日中ひとりで寝ている時間が長く、人と話す機会がありません |
| ヘルパーさんを頼みたいです | 買い物と調理が難しく、冷蔵庫に食べ物がない日があります |
| 介護ベッドが必要ですか? | 布団から起き上がるのに10分以上かかり、夜間トイレが不安です |
| ショートステイを使えますか? | 介護している家族が休めず、来月数日だけ家を空ける予定があります |
相談前にメモするなら、次の5つで十分です。
1. 困っている生活場面
2. いつから変化したか
3. 本人ができること・できないこと
4. 家族が今している介助
5. 家族が限界に近いこと
きれいに書く必要はありません。箇条書きで大丈夫です。
「何となく大変」より、「週3回、仕事を早退して通院付き添いをしている」「夜中にトイレ介助で2回起きている」と伝えるほうが、必要な支援を考えやすくなります。
本人がサービスを嫌がるときは、名前の出し方を変えてみます
介護保険サービスを家族が使いたいと思っても、本人が嫌がることがあります。
「まだ人の世話になるほどじゃない」
「知らない人を家に入れたくない」
「デイサービスなんて年寄りが行くところだ」
「お金がもったいない」
こう言われると、家族は困ります。
ただ、本人にとっては「介護サービス」という言葉そのものが、老いを認めるようでつらいことがあります。
| 避けたい言い方 | 伝えやすい言い方 |
|---|---|
| 介護が必要だから使おう | 今の生活を続けるために、少し手伝ってもらう方法を試してみない? |
| デイサービスに行って | お風呂と昼ごはんを外で済ませられる場所を見に行ってみない? |
| ヘルパーさんを入れる | 買い物や掃除だけ、週1回助けてもらう方法があるみたい |
| 転ぶと困るから手すりをつける | 立ち上がりが楽になるように、持つ場所を増やしてみよう |
| 家族が限界だから | 家で暮らす時間を長くするために、家族以外の力も少し借りたい |
もちろん、本人の希望を無視して進めるのはよくありません。
ただ、家族が倒れてしまうと、在宅生活そのものが続きにくくなります。本人の気持ちと家族の限界を、両方テーブルに乗せて考えることが必要です。
費用は「1割だけ」ではなく、限度額・食費・居住費・保険外も見ます
介護保険サービスは、原則として利用者負担があります。負担割合は1割、一定以上所得のある方は2割または3割です。居宅サービスには要介護度ごとの支給限度額があり、限度額を超えた部分は全額自己負担になります。施設サービスでは、介護サービス費の自己負担に加えて、居住費、食費、日常生活費などがかかることがあります。
そのため、「介護保険が使えるから安いはず」とだけ考えると、あとで家計が驚きます。家計、びっくり箱では困ります。
| 費用の種類 | 見るポイント |
|---|---|
| 介護サービス費 | 自己負担割合、利用回数、要介護度ごとの支給限度額 |
| 福祉用具 | 貸与か購入か、対象品目か、自己負担額はいくらか |
| 住宅改修 | 事前申請が必要か、対象工事か、自治体の手続き |
| デイサービス関連費 | 食費、おやつ代、日用品代、送迎範囲など |
| ショートステイ・施設費 | 食費、居住費、日常生活費、部屋の種類 |
| 介護保険外サービス | 通院付き添い、長時間見守り、家族分の家事などの自費負担 |
費用が心配な場合は、ケアマネジャーに「月いくら以内に収めたい」と伝えて大丈夫です。
また、所得や状況によって負担軽減制度が関係することもあります。市区町村窓口で確認しましょう。
要介護認定前でも、家族が動けることはあります
「認定が出るまで何もできないのでは」と不安になるかもしれません。
たしかに、介護保険サービスの正式利用には認定やケアプランが関わります。ただ、認定結果を待つ間にも、家族ができる準備はあります。
- 本人の生活で困っている場面をメモする
- 病院の診断書や服薬情報をまとめる
- 介護保険被保険者証を探しておく
- 市区町村の介護保険窓口を確認する
- 地域包括支援センターに電話する
- 家族内で連絡係を決める
- 転倒しやすい場所を片づける
- 通院、買い物、食事、服薬の現状を共有する
要介護認定の結果が出てから慌てるより、先に生活場面をメモしておくほうが、その後の相談がスムーズです。
介護は、ある日突然「はい、今日から本番です」と始まることがあります。だからこそ、制度の前に、家の中で起きていることを記録しておきましょう。
今日の一歩は「サービス名を覚える」より「困っている場面を3つ書く」です
介護保険サービスは種類が多く、最初から全部を理解するのは大変です。
訪問介護、訪問看護、デイサービス、ショートステイ、福祉用具、住宅改修、小規模多機能。名前だけ並べると、まるで介護保険の呪文一覧です。
でも、家族が今日やることは、呪文を丸暗記することではありません。
親御さんの生活で困っている場面を、3つだけ書くことです。
1. 親御さん本人が困っていること
2. 家族が今いちばん負担に感じていること
3. このまま1か月続くと危ないと思うこと
この3つが書けたら、地域包括支援センターや市区町村窓口、担当ケアマネジャーに伝える材料になります。
介護保険は、家族だけで抱え続けるための制度ではありません。本人の暮らしを支え、家族の負担を減らし、在宅生活を続けるために使える仕組みです。
まだ何を使えばいいか分からなくても大丈夫です。
まずは、「うちは何に困っているのか」を言葉にする。そこから、使えるサービスは少しずつ見えてきます。
出典・確認先メモ
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」:介護保険制度、地域包括支援センター、関連サービスの基本情報。
- 厚生労働省「介護サービス情報公表システム/サービス利用までの流れ」:介護保険サービス利用には要介護認定の申請が必要で、要介護度に応じてサービス計画を作成する流れが案内されています。
- 厚生労働省「福祉用具・住宅改修」:福祉用具や手すり設置・段差解消などの住宅改修は、在宅での自立した生活を助けるものとして保険給付の対象になる場合があります。
- 厚生労働省「介護サービスにかかる利用料」:介護保険サービスの利用者負担、支給限度額、施設利用時の居住費・食費などの考え方が示されています。















